遊戯王0D’s ナリキリボーイと青き眼の精霊王   作:GT(EW版)

1 / 8
蘇った英雄

 ライディング・デュエル──それはスピードの世界で進化したデュエル。

 

 その熱き歴史を語るには、伝説のデュエリスト「不動遊星」の存在は避けて通れないものだ。

 ネオ童美野シティのサテライト地区出身の彼は、格式ある数々のライディング・デュエル大会を制覇した他、赤き龍に導かれた「シグナー」として「地縛神」を再封印した英雄でもある。

 この世界の歴史には彼のような「カードで世界を救った偉人」は他にもいるが、そんな中でも彼の知名度が突出しているのは近代のデュエルでは外せない「シンクロ召喚」の開拓者だからであろう。

 モンスター同士で波長を合わせ、より高次元のモンスターを召喚するシンクロ召喚。彼はスピードの向こうでさらにそれを進化させ、シンクロ召喚を超えたアクセルシンクロ、デルタアクセルシンクロを生み出してみせた。

 彼の正しき心の在り方は集いし願いを星に束ね、新たな力を呼び起こしていった。そんな彼の力に憧れ、大勢の人々がさらなる進化を求めたのが人類の歴史である。

 

 

 そしてその結果──世界は破滅へと向かった。

 

 

 狂い始めたのは英雄である彼の没後から、しばらくしてからのことだ。

 時を経るごとに彼が提唱した誇り高き進化の思想は人々の間で薄れ、やがてねじ曲がり……いつしか「正しき心の在り方」が抜けて「新たな力」だけを求めるようになった。

 際限の無い力への欲望と誘惑──そういった邪念は人から人へと伝播し、遂には世界のインフラを支えていたエネルギー機関「モーメント」に破滅的な負の回転を引き起こしていった。

 

 モーメントとは、世界各国で運用されている無公害の半永久エネルギー機関である。デュエル史ではシンクロ召喚の黎明期とほぼ同時期に現れたこれによって、世界はエネルギー問題を解消するだけでなく飛躍的な発展を遂げた。

 今や石油燃料など過去の遺物であり、特にライディング・デュエルに扱われるDホイールやデュエルディスクには不可欠な動力源となっていた。

 そのエネルギー源は「遊星粒子」と呼ばれる新たな原初粒子。遊星歯車のように粒子同士をつなぐ特殊な作用があるそれは、人の心に反応しその力を増していく「生きたエネルギー」である。

 そしてそれはデュエルによって発生する力──シンクロ召喚時に発生する力によって、さらに増大する性質があった。

 

 故にそれが起こったのは、必然だったのかもしれない。

 

 不動遊星の現役時代から約200年後、世界はシンクロ召喚が加速させるモーメントのエネルギーによって急激な発展を遂げていた。

 しかし多くの人々の心が誘惑や欲望の悪意に染まり、増長──その果てに遊星粒子の特性によってモーメントは暴走を始め、ネットワークから影響を受けた人工知能が一つの答えを導き出したのだ。

 

 

 ──このままでは地球は滅びる。その元凶である人類を滅ぼせ。

 

 

 ネットワークは地球の滅亡を阻止するために、「機皇」と呼ばれるカードを基に機械の軍隊を生み出した。

 そしてその機皇軍はモーメントに悪影響を与える人類を滅ぼす為、世界中に解き放たれ、圧倒的な暴力を以って町々を襲っていった。

 モーメントによる発展を遂げた世界は、モーメントの暴走によって呆気なく栄華を終えた。皮肉にも人類自身の欲望と悪意によって絶望の道へと突き進んでいったのである。

 

 

 ──しかし、そんな世界に救世主は現れた。

 

 

 救世主の名は「不動遊星」。

 200年前に活躍していた英雄とまさに同じ姿をしたその青年は、赤いDホイールを駆けて人々の前に現れた。

 

 

「俺は不動遊星! みんな、クリアマインドだ! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 

 誰もが目を疑う光景だった。

 機皇の軍隊に襲われ、もはや死を待つだけだった人々の前に突如として現れたハリキリ・ボーイが、白枠のカードを手に200年前の英雄を自称しながら単身突っ込んでいったのである。

 人心が荒み、心の満足を失ったこの時代でそういった気狂いの一人や二人は珍しくもなかったが……彼はその手で奇跡を起こしてみせたのだ。

 

 

「アクセルシンクロ!! 生来せよ、シューティング・スター・ドラゴン!!」

 

 

 正面に突っ込んでいった彼のDホイールが凄まじい加速で消えたかと思った瞬間、姿を変えた白き竜を従えながら彼は再び姿を現した。

 ソリッド・ビジョンが映したただの幻像に過ぎない筈の竜が、風を切り裂きながら機皇兵団の間を疾走していくと──人々を襲っていた軍隊は、たちまちその機能を停止していった。

 

 

「すげぇ……」

 

 

 絶句する一同の中、奇跡の目撃者となった者の一人が震えた声を漏らした。

 その声に込められた感情には恐れも嘲りも無く、ただただ純粋な感動だけがそこにあった。

 世界が滅亡に向かっているこの時代、もはや懐かしくさえある最高のエンターテイメントを目にしたような感情。

 

 

「みんな聞いてくれ! 人々がモーメントの暴走を引き起こしたのは、欲望や悪意に囚われてしまったからだ! だからクリアマインドでモーメントに与える負の感情を削ぎ落とすことができれば、みんなもネットワークから攻撃されなくなる!」

 

 

 ざわめきが広がる。

 ネットワークは全ての人類を抹殺しようとしているように思われていたが、それは正確ではない。正しくは「モーメントに悪影響を与える人間」を滅ぼす為に、機皇兵団を差し向けてきたのだ。

 故に、明鏡止水の境地であるクリアマインドを会得すればその対象ではなくなる。それが彼、この時代に蘇った「不動遊星」が説いた真理だった。

 

 

「俺がみんなにクリアマインドを教える! だから生きることを諦めないでくれ!」

 

 

 200年の時を超えて蘇った英雄、不動遊星の導き──それは滅びゆく人類を繋ぎ止める、確かな希望となった。

 先頭に立って無力な人々を守り、諦めて生きる気力を無くした者たちさえも誰一人見捨てることなく鼓舞していくその英雄然とした彼の姿に、荒んでいた人々は次第にその心に満足を取り戻していき、「お、俺は諦めない! こ、こんなところで死んでたまるか!」「ぼ、僕も!」「私も!」と一人、また一人と同調していった。

 

 その結果──「不動遊星」と出会った人々は、その全てがクリアマインドを会得し、機械の軍隊から襲われなくなったのである。

 難民同士で励まし合い、助け合い……この200年の間に失われたと思われていた慈しみの心が、まるで彼の名前の由来となった遊星歯車のように「不動遊星」を中心として広がっていったのだ。

 現代に蘇った「不動遊星」は、まさしくこの時代に求められていた英雄そのものだったのだ。

 そんな彼の姿を見て、彼に助けられた一人の少年はこう語った。

 

 

「さすが伝説のチームサティスファクションのメンバーだ!」

 

 

 200年前の英雄、不動遊星はデュエリストとして数々の大会を制覇したことで知られているが、個人戦だけではなくチーム戦でも輝かしい結果を残している。

 そういった名前のチームのメンバーとして活躍したこともある──というのが、この世界の歴史の一幕である。この世界の歴史では、「チームサティスファクション」はある大会の優勝チームの名だったのだ。

 ただ、そちらの肩書きで高らかに賞賛されるのは予想外だったのか、当の「不動遊星」はどう返せば良いのかわからない様子で少しばかり面食らっていたものだが。

 

 

 ──これはそんな蘇った英雄が人々に希望をもたらし、束の間の平穏を取り戻した時代の一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネオ・カイバーランド?」

 

 

 Dホイール「遊星号」の彩色に合わせた赤いヘルメットを被りながら、「不動遊星」がくぐもった声で問い返す。

 そう問い返した先には先端の尖った特徴的なDホイールから降りるなり、その特徴的な髪型を外気に晒した青年ジョニーの姿があった。

 この一帯の人々にクリアマインドを伝授し終えた頃のことである。奇抜なデザインの愛車デルタイーグルでやってきた彼と久方ぶりの再会を喜ぶと、「不動遊星」はお互いの近況報告の中で飛び出してきたキャッチーな名前に思わず目を見開いた。

 

 

「ああ、僕も驚いたよ。名前もそうだけど、まさかまだこの辺りに元気な町が残っていたなんてね」

 

 

 ネオ・カイバーランド──その町の名前は、かつて世界的に展開していた人気遊園地の名を想起させた。「海馬ランド」と言えば、平和な時代の子供なら誰もが一度は訪れたことがあるだろう。

 しかし今しがたジョニーが告げたのは海馬ランドではなく「ネオ・カイバーランド」である。そしてそこは子供なら無料で遊べるかの遊園地ではなく、このご時世で未だ「町」の形を成している地の名前であるとのことだ。

 

「海馬ランドではないけど、そこの町長は子供には優しくてね。この前、僕が助けた難民の子たちも受け入れてくれたんだ」

「そうか……立派だな。その町長も、君も」

「まだまださ。君のトップクリアマインドと比べたら、僕はまだ足りないよ」

「ジョニーなら行けるさ。クリアマインドのその先にも」

 

 ジョニーは「不動遊星」と志を同じくする仲間であり、彼の指導によりクリアマインドを完成させた最初の人物でもある。

 言わば一番弟子とも言えるジョニーは「不動遊星」のもとで誰よりも早くクリアマインドの境地に達すると、より多くの人々にその力を広める為、彼とは別行動をしていた。

 科学者ではない一介のプロデュエリストでありながらも遊星粒子の本質を捉え、「不動遊星」と出会う前から同じ視点で「正しいシンクロ召喚」を広めようとしていたのが彼である。おそらく自分と出会わなくても、生きてさえいれば一人でもクリアマインドに到達していただろうというのが「不動遊星」の見解だった。

 そしてそれほどの人物が今しがた持ち込んでくれた情報は、彼にとっても嬉しい話だった。

 

「生き残っていた町か……そうだな。そのネオ・カイバーランドという町が子供たちを受け入れてくれるなら何よりだ。クリアマインドを覚えたと言っても、今の暮らしには辛い思いをさせているからな……」

 

 名前はともかくとして、難民の子供たちの受け入れ先が見つかったのはこの上無い光明だ。

 特に現在「不動遊星」が引き連れている難民たちの中には親のいない孤児も多く、安住の地を探して旅回る今の暮らしが大きな負担になっている。

 改心した周りの大人たちが助け合って面倒を見ている現状だが、それは「不動遊星」も心を痛めている問題だった。

 

「それと……あー……そこの町長が遊星、君に会いたがっていてね」

「……どうした? なぜそこで言い淀む?」

 

 ジョニーが語るには突如として世に現れ出るなり、宣教師のごとく人々にクリアマインドを伝授し巡る青年の噂は他所にも広まっているらしい。

 噂が広まるのは「不動遊星」自身が望んでいたことであり、喜ばしいことである。

 何より広まる噂がある程度に人間が生き残っていたのが嬉しいが……噂は広まれば広まるほど、彼の想いが世界に伝わりやすくなる。寧ろこの時代に蘇る英雄に知名度の高い「不動遊星」を選んだのは、そういった打算も含まれていたのかもしれない。

 自分の与える第一印象が無邪気な歓喜であろうと、得体の知れない畏怖であろうと、もしくは変な奴が変なことをしてる……的な嘲弄であろうとさして関係は無い。少しでも多くの人々が興味を持ってくれるのなら、それ自体に大きな意味があったのだ。

 

 なのだが、ジョニーが気にしているのは噂の伝わり方がどうということではないらしい。何やらその「町長」とやらに対して難しい顔をしている彼に続きを促すと、彼はサングラスの裏で困ったように視線をさまよわせながら答えた。

 

「……これが、その町長が中々キツい人なんだ。子供には優しいんだけどね」

「なら良い奴なんじゃないのか?」

「うん……まあ、良い人だとは思うよ。彼女が放つシンクロ召喚の輝きは、君のように澄んだものだったしね。そうだね……あの人は町の人たちからこう呼ばれている」

 

 言い淀んだ後で、ジョニーはネオ・カイバーランドの町長という人物の評価を簡潔に言い表した。

 

 

「ブルーアイズの担い手──海馬瀬人の再来ってね」

「…………」

 

 

 ──その言葉を聞いた瞬間、「不動遊星」の優れた頭脳の片隅には、即座に「ある可能性」が想起した。

 ヘルメットの裏に隠れた「不動遊星」のまばたきが意味していたのは、警戒と──淡くも確かな「期待」であった。

 

 

 

 

 

 そんな彼は程なくしてジョニーからの伝言に従い、件の町「ネオ・カイバーランド」へ足を踏み入れることになる。

 ジョニーから提供されたマップのデータをもとにDホイールを走らせて数日後、辿り着いたそこには確かに人の営みと、町があった。ああ、確かに町があったのだ。

 

 

 ──地理的には日本の何処かである筈なのに、どう見てもエジプトの街並みにしか見えないその町が。

 

 

 町に到着するなり「不動遊星様ですね。ジョニー様から話は伺っています。どうぞ中へ……」と、案内人として町の門前に佇んでいたスーツの男から丁重に出迎えられたのであった。

 内心困惑していた「不動遊星」だったが、街の風景に対して「ああこの感じ……サティスファクションタウンに似ているな」と即座に順応すると、それ以降はどこか懐かしむような眼差しで辺りを見つめながら中心部にそびえ立つ宮殿の中へと通されていった。

 

 

(ファラオ)、不動遊星様をお連れいたしました」

 

 

 この時代にまだこんな建物があったのかと……時代錯誤的な意味とご時世的な意味の二つで感嘆の声を漏らす「不動遊星」は、辿り着いた玉座に座っていたその人物の姿を見て言葉を失う。

 ジョニーから聞いているその人物の情報は二つ。それは「子供に()優しい」ということと、「ブルーアイズの担い手」であること。そして町の人々から「海馬瀬人の再来」と呼ばれていることだ。

 

 

「……ファラオはやめろと言っているだろう、イソノ。私は神官セトの生まれ変わりでも子孫でもないのだからな」

 

 

 しかしそこにいた人物は、「不動遊星」が想像していたものとは似ても似つかない姿をしていた。

 丈の短いスカートの下で気だるそうに脚を組みながら壇上の玉座に座っていた白い髪の少女は、サファイアのような青い瞳で値踏みするようにしばし「蘇った英雄」の姿を見据えると──フゥンと感心げな声を漏らし、立ち上がった。

 

 

「200年前の亡霊が蘇ったと聞いて、よもや私の同胞がまだ残っていたのかと疑ったが……これは中々、私以上のナリキリボーイが現れたものだな」

「……っ、君は……」

 

 

 「不動遊星」の想像の一つが外れたことは一目見てわかったが、それでなくても彼女の姿は驚くに値した。

 町長という立場で生き残った人々をまとめていると聞いた目の前の人物が、想像するよりも数段若く──幼いとすら思える外見年齢だったからだ。高く見ても14か、15か……そのぐらいの「乙女」とも呼べる少女の姿をしていた。

 見目麗しくも小柄な青き眼の少女は、一段ずつ壇を下りると「不動遊星」の目線と同じ高さの位置で立ち止まり、自らの名を名乗った。

 

 

「我が名はセティア。この町──国を束ねている半精霊(・・・)の王、セティア・キサラギだ。会えて嬉しいぞ? 不動遊星を名乗る某よ」

 

 

 そう語るが握手の手は差し出さない少女からは──その外見年齢には似つかわしくない灼熱の太陽のような覇気を感じた。

 




 令和の5D'sロスに耐えられなかったので不動遊星(不動遊星)の捏造外伝を攻撃表示で召喚
 今見てもゾーンのやったこと部分的に不動遊星(本物)超えてると思う
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。