遊戯王0D’s ナリキリボーイと青き眼の精霊王 作:GT(EW版)
マニュアル操作のライディング・デュエルは、先攻後攻を決めるコイントスの時点から既に決闘が始まっている。基本的に先攻が有利なデュエルモンスターズにおける最初のアドバンテージとして、先に第一コーナーを回った者が先攻となるからだ。
両者同時に発進したDホイールは同等の加速力で最高速度に到達し、肉眼ではどちらが先着したのかわからないデッドヒートとなった。
【セティア:LP4000 遊星:LP4000】
しかし、デュエルディスクおよびDホイールの判断は公正である。
先攻の名前が左、後攻の名前が右とモニターに表示された瞬間、最初のバトルを制したのはセティア・キサラギであることを両者と町のギャラリーたちは確認した。
「第一コーナーは鼻差で私が貰ったようだ」
「やるな! いいDホイールだ」
「当然だ……私のターン、ドロー!」
TURN1
【セティアSp1 遊星Sp1】
フィールド魔法「スピード・ワールド2」の効果によりスタンバイフェイズ時、それぞれのプレイヤーにスピードカウンターが乗せられる。
そしてそのまま移行したメインフェイズで、セティアはこのデュエル最初のモンスターを召喚した。
「グレムリンを攻撃表示で召喚!」
「グレムリン……?」
【グレムリン】
星4/闇属性/悪魔族
攻撃力1300/守備力1400
いたずら好きの小さな悪魔。
暗闇から襲ってくる。気をつけろ!
枠内に記載されたテキストはモンスター効果ではなくデュエルモンスターズの世界におけるフレーバーテキスト。
それはこの緑色の悪魔が何の効果も持っていない通常モンスターであることを意味していた。
「不動遊星」はもちろんこのカードのことを知っている。かつて「遊戯王」と呼ばれたキング・オブ・デュエリスト、武藤遊戯が扱ったこともあるとされるデュエルモンスターズ黎明期のカードである。
まだ攻撃力1000以上の下級モンスターが広く出回っていなかった当時の環境では、デッキに採用する価値は十分にあるモンスターだった。
だが、それは今から250年以上も前の話だ。グレムリンと同種族、同レベルでよりより高ステータスのモンスターがレアカードですらないノーマルカードとして出回っていたのは、「不動遊星」の時代の時点でさえ当たり前の環境である。
故に、驚いたのだ。ライディング・デュエル故にその足で走り出したグレムリンの姿は、妙に新鮮に映った。
「ふふっ、何を驚く? 見ての通り低ステータスの通常モンスターだが、この世に使えないカードは無いのだろう?」
「もちろんだ」
いつの時代も攻撃力が低かったり効果が無かったりするモンスターは侮られがちだが、「不動遊星」はそのタチではない。
寧ろあらゆるカードの可能性を心から信じているからこそ、相手がしたり顔で出してきたソレを見て真っ先に何か厄介な手があるのかと最大限の警戒を払っていた。
「私はカードを2枚伏せてターン・エンドだ」
「俺のターン!」
1枚の召喚と2枚のセットという予想に反して大人しい立ち上がりで始まった彼女に対して、「不動遊星」は自身の手札に集まった6枚のカードを見て即座に戦術を組み立てる。
TURN2
【セティアSp2 遊星Sp2】
敵の場には攻撃表示の通常モンスターが1体と2枚の伏せカード。
初手から低攻撃力のモンスターを立ててきたのは、こちらの攻撃を誘っているからか。考えられるのはあの2枚の伏せカードはこちらの攻撃を凌ぎ手痛いカウンターを浴びせる「聖なるバリア ミラー・フォース」のような何かであると「不動遊星」は推測する。
何より彼には、低攻撃力のモンスターを出しただけにしてはあまりにも堂々とし過ぎているセティアの眼差しが気に掛かった。
故に。
「手札を1枚墓地へ送り、クイック・シンクロンを特殊召喚!」
初手は相手ライフにダメージを与えるよりも、盤面の処理を優先することに決めた。
「さらに、墓地へ送ったボルト・ヘッジホッグは、俺の場にチューナーがモンスターがいることで墓地から特殊召喚できる!」
「実質コスト無しで2体のモンスターを並べる……「不動遊星」がよく使っていた黄金コンボだな」
【クイック・シンクロン】
星5/風属性/機械族/チューナー
攻撃力700/守備力1400
手札のモンスター1体を墓地へ送る事で、手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。
このカードは「シンクロン」と名のついたチューナーモンスターをシンクロ素材とするシンクロモンスターのチューナーモンスター1体の代わりにする事ができる。
【ボルト・ヘッジホッグ】
星2/地属性/機械族
攻撃力800/守備力800
自分フィールド上にチューナーが表側表示で存在する場合、このカードを墓地から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚したこのカードはフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
クイック・シンクロンにボルト・ヘッジホッグ。どちらも攻撃力は3桁であり、グレムリンよりもさらに低ステータスのモンスターである。
しかしもちろん「不動遊星」はこのカードたちにアタッカーの役目を与えるつもりはなかった。
「チューニング・サポーターを通常召喚! これで俺の場の合計レベルは8!」
「来るか」
手札のカードを3枚使って3体のモンスターを並べる。
自身の1ターン目で、速攻で準備を整えたのである。
明日へ続く進化の道──シンクロ召喚の準備を。
「レベル2のボルト・ヘッジホッグとレベル1のチューニング・サポーターに、レベル5のクイック・シンクロンをチューニング! 集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます! 光差す道となれ!」
一体のガンマンが生み出した光の輪が2体のモンスターを包み込むと、8つの星々を瞬かせ光差す道となる。
閃光の中から現れたのは先ほどまで「不動遊星」の前を走っていた小さなモンスターたちではなく、黒鉄の肉体を持つ巨人の姿だった。
「シンクロ召喚! 粉砕せよ、ジャンク・デストロイヤー!」
【ジャンク・デストロイヤー】
星8/地属性/戦士族
攻撃力2600/守備力2500
「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカードのシンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数だけフィールド上に存在するカードを選択して破壊する事ができる。
セティアの伏せカードを警戒した「不動遊星」が、この場で出すべきモンスターとして選んだのがこのシンクロモンスターの姿である。
「ジャンク・デストロイヤーはシンクロ素材になったチューナー以外のモンスターの数だけ、相手フィールドのカードを破壊できる。俺が選択するのは……2枚の伏せカード!」
「なるほど、手堅くバックを除去しに来たか」
チューナーモンスターのクイック・シンクロンは、あらゆる「シンクロン」モンスターの役割をこなすトリックスター・カウボーイ。故に同じルートでもジャンク・デストロイヤー以外のシンクロモンスターを召喚することができたし、何なら相手の初期LP4000に対してこのターンでリーサルを取ることも可能だった。
ただし、それは彼女の伏せカードが2枚ともこちらの攻撃を防ぐ効果でなかった場合の話である。最も手札が充実している状態でわざわざ低攻撃力の通常モンスターを攻撃表示にした意味を考えると、伏せたカードが2枚とも無防備にこちらの攻撃を通すとは思えない──というのが「不動遊星」の見立てだった。
ジャンク・デストロイヤーが破壊可能なのはモンスターだけではなく、後ろに構えた
「それは困るなァ……ならば破壊される前に2枚とも発動しておくとしよう。
「……なに?」
破壊される前にチェーンを組んでオープンされた罠は、両方とも「不動遊星」が警戒していた類いの効果とは違うものだった。
【強欲な瓶】
通常罠
自分はデッキから1枚ドローする。
【のどかな埋葬】
通常罠
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
デッキからモンスター1体を墓地へ送る。
このターン、自分はこの効果で墓地へ送ったカード及びその同名カードの効果の発動ができない。
「2枚とも、グレムリンを守るカードではなかったか……」
「そういうことだ。厄介なシンクロモンスターの効果を、こんなカードに使ってくれて助かるよ」
「不動遊星」が彼女の狙いを深読みしすぎたのか、それとも彼女が「不動遊星」の裏をかいてきたのか。おそらくは後者だと、彼は察する。1ターン目で伏せカードを除去できる札を切らせる為に、彼女はあえて警戒させるようこれ見よがしにグレムリンを攻撃表示で召喚したのだ。
「私は強欲な瓶の効果により1枚ドローし、のどかな埋葬の効果でデッキからモンスターカードを1枚墓地へ送る」
「……俺はチューニング・サポーターの効果で1枚ドローする」
「3枚のカードを使いながら2枚分の手札消費に抑えたか。どうやら貴様は私とのデュエルを、中長期戦になると感じたようだな? ふふ……おかげで命拾いしたぞ」
【チューニング・サポーター】
星2/風属性/戦士族
攻撃力900/守備力400
星1/光属性/機械族
攻撃力100/守備力300
このカードがシンクロモンスターのシンクロ召喚に使用され墓地へ送られた時、自分のデッキからカードを1枚ドローできる。
その効果処理によりリソース回復を行った「不動遊星」のタクティクスを見て、セティアが淡々と呟く。
「さて……たとえば今、貴様の手札に召喚されたターンのみ攻撃力1800ポイント分のステータスになる「スピード・ウォリアー」がいたとしよう。今のシンクロ召喚がデストロイヤーではなくモンスター除去効果を持ったレベル7の「ジャンク・アーチャー」で、通常召喚権をチューニング・サポーターではなくスピード・ウォリアーに使っていたら……私は大口を叩きながら呆気なくワンターンキルを喰らっていたことになるわけだ」
「……俺の、判断ミスだと言いたいのか?」
「結果的にはそうなるが、それは結果論──神の視点という奴だ。相手のデッキ構築がわからない以上、開始1ターン目から全総力を懸けるのはリスキー。仮にあのカードがミラー・フォースのような逆転のカードだったら一転して貴様が不利になるのだからな」
「だが、それがデュエルの醍醐味の筈だ。1枚のカードをめくる度に何かが起こり、その場その場の判断がどう転ぶのか誰もわからない。さっきは正しかった判断が、次は間違いになることだってある」
「そう、まさにそれだ。私が貴様に言いたいのは」
「……クリアマインドのことか」
それが最も無難で最善の判断だと思ったことが、常にずっと正しいわけではない。
それを言いたいが為にわざと1ターン目に隙を晒したのかと問い掛ける「不動遊星」の言葉に、セティアは「……さてな。ただ手札事故を起こした者が適当にペラを回しているだけかもしれんぞ?」と自身の手札を見下ろしながらはぐらかす。
そんな彼女の姿に「不動遊星」は眉を顰めたが、客観的に見れば彼の選択は最適解とは言えないまでも間違っているものではなかった。
結果的にはフリーチェーンの罠2枚という名のデコイを破壊した結果となったジャンク・デストロイヤーの効果であるが、それでも「不動遊星」にとっては見込んでいたほどプラスにならなかっただけで、決してマイナスになったわけではないのだから。
意識を切り替え、バトルフェイズへと移行する。
「バトル! ジャンク・デストロイヤーで、グレムリンを攻撃! デストロイ・ナックル!」
【セティア:LP4000→2700】
攻撃力2600のジャンク・デストロイヤーの攻撃が、無防備な姿を晒していた攻撃力1300のグレムリンを打ち砕き、セティアのライフが1300ポイント削られていく。
ソリッドビジョンが起こす風圧に煽られ、先行していたセティアのDホイールが一撃にして遊星号よりも後退していった。
「ふー……手痛い一撃だな。許せ、グレムリン……だが厄介なシンクロモンスターを引き摺り出してくれたことを褒めてやる」
お互いのDホイールの位置が入れ替わった形である。
消滅し、墓地へ送られたグレムリンのカードに囁くような声で労いを掛けた後、セティアはより戦意の籠もった眼差しで「不動遊星」のジャンク・デストロイヤーを見据えた。
「俺はカードを1枚伏せて、ターン・エンド」
「私のターン!」
TURN3
【セティアSp3 遊星Sp3】
「強欲な瓶」により、セティアの手札は4枚。そして今しがたのドローフェイズで5枚となった彼女は、扇子を払うような手つきでそこから3枚のカードをDホイールにセットしていった。
「私は
二回目のターンで彼女が繰り出してきたのは、レベル1、守備力500の小型モンスターである。
先ほどのグレムリンとは違い、「不動遊星」の時代には見たことのなかった情報の無いモンスターカードだった。
「俺のターン!」
TURN4
【セティアSp4 遊星Sp4】
4ターン目のスタンバイフェイズによって、互いのスピード・カウンターが4つに乗る。
ライディング・デュエルでのみ通常の魔法カードの代わりに扱うことができる
──尤も、今彼がその手に引き込んだのは、スピードカウンターが4つと言わず2つあれば発動することができる、発動条件の緩さにおいても最優のスピードスペルと呼べるカードであったが。
【Sp-エンジェル・バトン】
スピードスペル
自分用スピードカウンターが2つ以上ある場合に発動する事ができる。
デッキからカードを2枚ドローし、その後に手札1枚を墓地へ送る。
墓地に送ったカードをも有効に扱う「不動遊星」のデッキにおいては、最強のリソース回復カードと言っても良いカードである。それをドローフェイズに引き込んだ彼だが、まだその効果は発動しない。
このターンで発動するとしたら、このターンでは相手を倒しきれないと判断した時である。
「スピード・ワールド2」の効果の一つ、「手札のスピードスペルの枚数1枚につき相手ライフに800ポイントのダメージを与える効果」を発動するため、「スピードスペルをあえて発動せず手札に抱えておく」という判断も重要となる。
スピードスペルをどのタイミングで切るかという判断もまた、ライディング・デュエルの奥深さの一因となっていた。
「俺は……ハイパー・シンクロンを召喚!」
【ハイパー・シンクロン】
ハイパー・シンクロン
星4/光属性/機械族/チューナー
攻撃力1600/守備力800
このカードがドラゴン族モンスターのシンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターは以下の効果を得る。
・戦闘では破壊されない。
・攻撃力を800ポイントアップする。
・このターンから2回目の自分のスタンバイフェイズにゲームから除外される。
そのカードの主な役目は彼のエースモンスターのシンクロ素材となることであったが、「不動遊星」のデッキに眠るチューナーモンスターたちの中では数少ない、通常戦闘も一定のレベルでこなせるステータスを持っている。故にこの時召喚した目的は純粋なアタッカーとしてのものだった。
ハイパー・シンクロンを通常召喚した「不動遊星」は、すぐさまバトルフェイズに入る。
「ハイパー・シンクロンで
「太古の白石の守備力は500。当然破壊される」
攻撃宣言時に発動される伏せカードの発動を警戒していた「不動遊星」だが、今度も彼女の
再びがら空きになったフィールドを黒鉄の巨人が駆け抜けると、不遜に構える少女のDホイールのもとへ果敢に飛び掛かっていった。
「ジャンク・デストロイヤーでダイレクトアタック!」
この一撃が通ればセティアのライフは一気に2600ポイント削られることになり、残るライフは100となる。そうなれば手札の「Sp-エンジェル・バトン」を鍵に「スピード・ワールド2」の効果を発動し、彼女のライフは0だ。
しかしこれまでされるがままの姿が不気味に見えてならない「不動遊星」としては、このまま拍子抜けするほどあっさりデュエルが終わるようにはとても思えなかった。
彼女には何か──「不動遊星」の決闘者としての勘が、未だ得体の知れない強敵として訴えていたのだ。
そしてその予感は、的中した。
「それは通さん。リバース・カード・オープン! 正統なる血統!」
「やはり、動いたか……!」
【正統なる血統】
永続罠
自分の墓地の通常モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。
そのモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。
「このカードの効果は……ふっ、あの時の子供たちのデュエルを見ていたからわかるだろう。私の墓地から通常モンスターを1体、攻撃表示で特殊召喚する!」
広場でデュエルをしていた少年が使っていた逆転のカードである。
あのデュエルでは攻撃力1800の戦いの神オリオンより僅かに100上回る通常モンスター、ジャックス・ナイトを特殊召喚したことが勝敗を分けた。
しかし。
「だが、またグレムリンを攻撃表示で召喚しても君のダメージは免れないぞ」
今セティアの墓地にいる通常モンスターはグレムリンのみ。
攻撃力1300のモンスターを攻撃表示で特殊召喚するのはその場しのぎの壁としても心許なかった。
そんな「不動遊星」の当然な指摘に、セティアは「それはどうかな?」と返す。
「私が蘇らせるのはグレムリンではない。このカードは手札・墓地にいる時に限り、効果モンスターではなく通常モンスターとして扱う!」
「何!? これは……!」
墓地から手に取った1枚のカードを手に取ると、セティアは豪快にモンスターゾーンへと振り下ろす。
その瞬間、駆け抜ける戦いのロードに神聖なる光が舞い降りた。
「生ぬるい立ち上がりで拍子抜けさせてすまなかったな。だが英雄よ、覚悟するがいい……ここからが私のデュエル! 私の半身、そして我が息吹──白き霊龍を特殊召喚!」
立ち昇った光の中から翼を広げ、姿を現したその白き龍は──デュエリストを名乗る身であれば、否、デュエリストでなくても誰もが知っている伝説のドラゴンに酷似した姿をしていた。
「ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン!?」
まだ攻撃力2000を超えるモンスターさえ入手が困難だった頃、デュエルモンスターズ黎明期に登場した攻撃力3000守備力2500の究極超レアカード「
その内の3枚はレジェンド・デュエリスト海馬瀬人が所有し、彼の没後は3枚とも既に現世には残っていない。詳細は未だ明らかになっていないが、彼が没した際に自らのカードを共に冥界へと連れていったのではないかというのがこの世界に広まっていた一般的な認識だった。
──そのブルーアイズが、今セティア・キサラギの手によって召喚された。
いかに英雄であろうと、デュエリストである限り不可避な衝撃を受けた「不動遊星」は、その雄々しくも美しい白き姿に言葉を失った。
そんな彼に、少女は語る。
「期待させて悪いが、コイツはデュエリストの誰もが知っているかの
ハッとして敵ステータスが記載された画面を確認すると確かにそこに書かれていた名称、攻撃力、守備力は全て青眼の白龍のそれではなかった。
しかしその上で彼女はこのモンスターを「ブルーアイズ」と明言し、絶大な信頼を置いているのが理解できた。
このデュエル、先にエースモンスターを召喚したのは彼女となった。
「ブルーアイズの担い手、海馬瀬人の再来……噂は本当だったのか!」
「ふっ……先に行っておくが、私のデッキにはかの「青眼の白龍」のカードは無い。しかし私のデッキには、かつての海馬瀬人が持ち得なかった数多の「ブルーアイズ」モンスターが眠っている!」
「何!? ブルーアイズは、世界に4枚の
この時代で広く認知されている「ブルーアイズ」モンスターは、いずれも「青眼の白龍」を原型とした海馬瀬人のカードだけである。
しかし全てのブルーアイズをかの偉人が独占していたというわけではないのだと、白き霊龍を従えた少女は言い捨てる。
そして、デュエルは再開された。
「白き霊龍の効果を発動! 白き霊龍が召喚・特殊召喚された場合、相手フィールドのカードを1枚除外する。前のターンのお返しだ、英雄」
「くっ……」
墓地より蘇った光の龍は、その羽ばたきが放つ風圧で「不動遊星」の場に伏せられた1枚のカードを次元の彼方へと吹き飛ばしていく。
ゲームから取り除かれた赤枠のテキストを見て、セティアが笑い「不動遊星」が苦虫を噛み潰す。
【悲劇の引き金】
通常罠
自分フィールド上に存在するモンスターが、「フィールド上のモンスター1体を破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果の対象となった時に発動する事ができる。
その効果を無効にして、相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊する。
「おっと、これは怖いカードを伏せていたな。流石は「不動遊星」、大型モンスターの守りは盤石というわけか」
「……白き霊龍は場に出る前はサポートの豊富な通常モンスターとして扱いながら、フィールドでは強力な効果を発揮するということか」
「そうとも。本当はもう一つ、さらに強力な効果があるのだがな……私のデッキでは関係ないことだ」
【白き霊龍】
星8/光属性/ドラゴン族
攻撃力2500/守備力2000
このカード名はルール上「ブルーアイズ」カードとしても扱う。
このカードは手札・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
このカードが召喚・特殊召喚した時、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを除外する。
自分・相手ターンに、相手フィールドにモンスターが存在する場合、このカードをリリースして発動できる。
手札から「青眼の白龍」1体を特殊召喚する。
そのステータスは音に聞こえた青眼の白龍ほど高くはないが、通常モンスターである青眼の白龍には無い効果がある。基本的に通常の魔法カードを使用できないライディング・デュエルにおいて、それはジャンク・デストロイヤーと同じく希少な除去能力だった。
「だが攻撃力はジャンク・デストロイヤーが上! 俺はこのまま白き霊龍に攻撃する! デストロイ・ナックル!」
今後の展開に備えて伏せておいたカードが除去されてしまったが、「不動遊星」は冷静に相手のステータスを確認し攻撃宣言を続行する。
伝説のドラゴンに酷似した威容には驚いたが、ジャンク・デストロイヤーの攻撃力は白き霊龍を僅かに上回っている。グレムリンとは比べるべくもないが、それでも攻め手側が主導権を握る状況には変わらなかったのだ。
「ここからは私のデュエルと言った!
「……っ! そのカードは……!」
ジャンク・デストロイヤーの鉄拳が振り下ろされるその瞬間、セティアが先のターンに伏せた2枚目のカードを解放する。
【プライドの咆哮】
通常罠
モンスターとの戦闘時に、相手の戦闘するモンスターと自分の戦闘するモンスターの攻撃力の差分のライフポイントを支払って発動する。
戦闘する自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力は、ダメージ計算時のみ、戦闘する相手モンスター1体の攻撃力よりも300ポイントアップする。
「不動遊星」にとってそれは、何度となく見た憶えのあるカードであった。
「ジャンク・デストロイヤーと白き霊龍の攻撃力の差は100! よって私は100ポイントのライフ支払うことで、白き霊龍の攻撃力を2900にする!」
【セティア:LP2700→2600】
【白き霊龍:攻撃力2500→2900】
罠カード「プライドの咆哮」効果により、白き霊龍の攻撃力が一時的に上昇。
王者の風格を漂わせ、主を守るように佇んだ龍は迫り来る拳に光のブレスで応えた。
「白き霊龍よ、迎え撃て!
「ぐっ……ジャンク・デストロイヤー!」
滅びを与える激烈的な光の奔流が、ジャンク・デストロイヤーの黒鉄の身体を貫き瞬く間に爆散していく。
それにより「不動遊星」のライフポイントが、攻撃力差分のダメージを受けることとなった。
【遊星:LP4000→3700】
蘇った英雄のライフに、初めて傷が付いた瞬間である。ダメージは軽微なため依然としてライフもDホイールもリードしているのは「不動遊星」の方であったが……後方から突き刺さるプレッシャーに対して、先行する彼の心に余裕は無かった。
そんな彼との車間距離を詰めながら、青き眼の少女は弾むような口調で語り出した。
「何を隠そう、私は不動遊星よりジャック・アトラスの方が好きでね。特に貴様と組んだ「アメリカ横断ゴールデン・タッグ・トーナメント」でのデュエル内容は、未だに全て憶えている。
故に私は、貴様が扱うカードも物心ついた頃にはとっくに予習済みなのだよ」
「……だから、俺の戦術も全て知っていると」
こちらの戦術に対して訊ねてもないのに饒舌に語っていたのは、そういうファンガール的な心情か。
……いや、どこか違う気がする。
「不動遊星」はデュエルが始まってからずっと、こちらのDホイールを追いかける彼女の青い眼差しが、どこか郷愁の色を浮かべていることに気づいていた。
こちらのデッキやエピソードに詳しいのは、何か記録媒体を通して得た知識だけではないような──そんな気がしていたのである。
しかし「不動遊星」には、不動遊星の記録にはまるで思い当たるものがなく、彼は訝しむばかりだった。