申し訳ありませんっ‼︎
ゲームでは短い29番道路。本来もさして長くは無い。とはいえこちとら調査があるので、一週間程野宿をする羽目になった。
サバイバル能力は祖父との生活によって養われていたので何とかなったが。この世界に来てからというもの祖父の知恵に助けられてばかりいる気がする。
ありがとうじっちゃん(因みに相変わらず無愛想なアマタが野生のポケモンを蹴散らしてくれたお陰で、俺は安眠を得られた。ありがとうアマタ)。
さて、俺達が再び足を踏み入れたのはヨシノシティ。
この間は色々と忙しかったので気付かなかったが、季節感溢れる花が咲き誇る美しい街だ。
人影が少ない気がするが、まあ夕方なので仕方ないだろう。
俺は嬉々としてウツギ博士から貰い受けたチラシをナップザックから取り出した。
『【カフェ・オレン】…ヨシノシティ3番地に位置するカフェ。店名通り、オレンの実を使用した数々の料理が自慢です。オレン好きはきっと至福の時間を味わえることでしょう!』
チラシは2面に分かれていて、右面にお目当ての写真が載っていた。たくさんのオレンの実が、それぞれ美しく調理されている。
見るたびに二ヤーっとしてしまう。
実は一昨日オレンの実を食べて以来、その味の虜になってしまったのだ。元の世界での好物が蜜柑だった俺はいとも簡単に堕ちてしまったという顛末である。
そんなオレンの実……いやオレンちゃんがたっぷり、しかも様々なバリエーションで頂けるのだから幸せすぎる。
きっとアマタも気に入るはずだ。
のほほんと緩んだ空気を纏いつつ、まずは『ヨシノシティ3番地』とやらを尋ねるべくポケモンセンターへ立ち寄ることにした。
「あら、この前の子ね。怪我の具合はどう?」
怪我の手当てをお願いしたジョーイさんが出迎えてくれた。
顔を覚えてくれていたようで、少し嬉しくなる。
「お陰様で随分良くなりました」
お世辞ではない。事実、痛みが格段に減った。
「それは良かったわ。今日はどうしたの?」
待ってましたと言わんばかりに、俺はかのチラシを見せつけた。
するとジョーイさんは目を丸くする。
「……え? それを、あなたが?」
「? そうですよ」
俺、何か変なことをしたろうか。
見た目はまだちびっ子の俺が1人だけで行くのを心配してくれているのかもしれない。
心配しなくても大丈夫ですよ、と言おうとしたら背後の扉がすっと開いた。
ジョーイさんの顔が明るくなるをみて怪訝に思った。一体誰だろう?
「キキョウシティから参りました、ジムリーダーの『ハヤト』です」
「……ジムリーダー?」
ジムリーダー、だと⁉︎
原作キャラクターはウツギ博士でお腹いっぱいだというのに、ジムリーダーまで見られるとは。自分の持つ幸運はなかなか素晴らしいものがある。
「ぐるる……」
「駄目だよ、アマタ」
足元で唸るアマタを窘めた。その様は実家の隣家が飼っている柴犬に似ている。
「おや、先客かな?」
俺たちのやり取りに気付いたらしいハヤトさんがこちらに視線を向ける。
イケメンと部類するに相応しい端正な顔が、過去祖父に中の下と評された俺の顔を見ていると思うと恥ずかしい。なので失礼ながら目をジョーイさんの方へ背けた。
「………ええ、そうらしいのだけど」
1人で行かせるには心配なのよねーと言いたげなジョーイさんである。
そういえば、今ハヤトさんは俺を『先客』と呼称した。ということは、彼も俺と同じ店に行くつもりなのではなかろうか。
ならば話が早いではないか‼︎
「ジョーイさん」
「?」
「ぼく、ジムリーダーさんと一緒に行きます。そしたら心配要りませんよね?」
大人、つまるところジムリーダーと一緒ならばジョーイさんも安心できるはず。仮にハヤトさんに何かあってもアマタがいてくれるし。と、それは失礼か。
「そう、ね。……大丈夫かしら、ハヤトさん」
「はい。俺に任せてください」
ジョーイさんは未だ心配そうに俺を見る。しかしハヤトさんの力強い受け答えに安心したらしく、笑顔を見せた。
あまりの良い表情に見惚れてしまう。
「それでは行こうか。ええと……」
「ナユタです。こっちはアマタ」
「ぐぅん……」
警戒を解かないアマタをそっちのけに俺はハヤトさんに自己紹介した。ハヤトさんは、
「わかった。ではナユタくんにアマタくん、行こう」
爽やかな笑顔で返してくれた。
流石イケメン、心の中までイケメンである。
「はい」
隣を歩くには不釣り合いなイケメンと行動を共にすることに緊張しつつ、俺達はポケモンセンターを後にした。
***
『毎晩騒音を響かせるヨルノズクの駆除』。ヨシノシティからそのような依頼を受けたのは、四日前である。
ポケモンによる弊害は、専門的な分野(巣の駆除など)を除き、殆どがバウンティハンターによって解消される。
バウンティハンターとはいわゆる賞金稼ぎであり、駆除要請が出ているポケモンを退治することで報酬を得る人々を指す。
尚、正式な制度としては認められてはいないので名乗るのは自由であり、現にポケモントレーナーの肩書きとしても存在する。
しかし相手が危険なポケモンであったり、特別な事情があったりする場合は各自治体から正式な処置が施される。
今回の件は後者だった。
「……人っ子ひとり見当たらないとは、これを指すのだろうか」
キキョウシティジムリーダー・ハヤトは、依頼を受けたヨシノの地に降り立った。
『そらをとぶ』を使いここまで自分を運んで来てくれたピジョットをボールに戻し、改めて現状を確認する。
ヨルノズクはある日突然現れてからというもの、毎晩騒音を撒き散らすのだという。加えて力が強いようで、バウンティハンターとしてやって来たものは皆コテンパンにやられてしまったらしい。
結果住民達は夕暮れ時から建物に篭るようになってしまったとのことだ。
空の藍に朱が差し込み始めた今、もはや外を出歩く者はいなかった。住宅地を住処とするポケモン達の姿もなく、時折吹く風は冷たい。
人の気配が掻き消された街で、依頼の斡旋所でもあるポケモンセンターへ足を運んだ。
「キキョウシティから参りました、ジムリーダーの『ハヤト』です」
中に入ると、ハヤトの登場により表情を明るくするジョーイがいた。
「……ジムリーダー?」
ーーーハヤトは気づかなかった。
ジョーイの隣に居る者の気配、その性質に。
「ぐるる……」
「駄目だよ、アマタ」
その少年ーーー纏う空気は仄暗く、いささか少年のものと形容するに値しないーーーの目に射抜かれた。
確かに白目部分はあるが、しかしながらぽっかりと、そこだけ穴が空いているように見えるのだ。穴は奈落の底まで続き、底を見ることは叶わない。
『限りなく無に近い黒』と表現できる目玉だったが、ハヤトを再認識するや否や目つきがまるで変わった。
穴にはしっかりと黒い肉塊がはめ込まれたのだ。ギラギラ輝く本能の光が宿った肉塊。一目で鍛え抜かれているとわかるリオルを、いともたやすく諌める少年。
『あの獲物は自分のものだ』と言いたげで、もはや猛獣とその飼い主という関係ではなく、群れの獣とその首長に思えた。
理性でブレーキをかけず本能に従い生きる獣だ。
「おや、先客かな?」
相当の実力者……肩書きは恐らくバウンティハンターだろう。彼の手に握られている広告チラシには左面に『WANTED』の文字があるのだから。
怯むわけにはいかなかった。それはジムリーダーとしての義務でもあるし、一トレーナーとしての意地でもあった。
だがハヤトの挑発には目もくれず、少年はジョーイへ視線を戻した。
「………ええ、そうらしいのだけど」
ハヤトの気持ちを汲んだジョーイが代わりに返答する。きっと彼女は気付いていないのだろう。少年が孕む無限の闇に。
「ジョーイさん」
「?」
「ぼく、ジムリーダーさんと一緒に行きます。そしたら心配要りませんよね?」
それにつけ込むように少年は言った。
少年が少年である上で最大の武器、『あどけなさ』を上手く利用していたことにさらに驚く。
もしかすると彼は外見ほど若くないのかもしれない。何にしてもあざとくずる賢いのは確かだ。
実直なハヤトは少しだけ苛立ちを感じた。
「そう、ね。……大丈夫かしら、ハヤトさん」
「はい。俺に任せてください」
微笑むが、少年はそれすら見透かしたようにこちらを見つめていた。
ーーー気に入らない。
ジムリーダーとはいえハヤトも人間であり、好き嫌いがあるのも至極当然である。
「それでは行こうか。ええと……」
しかしいつまでも私情に呑まれているわけにもいかない。
よって出発を伝えようてしたが、少年の名を聞いていないことを思い出した。
「ナユタです。こっちはアマタ」
「ぐぅん……」
ナユタ。
珍しい名前を頭に刻むと共に、彼のリオルの名も記憶する。アマタは未だ警戒を解いていないようだが関係はなかった。
「わかった。ではナユタくんにアマタくん、行こう」
ジョーイに心配をかけぬよう表面だけの笑顔をナユタとアマタに向けた。
ナユタはにわかに目玉を動かして、
「はい」
と返事した。
隣を歩くには不釣り合いな程幼く、そしていつ爆発するか検討もつかない少年と行動を共にすることに緊張しつつ、ハヤト達はポケモンセンターを後にした。
ハヤトさんに若干嫌われているナユタであった……。
投稿が遅れてしまい、重ね重ね謝罪を申し上げます。申し訳ありませんでした。