呪いの王がBLEACH世界に足を踏み入れる   作:ジェネリックたい焼き

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筆が進む。

それではどうぞ


義骸

「ん……いつの間にか寝ていたか……」

 

 窓から差し込む朝日で宿儺は目を覚ます。子鳥のさえずりが外から聞こえ、だんだんと宿儺の意識をハッキリとさせていく。

 

「裏梅は…………居ないか」

 

 ふと横を見るとそこには誰もいなかった。

 若干の寂しさが宿儺の胸に残るが、気持ちを切り替え、前を向く。

 

 どうせすぐまた会えるのだ。だからこんなクヨクヨしていても意味は無い。

 

「さて、浦原喜助を探すか」

 

 のそりと立ち上がり、布団を丁寧に畳み、押し入れに仕舞い込む。

 ふと横を見ると、押し入れには新品の香りを漂わせる布団一式があった。

 

「こんなものまで用意していたのか……」

 

 僅かに居たたまれない気持ちに苛まれながらも、襖を静かに閉じた。

 

 そうして布団を片付け終えた宿儺は歩き出し、部屋の外へと出る。

 もちろん、出口の襖もピタリと閉じて。

 

 まだひんやりとした空気が残る廊下を、宿儺は宛てもなく歩き続けていた。

 

途中、いくつかの部屋を覗いてみるも、そこにあったのは「失敗作」と張り紙がされた不良品や欠陥品ばかり。

 

 その道中、上階へと続く階段を見つけ、登ろうとしたものの――一歩踏み出す前に、見えない壁のようなものに弾き返される。

 

 それ以外は、何の変哲もないただの住居だった。

 

「(そういえば裏梅の姿も無いな……やはり上階に居るのか?)」

 

 宿儺は考え事をしながらこの階層を歩いていると、見覚えのある部屋まで辿り着く。

 ここは最後にしようと決めていた部屋だ。

 

「ほう……」

 

 あの時は大雑把にしか見ていなかったが、乱雑に置かれた研究器具もよく見ると、丁寧に区分けされ、統一感が出ている。

 

 そして部屋を一通り眺めた宿儺は、ここに浦原は居ないと判断し、踵を返した瞬間――奥の方からガチャリという音が鳴ったのを捉えた。

 

「誰だ」

 

 短く静かに、警戒の色を滲ませながら宿儺は問いかける。

 しかし、反応は返ってこない。

 

「(不味いな……もし俺に危害を加えたきたとしても、縛りの関係でどうしようも出来ん……奴が敵の侵入を許すとも思えんが、万一の場合もある)」

 

 宿儺は足をスっと一歩引き、拳を強く握りしめる。

 そして室内の緊張の空気が最高潮に達した瞬間――「プハァッ」と間抜けな声が静寂を突き破った。

 

 その人物は、無垢な顔で呆気に取られる宿儺に問い掛けた。

 

「あれ?何してるんスか宿儺サン。起きたんなら言ってくださいよ」

 

 浦原のその言葉を聞いた宿儺は、警戒を解き拳に込めていた力を緩める。

 

 そして、端的に返事を返す。

 

「あぁ、そうだな。俺は貴様を探していたのだ」

 

「そうなんすか?だったら後で行きますんでちょっと待ってて下さい」

 

「どのくらいだ」

 

「うーん……あと五分くらいっスかね」

 

「そうか、急に押し掛けたのは俺の方だ。大人しく待っているから自分の作業に集中しろ」

 

「いやぁ、すいませんね」

 

 浦原が軽く謝ると、先程出てきた怪しげな機材の中へ、再びするりと入っていく。

 その様子を、宿儺は興味深げに眺めていた。

 

 研究室内部を静寂が包む。聞こえるのは宿儺自身の息遣いと、風が通る音のみ。

 

 怪しげな機材から視線を移し、宿儺は虚空をボンヤリと見つめる。

 

「………………」

 

 頭を空っぽにし、ボーッとしている様はまるで魂が抜けた人形のようであった。

 

 そうして暫く、宣言通り五分で作業を終わらせた浦原が宿儺の肩を叩く。

 

「大丈夫っスか宿儺サン。何度呼びかけても無反応でしたよ」

 

「そうだったか……」

 

「それで、アタシに何か要件があるんじゃないっスか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 宿儺は深く頷き、浦原の目を真っ直ぐ見て要件を話す。

 

「今日は貴様に頼みがあってきたのだ」

 

「それで頼みとは?」

 

「あぁ、俺が入ったこの義骸をもう一つ作って欲しくてな。無論、報酬はお前の望むものをやろう――最も今の俺には何も無いがな」

 

 宿儺は少し自嘲気味に顔を歪めるも、すぐにそれを隠し、浦原の目をじっと見つめる。

 その宿儺の瞳には、並々ならぬ想いが込められていた。

 

「……うーん。分かりました」

 

 浦原は一瞬悩むような素振りを見せたが、一言で了承し、それに宿儺はホッと溜め息をつく。

 

 そんな彼を、浦原が生暖かい目で見詰めていたが、宿儺はその事に事に気付かず、頭を下げる。

 

「感謝する」

 

「良いっスよ。アタシと宿儺サンの仲じゃないっスか」

 

 まだそこまで付き合いの長くない浦原の口から、そんな言葉が出た。

 宿儺はそれを、真面目な空気を和らげるための冗談だと判断し、わずかに笑みを浮かべた。

 

 そんな和やかな雰囲気の中、浦原が「あっ、そういえば」という声を上げたので、宿儺は問いかける。

 

「何だ?」

 

「期限はいつまでっスか?」

 

「そうだな……」

 

 宿儺は顎に手を当て、考え込むような素振りをみせ、脳内で逆算する。

 

 すると出てきた答えが――

 

「三ヶ月……いや、二ヶ月以内には欲しいな」

 

「ほえ?」

 

 浦原から漏れた間抜けな返事に、宿儺は苦笑することしか出来ない。

 

「だから、二ヶ月だ――頼むぞ」

 

「ほえ?」

 

「あぁ、それと外見は俺に設定させてくれ。案ずるな、数日以内に持ってくる。ではな」

 

 言いたい事だけ端的に伝え、踵を返し裏梅の部屋に戻る宿儺。

 彼の背後からは、呆然と立ち尽くし、口から間抜けな言葉を漏らす浦原の気配がハッキリと感じられた。

 

 ――宿儺のこの義骸だって、九年九ヶ月九日という長い年月を経て造られた代物だ。

 当然、そんな悠長な時間を待てるはずもない宿儺は、一度了承を得たのをいいことに、次々と追加注文を出していった。

 

 いくら宿儺という前例があるとはいえ、それを浦原に強いるのは酷というもの。

 

 だが、一度了承してしまった手前、今さら断ることもできず――浦原の脳は、見事にショートを起こした。

 

 

 ――それから二ヶ月間は、研究室に篭もりっきりの浦原が観測出来たという。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 この二ヶ月。行動範囲が制限されていた宿儺は、この階層のみでの行動しか許されなかった。

 その為、暇を持て余していたが、そんな彼の元に息を切らした浦原喜助がやって来た。

 

「お?」

 

  浦原がこちらに顔を向けた。

 宿儺は無言のまま、その手の動きを待つ。

 

 すると浦原は、まるで応えるように親指を立て、軽くウインクしてみせた。

 

 ――もう完成したのか。

 

 意味を悟った宿儺は、思わず目を見開き、すぐさま浦原のもとへと歩み寄る。

 

「それで、何処にある」

 

「研究室に置いてます。それと、アナタがやろうとしている事は察しがついてるんス。だから、するならアナタが受肉した場所でやって下さい」

 

 宿儺は、浦原の言葉に若干驚愕を露わにするも、即座に同様を鎮め、問いを投げかける。

 

「つまり貴様は、今から俺がしようとしてる事を黙認するという訳だな?」

 

「いや、アタシは()()()()()()()よ、わ宿儺サンが、偶然廃棄されていた義骸をどうこうしようと、アタシはそれを知らなかったんスから」

 

 悪びれもせず、あっけらかんと言い放つ浦原の言葉を聞き、宿儺はあくどい笑みを浮かべた。

 

「いいのか?そんな言い訳では上に潰されるぞ?」

 

「忠告はありがたいっスけど、中央四十六室もアタシという優秀な研究者を失いたくないでしょうし、そもそもアタシは護廷十を抜けてるんス。心配いりませんよ」

 

「そうか、ならば遠慮なく使わせてもらうとしよう」

 

 軽やかな足取りで歩き出す宿儺の背に、声が届いた。

 

「後、裏梅サンを貸してくれてありがとうございました!非常に助かったっス!!」

 

「俺の方こそ、無茶な願いを聞いてくれて感謝している」

 

 滅多に礼など言わぬ宿儺は、短く「ありがとう」と告げると、すぐに前へ向き直り、駆け足で研究室へと向かった。

 その身体からは、歓喜の色が溢れ出ていた。

 

 

 

 

 

 浦原は、宿儺の姿が角の向こうに消えるのを見届けた後、糸が切れた人形のように身体が傾いた。

 

「(マズイっスね)」

 

 顔が地面に迫ってきているというのに、浦原の心は微塵も乱れていなこった。

 瞬間――彼は腕を誰かに掴まれ、そのまま引き上げられ肩を揺らされた。

 

「起きろ!起きろ喜助!!寝不足で倒れたおぬしを運ぶのは誰だと思っておるのじゃ!!」

 

 意識が飛びかけている彼の耳に届く、甲高い叫び声。浦原は、それが夜一のものだと察しがついた。

 

「頼みますよ夜一サン……アタシ二ヶ月の間ほとんど眠ってないんスから……」

 

 閉じかかった瞳で夜一を見つめ、必死に懇願する。

 ただ、その表情はまるで老人のようにシワシワで覇気がない。

 

「はぁ〜今回だけじゃぞ」

 

 溜め息を吐き、渋々と背負ってくれる夜一の背に担がれる浦原。

 彼は霞がかった思考で、これからのことを考える。

 

「(一応彼の事がバレないように、霊圧を遮断する指輪とか手袋とか作ってあげましょうかね。結局、この二ヶ月両面宿儺に関しての研究は、一切進みませんでしたし……これからはじゃんじゃん宿儺サンに協力してもらいましょう)」

 

 夜一の背に揺られながら、浦原の意識が沈んでいく。

 微睡みの中で、浦原は夢を見た。

 

 顔が激しい憤怒に包まれ髪を逆立たせ、全身が帯電する化け物の姿を。

 そして、その化け物が己に迫りくる夢を。

 

 だが、惜しいことに、数時間後に目覚めた彼の記憶に、夢の内容は記されてはいなかった。

 

 ――数週間後、浦原は再びあの地獄を経験する事になる。だが、その事を知るのは誰も居ない。

 

 

 

 

 

 

 風を切り廊下を駆ける宿儺の目に入ってきたのは、汗をびっしょりとかいた裏梅。

 そして、彼女のすぐ側にある木箱に入った一体の義骸。

 

 それを見た宿儺は、歩を緩め、ゆっくりとした足取りで両者に近付く。

 

 宿儺に気付いた裏梅が、片膝をつこうとしていたので、宿儺はそれを手で制す。

 

 そして裏梅の傍までよった宿儺は、彼女の頭を優しく撫でた。

 

「宿儺様……お手が汚れてしまいます……」

 

 裏梅は、汗でベッタリとした自身の髪を気にしているようだが、それを気にする宿儺ではなく、無視して撫で続ける。

 

「ありがとう裏梅」

 

「その様な……勿体なきお言葉です」

 

「いや、良くやった。これで間に合わせることが出来る」

 

 裏梅に添えていた手を離し、人形に近付き、その頬を両手で包み込む。

 そして宿儺は、悪戯めいた笑みを浮かべた。

 

「これでピースは揃った。残り数週間……楽しみだ」

 

 宿儺が本当に心の底から待ち遠しそうな笑みを浮かべるも、まだ愉悦の混ざった笑みが抜けきっていない。

 

 宿儺は、背後から嫉妬めいた感情が人形に向けられるのを感じ、小さく混じり気のない笑みを浮かべた。

 

 そして宿儺はバッと立ち上がり、裏梅の方を向き宣言する。

 

「今からこれを丁重に運ぶ。着いてこい裏梅」

 

「畏まりました」

 

 片膝をつき頭を垂れ了承する裏梅を見て、宿儺は「膝をつかなくていい」と口にしかけたが、彼女自身が満足そうだったので、もう()める事をやめた。

 

 

 

 

 

 二人は義骸が納められている木箱の両端を持ち、落とさないようゆっくりと進む。

 

 途中で、重厚な金属のような両扉に妨害をされたが、裏梅が難なくそれを開き、とうとうあの部屋に到着した。

 

 宿儺が義骸を抱えて運ぶ。その大きさは宿儺を優に上回っている為、その分木箱も大きい。

 その為、狭い通路を抜けるのに多少苦労したが、何とか重厚な金属で出来たような両扉の前までは来ることが出来た。

 

 だが、肝心のパスワードを宿儺は知らない。

 裏梅なら知っていると思い問い掛けてみると――

 

「はい、それなら奴に聞いております」

 

 ――案の定、パスワードを知っていたようで、難なく扉が開いた。

 

 再び二人は静か廊下を歩む。ここからの道は薄暗く狭いので、木箱をぶつけないよう、細心の注意を払いながら進んでいく。

 

 暫く歩いていると、小さな光が見え、そこを目指していくと、六畳程の小さな部屋に辿り着いた。

 そこに、宿儺を捉えていた布と鎖は既になく、寂しい有様だ。

 

「ここに置くぞ」

 

 宿儺は自身が居た場所を指さし、木箱から義骸を慎重に取り出し座らせる。

 座らせる際、関節が擦れカチャリという音が静かな個室に響く。

 

「よし、こんなものだろう」

 

「申し訳ないのですが、この義骸はどういった意図でご用意されたのでしょうか?」

 

「あぁ、裏梅には説明していなかったな」

 

 そう言って宿儺は義骸の方に目線を移し、懐かしむ様な顔で見つめ、唇を動かした。

 

「ユーハバッハを受肉させるのだ」




次話で感動の再会です。

後、前話から今話にかけて視点を統一させることを意識して書いたのですが、読みやすかったでしょうか。
皆様の忌憚ない意見をお聞かせください。
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前話と今話は、今までの話と文の書き方を変えたのですが、読みやすかったですか?

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