短編ホラー置き場   作:RH−

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 ──やっぱり、どんなモノでもやりすぎは良くないんですよ。


過剰摂取

 数年ほど前に、電話越しに聞いた話だ。

 その人──仮称をOとでもしておこうか。仕事上の関わりがあって、そこそこ気が合う事から個人的なやり取りもするようになった人だった。

 そんなOは、大学二年生の頃にサークルでキャンプに行ったらしい。参加者はOを含めて計10人。運動系のサークルではなく文化系のサークルであったため、合宿などではなく本当にキャンプをしに行ったと、そんな感じだったらしい。

 

 以下が、Oの語った話である。

 

 

──'⁺'──

 

 

 キャンプは1泊2日、つまり泊りがけでバーベキューとか花火とか、川で泳いだりとか、そういう夏っぽい色々を満喫するって趣旨のものでした。

 毎年恒例の行事とかじゃなくて、その年になって急に出た話だったと思います。だからサークルメンバーは全員参加とかじゃなくて、それこそ“サークルで”キャンプに行ったって言うよりも“サークルで仲良くなった友人たちと”キャンプに行ったって感じだったんです。

 

 ただまあ、なんだかんだノリのいいメンバーが揃っていた事もあり、参加者は10人とそこそこの大所帯になりまして。どうせならテント買うよりもロッジというかコテージというか、そういうの借りてやろうぜ、って流れになって。

 それで、毎年合宿に行ってる運動部の友人の伝手とかも借りて、僕らはキャンプをしたんです。

 

 川泳ぎをしたり、軽く山に入って──もちろん軽くで、奥深くには踏み入れないようにして──森林浴をしたり、夜はバーベキューをして、その後に花火をして。

 目一杯楽しんで、日も跨ごうかという深夜だったと思います。シャワーも浴びて、後はもう寝るだけだ、ってなったんですけど……ほら、あるじゃないですか。旅行とかに行って、夜になって『まだ寝たくないな』って思うこと。

 それで、何かないかなって。

 

 人数が人数ですから、トランプみたいなカードゲームをするのも難しい。さらに言えば誰もそういったものは持ってきていなかった。

 星を見に行く、というのも案に出ましたが、土地勘も無い上近くには山があります。流石に危ないですし、シャワーも浴びちゃった後です。同じ理由で肝試しもナシ。

 

 で、そんな時に、後輩の一人のAが言ったんです。

 

「じゃあ、百物語。あれやってみませんか」

 

 って。

 それで、みんな『それだ』って思いまして。

 

「いいじゃん!」

「やろうやろう!」

「ナイスだA!」

 

 そんなこんなで、部屋の明かりを落として、飲み物を用意して、車座に座って。当然ながらろうそくなんかありませんから、それぞれに怪談話をしていって百個分話すっていう……まあ、百物語とは名ばかりの規模が大きくなっただけの怪談話ですね。それをやったんです。

 

 とはいえ、メンバーが10人いると言っても一人当たりに話す量は10話分です。最初のうちは怖くなかったり、あるいは有名な話だったりしてもいいから、最後の2話分とかで本命の怖い話をしよう、って約束になって。

 これは徹夜になるかもなぁ、なんて笑いながら話し始めて、たしか40話分ぐらい話し終わった頃……つまり怪談が四巡したぐらいの頃に、違和感を覚えたんです。

 

 

 あれ、なんかみんな、全然知らない怖い話をたくさんしてるな、って。

 

 

 もちろん、僕が怪談やホラーに明るくないっていうのはあると思います。そういうのって、自分から興味を持って調べないと、日常生活じゃあ触れ合う機会がありませんから。

 大量に摂取する──って言うと変ですけど、怪談を沢山知ってるのはそういうのが好きで調べて、ってする人でしょう?

 

 ただ、それにしても妙なんです。これは個人的な感覚なんですけど、有名な怪談話ってある程度は中心にある部分に共通性があるじゃないですか。

 それこそ、村の風習で生贄にされた人が怨霊になったとか、殺人事件の被害者が霊になったとか、あるいは曰く付きの場所に肝試しに行った人たちが怖い目に遭ったとか、そういうのっていわばメジャーじゃないですか。

 

 でも、みんなそういう話を途中からしなくなったんです。

 例えば、幼い頃に実家で家族のふりをした家族じゃないナニカに出会した、とか。小学校の頃、教育実習でやってきた人が妙な話をして、それで恐ろしい事になった、とか。曰くも何も無いはずの場所で本当に怖い経験をした、とか。高校の頃に、別の地域から来た友人からその地域の奇妙な風習について聞いた、とか。

 

 僕が全然知らないような、それでいて思わず鳥肌が立つような、そんな話をみんなしてるんです。

 で、それで、なーんかおかしいなぁ、引っかかるなぁ、って思ったんですけど、盛り上がってる──怪談話ですから盛り下がってるって言うべきかもですけど。そういう場面でそんなコト言ったら場が白けちゃうじゃないですか。

 だから『みんな気合い入ってるんだな』って思うようにして、自分の話す怪談もちょっと演出を加えたりして怖くなるようにして、そんな感じで話していって。

 

 最後の、100話目の怪談でした。

 言い出しっぺのAが、こう切り出したんです。

 

「これは俺の昔の友達……ここではDとしましょうか。彼の話なんですけど」

 

 実は僕とAって同じ高校出身でして、つまり高校時代も先輩後輩の関係だったんです。

 だから、気付いちゃったんですよ。

 

 

 あー、これ、多分実話だなって。

 

 

 Aの学年、つまり僕の一つ下の学年にはヤバい奴がいたって有名だったんです。

 そいつは高校二年の秋頃に転校したんですけど、その転校直前に、事件を起こしたんです。ああ、傷害事件とかそんなのじゃないんですけどね。

 ただ、学校中の机という机に花瓶を置いて、首の落ちたツバキの花……というか茎を挿してたっていう。夜中に忍び込んだんでしょうね。朝、登校した奴から気付いてパニックが起きそうになって、って感じで。臨時休校にまでなったっていう、まあ、そんな事件があったんです。

 

 転校したソイツが犯人だったっていうのはしばらく経ってから流れ始めた噂でしたけど、先生たちも否定しませんでしたし、むしろ無言ながらもそういう悪口みたいなのに同意するようでして。

 だから、ソイツが犯人だったんだろうなぁ、って。いわば公然の秘密になってたんです。それで、ソイツのイニシャルがDだったんですよね。

 で、そんなDの話でした。

 

過剰摂取(オーバードーズ)って、最近ちょっと流行り始めてるの、知ってます? 風邪薬とかを大量に、というか過剰に摂取すると、いわゆる麻薬をキめた時と似た感覚になるみたいな。例えば幻覚を見たり幻聴を聞いたり、自分が自分じゃなくなるような感覚に襲われたり……これは定かじゃないんですけど、妙に冷静になった気分になる、なんてのもあるんだとか」

「あー、なんか聞いたことあるかも」

 

 それが実話だって気付いてるのは当然ながら僕だけですので、他のメンバーはこれまでの怪談話と同じように相の手を入れて話を聞いてたんです。

 だから、僕だけが嫌な予感を覚えていて。

 

「あるいは、致死量でもいいかもです。ほら、あるじゃないですか。カフェインの致死量は何グラムだ、とか。チョコレートの致死量は~、とか、水の致死量は~、みたいな。ああいう豆知識。で、どうやら、なんですけどね」

 

 Aがそこで言葉を切った事で、誰かが生唾を飲み込むゴクリって音が聞こえました。

 もしかしたら、僕のだったのかもしれないですけど。

 

 

「怪談とか、怖い話にも過剰摂取というか、致死量というか、そういうのがあるらしいんですよね」

 

 

 その言葉で、室内の空気感とでも言うんですかね、ナニカが変容したっていうのが分かったんです。

 エアコンは付けてたんですけど、ここまで寒くなるように設定してないよなって。急にそれぐらい寒くなって、僕は話を止めようとしたんですけど……でも、それより先にAは話を進めたんです。

 まるで、この話は絶対に最後まで話さないといけないって思ってるみたいに。

 

「話に出したDなんですけどね。彼、元々はかなり真面目というか、慎重というか……悪く言っちゃえば神経質とか、臆病とか、そういう性質(たち)の人だったんです。バスとか電車で移動するなら、発車予定時刻の10分前には駅に着いておきたい、みたいな。そんな感じの」

 

 寒いままの室内は、次は更に暗くなったような気がしました。

 おかしいですよね。元々明かりは落としてて、車座の中央に置いた小型ライトぐらいしか室内を照らすものは無かったんです。だからそれ以上暗くなる事なんてほとんど無いはずなのに、暗くなった気がしたんです。

 

 それで、何と言うか、僕、急に冷静になったんですよね。

 これが実話だとしたら、逆に安全だろって。だって、Dに関する話にそういうホラー的な話って無かったですから。そういうのが出てきたら脚色になるし、そうじゃなくても元々知ってる後味の悪いだけの話だろって。

 

 さっきの部屋の空気感が変わったのも暗くなったように感じたのも気のせいだろって。そんな事起きるはずないじゃんって。

 

「だから、Dって怪談とかって得意じゃなかったんですよね。幽霊が現実にいるかどうかはともかくとして、いたとした時に困っちゃうから。寄って来られたら、万が一にでも取り憑かれたら。だから、肝試しとか心霊スポット巡りとか、もう言語道断って感じで」

 

 なんでか分からないんですけど、そう思って。だから僕、安心してAの話を聞き始めたんです。

 最後の大トリだっていうのに、Aの怪談に怖い部分ってのはほとんどありませんでした。怖い話って、最初の辺りから言いようのない気持ち悪さというか、違和感というか、そういうのがあるものじゃないですか。

 

 でも、Aの話には全くその手の気配が無くて。それこそ、普段のサークルの時間にしてる雑談みたいに、アイツは話したんです。

 そのせいもあったんですかね。妙に安心して、僕がAの怪談を聞き始めたのは。

 

 まあ、それは措いて擱いて、Aの怪談です。

 といっても、本当に怖い部分はなくって。Dの家族構成だとか、趣味だとか、そういった話がつらつらと続いていくような、そんな感じだったんですよ。

 

「とまあ、Dはこういう人間だったんです。ただ、ある時、彼、新しい趣味に出会ったんです」

 

 それが変わったのが、この一言でした。

 

「FCPって、知ってますかね。Fictional object-Containment-Processingって言って、簡単に言えば自分の考えた不可思議な生物、物体、現象──例えば、目を離している間にだけ動いて人を攻撃してくる銅像だとか──なんかを報告書って体裁で書いて公開できるwebサイトなんです」

 

 へぇ、って。素直にそう思いました。

 だって、少し妙じゃないですか。

 

「俺、それがかなり意外でして。だって彼、怪談話とか好きそうじゃなかったですし。少なくとも得意じゃないってのは確かだったので。ただ、FCPって別にホラー系ばっかりで溢れてるってワケじゃなくて、なんなら俺たちがしたみたいな怪談話はメインじゃないらしいんですよ。どちらかと言うと本当に不可思議な……それこそマンガの世界なんかにありそうな話とか、そういうのが多いらしくて」

 

 “だから彼も、ファンタジー小説を読むみたいな感覚でそのサイトに入り浸るようになったそうなんです”と、Aはそう続けた。

 

「それで、一月か二月ぐらい経った頃だったと思います。彼、面白い記事を見つけたって言って、一個のurlを送って来たんです。それがちゃんとした怪談系の話で、だから彼よりはホラー耐性のある俺でもゾッとしちゃうような、そういう雰囲気の記事で。でもまあ、そういう事もあるのかなって。なんですかね。耐性が付いたとか、そんな感じでホラーも大丈夫になったのかなって。そう思うようにしたんです」

 

 と、そこで。

 これまで滑らかに怪談を話してたAが、不意に口を噤んだんです。

 

 シン、と室内が静まり返りました。本当に。耳が痛いぐらいの静寂ってこういうのを言うんだな、なんて思ったぐらいには。

 夏の夜って、秋ほどじゃなくても虫が鳴いているものじゃないですか。けど、それも聞こえなくって。ただ壁にかけられた時計がカチ、カチ、って動く音だけが響いてて。

 

 それで……7秒か8秒ぐらいだったと思います。

 Aはまた続きを話し始めて、他のメンバーも静かなままに話に聞き入り直すような感じで。そんな感じで、百物語は変わりなく再開したんです。

 

 

 僕だけを、除いて。

 

 

 僕、見ちゃったんです。黙り込んでる時のAの顔を。

 アイツ、ずっと口をもごもごさせてたんです。黙ってる間、ずっと。

 

 いや、おかしいじゃないですか。普通、口をもごもごさせるって喋れないようにされてる時に口を開こうとして、その結果起こる動作じゃないですか。誰かに口を塞がれてるわけでもないのに、変でしょう?

 それに、アイツ、泣きそうな顔してたんですよ。

 

 で、思い付いちゃったんですよ。()()()()()()()()()()

 Aは、アイツは喋りたくて口をもごもごさせてたんじゃなくて──喋りたくなくて、続きを話したくなくて、これ以上怖い話なんて摂取したくなくて、なのに口が勝手に動こうとしているから必死に閉ざしてたんじゃないかって。

 

 だから僕、止めようとしたんです。

 それを思い付いちゃったタイミングで、アイツがもう一回口を開くよりも先に。でも、それよりも早くアイツは口を開いて、ニッコリと笑ったんです。

 

 凄いきれいな、それこそ花火を見た時とか、朝早くに冷たい水で顔を洗った時とか、そういう時にこんな風に笑うよな、って感じで。

 あるいは──冷静になった、みたいな感じで。

 

 笑って、アイツは続きを話し始めました。

 

「でも、Dは別にホラーが得意になったワケじゃなかったんです。ほら、よくいるじゃないですか。ホラーは得意じゃないけど、でも見てしまう、みたいな人。彼、そういうタイプの人になったんです。よっぽどハマったんでしょうね。()に送って来た記事の作者さんの作品を片端から読んで行って。そう、その人──蟻さん、って言うんですけどね──が小説家としてデビューしたのも大きかったんだと思います。もうどっぷりと怪談とかホラーにハマって行って」

 

 そこで、僕、我に返ったんです。

 あれ、なんで僕、この話が実話だと思ったんだろうって。

 

 たしかに、転校前に事件を起こした奴のイニシャルはDでしたし、それはAと同学年でした。でも、だからってこの話の『D』が例の奴と同じだとは限らないじゃないですか。

 Aがそいつとそこまで仲が良かったのかも知りませんし、そもそも、この話のDってイニシャルだって適当にアルファベットを選んで付けられた可能性もあるじゃないですか。

 

 それなのに、どうして僕はこの話の『D』が転校した奴と同一人物だって勝手に思ってたんだろうって。

 

「蟻さんの作品は書籍もネット上に公開されてるものも全部追いかけていって、でも、それで足りなくなったんだと思います。Dは、さらにさらにとホラーを求めました。ところで皆さん、話は変わるようなんですけど、憑話(つきばなし)ってご存知ですか?」

 

 それに気付いたら、もう止まりませんでした。

 

 室内が一段階寒くなった感覚、どうしてアレを途中から失念してたんだろう。暗くなった感覚もそうです。

 それらを僕は、明確な変化として一回受け止めておいて、どうして気のせいだなんて思ったんだろうって。

 

「憑話って言うのは……ラジオ番組みたいなもので。週に一回、配信サイト上で怪談話を色々と話すっていうモノなんです。それで、その憑話、著作権フリーって事で文字起こしがされたりもしてるんです。で、そのDが好きになった作家の蟻さんも何本か文字起こし、リライトをしてたんです。そこから入ったんでしょうね。彼、その憑話のリライトを片端から読み始めたんです。無料ですから、金が無くなって、みたいな感じで止まる事も無かったんだと思います」

 

 もう本当、止まらなかったんです。

 

 いや、そもそもあの後の()()()()()()()()()()()()、アレは何だったんだって。

 ここまでおかしな事が起きてて、冷静になんてなれるわけないでしょう?

 

 他にも、どうしてみんなあんなに怖い話をたくさん知ってたんだろうか、とか。なんかさっきから静かすぎないか、とか。

 

 ようやく、その時になって身体が震え始めたんです。

 怖いな、怖いな、って。ちょっとこれ、僕の耐えられる範囲を超えてるなって。考えれば考えるほど怖くて。

 

「でもね。私、一回言ったでしょう? Dは別にホラーが得意になったわけじゃないって。だから、彼、怖くて怖くてたまらなかったそうなんです。蟻さんの作品、憑話、それにそれ以外のネット上に溢れている怖い話。どれもこれも怖くて、夜に思い出すと不安に襲われるようで──でも、彼は取り憑かれたみたいに怪談話を漁って行って。もうほんと、周りから見てても怖いぐらいで」

 

 でも、Aの話は続いてるんです。

 終わらないんです。

 

 アイツ、ニコニコ笑って──ニタニタとか、ニヤニヤとか、そんな意地悪な感じじゃなくて、ほんと、ふわふわしたようなきれいな笑顔で。

 

 それで、もう。もう限界だ、って、思ったんです。

 

「私も、それ以外の友人も、Dの家族も、みんな止めようとしたんです。でも、彼、全然やめなくて。『これじゃ足りない。もっといるんだ、足りなくなったんだ』って、もう、頬が痩せこけて隈までできてきてるのに、食事も睡眠もおざなりにずっと怪談話を漁ってるんです。で、どうしようか、ってみんなで話してたら。ある日。彼、限界が来たんです」

 

 もう限界だって。

 だって怖いじゃないですか。そう思って、話を止めようとしたんです。立ち上がって、声を出して。『もう夜も遅いから』とか言って、どうにか止めようと思ったんです。

 

「ところで、なんですけど。私が最初に言った言葉、覚えてますか? ──『怪談とか、怖い話にも過剰摂取というか、致死量というか、そういうのがあるらしいんですよね』。そうなんです。彼、その致死量を超えちゃったんです。過剰摂取しちゃったって言ってもいいですね。じゃあ、問題です」

 

 僕が、『なあ、A──』と腰を上げたタイミングでした。

 右隣の奴が、僕の声に被せるようにして急に喋ったんです。

 

 

 

「怪談を過剰摂取しちゃったら、どうなっちゃうでしょーか」

 

 

 

 いや、おかしいじゃないですか。変でしょう?

 これでAが声を被せてきたのなら分かりますよ? ああ、そっか、って納得できます。でも、隣ですよ? これまで黙り込んでた奴が、急に大声を出したんです。それも、Aの話の続きを。変じゃないですか。

 

 それで僕、もう、限界を超えちゃったって。

 

 そう思った瞬間でした。

 僕と、対面のAを除いた車座に座ってる全員が、先輩も、後輩も、同学年の奴らも、全員が口を開いたんです。

 

「どうなっちゃうでしょーか」

「どうなるんだろうね」

「どうなるんだろうねぇ?」

「どうなっちゃうんだろーね」

 

 くすくす、ってまるで堪えきれないみたいな感じで笑いながら。全員が同じような事を口々に言うんです。

 僕と、Aを除いた全員が──いや、それだけじゃなく、部屋の外からも、コテージの外からも、上からも、下からも、そこら中から聞こえてくるんです。

 

「怪談を過剰摂取しちゃったら、どうなっちゃうでしょーか」

 

 って。

 もう、身体が震えるなんてものじゃなくって。まともに立っていられなくなって、よろけてしまって、それで更に気付いちゃったんです。

 

 コイツら、誰だ、って。

 

 何回も言ってるように、僕らは車座に座ってたんです。だから、全員の顔が、姿が見ようと思えば見えてしまって。

 それが、知らないナニカばっかりになってたんです。

 

 やけにのっぺりと、引き延ばされたみたいに縦に長くなってるナニカ。眉毛から上の頭部が無くなっていて、口元が笑顔の形に縫われたナニカ。ぼさぼさの黒髪のマネキン人形みたいなナニカ。

 もう、どれもこれも知らないんです。これまでに見た事もないような、不気味で、なのに既視感があるナニカばっかりで。

 

 ほんと、見た事ないんですよ。

 なのに、どうしてか既視感があったんです。で、よしたらいいのに、僕、考えちゃって。どうしてだろう、って思っちゃって。

 

 答えは、案外単純でした。

 全部、それぞれが話してた怪談に出てきたナニカ。その姿だったんです。そりゃあ、見た事もないのに既視感はありますよね。だって、ほんのちょっと前に話で聞いてたんですから。

 

 で、その頃には僕の身体の震えも治まってて。

 それを見て、Aはまた口を開いたんです。ニッコリと、笑顔のままで。

 

「じゃあ、答え合わせ、しちゃいましょうか。怪談は過剰摂取しちゃったら──」

 

 

──'⁺'──

 

 

「それで、その続きは?」

 

 取材ノートから顔を上げた眼鏡の男。顔を少し青くしている彼の質問に、僕は首を横に振った。

 

「知りません。そこで通話を切ったので」

 

 言えば、驚いたような顔をされた。

 

「えッ、切っちゃったんですか!?」

「ええ」

「そりゃまた、なんで──」

「だって、嫌じゃないですか」

 

 思わず言葉を被せてしまった。

 少しばかりのバツの悪さをコーヒーを啜る事で誤魔化してから、僕はもう一度口を開く。

 

「僕、FCPもホラーも結構好きだったんです。だから、知ってたんですよ」

「知ってた、って?」

「話に出てきた、FCPを書いてたっていうホラー作家の人も、毎週怪談話をしているっていう配信も。全部、ああアレの事だなって分かったんです」

 

 改めて思い返しても、嫌な感覚だ。

 

「全部、無かったはずなんですよ。Oさんや、そのAとかDって人が高校生だった頃には」

「…………え?」

「話の中で蟻って呼ばれてた人が作家デビューしたのも、憑話って呼ばれてた配信が始まったのも。Oさんの年齢から逆算した高校時代には、存在しないはずなんですよ」

 

 サァ、っと顔を青くする記者に『どこまでが嘘で、どこからが本当か分からない話なんて……嫌じゃないですか』と吐き捨てる。

 あれ以来、Oとは一度も連絡を取っていない。無理を言って当時担当していた企画を代わってもらいまでしたのだ。

 

 後から聞いた話によれば、あれから一年もしない内にOは蒸発したらしい。

 本当、嫌な感覚だ。あの時の電話、その向こう側が()()()()()()()()()()()()()()()ザワザワしていた事も含めて。

 

「あれ以来、僕は怪談とかホラーからは距離を取ってるんです。貴方も気を付けておいた方がいいと思いますよ。だって、怪談の過剰摂取というものがあったとして──」

 

 取材の依頼がいい加減しつこかったのと報酬もかなり出るという事で渋々折れたが、できれば思い出しもしたくなかったのだ。

 少しばかりの意趣返しも籠めて、言っておく。

 

「──()()が自分の許容量を超えていないのかも、過剰摂取になった時にどうなるのかも。分からないんですから」

 

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