遊戯王0D’s ナリキリボーイと青き眼の精霊王   作:GT(EW版)

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過去へ……

 決闘の歴史……それは遥か5000年の昔、古代エジプトまで遡る。

 

 古代における決闘は、互いの(バー)によって石盤に封印された魔物や精霊(カー)を召喚し戦わせる魔術的な儀式であった。

 それらは、「ディアハ」と呼ばれた。

 精霊(カー)なる存在は、デュエルディスクによるブレイクスルーにより観測された「デュエルモンスターズの精霊」の起源だったのではないかという説もある。

 最も有名な一例としてはカード自身が使い手を選び、使用者が不適合と判断すれば裁きすら与える「三幻神」のカードがあるが、人々の中で「デュエルモンスターズの精霊」という概念が明るみになったのは「不動遊星」の時代よりも50年ほど前、「秘密結社ドーマ」が引き起こしたある事件が発端とされる。

 

 それからさらに十年が過ぎた頃には適性を持つデュエリストの間で観測されるようになり、「デュエルモンスターズの精霊」は文字通り、モンスターカードの中に潜んでいる「カードの意思」そのものとしてカードの上に浮かび上がったり、使用者の周囲を漂ったりしていた。

 

 精霊は全てのカードに宿っている訳ではないが、その姿を視認できない不適性者のデッキにも宿ることがあるという。

 基本的には先天的に素質のある者にしかその姿を視ることができないが、その素質も人によって様々であり、明確に「カードの精霊が見えコミニュケーションが行える人物」から「明確に干渉はできないが存在を感じ取れる人物」、「特定状況下でのみ感知・会話できる人物」等がいる。中には後天的に上記の素質を獲得する者もいる。

 そんな不可思議な存在である「デュエルモンスターズの精霊」たちは様々なデュエルを通して人々と絆を深め合い、互いにとって善き隣人となった。

 

 

 しかしそれから200年以上が過ぎた今──人の世界に精霊たちの姿はなかった。

 

 

 デュエルディスクの登場によって結ばれた人と精霊との絆は、その後の人類種の繁栄に反比例するかのように急激に薄らいでいき、モーメントに暴走の兆候が顕れる頃にはほとんどが断ち切られていたのだ。

 

 だが精霊の中には繋がりが薄れてもなお、人々を見捨てられない物好きな者たちがいた。

 セティアに「憑いた」のは、そんな物好きな精霊の一人である。

 

 

 名は、【青き眼の乙女】。

 

 種明かしをされてみれば、複雑な話ではない。

 セティア・キサラギとは先祖代々精霊との繋がりが深いとあるシグナーの末裔に、かの大精霊が力を貸し与えてくれた存在に過ぎなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様の覚悟は受け取った……不動遊星、どこまでも走り続けるがいい。この終点の無い無限のサーキットをな」

「セティア……」

 

 白熱のライディング・デュエルを通して、二人はわかり合うことができた。

 セティアは「不動遊星」の決心がどれほど強固なものか理解し、「不動遊星」は行き詰まったこの世界を救済の道へ導くという意味の重さを改めて理解することとなった。

 

「貴様のクリアマインドは本物だった。それはまさしく、後の世に繋げるべき光であろう」

「……俺もこのデュエルを通じて、改めて思い知ったことがある」

「なんだ?」

「希望を未来へ繋げていくには、俺一人の力じゃダメだということだ」

「ほう?」

 

 シンクロ召喚がたった一枚の強力なモンスターカードだけでは成立しないのと同じように、滅びゆくこの世界を救うには英雄一人の力では届かない。

 だからこそ、仲間が必要だと思った。それはジョニーのような志を同じとするデュエリストだけでなく、「不動遊星」とも違った視点で人々を見てきた「王」であるならば、これほど心強い者はいないと。

 

 

「俺たちと一緒に戦ってくれないか? この世界を救う為には、貴女の力が必要だ」

 

 

 Dホイール遊星号から降りた「不動遊星」が、同じくDホイールB.W.Dから降りたセティアと向き合い手を差し伸ばす。

 諸事情でこのヘルメットを外せないことを申し訳なく思うが、しかし王たる彼女はその無礼を咎めなかった。

 

 まるでそう……この時の彼女の青き眼差しは、「不動遊星」のヘルメットに隠された本当の顔を察していたかのように。

 

 少女は一瞬呆けたように目を見開いたが、すぐに常の尊大な態度に立ち直り、自らのヘルメットを外した後で差し伸ばされたその手を取った。

 

 

「……ようやく人らしい目になったか、英雄」

「え?」

「いや、何でもない。ともかく今はまだ、貴様が世界を救う為なら機械的な判断も厭わぬマシーンでなかったことに安心したよ。だが……」

 

 掴んだその手を一回だけ強く握った後、セティアは苦笑をたたえながら右手を離した。

 そしてその視線を「不動遊星」から外し、おもむろに彼の足下へと向け、ため息混じりの声で呟く。

 

 

「手を貸しに来たか、或いは終焉を見届けに来たのか……物好きな精霊がいたものだ」

 

 

 釣られて「不動遊星」が彼女の視線を辿ってみると、そこには一枚のカードが落ちていた。

 身に覚えはないが、彼女が落としてしまったのだろうか? 舗装されていない荒れ果てた地に落ちていたにしてはあまりにも不自然な状態で鎮座していたそのカードを拾い上げると、「不動遊星」はそこに描かれたイラストに驚愕した。

 

 

 ──【時械神メタイオン】。

 

 

 ……拾い上げた瞬間、「不動遊星」は通常のカードには存在し得ない特別な「何か」をそのカードから読み取る。

 それは極めて直感的な言い様の無い感覚であったが、彼はそのカードがセティアとのデュエルで引き抜いた二種のカードと同質かつ遥かに上位の力を持った存在であることを悟った。

 

「ラッキーカードかどうかはわからぬが、そいつは大事に取っておけ。カードとの絆は今となっては貴重な縁だ」

 

 かつて不動遊星が培ってきたカードとの絆は、道端に落ちていたカードを拾ったところから始まったという。それにあやかるわけではないが、彼が「不動遊星」である限り、拾い上げた一枚を無視することはあり得なかった。

 「神」と名の付いた不可思議なそのカードを丁重にデッキケースへ収めていく彼に、今度は笑みを消した剣呑な表情で忠告する。

 

「だがゆめゆめ忘れるな。人の世の未来を神は作らない。貴様の向かうべき先は、人の手で作るべきなのだ」

「……ああ、気をつけておく」

 

 デュエルモンスターズの精霊、その王を名乗る彼女にとって「神」の名がどれほどの重さを持つか察して余りある眼差しであった。

 そう呟いたセティアの言葉に「不動遊星」は彼女の胸中を察する。

 セティアは決して、人類に絶望し未来を諦観していたのではない。寧ろ彼女は誰よりも、人という存在に希望を持っていたのではないかと。

 だからこそモーメントという200年前の遺物にしがみつき、いつまでも成長しない人類に失望していたのだ。

 しかしそんな彼女自身もまた、昔から変わらないものを抱え続けていた。

 デュエルを通して、彼にはそれがわかったような気がする。

 

「君は、過去を大切にしているんだな」

「ふん……過去にしがみついているだけさ。私に宿っているもう一人の「私」は、人と精霊が共に歩んだほんの僅かな軌跡を今も忘れられない……夢見がちでお人好しな乙女だった」

「これから先の未来には、そういう人間が必要なんじゃないのか?」

「……え?」

 

 ブルーアイズモンスターの存在が目立つ彼女のデッキだが、その中にはノーマルカード、それも今となっては骨董品とも言えるデュエルモンスターズ黎明期のカードが多数入っていたことを思い出す。

 彼女ほどのデュエリストがあえてそのようなカードを採用しているのはそういったカードを上手く扱えるデッキ構築をしていたからだと思うが、それはそれとしてスピードの世界で進化していったデュエルの中で、時代遅れとされていた古のカードこそを大切に扱っていたその姿に、「不動遊星」は彼女自身のデュエリストの信念を見ていた。

 

 

「未来の為には変えていく必要があるものがある。……だが、変わらないものがあってもいい筈だ」

 

 

 澄んだ水のような透き通った心が必要なクリアマインドには余計な雑念を切り捨てなければならないが、彼女自身が大切に守り続けている過去への想いは捨てなくていいものなのだと、「不動遊星」は心からそう思った。

 目を背けるように視線を外したセティアが、Dホイールに備え付けられていたエクストラデッキから無造作に一枚を引き抜き、表返したそのカードに目を落とす。

 

「……私から掛け替えのない友を奪っていったこの世界に……既に救う価値など残っていないと思っていたが……」

 

 引き抜いたカードの名は【エンシェント・フェアリー・ライフ・ドラゴン】。先のデュエルで「不動遊星」のシューティング・スター・ドラゴンの攻撃を抑えた未知のカードである。

 

 感傷的な眼差しでしばしカードを見つめたセティアは、顔を上げるなり「不動遊星」に再び向き直ると何かを言いかけて──止める。

 しかしその表情はどこか憑き物が剥がれ落ちたような、安らかな色を浮かべていた。

 

 

「……救済の旅が終わったら、またデュエルしろ。次は負けん!」

 

 

 デュエリストならば、当然の言葉。

 故に「不動遊星」は、こちらもデュエリストとして当然の精神で応えた。

 

 

「ああ、世界が平和になったら、何度でも決闘(デュエル)しよう」

 

 

 それが、彼女と交わした再戦の約束だった。

 今回は世界を救うこちらの覚悟を示す為、義務感で戦ったデュエルだった。しかしそれはそれとして、「不動遊星」の中では彼女との決闘に心躍る思いがあったことは純然たる事実だったのだ。

 彼女からの挑戦なら、何度でも受けて立つ。いつか必ず、その日が訪れることを彼は誰よりも待ち望んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──しかし、その約束が果たされることはなかった。

 

 何故ならばそれから後日、間も無くして……彼が難民を引き連れて彼女の国へ向かっていた道中──限界を迎えたモーメントの自爆によって世界各地で地殻変動が巻き起こり、彼女の待っていた精霊國ネオ・カイバーランド諸共、地上の全てが地の底へと沈んでいったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──何年ぶりかもわからないほどに久しく、世界最後の人類「Z-ONE(ゾーン)」は夢を見た。

 

 

 今となってはあまりにも懐かしい「不動遊星」だった頃の記憶を思い起こしていたのは、これから自分がやろうとしていることが「彼女」の大切にしていた「過去」を踏みにじる行いだからか。

 手脚は朽ち果て、既に肉体の大半を機械としている亡霊の分際で、かつて彼女が愛していた人類の歴史を踏みにじることに対して……僅かに残った人間性が、人並みの罪悪感を掻き出したのかもしれない。

 

 しかし、もはやそれ以外の方法で世界を救う手立ては無い。

 他の穏便な方法を試せるだけ試した今、もはや一刻の猶予も無かった。

 

 過去の改変による未来の救済──かつて「不動遊星」が半精霊の少女にかけたかつての言葉は、今現在の自分がやろうとしていることに対していっそすがすがしいほどに対極そのものであった。

 

 思えばあの時点から「時械神」のカードたちも、未来の世界に蘇った「不動遊星」が行き着く先を予見していたのかもしれない。

 彼らが今も自分に力を貸してくれているのは、暇をもてあました神々の愉悦か……それとも哀れみか。今となっては些細な話である。

 確実なのはただ、この世界を救える人間は、救う為に動くことができる存在は自分だけだということだ。

 

 

「パラドックス、これを持っていきなさい」

 

 モーメントの暴走が引き起こした破滅の未来を変える為、今まさに過去の時代へと赴こうとする盟友パラドックス──の姿を模した人造人間に対して、創造主たるZ-ONEは餞別を与える。

 

 それは、一枚のカード。デュエルモンスターズの歴史を抹消するために送り込む彼に対して、Z-ONEが与えたのはデュエルモンスターズの歴史そのものと言っても良い伝説のカードだった。

 受け取ったパラドックスは目を見開き、そのカードが放つ青き輝きに慄く。

 

 

「これは……青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)!?」

 

 

 デュエルモンスターズ黎明期に登場し、強すぎるが故に4枚しか造られなかったという最強のカード。

 いかなる時代であろうとも、デュエリストであればそのカードの存在がどのような意味を持つか理解できるだろう。青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)とは、それほどの重さを持った特別なカードだった。

 それも、複製品ではない。

 正真正銘本物の青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)である。

 かつて海馬瀬人と共に姿を消した三枚のいずれでもない、この世に残されていた原初にして四枚目のオリジン。

 

「君のデッキを完成させる為には、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)の存在が必要不可欠……ですがあの海馬瀬人から魂のカードを奪い取るのは至難の業でしょう。それを扱いなさい、パラドックス」

「……手間が省けたな。感謝する、我が友よ」

 

 一夜にして彼女の国が滅び去り、何もかもが手遅れになった後に旧童実野町跡地で見つけたカードである。

 発見した際には破損が酷く時間がかかってしまったが、Z-ONEの高度な科学力を以ってすればこの通り、新品同様の状態に修復することも可能だった。

 

 ……彼女はずっと、これを探していると言っていた。

 

 彼女のブルーアイズデッキには、元祖ブルーアイズである「青眼の白龍」だけがその中に存在していなかったことを思い出す。

 例えるなら、スターダスト・ドラゴンのいない不動遊星のデッキと同じ。それでもキーカード不在のデッキで「不動遊星」とあれほどの攻防を繰り広げてみせた彼女は、生まれた時代さえ違えば純粋なデュエリストとして自分とは違う真の救世主になれたのかもしれない。

 

 そうでなくとも、白き龍と縁の深い青き眼の乙女の力を持つ半精霊の彼女の手にこのカードが渡っていたら──と、空虚な想像を頭に働かせたことは何度もあった。

 

 

 いつも……間に合わないのだ。私は。

 人間とは違う視点を持つ彼女には訊きたいことも、話したいこともたくさんあったのに。

 

 

 

「Z-ONE?」

「……何でもありません。頼みましたよ、パラドックス」

「ああ、また会おう」

 

 

 常に現実にはあらゆる可能性が残されている。

 だからこそ、人は愚かにも僅かな希望に縋ってしまう──かつての私がそうだったように。

 

 

 セティア……貴女は穏やかな最期を迎えられましたか?

 それとも私が余計な希望を与えたばかりに、絶望の中で苦しみながら散っていきましたか?

 

 私にも、もはや時間は残されていません。きっとこの命も、貴女が望んでいた形で終わることはないでしょう。

 

 仮面の中で、「英雄」と呼ばれたかつての男は目を閉じる。

 人の世の未来を、神は作らないと彼女は言った。人の未来は人が作るべきだと。

 その忠告を、憶えている。

 だが、その上で彼が選び取った道は、まさに自分自身が「神」となることと同義である。

 

 人が神となって人を滅ぼすことで未来を救う──ここにあっても尚現実が突きつけてくる、彼の二律背反(アンチノミー)だった。






 この後超融合で爆散したパラドックスのブルーアイズが巡り巡って龍可さんとこの家に渡る未来もあるかもしれません。そうしたら幻の精霊編が始まったりするのかもという幻覚でした。
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