遊戯王0D’s ナリキリボーイと青き眼の精霊王   作:GT(EW版)

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ふつくしい……

 古代エジプトに似た砂の地を、二つのDホイールが走り抜けていく。

 蘇った伝説の英雄に対して伝説のドラゴンの血統を降臨させたことで、空に映し出されている二人のデュエルの様子に、人々は今や懐かしいスタジアムのような熱気を発していた。

 

 

【セティア:LP2600 遊星:LP3700】

 

 

 現在のライフポイントは英雄がリードしている──が、最上級モンスターが複数並び立つことも増えた近代デュエルにおいて、1000と少し程度のライフ差は一撃で埋まる程度のものに過ぎない。

 特にこの町の王セティアの操るデッキには、あの伝説のカード「青眼の白龍」の血統を受け継いでいるが故に並外れたパワーが備わっていることを人々は知っていたのだ。

 

 メインフェイズ2。

 既にバトルフェイズを終えた「不動遊星」は、このターン最後の動きを見せた。

 

 

「俺はスピードスペル、「エンジェル・バトン」を発動! スピードカウンターが2つ以上ある時、デッキからカードを2枚ドローし、その後手札1枚を墓地へ送る!」

「ほう、既に引いていたか」

 

 

 ジャンク・デストロイヤーのダイレクトアタックが通った場合に備えてメインフェイズ1での発動を控えていたスピードスペルを、「不動遊星」はスピードワールド2の発動キーとしてではなく今ここで切ることを選択した。

 残り2枚となった手札が、一度4枚に増えて3枚になる。その際に捨てたのはもちろん、「墓地からも効果を発動できる」モンスターカードであった。

 それを次の自ターンの布石として構えながら、「不動遊星」はその手札から2枚のカードを魔法・罠ゾーンにセットし、エンド宣言した──その時である。

 

 

「この瞬間、貴様に破壊された太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)の効果が発動する!」

「何っ!?」

 

 

 エンドフェイズに発動する効果──先ほどのバトルフェイズでハイパー・シンクロンが破壊した太古の白石が、墓地から強烈な輝きを放ったのである。

 こちらに見覚えの無い低ステータスのモンスターを彼女がただやられ専門の壁にするだけとは思えず、何かしら有効な効果があると思っていたが……その効果は「不動遊星」にとって思いがけないものとなった。

 

 

太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)

 星1/光属性/ドラゴン族/チューナー

 攻撃力600/守備力500

 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 (1):このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。

 デッキから「ブルーアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。

 (2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「ブルーアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを手札に加える。

 

 

「私はこの効果により、デッキから第二のブルーアイズを特殊召喚する!」

 

 

 太古の白石の効果は「ブルーアイズ」モンスターのリクルート。

 墓地から立ち昇った光の柱は旋回してセティアのDホイールへと注ぎ込まれ、そのデッキから新たなモンスターを呼び出していく。

 

 

「霊界の深淵より出でよ! 深淵の青眼龍(ディープ・オブ・ブルーアイズ)ッ!!」

 

 

 光の柱の中から飛び出し、二対四枚の翼を広げて2体目の白き龍は姿を現した。

 女性的なしなやかなフォルムを持つそのドラゴンは、一般的に広まっている青眼の白龍の印象とはまた違った大天使のような神々しい姿をしていた。

 白き霊龍の隣に顕現した圧倒的な威容に、「不動遊星」がたじろぐ。

 

「それが、2体目のブルーアイズか……!」

「深淵の青眼龍は3つの効果を持つ。……尤も、この状況ではいずれの効果も発動できんがな」

 

 

深淵の青眼龍(ディープ・オブ・ブルーアイズ)

 星8/光属性/ドラゴン族

 攻撃力2500/守備力2500

 このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、自分のフィールドか墓地に「青眼の白龍」が存在する場合にしか発動できない。

 (1):このカードが特殊召喚した場合に発動できる。

 デッキから儀式魔法カードか「融合」1枚を手札に加える。

 (2):自分エンドフェイズに発動できる。

 デッキからレベル8以上のドラゴン族モンスター1体を手札に加える。

 (3):墓地のこのカードを除外して発動できる。

自分フィールドの全てのレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力は1000アップする。

 

 

 その特殊能力は圧倒的な威容に反してサポート寄りのテキストが刻まれており、その全てが発動条件に「青眼の白龍」を要求する為、彼女が語る通り今はそのポテンシャルを引き出すことはできない。

 しかし、それでも攻守2500のステータスを持つ大型モンスターが場に並んだだけでも、この時代でも間違いなく脅威であった。

 もちろん過信は禁物だが、「デュエルモンスターズ」がお互いのライフを削り合うゲームである以上、ダイレクトアタック一回のダメージが致命傷となり得る高打点モンスターの存在感はいつの時代でも普遍的だった。

 

 

「さて、これで私の場には攻撃力2500のモンスターが2体……ふふっ、2500と言えば伝説の決闘王の切り札「ブラック・マジシャン」と同じだな。そして「不動遊星」が持つ伝説のカード、「スターダスト・ドラゴン」と同等でもある」

 

 

 白き霊龍と深淵の青眼龍。

 2体のブルーアイズモンスターの召喚により互いの盤面は、先のターンまでとは真逆にセティア側にのみ大型モンスターが構えられた状態となった。

 まるで伝説の「海馬瀬人」の決闘を再現しているような伝説的なフィールドに、「不動遊星」は冷たい汗を流しセティアは喜悦の表情を浮かべていた。

 しかし、英雄の話をする時は妙に饒舌になる彼女を不思議に思い、思わず問い掛ける。

 

「君は何度も「伝説」という言葉を遣っているが、随分好きなんだな? デュエリストの伝説が」

「ああ! 伝説は良いぞ。特に「不動遊星」の英雄伝説は良い! 彼の輝かしい栄光のロードは、今は過ぎ去りし黄金期の象徴として永く語り継がれていたからな!」

 

 彼女が贈る嬉々とした賛辞には、その言葉に偽りが無いことが見て取れた。

 しかし続け様に語った「皮肉」の部分もまた、心から出てきた正直な言葉であった。

 

 

「尤も……愚民共はやがてその英雄伝説さえも、自分たちの都合の良いように解釈するようになった。彼が提唱した進化論を歪曲し、当時の彼を苦しめていた心の闇やその時代の負の部分には一切触れなくなったがために──死後100年が過ぎた頃には人々に何の教訓も与えられなくなっていたのは、もはや傑作と言うほかなかったな!」

「……何が言いたい?」

「別に、何も。ただ貴様が本物の「不動遊星」ならば、是非とも聞きたいことを思い出してな!」

 

 

 Dホイールのエンジン出力を上げ遊星号と並走したセティアが、その青い眼差しを冷たくすがめて問い掛けた。

 

 

「人々の堕落によって、訪れるべくして訪れたのがこの時代の破滅だ。そんな世界、導いてやる価値があるのか? とな」

「……滅んでいい世界などない。俺はただ、みんなを救いたいだけだ!」

 

 

 「不動遊星」にとって──「不動遊星」が蘇る礎となった男にとって、その問いは何度となく自分自身に問い掛けたことのある言葉だ。

 破滅を引き起こしたモーメントの暴走は不慮の事故ではなく、人々の心に歪んだ欲望や悪意がある限りいつか訪れる必然だった。

 それを正す猶予は──確かにあったのだ。少なくともシンクロ召喚の正しい進化の提唱者である「不動遊星」がこの世を去ってからしばらくして、世界中のモーメントに変調が起こるまでの間は。

 

 だが、その間に人々の心が改まることは無かった。

 死人に口無しとばかりに、時代のうねりの中で英雄の伝説はそこに刻まれていた本当の想いすら置き去りに、ただ輝かしい「力」の記録だけを残すこととなった。

 それが、英雄不動遊星の伝説である。

 しかしその事実に悲しみはすれど、「不動遊星」はそこで諦めることはしなかった。ただ自らが突き進むスピードの向こう側を見据える彼の瞳は、白き少女の性悪な問い掛けに対して一切揺らがない。

 

 呆れたように少女は笑い、吐き捨てるように言った。

 

 

「お人好しなことだな……驚いたよ! その自分の偉大さをまるでわかっていないイカれた献身ぶりは、まさに「不動遊星」そのものだ」

「君は、まさか……」

 

 

 ──まさか、不動遊星と会ったことがあるのか……?

 

 

 彼女の口ぶりに対して、「不動遊星」の思考にはあまりにも荒唐無稽な疑念が浮かび上がる。

 しかしその問い掛けに答えることはなく、不敵に笑う少女はさらに自らのDホイールを加速させると、どこか心理的なマウントを取るように彼の前へと先行していった。

 

 

 TURN5

 

 

「私のターン!」

 

 

【セティアSp5  遊星Sp5】

 

 

 デュエルは再開する。

 ドローフェイズによりセティアの手札が2枚から3枚となり、場には白き霊龍と深淵の青眼龍。

 一方で「不動遊星」の場には、攻撃力1600のハイパー・シンクロンと2枚の伏せカード。

 その盤面を青い眼差しで一瞥した彼女は、このメインフェイズ1ではあえて、次のモンスターもスピードスペルも切らなかった。

 

 

「バトルだ英雄! 深淵の青眼龍(ディープ・オブ・ブルーアイズ)でハイパー・シンクロンを攻撃! ディープ・ストリームッ!!」

「っ……ぐあああっ!!」

 

 

【遊星:LP3700→2800】

 

 

 美しき白龍が広げた4枚の翼から放たれる聖なる熱戦が、ハイパー・シンクロンの身をいとも簡単に蒸発させていく。その衝撃に「不動遊星」が苦悶の声を上げ、彼のライフが900ポイント削られる。

 その攻撃に、彼は後ろに伏せた2枚のセットカードを発動しなかった。それはセティアの1ターン目と同じく、伏せたそのカードがモンスターを守る為のものではなかったからだ。

 

「通ったか……ならば次は白き霊龍のダイレクトアタックを受けろ!」

 

 シンクロ召喚に繋がるレベル4のチューナーをあっさりと破壊できたことに、セティアは喜ぶのではなく怪訝な表情を浮かべていたが……そこで攻撃の手を止める筈はなく、彼女は自らのエースモンスターに追撃を命じた。

 だが、そこで「不動遊星」は動く。

 

 

「それは通さない! 手札から「速攻のかかし」を発動! このカードは相手モンスターのダイレクトアタックを無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 

【速攻のかかし】

 星1/地属性/機械族

 攻撃力0/守備力0

 相手モンスターの直接攻撃宣言時にこのカードを手札から捨てて発動できる。

 その相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

「伏せカードではなく、手札で凌いできたか。だがこれで貴様の手札は0! 着々とリソースが剥がれてきたな」

「…………」

 

 

 白き霊龍が放ったブレスを、「不動遊星」が「手札から」繰り出したモンスターカードが壁となって受け止める。

 ダイレクトアタックが決まっていれば彼のライフは一気に300まで削られ、その後スピードワールド2の効果ダメージで敗北が決まっていたところであった。

 しかしその展開にならなかった以上ここで貴重なスピードカウンターを4つ消費することもないかと、セティアはその手札に引き込んでいた1枚のスピードスペルを発動した。

 

 

「こちらはこのカードで補充させてもらう。スピードスペル発動! エンジェル・バトン!」

 

 

 「エンジェル・バトン」の消費により一度2枚となったセティアの手札が、4枚へと回復し、1枚捨てて3枚となる。

 そうして新たに引き込んだカードを見て、彼女は獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「フッ……良いカードを引いた。私は手札からチューナーモンスター、「青き眼の賢士」を通常召喚!」

「何っ!?」

 

 

【青き眼の賢士】

 星1/光属性/魔法使い族/チューナー

 攻撃力0/守備力1500

 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 (1):このカードが召喚した時に発動できる。

 デッキから「青き眼の賢士」以外の光属性・レベル1チューナー1体を手札に加える。

 (2):このカードを手札から捨て、自分フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを墓地へ送り、デッキから「ブルーアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 2体のブルーアイズモンスターの横に現れたのは、彼女と同じ色の眼をした青年魔法使いの姿だ。

 シンクロ召喚に必要な「チューナーモンスター」の登場に嫌な予感を抱いた「不動遊星」は、より警戒心を強めた眼差しで彼女の動きを注視する。

 

 

「青き眼の賢士の効果により、そうだな……デッキから光属性のレベル1チューナー「青き眼の巫女」を手札に加える」

「チューナーモンスター……ブルーアイズで、シンクロ召喚をする気か!?」

「そう、ブルーアイズにもいるのだよ! スピードの世界で進化したデュエルの、その象徴となったシンクロモンスターがな!」

 

 

 ブルーアイズの進化形態と言えば、かつて海馬瀬人が扱っていた神をも凌ぐ最強のドラゴン──「青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)」の存在が有名である。

 しかしかのカードは3枚の「青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)」カードを素材とした「融合」モンスターであり、シンクロモンスターではない。

 そもそもの話として海馬瀬人全盛期の活躍が残る時代ではまだ、シンクロ召喚が世に現れていなかったのだ。故にブルーアイズのシンクロモンスターなど、「不動遊星」の時代では海馬ランドを訪れた当時の子供たちが「こういうのはいないのかなぁ」と無邪気に妄想するような、空想上の存在に過ぎなかったのである。

 

 それが今──およそ200年もの時を経て現実となる。

 

 

「私はレベル8の白き霊龍に、レベル1の青き眼の賢士をチューニング!」

 

 

 青き眼の魔法使いがその杖を天に振り上げると、自らの肉体を触媒として光のリングを形成し、その中を白き霊龍が飛翔していく。

 

 

「世を儚む白き乙女よ──我が半身となりて、光の龍を導け! シンクロ召喚! 青眼の精霊龍(ブルーアイズ・スピリット・ドラゴン)ッッ!!」

 

 

 聖なる光が遙か空を貫き、そして1体の龍がその姿を現す。

 白き霊龍よりも大きく、青眼の白龍よりも白い白亜色のドラゴンは、歌のような雄叫びを上げてフィールドに舞い降りた。

 

 

青眼の精霊龍(ブルーアイズ・スピリット・ドラゴン)

 星9/光属性/ドラゴン族

 攻撃力2500/守備力3000

 チューナー+チューナー以外の「ブルーアイズ」モンスター1体以上

 (1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いに2体以上のモンスターを同時に特殊召喚できない。

 (2):1ターンに1度、墓地のカードの効果が発動した時に発動できる。

 その発動を無効にする。

 (3):自分・相手ターンに、S召喚したこのカードをリリースして発動できる。

 EXデッキから「青眼の精霊龍」以外のドラゴン族・光属性Sモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。

 

 

「3体目のブルーアイズ……!」

 

 

 ブルーアイズモンスターを素材とした場合にのみシンクロ召喚をすることができるレベル9のシンクロモンスター「青眼の精霊龍」。

 ルール上ブルーアイズとして扱う白き霊龍から進化したそれは、その名前にはっきりと「青眼(ブルーアイズ)」と付いていることから、伝説の「青眼の白龍」とはどこか対となる印象を受けた。

 ステータスもまた攻撃力3000の青眼の白龍に対して青眼の精霊龍は守備力が3000ポイントであり、互いの攻守を入れ替えたもののようになっている。

 このメインフェイズ2に守備表示で呼び出された新たなブルーアイズは、まるで青き眼の少女に寄り添うようにしてそのDホイールの上に降下していった。

 

 その姿を嬉しそうな顔で一瞥した後、セティアは語り出す。

 

 

「──かつて、海馬瀬人は歴史上初めて3体の青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)をドローした時、それを見せびらかしただけでその威光を以て相手の心をへし折り、サレンダーさせたという。

 英雄よ。貴様も歴史を重んじる者なら、それに倣ってサレンダーをしてもいいのだぞ?」

 

 

 原点にして頂点のブルーアイズ使い、海馬瀬人の有名な逸話の一つである。

 真相はどうであれ、それは最強のブルーアイズが3体デッキにいることがどれほど凄まじいことだったか表わしているエピソードであろう。

 冗談めかすような口ぶりで降参(サレンダー)を促してきたセティアに、「不動遊星」はにべもなく返す。

 

 

「俺はそんなことはしない」

「ふっ、だろうな。「不動遊星」はサレンダーなんてしない。貴様はたとえ最期を迎えるその時ですら、決して諦めることはないのだろう……これも「本物」と同じだ」

 

 

 当然のように拒否した「不動遊星」に対して、それも当然のように受け止めるセティア。

 そんな彼女は上機嫌にコーナーを回りながら、3枚の手札から1枚のカードを場に伏せた。

 

 

「カードを1枚セットし、ターン・エンドだ。さあ英雄、貴様のターンだ。貴様はこの布陣をどう破る? 「不動遊星」っ!」

 

 

 セティアの盤面からは白き霊龍が消え、代わりに守備力3000の青眼の精霊龍が現れた。そこに攻撃力2500の深淵の青眼龍と1枚のセットカードが並び、盤石な態勢と言えるだろう。

 

 

「セティアさまー! がんばってー!」

「おうとも! 貴様ら、私とブルーアイズの勇姿をしっかり焼き付けておくのだぞ!」

 

「あれがブルーアイズ……!」

「綺麗……」

「セティア様ー! そ、その服でそんなに身を乗り出すと見えてしまいますぞー!」

「ヤバいって! セティア様の見えそうなんだけど見えないものが!」

「ええいやかましい! ……見たら貴様らの目玉を抉り抜くからな」

 

「それは流石に理不尽ですわセティア様……」

「だが、それでこそ我が王」

「王、いいよね」

「いい……」

「……ふん……愚民共め」

 

 

 彼女のDホイールが街を一周目を越えて広場の横を通り抜けていくと、老若男女全て人々の歓声が温かく彼女のことを迎えてくる。

 そんな町民たちに対して、彼女は子供たちにはまるでかつてのデュエルキング、ジャック・アトラスを彷彿させる天に人差し指を突き出したパフォーマンスを披露していた。

 対して側近や大人たちに対してはやや辛辣に、一部の者たちにはゴミを見るような目すら浮かべていたものだが……そんな態度すらこの町の人々は歓迎しているようだった。

 

 ──この町の人々にとっては、この混沌とした世界で自分たちを導いてくれる王様、セティア・キサラギという存在こそが一番の英雄なのだろう。

 

 その光景を後方から眺めて察した「不動遊星」の心には、同志ジョニーと初めて会った時のような希望が込み上がってくる感覚が浮かんだ。

 

 

 TURN6

 

 

 「不動遊星」の手札は0。

 場には2枚の伏せカードという、2体のブルーアイズを相手取るには心許ない盤面だ。

 今の時点では、彼女の敷いた盤石な布陣を突破する術は無い。ここで挽回のカードを引くことができなければ、このデュエルは一気に彼女の勝利に傾くだろう。

 

 相手のパワーに追い詰められるのは、彼にとってはいつものことだ……だからこそこの状況でも、「不動遊星」は冷静だった。

 

 

「俺の……ターン!」

 

 

【セティアSp6  遊星Sp6】

 

 

 山札から引き抜いたカードを確認したその瞬間、「不動遊星」の頭脳に稲妻が走り、一瞬にして勝利へのルートを構築した。

 その顔つきを見て、セティアの表情もまた引き締まる。そこには子供たちから声援を受けていた時のアイドルのような笑みは無かった。

 

 

「──俺はスピードカウンターを6つ取り除くことで、スピードスペル「シフト・ダウン」を発動! デッキからカードを2枚ドローする!」

「……手札が尽きた途端、最強の手札増強カードを引き込んだか。そうでなくてはな!」

 

 

【Sp-シフト・ダウン】

 スピードスペル

 自分のスピードカウンターを6つ取り除いて発動する。

 自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

【遊星Sp6→0】

 

 

 ターン開始時点ではハンドレス状態に満足していた英雄の手札に2枚の手札が加わった瞬間、再び反撃の炎が灯る。

 

 

「──(トラップ)カード発動、「ロスト・スター・ディセント」! このカードは墓地からシンクロモンスター1体を守備表示で特殊召喚する! しかしそのレベルは1つ下がり、守備力は0になる。蘇れ、ジャンク・デストロイヤー!」

 

 

【ロスト・スター・ディセント】

 通常罠

 自分の墓地に存在するシンクロモンスター1体を選択し、自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、レベルが1つ下がり守備力は0になる。

 また、表示形式を変更する事はできない。

 

 

 次の一手は伏せカード1枚の発動による高レベルモンスターの蘇生。

 デュエルモンスターズを代表する蘇生カード「死者蘇生」のように、本来のスペックを発揮できる完全な状態での復活にはならないが、今この状況においては完全でないからこそ次につながるものがあった。

 

 

「続けて2枚目の(トラップ)、「エンジェル・リフト」を発動!」

 

 

【エンジェル・リフト】

 永続罠

 発動後、このカードは以下の条件で特殊召喚したモンスターの装備カードとなる。

 自分の墓地からレベル2以下のモンスターカード1枚を選び、攻撃表示で特殊召喚する。

 このカードは、装備モンスターを墓地に送る事で手札に戻す事ができる。

 この効果はメインフェイズにのみ行える。

 このカードがフィールド上に存在しなくなったら、そのモンスターを破壊する。

 そのモンスターを破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

「この効果により、俺の墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚する。俺が復活させるのはこのカード!」

 

 

 墓地から舞い戻ったジャンク・デストロイヤーの横に、2枚目のセットカードによって立て続けにモンスターが復活していく。

 しかしそのカードは、このデュエルで一度も場に出たことがないモンスターであった。

 

 

【ジェット・シンクロン】

 星1/炎属性/機械族/チューナー

 攻撃力500/守備力0

 このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

 (1):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。

 デッキから「ジャンク」モンスター1体を手札に加える。

 (2):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。

 このカードを特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「ジェット・シンクロン……知っているぞ。それもアメリカ横断ゴールデン・タッグ・トーナメントで使っていたカードだな。前のターンのエンジェル・バトンで落としたのはそいつか!」

 

 

 戦闘に加わるにはあまりに心許ないステータスだが、「最小レベルのチューナーモンスター」という、この時代では最も油断ならない特徴を持つそのカード。

 その名の通り航空機のジェットのような姿をした小型モンスターの姿を見て、セティアは期待を込めた眼差しで彼の繰り出す次なる一手を見つめていた。

 

 

「これで合計レベルは8……さあ、来るがいい!」

「──!」

 

 

 これで「不動遊星」の場には、レベル7のモンスターとレベル1のチューナーが揃った。

 ならば次に彼がどう動いてくるのか──少しでも彼の英雄伝説を聞きかじったことがあれば誰もが予想することができた。

 

 彼が有名になったことで、対戦相手の誰もがその展開を想定し、対策を練り続けてきた。だが彼は、その上で敵の対策の全てに打ち勝ち──故に「不動遊星」というデュエリストは伝説となった。

 そんな彼に対して常に絶対勝利をもらしてきたのが──世界でただ1枚、彼だけが持つエースモンスターのカードだった。

 

 

「レベル7になったジャンク・デストロイヤーに、レベル1のジェット・シンクロンをチューニング!」

 

 

 正しきモーメントの回転がもたらす正のエネルギーに乗って、2体の力が同調する。

 その光景をじっと見つめるセティア・キサラギの双眸は──心なしか、どこか潤いを帯びているようだった。

 

 集いし願いが──拡散していく光を見届けながら、彼女はそっと、誰にも聴こえない声量でその口上を口ずさんでいた。

 

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる──光差す道となれ! シンクロ召喚ッ!」

 

 

 そして、かの英雄は再臨する。

 

 

「飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 

 星と青眼、かつてそれぞれの時代で数々の奇跡をもらたしてきたドラゴンが時を超えて、破滅に向かおうとする世界で対峙した瞬間であった。

 

 奇しくも同じ色をした神々しき龍たちの姿を見て、セティアはその心に打ち震えた感情を溜め息混じりに口漏らした。

 

 

「……(ふつく)しい……」

 

 

 




 この時代まで来ると社長のこととかすっごい美化されて伝わってそうですね。
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