遊戯王0D’s ナリキリボーイと青き眼の精霊王   作:GT(EW版)

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蘇った英雄……?

 クリアマインドを会得したことで機皇の軍隊から逃れた難民たちは、安息の地を求めて荒れ果てた大地を渡り歩いていた。

 そんな中、他の生存者たちが興した町「ネオ・カイバーランド」の噂を聞きつけた「不動遊星」は、そこが皆の新天地となり得るか、そしてその町の町長に纏わる「噂」の真偽を確かめるため足を運んだのであった。

 

 海馬瀬人の再来──ジョニーから話を聞いた時、「不動遊星」の脳裏に過ったのは現代に蘇った過去の英雄が自分の他にもう一人いたのか?という疑念である。

 もはやカードゲーム「デュエルモンスターズ」が日常の根幹となって久しい世界において、最大の特異点とも言える人物こそが──不動遊星よりもさらに前の時代の英雄である「海馬瀬人」その人だった。

 

 ジョニーが語るには、「不動遊星」がクリアマインドの象徴である「シューティング・スター・ドラゴン」の力で機皇帝たちを無力化していたように、噂の町長は彼の代名詞である「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)」のカードの力で機皇帝たちを粉砕していったのだと言う。

 デュエルディスクに投影されたモンスターが物理的な力を持つことは、過去にいくつか前例がある。本来なら眉唾物の噂と聞き流すところだろうが……今から200年前、「十六夜アキ」という戦友がいた「不動遊星」にとっては十分にリアリティのある話だった。

 

 そして件の「海馬瀬人の再来」はその純粋な力と圧倒的なカリスマで人々に希望を与えると、自らを最高指導者として生存者たちを集め「ネオ・カイバーランド」を建設。今では噂を聞きつけた多くの人々が集い、荒みきった地上において最も豊かな街を作り出しているとのことだ。

 

 それが何故古代エジプト風の街並みなのかはわからないが……ともかくまだ実際に訪れたその町には噂通り多くの人々で賑わっており、自分やジョニーが関与した場所の他に平和に暮らしている者たちがいると知れたのは大きな収穫だった。

 

 収穫──と言うとこの町では農作物も安定して採れているとのことだ。モーメントに頼らない前時代的な製法ではあったが、この辺りの土地は痩せておらず畑には程々に豊かな実りが広がっていた。

 

 

「凄いな……」

「畜産業の復活は……当分できそうにないがな。無駄に筋肉だけはある連中の尻を蹴り上げて馬車馬のように働かせた甲斐もあってか、見ての通り食糧の供給は行き渡っている」

「蹴り上げるのはやめた方がいい。アレは良い気分じゃない」

「鼻毛を吹きかけられるよりはマシだろう。私はそんなもの吹きたくないが」

「…………」

 

 

 宮殿から出た「不動遊星」は王を名乗るセティアという少女が直々に買って出た案内のもと、ネオ・カイバーランドの街並みを見回っていく。

 どこもかしこも穏やかというわけではないが、牢獄のように怒鳴り声が聞こえることもなく、町の中では農耕に従事する者も建築に従事する者も等しく前を向いていて──人々は活気に溢れていた。

 

 

「どうだ英雄? 我がネオ・カイバーランドの印象は」

「……いい町だと思います。まだ希望は無くなっていないのだと実感できました」

 

 

 一通り街を見て回った後、「不動遊星」は興味津々な眼差しでこちらの返答を窺う町の王セティアの問いかけに対し、率直な感想を返す。

 町の人々は元気に労働の汗を流しており、レトロな建造物はどれも機皇に襲われた形跡が無い。

 奇跡的なその事実を象徴するかのように、何より広場では子供たちが子供たち同士でスタンディング・デュエルを繰り広げている光景が目に留まった。

 

 

「いっけー! 伝説の剣豪MASAKI! 伝説スラーッシュ!!」

「あまいぞユウキ! 罠カード発動、援軍! 場のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる! これで俺の月の女神エルザェムの攻撃力は1250! 返り討ちにしてやれ! エルザェム・パンチ!!」

「うわあああっ!?」

「伝説の剣豪MASAKIを粉砕!」

 

 

 勝っても負けても何も失うことはなく、ただ己の力をカードで競い合う純粋なゲーム。

 もはや失われたと思っていた平和な光景の中、「不動遊星」の目に留まったのは彼らが扱っていた機材である。

 

「あれはまさか……初期型のデュエルディスクですか?」

 

 まだ永久機関モーメントが開発されていなかった頃の海馬コーポレーションが、初めて一般に普及したクラシックな作りの決闘盤デュエルディスク。「不動遊星」の時代ですら博物館に飾られていたような代物が、このネオ・カイバーランドの子供たちの間では現役として使用されていたのだ。

 

 

「ああ、私の手で再生産してやった。精神の未熟な人間に、モーメントの力を使わせるわけにはいかんからな。このネオ・カイバーランドでは私が認めた者以外、Dホイールはもちろんモーメント式のデュエルディスクの使用を禁じている。あの旧世代のデュエルディスクは、代わりにくれてやった代替品だな。無論、シンクロ召喚も実装していない」

 

 

 尤も今は自前のデュエルディスクを持っている人間も少なくなっているがな……と苦笑を浮かべるセティアだが、「不動遊星」はその判断を正しいと感じていた。

 

 

「ふっ……今、一番楽しそうな顔を浮かべたな。かつての英雄も機械には目がなかったと聞くが、貴様もそうらしい」

「…………」

「それと、私に敬語は要らん。貴様は私の臣下ではないし、そもそも「不動遊星」の方が2世紀歳上だからな」

「なら、君の歳は19か」

「見えぬだろう? 身体の成長は、14の頃の姿で固定されてしまったからな」

「固定?」

 

 

 機械について興味があるのは機械いじりが趣味だった「不動遊星」の趣味だからか、それとも……もはや真相など知る由も無いが、今ここにいる「不動遊星」にも同じ趣味があることは否定できなかった。

 思えば人を救えた時以外に湧き立つ思いを感じたのは、これが初めてかもしれない。

 権力でデュエルディスクを取り上げる。平時ならば横暴とも言える判断だが、モーメントの暴走によって困窮した世界の統治者としては極めて妥当と言えた。今や亡国と化した数多くの国々の指導者たちもまた、破滅を回避するために同じ判断を下していたものである。

 

 尤もそれは焼け石に水と言うのも生温い、あまりに遅すぎる対応であったが。

 

 デュエルディスクやDホイールを取り上げようとしたところで、その呼び掛けが利己的な欲望に囚われた人々に届く筈も無く──ようやく実現した頃にはそれらの国は既に、機皇の軍隊によって取り返しのつかない被害を受けていた。

 カードが剣ならば、デュエルディスクは盾。闘争を求める人々から武器を取り上げることは、言葉にするのは簡単でも実現するのは至難であった。

 ただ、「不動遊星」が感心したのは彼女の考えである。

 

 

「たとえそれが破滅を引き起こそうとも、人が人である以上人間は決して闘争心を捨て去ることは無い。ならば愚民共が可能な限り満足できる方法を提示してやるのが、上に立つ者の役目だろうよ」

「それが、あのデュエルディスクということか」

「上の世代の連中は、海馬瀬人という稀代の天才が生み出した発明品の本当の価値すらわからぬ愚か者ばかりだったがな。その点で言えば、プライドばかり高い大人共よりも無知な子供の方がよほど賢い。余計な知恵が無い分、満足の上限が低くて助かる」

「満足の上限」

 

 

 人々がこれまで当たり前に扱っていたモーメント式の高性能なデュエルディスクを捨てて、旧世代の型落ちを使えと強要されてもそこで満足できる人間は少ない。大多数の大人たちが妥協で満足できるのであれば、モーメントが暴走するようなこともなかっただろう──と、セティアはその凜とした青い瞳に氷のような冷たさを宿した。

 デュエルを通して多くの人々と対話を行ってきた「不動遊星」は、その瞳に浮かぶ感情に憶えがあった。

 

 怒り──ああ、この少女はとてつもなく激しい怒りを感じているのだと。

 

 

「セティア、君は……」

「くくくっ……遂に追い詰めたぞユウキ! このターン、俺はエルザェムを生け贄に神を呼び出し、キサマのライフを全て削り取ってやる!」

「──おっと、話の途中だが少し待て。……ふむ、あそこのデュエルが盛り上がっているようだな。あれは、ユウキとサイバか」

 

 

 19歳と自称した年齢よりも幼い姿をしている少女が、町の指導者として生き残った人々をまとめている理由。彼女自身がこれまでに語った言葉も含めて、明らかに異質な存在であるセティア・キサラギという少女に「あること」を察した「不動遊星」が彼女に問い詰めようとした瞬間、そんな彼の言葉を広場の子供たちの喧騒が遮った。

 その瞬間、セティアが身を乗り出すように前に出て、デュエルスペースの一角をワクワクした表情で見つめ出した。

 そんな彼女の青い瞳は、先ほどまで浮かべていた氷のような冷たさが何だったのかというほどに一転した高揚を宿していた。

 

 

「よく完璧に発音できるぜ! エルザエム!」

「エルザェムだ!」

「だが、オレは負けるわけにはいかない……! セティア様が見ている!」

「えっセティア様いるの!? いたー!」

「横の人誰ー?」

「デートかよ」

 

 

 セティアが後方から腕を組みながらデュエルの様子を見つめていると、広場の子供たちが即座に彼女の存在に気づき、一様に無邪気な顔を向けて駆け寄ってきた。

 そんな彼らに向かって柔和な表情で応じる彼女は、なるほどジョニーの言っていた通り「子供に優しい町長」の姿だった。

 

「構わん、続けろ。デュエリストたる者、目の前のデュエルから目を逸らしてはいかんぞ」

「あっはい」

「行くぞユウキ!」

「来い! サイバ!」

 

 働いている大人たちはセティアの存在に気づくなり畏敬の念が宿った目を向けてきたものだが、子供たちは一様に目を輝かせており、まるでヒーローやアイドルのように彼女のことを囃し立てていた。

 それこそかの遊園地のマスコットヒーロー、正義の味方カイバーマンのような人気ぶりである。

 

 

「星の座に封じられし猛き戦神よ……今こそ愚かなる人類に裁定を下し、その闘諍を示せ! 降臨せよ! 戦いの神オリオォォーンッ!!」

「攻撃力1800……! これが……神!」

「バトルだ! ゆけっオリオン! ゴッド・バトル・フラッシャーッ!!」

「リバースカード・オープン! 正統なる血統! このカードは墓地から通常モンスターを一体、攻撃表示で特殊召喚できる!」

「無駄なあがきを……貴様の墓地に、神を超えるモンスターはいない!」

「いるさ! さっき手札抹殺で捨てたカードが! 俺が墓地から蘇らせるのは……モンスターカード、ジャックス・ナイト!」

「ジャックス・ナイト……!? 星5、攻撃力1900、守備力1000の最強モンスターか!」

「ああ! かつて冥界の神オシリスを従えた伝説のファラオには、生涯その祭壇を守り続けた絵札の三騎士がいる! ジャックス・ナイトはその中でも最強の騎士! そのパワーは戦いの神オリオンを上回るぜ!」

「神の攻撃力は1800……! これでは攻撃ができない!」

「どうしたサイバ! 俺はまだ生き残ってるぜ!」

「おのれぇ……!」

「俺のターン! ジャックス・ナイトで戦いの神オリオンを攻撃! ブレイク・ソード!!」

「うわああああっ!!」

「イエイッ!」

「……くっそ〜! セティア様の前だったのにぃ……」

 

 

 カードの一枚一枚に強烈なリアクションを返し合う子供たちは、心から楽しそうにデュエルをしていた。

 使っているカードはどれも「不動遊星」の時代よりもさらに古い時代に活躍していたカードたちであったが、彼らは現代より控えめなカードパワーにも何ら不満を口にすることなく満足していたのだ。

 そんな彼らのデュエルにパチパチと横から拍手を贈呈していたのが、この町の王であるセティア・キサラギである。

 

 

「良い、良い! 今日も素晴らしきデュエルを見せてもらったぞ! 勝ったユウキは神の召喚にも怯えずよく冷静に切り返した! 負けたサイバの反省点としては、結果論になるが「援軍」をオリオンの為に残しておくべきだったな。月の女神エルザェムの守備力は1100。守備表示に徹していればMASAKIの攻撃を耐えられた。目先の敵を倒せる状況でも、時には我慢して牙を研ぎ澄ませておくことも大事だぞ!」

「は、はい! セティアさまにアドバイスされちゃったぁ……」

「むー……勝ったのは俺なのに、なんか羨ましいぜ! でもセティア様の発音もキレイだなエルザエモン!」

「エルザェムだよユウキ。このカードの雰囲気、セティア様と似てるからお気に入りなんだ。だから援軍で守ってたんだけど……」

「にゃ──っ、ふ……ふん、愛い奴め。そんなことを言っても我が秘蔵のオリパしかくれてやれんぞ?」

「あっいいなぁ! 俺にもくれよセティア様!」

「ワハハ、当然だろう! ユウキは勝者なのだから特別に3パックくれてやろう! 二人ともせいぜいそれでデッキを強化するが良い!」

「やったー! ありがとうセティア様ー!」

 

 

 デュエルが終わった子供たちの様子は、まるで主人に撫でてもらうのを待っている子犬のようであった。そんな彼らに集られるセティアも満更ではなさそうであり、慎ましい胸を張りながら浮かべる尊大な笑みに裏の感情は感じ取れなかった。……寧ろ気のせいでなければ一瞬、サイバと呼ばれた少年の無垢な尊敬に照れていたような気もする。

 まさに近所のヤンチャボーイとちょっと偉そうだが優しいお姉ちゃんと言った様子か。その光景には「不動遊星」も思わず一歩引いて、微笑ましい思いで眺めていたものだ。

 

 彼女のことを語るジョニーの言葉には含む感情が見え隠れしていたものだが……少なくともこれまでのセティア・キサラギという町長に対して「不動遊星」が抱いた印象は悪いものではなかった。

 

 

「子供が好きなんだな」

「……大人よりはな。生まれて初めてカードに触れた子供たちは、あんな雑魚カードだらけの骨董品パックでも満足してくれるから都合が良い」

「この世に使えないカードなんて無いさ。君から貰ったカードはきっと、あの子たちが未来を生きる希望になる。俺はそう感じている」

「ふっ、いかにも「不動遊星」が言いそうな言葉だな。……本当に」

 

 

 懐から取り出したカードパックを子供たちに配り終えた彼女は、手厚い歓声を背にしながら広場を後にしていった。「不動遊星」はそんな彼女が語った何とも偽悪的なセリフを苦笑した後──落ち着いた場所で、この町を訪れた本来の用件を切り出した。

 

 

「そんな、子供たちに優しい君を見込んで頼みがある。外の世界にはまだ機皇の脅威に怯えている子供たちがいる……彼らをこの町に受け入れてほしいんだ」

 

 

 盟友ジョニーからの情報を受けて訪れたこの町の治安は想像以上に良好で、その指導者も予想外な成りをしていたが思っていた以上に善良な人間だと感じた。それを確かめることができた今、「不動遊星」はこのネオ・カイバーランドこそが難民の子供たちの安息の地になると思ったのである。

 そんな「不動遊星」の頼みを受けて、町長であり王を自称する青眼の少女は返した。

 

 

「もちろん、そのつもりだ。ジョニーからも聞いている。貴様がクリアマインドという叡智を授けたとは言え、機械兵が跋扈する外は子供が生きていける環境ではないからな……この精霊王セティアがまとめて面倒を見てやろう」

「ありがとう、セティア」

 

 

 この町のキャパシティを心配していた「不動遊星」だが、彼女はその頼みを実にあっさりと受け入れてくれた。

 やはり、この町長は善良な人間なのだろう。自分の直感が正しかったことに安堵の息を吐く彼の前で、しかしセティアは「だが」と先の言葉に付け加えた。

 

 

「条件がある」

「なんだ? 俺にできることなら何でも言ってくれ」

 

 

 もったいぶった言い回しに、「不動遊星」がイラつくことはない。

 難民の受け入れという大きな話だ。彼とて無条件で受け入れてもらって当然だとは考えていなかった。

 皆を受け入れる為の町の拡張でも資源の採掘でも構わない。「不動遊星」はどんな要求をされるのであれ、受け入れるつもりだった。

 

 そんな覚悟を決めた──とうに決まっている彼に向かって、青き眼の少女は言った。

 

 

「これ以上、クリアマインドを広めるのはやめろ。それは、人には過ぎた代物だ」

「……何だと?」

 

 

 それは彼にとって、未だかつて突きつけられたことのない予想外の要求だった。

 

 





 【次回予告】


「クリアマインドが子供たちから子供らしい感情を奪う……? それは違うぞセティア! 俺がみんなに伝えようとしているものは、君が感じているものとは違うものだ!」

「ならばそれが本当に揺るぎなき境地であるか、愚民共にではなく私に証明してみせろ! 私とのライディング・デュエルで!」


 次回、遊戯王5D'sZERO!
【戦慄のブルーアイズ・スピリット・ドラゴン! 不動遊星VSセティア】


 そのモンスターは……! セティア、君は一体何者なんだ……!?
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