呪いの王がBLEACH世界に足を踏み入れる 作:ジェネリックたい焼き
それではどうぞ
二度目の受肉
「――一秒やる。
どけ」
全身の毛が逆立つような一言。その声圧は結界を隔てた箇所にいる彼女にまで届く。
己に言われている訳でないのに少女の体は恐怖で震え……たりすることは無く、感動で涙が溢れていた。
気付けば少女の手は自身の口を押さえていた。胸の奥から溢れでそうなものを必死に抑えるように。
「……宿儺……様っ」
喉の奥から絞り出たような一言。
その声には、長い時間胸に秘めてきた想いが滲んでいた。
笑いながら涙を流し、時を待つ。
自身の主が解放されるその時まで。
「――お目覚めっすか宿儺サン」
「あぁ、貴様のお陰でな浦原喜助」
未だ顔以外を拘束された宿儺。彼は浦原のからかい混じりの一言を皮肉で返す。
「それで、体の調子はどうっスか?」
「これを見てよくそんなことが聞けたな」
宿儺が忌々しそうに顔を歪め、手足に繋がれた鎖をジャラリと鳴らす。
「(呪力を感じない……この男、何かしたな)」
こちらを見つめる浦原と視線が合う。心なしか、その目は笑っているように見えた。
「チッ」
宿儺本人としては、引きちぎるつもりで力を入れたのだが、全く意味を成していないためか、舌打ちを零す。
「さっさとこの封印を解け」
「嫌っスよ。だってアナタ絶対めちゃくちゃにしていくでしょう」
息付く間もなく断られた宿儺は顔を顰めるが、事実、この封印が解かれたら少女――裏梅を連れどこかへ逃げようとしている為、押し黙るしかない。
どうにかして逃げ出す為の手がかりを探すために、先ずは会話をして情報を引き出そうと口を開くも、それは浦原の一つの提案に遮られた。
「もしここから出たいって言うなら、アタシと”縛り”を結んでください。勿論、アタシ優位のね」
「……内容は何だ」
「よくぞ聞いてくれました!」
テンション高めの浦原がズイッと顔を寄せ、一本ずつ指を立てながら、にこやかに縛りの内容を並べていく。
「一つ、『両面宿儺側から危害を加えることを禁ずる』
二つ、『もし相手側から攻撃、もしくはそれに値する行為を行われたとしても反撃、又はそれに準ずる行為を禁ずる』
三つ、『浦原喜助の研究に協力すること』
その見返りとして宿儺サンには自由を与えます。
―――どうですか?結構お得でしょう?」
薄ら笑いを浮かべながらなんでもない事のように聞いてくる浦原だが、いくら何でもメリットとデメリットが釣り合っていない。
こめかみをピクピクさせながら宿儺は問う。
「巫山戯るのも大概にしろ。明らかに貴様ばかりが利を貪る形になっているではないか」
「えぇー、そうっスかねぇ……生き返らせてもらった上に、自由に行動できるとなればこれ以上は無いと思いますけど…………まぁ嫌ならしょうがないっス。この話は無かったということで「待て」――はい?」
「最低でも二つ目のものは要らんだろう。貴様は黙って俺に死ねとでも言うつもりか?」
「それは無理ってもんス。だってアナタ、適当に挑発して一撃食らった後に『――正当防衛だな』とか言うつもりでしょう」
「チッ……」
正にしようとしていた事を言い当てられた宿儺は舌打ちするほか無い。
そしてどんな交渉も無駄と判断したのだろう。苦い笑みを浮かべ浦原と目を合わせる。
「……分かった、その縛りを結ぼう」
一拍置いて放たれた了承の言葉に、浦原は胡散臭い笑みを深める。
宿儺とスレスレにあった顔が離れていく。
そして懐から五つの鍵を取りだし、それを四肢の鎖――そして最後に、宿儺の胸に突き立てる。
「じゃあ、契約完了という事で解放してあげましょう」
ニマニマといやらしい笑みを浮かべながら、浦原は胸に差した鍵を九十度回す。
辺りに、カチリという硬い音が響くと同時に、宿儺は全身が軽くなったのを感じる。
硬質な音が小さな部屋を支配し、鎖が落ちたことらを感じさせた。
宿儺は、まだ己に纏う布を煩わしく感じながら一歩踏み出すと、その姿が顕になる。
「(呪力の流れが戻ったか……)」
宿儺は、己に流れる流麗な呪力の流れを感じながら、自身の肉体を確かめる様に視線を下に移した。
雪のように純白の髪は、肩のあたりで綺麗に揃えられていた。
陶器のようになめらかな肌に、ぱっちりとした赤みがかった瞳。
小さくぷるんとした唇に、すっと筋の通った鼻――まるで人形のようだった。
そして何より、ふっくらとした胸。
「――胸?」
なにかに引っかかり、もう一度己の体を触ると、確かにフニッとした感触が返ってきた。
まさかと思い、股の部分を触ってみると、ある物が完全に無くなっていた。
ユーハバッハが受肉させた時とは訳が違う。
宿儺は完全に固まり、ブリキのようにゆっくりと浦原に向き直る。
そして抗議の視線で思い切り睨み付けた。
「どういう事だ浦原喜助……返答によっては今この場で「――ちょっ、ちょっと待って下さいよ宿儺サン!!」……何だ……」
浦原は両手を突き出し、自分のせいでは無いと必死の弁明を開始した。
「そもそも、アタシが知ってるのは四本の腕がある状態じゃないっスか!」
「ふむ、続けろ」
「だから、アタシはこの義骸を作るにあたって元の姿がどんなにだったのか涅サンとかに聞いたわけっスよ――」
「ふむ、それで?」
「そこで聞いたのが、なんとビックリ女性だったという訳で、アタシはそのつもりで作り始めたんス」
「ほう」
そこまで聞いて宿儺の整った眉がピクリと動く。心なしか額には青筋が立っているようにみえた。
先程から淡々と浦原を言葉で追い詰めていく様子に、もはや主導権の所在は疑う余地がなかった。
それでも尚、浦原は諦めずに弁明を続ける。
「そうして暫く作業をしていると、ある日に裏梅サンが外見の指示をしてきたんスよ」
「……ほう?」
場の流れが変わった。これを好機と見た浦原はどんどん攻めていく。
「なんでも裏梅サンは自身と似た様な外見にして姉妹風にして欲しいと言い出したんス」
「………………」
宿儺が顎に手を当て俯き悩んだ様子を見て、浦原は確信した。
――この勝負もらった。
某自称新世界の神ばりの笑みを見せ、トドメの一言を加える。
「――だからアタシはあくまでも裏梅サンの指示に従っただけっス」
いやらしい笑みを心内に隠し、真剣な表情の分厚い仮面を被る。
真っ直ぐ澄み切った瞳で宿儺を見つめる。
傍から見れば全裸の少女を凝視する変態なのだが、宿儺が気にしていないので良しとしよう。
「………………」
宿儺は熟考の末、顔を上げた。
淡い赤の瞳と浦原の真剣な表情が交差する。
そして宿儺は静かにこう告げた。
「貴様の言い分は理解した」
「でしたら「だが」――ゑ?」
「実際に創ったのは貴様自身だ」
宿儺の鋭い瞳が浦原を射抜く。
「えっとそのぉ〜」
わざわざ手間をかけて、此方で外見をイジれるようにした自分が言うのもなんだが、美人に睨まれるのは怖いと心底思う浦原。
彼の視線はマグロなみに泳いでいる。
浦原の口がもごもご動く間にも、宿儺は詰め寄る――全裸で。
「それで、何か弁明は?」
邪気が一切ない笑みにも関わらずその笑顔に形容し難い凄みがあった。
夜一という超弩級の美女が傍にいるにも関わらず、浦原はタジタジだ。
手を胸の前に持ってきて、壁を作ろうとしているのも感情の現れなのだろうか。
とうとう観念した浦原は、目にも止まらぬ早さで土下座をかます。
「申し訳ありませんでした!」
◇◈◇
あれからすぐ、結界が解かれた途端に裏梅は迷うことなく主のもとへ歩み寄る。
片膝をつき、顔を上げたその瞳に宿儺の姿を映した。
長い沈黙の後、唇が静かに動く。
「お久しゅうございます、宿儺様」
その言葉には溢れんばかりの感動が込められていた。
従者のその言葉に対し、宿儺も笑って答える。
「久しいな裏梅、それで俺が眠ってから何年経った」
「九年と九ヶ月と九日でございます」
「……そうか、まだ間に合うな……」
何やら意味深に呟いた宿儺の言葉は裏梅と浦原の耳に届くこと無く消え失せる。
俯き、思考に浸る宿儺の視線の先に何かが突き出された。
それを差し出したのは裏梅であった。
「お召し物でございます」
「相変わらず痒い所に手が届く」
宿儺に褒められ、頬を染めてぽわぽわしている裏梅の手から純白の着物を受け取り、ゆるやかに袖を通す。
全てを着終えだ宿儺の姿はまるで女神のようだった。
裏梅はその天女の様な姿に見惚れ、暫し惚けてしまう。
しかし慌てて意識を寄り戻し、素直な感想を口にする。
「お似合いでございます宿儺様」
「よい、そう褒めるな。裏梅の見立てが良かっただけに過ぎん」
「っ……!!」
自身の主の謙虚さとその甘い言葉に、裏梅は感極まって涙しそうになる。
宿儺はそんな彼女を見て、頭に残る考えは一旦隅に追いやり、柔らかい笑みを浮かべながら優しく裏梅の頭を撫でる。
「えっ、わっ……」
急に与えられたご褒美に裏梅の思考は停止し、無意識に情けない声を上げてしまう。
「………………」
それを見た宿儺が更に愛らしさを感じ、裏梅の小さな頭を包み込み抱き締める。
「ピョツ」
裏梅はこの状況に脳が追いつかずに、変な断末魔を上げショートしてしまう。
――なぜ宿儺がこんな行動を取るのか、それは彼の前世にある。
今までの彼は、転生してから随分と時間が経ち、常に戦闘に身を置いていたことで”両面宿儺”としての面が大きく出ていた。
だが、最早今は敗北した身――今更戦う気など起きないし、先程までの浦原とのやり取りも殆どが演技だ。
故に宿儺は、自身に献身的に仕える従者を、これまで以上に大切にしようと決めたのだ――
そんな感動的な光景を引き裂く者が一人――
「うんうん、百合は良いっスねぇ〜」
後方腕組父親面した浦原が、何度も頷きながら目の前の光景を噛み締める。
それを、宿儺が裏梅を抱き締めたまま睨み付け、無言の圧を加える。
「ちょっ……!!」
無言ながらも意図をしっかりと汲み取った浦原は頭をブンブン縦に振りながら足早にこの部屋から退散していく。
「邪魔者は退散しますんで、それじゃあ失礼します」
最後にそう小さく言い残し、浦原は長い長い廊下に消えていった。
「ようやく消えたか……」
宿儺は浦原の姿が見えなくなるのを見届け、漸く体の力を抜く。
そして目線を下に落とすと、自身の胸に埋もれ意識を失っている裏梅の姿があった。
「おっと、やはり慣れんな女の体は」
軽くそう言い放ちながら裏梅をお姫様抱っこし、浦原が去った方向に目をやる。
「部屋の構造などを
長い廊下から吹き抜ける妖しい冷風をその身で受けながらジッと青い光が揺らめく暗闇を見つめる。
「………………」
やがて、ゆっくりと廊下の方へ歩き出した。
裸足のせいか、ペタッペタッと湿った音が狭い廊下内に反響する。
どのくらい歩いたか、宿儺の視界に小さな光が届き、それを目掛けて進む。
眩い光に包まれ、その光の発生源に辿り着いた宿儺が目にしたのはごちゃごちゃとした研究所。
「………………」
想像とはまるで違っていた光景に宿儺は、なんとも言えない表情を見せ感情を押し殺す。
しばらくの間そうしていると、別の扉から浦原喜助が顔を覗かせた。
少し驚いたような顔でこちらを見つめ、やがて全身を見せ、ニヤッと笑いながら口を開く。
「あれ、思ったよりも早かったっスね――もっと愉しんで頂いても良かったんスよ?」
扇子を口元でバッと開き、宿儺をおちょくるも、宿儺に反応は無い。
それどころか呆れたような溜め息を吐く。
「巫山戯るのも大概にしろ………それよりも何か寝れる場所を用意しろ、裏梅が気を失ってしまってな」
「あら、それは大変っスね。だったら、さっきアタシが出てきたとこを真っ直ぐ行って、突き当たりを左に曲がれば裏梅サンの部屋があった筈っス。そこに裏梅サンを寝かしてきて下さい」
「そうか、感謝する」
宿儺から素直な礼が飛んできたことに、浦原は帽子の裏で目を見開く。
宿儺はそんなこと関係ないとばかりに歩みを進め、浦原から離れていく。
「驚いたっスね……宿儺サンがあんな素直だったなんて……」
感心したように呟き、宿儺が出ていった箇所を見つめる。
すると唐突に、浦原はある事を思い出した。
「あっ、夜一サン達に宿儺サンの事説明するの忘れてました……まぁ、なるようになるでしょう」
宿儺を信用している様な物言いだが、実際は面倒くさくなったに過ぎない。
それどころか、面白いものが見れると霊圧を遮断するマントを手に取り、今にも追おうとしていた。
「クックックックッ」
今の浦原を例えるならイタズラを思い付いた子供だろう。
――だが、浦原は数分後、自身の身に降り掛かる絶大な不幸の存在に気付けない。
幸運にも、結果以内での会話は最初の一言以外裏梅には聞こえていません。良かったね裏梅ちゃん()
宿儺(♀︎)×裏梅(♀︎)はあり?
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あり
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なし
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どっちでもいい