呪いの王がBLEACH世界に足を踏み入れる   作:ジェネリックたい焼き

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今回いつもより少しだけ長いです。

それではどうぞ


VS死神達・・・⑬

 ――ピシッ

 

 日番谷の耳に、静寂を切り裂く音が届いた。

 

 その音を聞いた瞬間、弾けるように宿儺が埋まっている氷塊を穴が空くほど凝視する。

 

 そして彼は見つけた――巨大な氷塊に僅かに走る一本の亀裂を。

 

「――な!?」

 

 それを視認した日番谷は反射的に声を上げた。

 

 日番谷が驚愕している最中にもヒビ割れは止まらないどころか、そこを起点にどんどんと広がり空に浮く氷の大地にまで侵食していく。

 

 そこでようやく日番谷の頭を支配していた混乱の霧が晴れ、思考を取り戻す。

 

「(チッ、まだ生きてやがったのかアイツは!確実に生き埋めにしたはずなのになんつー生命力だよクソっ――それに今はマズイ、この姿だとアイツに太刀打ち出来ねぇ……霊力も殆ど使い切っちまったしどうする……どうすれば……)」

 

 日番谷か終わりのない思考に囚われていると、そのループを打ち壊すのように、宿儺が氷の大地ごと氷結を砕き割り、再び顕現した。

 

 その余波は日番谷の元までしっかりと届く。

 

 彼の口から思わず漏れ出た声。

 

「クソっ!足場が……」

 

 徐々に下へ落ちていく足場を尻目に鋭い目で宿儺を睨みつける。

 

 宿儺の肉体は腕二本が欠損し、全身が赤紫色に染まり、指先などに至ってはヒビ割れているにも関わらず、その身から発せられる覇気は全く衰えていない。

 

 その姿を見て無意識の内に息を呑む。

 

 そのせいで意識が足元から逸れたのか、うっかり足を滑らせてしまう。

 

「しまっ……!!!」

 

 足元にあったはずの感覚が消え、瞬発的に浮遊感に襲われる――だがそれも一瞬、次の瞬間には重力に従い下に引き摺られた。

 

「(クソっ!掴む場所がとこにもねぇ……それにこの高度から落ちれば流石の俺でも――死ぬ)」

 

 そうならない為に、体勢を整えようとした。

 だが、ここは地上からかなり距離が離れた上空。

 強風に煽られ、思うように身体を支えられない。

 

 しばらく試行錯誤していると、日番谷の身体に大きな影が差す。

 

 日番谷は焦ったような表情を浮かべながら、視線を身体ごと上にやる。

 

 そこに居たのは腕を組み堂々と落下する両面宿儺の姿。

 姿勢は微塵も乱れておらず、余裕そうに日番谷を見下している。

 

 そして宿儺が口を開く。

 

「無様だな、小さくなり力を失い矮小な存在に成り果て、挙句の果てに足を滑らせ落下死とは――持ってあと数秒の命、有意義に使うといい」

 

 風の音が耳を劈きながらも、不思議と宿儺の声はハッキリ聞こえた。

 

 その屈辱的な言葉に日番谷は反論出来ない。

 その中でも必死に打開策を考える。

 

「(クソっ、今からでも大気を凍らせるか――いやこの勢いじゃ間に合わねぇ……それとも着地の瞬間に地面に技を――ダメだ、霊力が足りねぇ……だったら受け身で――いや、この高さからじゃどんなに完璧な受け身をとっても肉塊になるのがオチだな――)」

 

 日番谷の脳内に様々な考えが浮かぶも、そのどれもが役に立たない。

 拳を強く握り、焦りの表情を露わにする。

 

「(クソっ何も思い浮かばねぇ…………これは――

 

 地面まで後数メートル、その時日番谷の脳裏に浮かんだのはの一文字。

 

 そんな彼の耳に、一つの声が届く。

 

「縛道の三十七――吊星(つりぼし)

 

 その言葉と共に、日番谷の落下地点に黄金色の巨大なハンモックのようなものが出現し、それが日番谷の身体を跳ね返した。

 

「(は?――何が……)」

 

 突如として宙に浮く感覚を味わった日番谷はほんの一瞬思考が停止した。

 だが、その縛道から見覚えのある霊圧が感じられ、即座に己の状況を悟った。

 

 空中である方向を見ると、金髪おかっぱヘアの平子真子がこちらに大きく手を振っていた。

 

 そんな彼の姿を見た日番谷は、焦ったような表情を浮かべ、こちらに来るなと言わんばかりの手振りと共に、大声で叫んだ。

 

「まだだ!!まだ終わっちゃいねぇ!!出てくるな!!――平子!!!」

 

 大声で忠告する日番谷のすぐ横を大きな影が通り抜けた。

 

「はァ!?――何を言うt」

 

 ――ドゴォォオオオンッ!!!!!!

 

 その影は平子の言葉を裂くように遮ると、”吊星”を突き破り、辺りに破片を撒き散らしながら着地した。

 

「――貴様も油断したな、俺の前にノコノコと姿を現すとは愚かにも程がある」

 

 煙に包まれた空間からそんな声が聞こえてくる。

 

 日番谷は平子の隣に上手く着地し、その煙の中を苦い顔で見つめる。

 

「……やるしかねぇか」

 

「あ〜〜、これもしかしてヤバいパターンかいな」

 

 二人とも額に冷や汗を滲ませ、煙が晴れるのを待つ。

 

「一応聞いとくけど、今のキミの姿でアイツん事倒せる?」

 

「無理だ」

 

「いや即答かいな!もっと悩めや!!」

 

「逆に聞くが悩んでる余裕なんてあると思うか?」

 

「…………それは……無いなあ……」

 

「だったら集中しやがれ、死にたくねぇならな」

 

 日番谷が鋭い目つきで煙を睨む。

 

 すると突如、辺りに強い風が吹きつけ、その煙が一気に流され影の正体――両面宿儺が姿を現す。

 

「ククッ、今の貴様らに俺が足止めできるのか?」

 

 首をコキッと数回鳴らし、余裕を持って語りかける。

 

「「………………」」

 

 そんな彼らから返ってきたのは沈黙。

 

 宿儺はその反応を見て笑みを深める。

 

「それが答えだろうな――俺を楽しませた礼だ、せめて苦痛なく殺してやる。なに、他の者達より少し早く死ぬだけだ、何の心配も要らん」

 

 宿儺は片腕を静かに持ち上げ帝釈天印を結ぶ。

 

「領域展開――」

 

 これは宿儺からの最大限の敬意を示したトドメの一撃。

 更木剣八、卯ノ花烈を除き一番楽しめたのが日番谷冬獅郎との戦い。

 

 平子真子も身体能力では劣りながら、そのトリッキーな能力を用いて、宿儺を翻弄してみせた技量を鑑みてのこの結果。

 

 そんな彼らも斬魄刀を構えてみせた。

 

「〖ほう、まだ俺に抗うか〗」

 

  宿儺は少し感心したように目を細める。

 

 二人の瞳には未だ抵抗の意思が宿っており、闘志は十分だ。

 

 彼らも疑似簡易領域を使えば、少しは領域を耐えることが出来る。

 だがそれでも使わないのは、最期は華々しく散りたいという二人の身勝手な願い。

 

 この戦いを経て、二人の性格もだいぶ変化した。

 

「(すまねぇ雛森、おめぇとの約束は守れそうにねぇ)」

 

「(アイツら(仮面の軍勢)には謝らんといかんなァ)」

 

 二人は己の死を目の前にしても他人の事を考え、想う。

 

 そして容赦無く、無慈悲に、宿儺の口から言葉が紡がれた。

 

「――伏魔御廚子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が……起きてやがる…………」

 

 日番谷は困惑した表情で、喉から声を絞り出す。それ程、今目の前の現象は理解できないものであったし、唐突に起きた。

 

 ――宿儺が領域を展開した瞬間、牛の頭蓋骨で彩られた御堂は通常通りに顕現した。

 だがおかしいのはそこから――即座に必中術式が二人の身を切り刻むかに思えたが、突如として御堂がバラバラに砕け散る。

 

 そしてそれと同時に、宿儺の目、鼻、口、耳、兎に角穴という穴からおびただしい程の血液が、滝のように吹き出た。

 

 なんの前触れも無く血を吹き出した宿儺は、説明のつかない現象に疑問符を浮かべ、鼻から出た血を親指で拭う。

 

 だが異変はそれでは終わらなかった。

 

 これまた唐突に、宿儺が糸が切れた人形のように膝と手を地面につき、吐瀉物を吐き出す。

 

 ――そして今に戻るという訳だ。

 

「冬獅郎、アンタこの現象に心当たりあるか?」

 

「ある訳ね――いや……そういえばさっき浦原の奴が、何か面白いもんが見れるとは言ってたな……」

 

「これがそうなんか?」

 

「いや、俺も詳細を聞いたわけじゃねぇからそこまでの事は分かんねぇ……ただ、あり得るとしたらそんだけだ」

 

「そうかァ……まぁ、何にせよ弱ってくれたンはええ事や。さっさとトドメ刺そか」

 

「ああ」

 

 平子の言葉に同意した日番谷が一歩踏み出した瞬間、足の力が抜け、バランスを崩す。

 

 そして倒れそうになるが、平子が日番谷の身体を支える。

 

「おっと、気を付けぇや、オマエさんの体はボロボロやねんから」

 

「すまねぇ平子……」

 

「あやまんなや、この位なんて事あらへん――ほら、立てるか?」

 

「あ、あぁ……」

 

 平子の優しさが妙にむず痒く、返事が詰まってしまうが、しっかりと己の足で立つ。

 

 ――そんなやり取りが始まる少し前、膝と手を付き力なく項垂れる宿儺の脳内では、疑問が渦巻いていた。

 

「(何故だ呪力が上手く操作できん……反転術式もだ。一体何時から……)」

 

 宿儺はこの戦いが始まった時の記憶を鮮明に思い出し、呪力操作が困難になったタイミングを探す。

 

 そしてある記憶がヒットした。

 

「あの時からか……」

 

 その時、宿儺の脳内に浮かんでいたのは先程日番谷の技『四葩氷咲』を受けた瞬間――

 

「(あの時、確かに首の治りが遅いのに違和感を持っていたはずだ……だが、あれ以前の攻撃の所為で遅れているのだと思考停止に陥っていた………そのツケが今になった浮き彫りになったという訳か)」

 

 苦い顔を浮かべながら日番谷を睨むが、ここでもう一つの疑問が宿儺の脳内を駆け巡る。

 

「(だが何故呪力操作が困難になった……目の前の小僧の能力にそのようなものは無かったはずだ。それに奴の攻撃は一部を除き必ず展延で受けている……それならば一体何が……)」

 

 宿儺が思考に耽っている最中、10メートル程の氷の欠片の上から一人の人物が顔を覗かせる。

 

「――毒っスよ」

 

 その言葉を聞いた宿儺の脳内に、領域展開中に食らった毒が駆け巡り、即座に有り得ないという表情を浮かべつつ、その言葉を否定した。

 

「ありえん、あの時受けた毒は既に解毒した筈だ」

 

 そう浦原とマユリの領域展開内で受けた毒は、既に解毒を終えたはず――その為それ以外のものとなる訳だが――その答えは浦原自身が知っている。

 

「それじゃありません――アナタが叩き落とした注射器があったでしょう?アレの中身がアナタにほんの僅かにかかっていたんスよ。その薬品とアタシと涅サンの血中に混ざっていた二つの薬品。それがアナタの体内で溶け合い、混ざり合い一つの毒を生み出したんス――この毒は他のものと違ってチョット調合方法が特殊なんスよ」

 

 下駄帽子を押さえながら、ただ淡々と毒の性能を明らかにしていく。

 その瞳にはただ宿儺を観察するような冷たい感情しか宿っていなかった。

 

 己が実験動物にしか見られていないことを瞬時に悟り、怒りと屈辱が全身を駆け回った。

 

「――ッッ浦原喜助ェッ!!」

 

 顔をこれでもかと歪め、膨大な憤怒を含めた咆哮をあげる。

 

 周囲の空気はビリビリと震え、大地が凹む。

 

 極限まで弱っていても尚この気迫。浦原は宿儺に対する認識を改める。

 

「アナタがこうも感情的になるとは思いませんでした……けど、どれだけ吠えた所で状況は変わらないんス」

 

 下駄帽子を深く被り、表情を隠す。その声色には、僅かながら尊敬の念が滲み出ていた。

 

「アナタはもう終わりっス。大人しく投降するというならもうこれ以上の攻撃は加えません――さぁ、選択してください――このまま無間に投獄されるか――アタシらと戦うか」

 

 日番谷と平子もその言葉を聞き、斬魄刀を構える。

 

 そして、その言葉と共に、宿儺が倒したはずの人物が物陰から姿を現す。

 

「ハッ!随分と弱ってやがるじゃねェか!!――両面宿儺!!」

 

「黙れ!私の肩を貸してやっているのだ!耳の近くで大声を出すな!」

 

「あァ゙!てめぇに言われる筋合いはねェよ!」

 

「なんだと!」

 

 そこから二人の下らない言い争いが勃発した。

 

 全身に火傷を負い所々皮膚が爛れており、その傷は痛々しい。

 

 そこから宿儺を挟み、二人から反対方向に居るのはネリエルと夜一の二人組。

 彼女らもまた全身に火傷を負い、互いが互いを支え合って立っていた。

 

 そして彼女らが同時に大きなため息を一つ。

 

「スマンの、うちの砕蜂が迷惑をかけて。後でしっかり叱っておく」

 

「いいえ、こちらこそグリムジョーが暴言を吐いたりしてしまってごめんなさい。後でしっかりと謝らせるわ」

 

 お互い顔を見合わせての謝罪。これが身内の不始末によるものだから笑えない。

 

 ただ二人は目を合わせ、息を揃えて大きく笑った。

 

「ふふふっ、すみません。けど、これも両面宿儺宿儺を倒してからね」

 

「そうじゃな、奴を倒さねば何も始まらん」

 

 二人は震える足を奮い立たせ、一人で立ち宿儺を見すえる。その瞳には恐怖や怯えの感情は無い。

 

 ――そしてある意味、この戦い一番の功労者とも言える人物。

 

 その者が消耗して倒れそうな日番谷の傍に現れた。

 

「無事か日番谷隊長――後は我らに任せゆっくり身を休めると良い」

 

「お前は……良かった生きてたんだな」

 

「――当然だ。奴を討ち滅ぼすその時まで、私は決して倒れぬ」

 

 鋭く刺すような目付きで宿儺を睨みつける男――朽木白哉。

 

 彼こそが宿儺の必殺の一撃”(フーガ)”から、夜一らを生還させた人物だ。

 

 超高熱の炎が放たれた瞬間、ネリエルと日番谷を除きその場にいる全ての者を花弁の刃で覆い尽くし、その猛威に耐えてみせた。

 

 彼らの姿が今まで見えなかったのは、酸欠で意識を失っていたからであり、既に意識を取り戻した彼らは戦線に復帰できている。

 

 白哉が激しい怒りの感情を込めた目で、宿儺を射殺せそうな程に睨む。

 

「覚悟せよ両面宿儺――我らの仲間を傷付けた大罪、貴様の命で払ってもらうとしよう」

 

 切っ先を宿儺に向けそう宣言する。彼の全身からは突き刺すような殺気が飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りを見て、宿儺を挟んで反対側に居る浦原は、少し寂しそうな表情で何かを言っていた。

 

あの〜、投降するって話はどうなったんスか〜〜

 

 その寂しげな言葉は、誰にも聞かれる事無く虚しく空に溶けた。

 

 ――浦原は髪の毛一本分ぐらい落ち込んだ。

 

 

 

 

 

 一方で白夜からの憎悪を浴びている宿儺――彼の耳には白哉の言葉など微塵も届いていなかった、今彼の胸中にあるのは疑問と怒りの感情のみ。

 

「(チッ、何故奴らが生きている……しぶとい奴らめ、蛆のように湧いて出て気色が悪い――それに加え今の呪力すらまともに練れん俺では、奴らの攻撃も不用意に食らう事はできん………浦原喜助め、面倒な薬を仕込んでくれた)」

 

 ギリッと奥歯を軋ませ、手を握りしめる。

 だがそのどちらにも、残酷な事にろくに力が入っていなかった。

 

 その事実に宿儺の瞳が大きく揺らぐ。だが即座に立て直してみせた。

 

 反転術式を諦め、呪力操作のみに集中する。

 

「(まだだ、手負いの奴らを殺すのに今のこの状態でも十分事足りる――藍染惣右介や零番隊の者共は奴らを殺してから考えれば良い)」

 

 震える足を殴り、無理やりにでも立ち上がる。

 そして、ボヤけた視界で己を囲う者達を睨みつける。

 

 だが彼らは一歩も引かない。

 

 強い意志を持って、宿儺を前に堂々と立つ。

 

 その揺るぎない真っ直ぐな意思を前に宿儺は大きく吼えてみせた。

 

「貴様らが今更集まった所で何になる!!――変わらん!!――その程度で俺を殺す事など到底不可能だ!!」

 

 血を吐きながらそう宣言する様はカッコ良くも見えた。

 しかし、その言葉がハリボテなのは宿儺本人が一番分かっていた。

 

 先程から毒を分解しようとしているが、相当巧妙に隠されているのかその原因を探ることが出来ていない。

 

「そうっスか……残念っス。アナタみたいな人を殺さなくちゃならないなんて」

 

 下駄帽子に手をかけ、そっと押えながら宿儺の死を惜しむ。

 まだ死んでもいないのにこの言い様は、宿儺のことを完全に煽っているようにしか聞こえなかった。

 

「ハッ、言うではないか!――浦原喜助!!」

 

 浦原の方向に、大きく一歩を踏み出す。

 だがその瞬間、宿儺の上空を一人の男が舞う。

 そしてその者の一部は、青く光っていた。

 

「――光の雨リヒト・レーゲン

 

 その言葉の後に、無数の霊子の矢が宿儺に向けて射出される。

 これは言葉通り雨のようで、宿儺の上空を矢の雨が埋め尽くした。

 

 宿儺は、弾けたように顔を上に向け、光の雨をその目で捉える。

 宿儺の脳に様々な可能性が浮び上がる。

 

「(これは眼鏡の滅却師の技だ……だが彼奴は瀞霊廷へと降りているはず……そもそも生き残った滅却師の殆どが”聖別”を受けてろくに動ける状態では無い。ならば誰だ……)」

 

 そこまで思考した所で、己の眼前に無数の矢が迫る。

 今の宿儺にこれを回避する力も、正面から迎え撃つ力も殆ど残っていない。

 

 彼の神懸り的な呪力操作の技術を持ってしても、浦原の薬に蝕まれれば、並の術師以下のお粗末な呪力操作に成り下がってしまう。

 

 だがそんな状況でも、宿儺は傲慢に吼える。

 

「――舐めるなよ!――滅却師!!」

 

 宿儺は腕を顔の前に翳し、その矢をその身で受けてみせた。

 

 矢の雨が止んだ頃には、宿儺の身体は顔以外至る所に矢が突き刺さっており、血を流していた。

 

 そして、その雨を振らせた白髪で眼鏡の滅却師が涼しい顔で浦原の傍に降り立つ。

 

 その滅却師が、間髪入れずに横に居る浦原に真剣な表情で問いかける。

 

「それで、奴を倒せば全て解決するのか?」

 

「ええ、勿論っス」

 

「そうか…………おい貴様、隠れてないでさっさと出て来い」

 

 その滅却師が何も無い空間を鋭い視線を向ける。そこから姿を現したのは、濃い顔が目立つ大柄な男。

 その者は死覇装を身に纏っており、死神だということが伺えた。

 

「やっぱバレてたか」

 

 その死神は頭に手を当て笑みを浮かべ、滅却師の男に話しかける。

 

「何を言ってる貴様は……共にここまで来たのだから当然だろう」

 

 その滅却師はその発言に心底呆れたと言わんばかりに、トゲのある発言で返す。

 

 これも普段から行われているのだろう、その死神は傷付くこと無く、のんびり歩いて滅却師の元まで歩み寄り、肩を組む。

 

「それで、アイツを倒せば解決すんのか?」

 

「さっきそう話していただろう、聞いていなかったのか?――それと鬱陶しいその腕を早くどけろ」

 

 嫌そうな顔をし、すぐ近くにある濃い顔を睨みつける。

 対して、その死神は傷付いた様子もなくすんなり腕をどけた。

 

「一応ってやつだよ、一応な」

 

「そうか、その考えは私には理解出来ないな」

 

「そんなこと言うなよ、つれないな〜」

 

「黙れ、私は貴様と戯れるためにここに来た訳ではない」

 

 その言葉を聞いて死神も納得したのか、先程までとは一転し、真剣な表情を浮かべる。

 

「それもそうだな、今は奴に集中しねぇと」

 

 その死神は、斬魄刀の鋒を宿儺に向ける。

 

 そして滅却師の男も、”神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)”に”神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)”を番わせ、引き絞り、射抜くような目つきで宿儺を睨む。

 

 その殺気に曝された宿儺は、感情の籠っていない瞳をその二人と浦原にぶつけた。

 

「(今傷を負ったのは不味い……反転が使えん以上極力損傷は避けねばならん)」

 

 そんな考えの宿儺の脳裏にある言葉が過ぎる。

 

 ――「 」

 

 宿儺の口元に、自嘲と勝気が混ざり合う笑みが浮かぶ。

 

「(これを考えた時点で負けだ――何も考えるな、今はただ目の前の奴らを殺すのに全神経を注げばいい)」

 

 宿儺が、緩慢な動きで構えを取る。

 

 そこに力など入っていない――ただ、その自然体な姿勢が、逆に隙を少なくしていた。

 

 ――二人の破面と一人の滅却師を含めた全名が身構える。

 

 ――誰もが皆動かない。

 

 ――風が耳を切る音だけが聞こえる。

 

 ――宿儺の足が僅かに動いた。

 

 それを皮切りに、最後の戦いが幕を開けた。




もうすぐ終わりです。

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