呪いの王がBLEACH世界に足を踏み入れる 作:ジェネリックたい焼き
それではどうぞ!!!
六つの攻撃が己に迫る中――不思議と宿儺の頭は冴え渡っていた。
「(六方向からの同時攻撃……防ぐのは不可能、避けるのも難しいだろう――少し離れた場所では矢を番える滅却師一人と、浦原喜助が居るな………この状況を打破するには……)」
宿儺は考える。
彼自身も無傷で生還することは不可能だと悟っていた。
そして彼が導き出した答えは――
「――解」
宿儺は、『日付が変わるその瞬間まで術式を使用しない』という縛りを自身に課した。
――斬撃の出力、数、精度を跳ね上げ、放つ――最後の『解』
刹那――宿儺の身体から無数の不可視の斬撃が溢れ出し、全方位に射出される。
近くにいた六名は勿論、離れていたはずの浦原と竜弦にまでその斬撃は届いた。
惜しくも両断するには至らなかったが、全員の全身に深い切り傷を残す。
そしてそんな状況に陥って尚、彼らの闘志の炎は消えてはいなかった。
「てめぇら!攻撃の手を緩めんじゃねェ!!」
グリムジョーの指示が皆の元に届く。
「元よりそのつもりだ」
あくまでも冷静な姿勢は崩さず、白哉がその指示に答える。
そして桜色の刀を持ち大きく振りかぶり、空気を貫きながら投擲した。
――弾丸の如き速度で迫るそれを、宿儺は揺れる視界で捉えていた。
そして内心で疑問をうかべる。
「(なぜ今更投擲する……あの距離からなら躱されることは分かっているだろうに)」
真っ直ぐに進む刀を躱すことなど容易い。
宿儺は立ち上がって身を捩り、回避しようとするが、その刀は寸前で視界一面に散った。
「何を……!」
宿儺が目を見開き驚愕の声を上げる。
そして遅れて狙いを理解する。
「(成程……この花弁は煙幕代わりという訳か)」
花弁同士が重なり合い少しの隙間も無い檻に閉じ込められた宿儺は、冷静に状況を把握する。
「随分と閉じ込めるのが好きなようだな――奴らも」
宿儺は崩れない笑みを浮かべ、敵が来るのをジッと待つ。
彼は先程から、通常の呪力操作に割いている割合を、少しずつ反転術式の方へ回し始めていた。
――故に、この状況は宿儺にとっても望ましい。
「(奴らが時間を使えば使うほど形勢は俺に傾く……さぁ、どう出る)」
薄く笑みを浮かべたまま索敵する。
その立ち姿に隙は無く、毒に侵されているのが信じられない程。
――だが宿儺はある事が頭から抜けていた――今、彼を囲う花弁は白哉の意思通りに動くものであり、必ずしもその場に留まっているとは限らない。
――宿儺を覆う花弁がピクリと揺らぐ。
その刹那――花弁の先端が宿儺を捉え、閃光のような速度で殺到する。
まるで生命を取り戻したかのように射出された花弁は、宿儺に防御も回避も許さぬ速度で迫った。
――宿儺はそれを見て、愉快そうに笑う。
「(この檻は単なる目隠しでは無かったか。予測は出来たはずだが、俺もまだ甘いな)」
この経験を次への糧とし、行動を起こす。
――秘伝・落下の情
この戦いで数度使っている術を再び発動する。その出力は、今までのものと比べかなり落ちていた――だが、花弁の数が少ない事に加え、元の肉体強度も相まって、致命傷に至る前――浅い切り傷までに抑える。
そして宿儺の視界が一気に開ける――まず目にした物は青白い光を放つ一本の矢。
空気を切り裂きながら光跡を残し、真っ直ぐ宿儺に進む。
対して宿儺は、それはもう飽きたとばかりに軽い笑みを浮かべ、左に半歩ズレる。
「どうした、攻撃が雑になっているぞ」
宿儺の挑発するような口調にも、竜弦は能面のような表情を保つ。
そこから、竜弦は指を鳴らすことなく、矢は宿儺の横を抜けていく。
その事に宿儺は、疑問符を浮かべる。
「(何故爆破しない……何が狙いだ)」
矢の軌道を目で追い、凝視するが何も起こらない――ならばと、宿儺は矢から意識を逸らし、己を囲む者達を一瞥する。
その刹那――不意に視界が揺らいだ。
立ちくらみの原因に心当たりのある宿儺は、舌を一つ鳴らす。
「チッ……やはりまだ血が足りんか……」
苦々しく顔を歪めるも、こればかりは仕方ないと己を納得させた。
――そんな宿儺の耳に届く空を切る音。
その発生源は――
「(――後ろ!!)」
弾かれたように背後に視線を向けると、見えたのは鏃がこちらに向いている矢の姿。
それは速度を落とすことなく、宿儺を標的に空を切り裂いて突き進む。
「自動追尾か――!!」
宿儺が感心を滲ませた声色で叫ぶ。
迫りくる矢に対し、彼は一歩も引かず、その場で上体を反らした。
矢が頬を掠め、髪を散らして背後を駆け抜ける。
だが、その矢は通り過ぎるや否や、鋭く弧を描いて再び宿儺へと向きを変えた。
「クハッ!」
宿儺は愉快そうに顔を歪め、体勢を立て直し再び矢の方を向く。
追尾する矢と宿儺の視線が空中で交差し、違和感を感じた宿儺が笑みを深くする。
「(あの矢……方向を変える度に速度が上がっているな――面白い)」
心の奥底で僅かに喜色覚え、その矢に神経を注ぐ。
――こうなれば矢の対処など容易い。
眼前に迫った矢を横から掴み取り、折り砕く。
「これで仕留めたいならば矢の本数を増やすべきであったな」
傲慢に物を言う宿儺が視界に収めたのは、冷たい視線をこちらに向ける竜弦――彼の指はまるでこうなる事を予期していたかのように、細かく弾かれようとしていた。
「――炸裂」
――パチンッ――――
辺りに耳鳴りの様な音が響くのと同時に、握り潰され光の粒子になりかけていた矢が、轟音と爆炎を撒き散らしながら――爆ぜた。
竜弦は、爆煙を冷たい目で睨みながら静かに言う。
「すまない、私の矢は本数を絞れば絞るほどそれに応じて爆発の威力が上がっていく――もっと早くに言っておけば良かったか」
勝利を確信したような物言い――事実、勝利とまでは行かないものの、この爆撃で宿儺は、確かなダメージを負った。
「忌々しい滅却師め……」
白煙から出てきたのは、顔を激しく歪め全身に火傷を負っている両面宿儺。
肌は赤く爛れ、尚も焦げた匂いが立ち込める。
息付く暇もなく――宿儺の広い視野にこちらに手を突き出す豹の影が映った。
――そしてその手の平には血が滴っていた。
即座に次に出る技を察知した宿儺は踏み込む。
その瞬間、突き出された手の平から深く濃い、青い光が漏れ出し、空間を軋ませる。
――そしてそれは瞬きの間に放たれた。
「これでも喰らいやがれ!!――王虚の閃光!!!」
一瞬の内に放たれた極太の光線は、宿儺の視界を深い青に染めた。
焼け付く風圧が宿儺の肌を刺激する。
宿儺を呑み込まんとするこの光線――だが、唯一の失策は宿儺に予備動作を見せてしまったこと。
「しくじったな」
宿儺が勝ち誇ったような笑みを浮かべ、その光線を紙一重で回避した。
これでグリムジョーは大きな隙を晒し、この光線は宿儺の背後にいる味方に向かう――誰もがそう思っていた――グリムジョーとネリエルを除いて。
グリムジョーが試すような笑みをネリエルに向ける。
――不幸な事にその微笑みは光に遮られ、宿儺の目には届かなかった。
なおも空を切り裂く光の本流は、空間を突き破りながら進み、行き場を失った光線はネリエルへと向かう。
威力を一切落とすことなく突き進む光は、ネリエルを呑み込むかに思えた――その刹那――ネリエルは口を大きく開け、肺いっぱいに空気を取り込む様な仕草を見せる。
その動作と共に、深く青い光がネリエルの口に収められていく。
背後からの圧力が掻き消えた――宿儺は反射的に振り返る。
そこで目にしたのは、ネリエルが頬を膨らませ光線の尾をチュルンと口に収める光景。
「(――奴の攻撃は囮っ……!!女の破面の方が本命だったか……!!)」
宿儺は出し抜かれたことにより、愉悦と悔しさが入り混じったように顔を歪めた。
体勢を整えようとする――だが、もう時既に遅し。
――ネリエルがこれより放つ技は、飲み込んだ虚閃に自身の虚閃を上乗せして放出するもの――重奏虚閃――
彼女は、これを
「がぁっ――!!!」
短い咆哮と共に放たれた桃色の光の奔流。
それは空間そのものを裂きながら一直線に伸び、斜線上のもの全てを破壊していく。
眩い桃色の光が走る。
己など容易く呑み込むであろう規模の光線に対し、宿儺は口角を吊り上げる。
「まだ攻撃手段があったか――!!!」
逃げても間に合わないと悟った宿儺は、あえてその光を正面から迎え撃つ決断をした。
次の瞬間、腹から練り上げられた呪力が全身を巡り、宿儺の防御力を跳ね上げる。
そして次の瞬間――桃色の極光に宿儺は呑み込まれた。
ソレは宿儺を呑み込んで尚止まることなく、周囲の大地――空間を抉り取り、花弁の刀の牢獄さえも突き破り彼方へと消えていった。
数秒前――桃色の光を前に、宿儺が感じたのは死の気配。
その警報は、脳が割れるのではないかと思うほど鳴り響く。
そのけたたましく鳴る警告音を、宿儺は強靭な意思で捩じ伏せる。
そして――極光が宿儺を包み込んだ。
劈くような激しい痛みが全身に走り、骨の軋む音が体内を駆け巡る。
しかし、宿儺の思考は冷静そのもの。光に呑まれながらも次の手を考える。
「(この光が収まれば先ずは破面の女からだ――順に一人ずつ、確実に仕留めるとしよう)」
数秒、もしくは一秒も経っていないのかもしれない。
肉が所々むき出しになり、筋肉までもが爛れてきた時――その光は収まった。
――それと同時に、宿儺は光線が放たれた箇所目掛けて一歩踏み出す――
「は?」
――そこにネリエルの姿は無かった。足をピタリと止め、首をしきりに回す。
周囲には煙が立ち込めており、先を見通すのは困難。だが、目の前に居るはずのネリエルを見逃す濃さでは無い。
「(消えた……何かの術か?だが、あの女には姿を消す能力は無かった筈――ならばどうやって――――ッッ)」
そこまで思考した宿儺の首筋にぞわりと寒気が走る。
咄嗟に振り向き様の裏拳を放つ。
空気を割り突き進むそれは、拳でありながら敵の身体を両断する一撃であった。
だが――拳を振り抜いた箇所には何も存在しなかった。
「――なっ!?」
目を見開き驚きを滲ませる宿儺の耳に、冷ややかな声が届く。
「残念、ハズレっス」
その声の発生源は宿儺の背後――この声が聞こえる直前まで、微塵も気配を感じなかったにも関わらず、死神の声は背後から届いた。
宿儺の命を刈り取る死神が静かに刃を振るう。
――宿儺の研ぎ澄まされた感覚は、それを鋭く確実に察知してしまう。
「(ありえん……いくら奴が気配を消せようと眼前まで迫る者に気付かん訳が無い)」
――宿儺は思考を巡らせ、一つの答えに辿り着く。
それに至った宿儺は思わず笑ってしまう。
「――そうか、平子真子か」
思わず感嘆の声を漏らす――それと同時に、宿儺の胴が は横一閃に両断された。
下半身は立ったまま、上半身が崩れ落ちる。
その最中、宿儺は引き伸ばされた思考の中で、死神達に賛美の言葉を贈る。
「(見事な一撃だ……トドメのその時まで平子真子の能力を隠し、俺にその存在を悟らせなかった……故に、ここからは賭けだ。信じているぞ――――)」
その最後の言葉は紡がれることなく、宿儺は息絶えた。
――背を着き、地に倒れ伏しながらもその口は緩やかな弧を描いていた。
こうして、後に『
あれから九年九ヶ月九日後の現世にて――
下駄帽子を深く被った男が、何やら大掛かりな作業をしているようだった。
そしてその男の傍らには、氷のような印象を抱かせる白髪の少女と、その少女が大切そうに持つ、何かを包んだ布があった。
下駄帽子の男は額を拭うような動作をし、大袈裟に振り向き、白髪の少女に話しかける。
「さっ、行きましょうか」
「あぁ……」
白髪の少女の短い返事を聞いた男は、歩き出す。
少女もその背を黙って追う。
「「………………」」
長い間続く沈黙。
それに耐えられなくなった男がおどける様な口調で再び話しかける。
「いやぁ、すいませんね結構な時間がかかってしまって」
「九年と九ヶ月と九日だ……その長い期間、私がどれほど待ったと思っている」
「えぇ……そんな細かく思えてたんスか……」
「当然だ」
「いやー、愛が深いっスね」
「ふん」
少女が鼻を鳴らしそっぽ向いた事で会話は打ち切られる。
だがちょうど良いタイミングだった。
「さっ、着きましたよ」
男がそう言い指さす先には、五メートルはある重厚な両扉。
それは金属のようだが、漏れ出る雰囲気がそれがただの金属でないことを証明している。
男が扉に近付き手を添えると、扉全体が淡く青色に光った。
そして、ギギギッと鉄が擦れる音を響かせ、両扉がゆっくりと開いていく。
重く軋む音を立てながら、扉が完全に開くと、道を示すかのように真っ直ぐに蝋燭の光が灯った。
「着いてきてください」
「…………」
軽い足音を響かせながら歩き出す男の背を、少女は黙って静かに追う。
どのくらい歩いたか――突如として視界が開けると、六畳ほどの正方形の形をした空間に辿り着く。
その部屋には何も無い――否、一際存在感を放つ一つの義骸があった。
それの手足には太く重い鎖が巻き付いており、それぞれが部屋の四方と繋がっている。
何より目立つのは、意味不明な文様が描かれた布だろう。それが義骸の全身に巻き付き固定していた。
男が振り返り、少女の様子を確認する。
見ると少女は、手に持つナニカを大切そうに握り締め、感動で目を潤ませていた。
そんな少女に男は溜め息を吐き、呼び掛ける。
「――さん、――さん、――さん!!」
「――ッ!」
周りの声が聞こえぬ程魅入っていた少女は、肩を震わせ意識を取り戻す。
そして取り繕うように目を彷徨わせる。
それを見た男は再び溜め息を吐き少女をチラリと見た。
「はぁ……、今から処置をしますからソレを渡して下さい」
そう言い、男が指差したのは少女が大切そうに握り締めるソレ。
「ぐっ……」
少女は思わず呻き声を上げ、名残惜しそうにソレを手放す。
そして手渡す瞬間、殺気にも似た感情を男にぶつけ「失敗だけは許さんぞ」と低く言い放った。
その感情の激流を男は軽く受け流し、胡散臭い笑みを浮かべ、気前よく了承した。
そして少女は事前の予定通りその正方形の部屋から退出し、廊下へ足を踏み出す。そして全身が部屋から出たと同時に、部屋と廊下を隔てる結界のようなものが張られた。
少女は結界に優しく触れながら自身の主に思いを馳せる。
「私は何時までもお待ちしております
結界内にて、背後からビシビシと打ち付けられる「失敗したら許さんオーラ」を浴びながらも、男は平静だ。
寧ろ気分は高まりつつある。
「楽しみっスね〜。涅サンにには申し訳ないっすけど、まぁあの人なら許してくれるでしょう」
そうおちゃらけたように断言する男の脳内には、ブチ切れて襲いかかって来る変人の姿を幻視した。
「それじゃ、始めましょうか」
緊迫した空気を纏わせつつも、男の全身から好奇心というものは全く抜けていない。
少女から受け取ったモノの布をゆっくりと剥いでいく。
そして顕となったのは――
「いや〜、何度見てもおっかないっスね――コレは」
――一本の赤黒く染まった指。
形状からして人差し指だろうか。布から解き放たれた指は、結界内を禍々しい気配で埋め尽くす。
そしてその呪物を目の前にしているというのに、男は平然としたまま独り言を零す。
「アナタに取り込んでいた十七本の指は、死んだせいか死体からは出てきませんでしたからね。それどころか大の男だった筈のアナタの遺体が、可憐な少女の物に変わるものだからあら大変――あの後はアタシまで事後処理に追われましたよ」
途端に男の目から生気が失われていく。何やら「こっそりトンズラここうと思ってたんスけど京楽サンにバレたせいで……」などとブツブツ言っており、その事務作業が余程過酷だったのだろうと伺わせる。
「けど――」
ここで突如男の目に生気が宿り、怪しい笑みを浮かべる。
「――アナタを蘇らせることが出来ればかの過去を帳消し、もとい研究が捗るってもんス」
怪しい笑みを浮かべながら、男は義骸ににじり寄っていく。
そして片手で両頬を押し、口を開かせ禍々しい指を突き刺して飲み込ませた。
――ゴクンッ
本来聞こえない筈の音が一際大きくなった気がした。
義骸肌がツヤを取り戻し、頭髪が生え、目は光を取り戻す。
何よりもその全身には濃紺色の文様が滲み出ていた。
そして、義骸はゆっくりと尊大に顔を上げ、結界内に低く重い声を響かせる。
「――一秒やる。
どけ」
はぁ、はぁ、はぁ、ようやく次話に書きたかった場面が書ける………長い道のりだった………。
それと、感想で「呪力でトドメ刺さなかったら宿儺呪霊になるんじゃね?(意訳)」的な鋭い事を仰って下さった方が居ましたが、そこまで書くには作者の技量が足りませんでしたッ……すびばせん。