Scene3
PartA
暗礁宙域を抜けた先はもはや敵陣で、敵は大型の巡洋艦に護衛の駆逐艦、それにおまけで補給艦らしきがくっついていた。
非力な駆逐艦の寄せ集めというはじめの予想を大きく覆すものだが、そもそもでこの最初の予測がどこらへんから来たのかも怪しい今現在だ。
これにより初手だけややしくじりはしたものの、無難に不利な戦況を挽回していく隊長機のガイア以下、黒い三連星のリック・ドム部隊であった。
巡洋艦を背後に控えて単艦で突撃してきた駆逐艦のサラミスは、いわゆる陽動部隊の囮とでも言ったところか?
だがそんなものお茶の子さいさいで右へ左へと軽々と翻弄する隊長機のリック・ドムだ。
機銃やビームによる対空砲火の弾幕をいともたやすく突破して、果ては敵艦のブリッジへと肉薄する!
ほぼ同時、MSの右肩に担いだバズーカの照準を艦橋に合わせかけたところで、激しい警告のブザーがヘルメットをつんざく。
舌打ちして回避機動に転じていた。
「チッ、狙ってやがったのか? こすいマネをしやがる!」
重力のない宇宙空間では上も下もないものだが、機体の機動力をいかんなく発揮して縦横無尽に飛び回るガイア機だ。
後方でいやらしいビーム砲撃をかましてくる巡洋艦との間に駆逐艦を挟んでいるのがみそだった。相打ちを避ける都合、思ったようには砲火を集中させずにビームの弾幕をいなしている。
さっきのはこちらがブリッジにアタックをかけるのを見越した上での待ち伏せ、狙い撃ちだったのだろうと合点。
するとこの状況を、今は暗礁宙域の向こう側でのんきに見ているのだろう艦長代理の副官には、胸の内を図星で言い当てられてまた舌打ちした。
【挿絵表示】
『おい、完全に狙われているんじゃないのか? そもそも連邦の戦艦は艦橋が複数あるんだから、ブリッジ潰しは必ずしも有効打とは言えないだろう。若干のあいだ機能を麻痺させるくらいで? だったらいっそのこと……!』
「チッ、メインのエンジン潰しちまったほうが早いってか? さっすが、シロートさまは考えることが単純明快でいらっしゃる。いいや、エンジン潰すのなら不意打ちでかつ安全な距離を取ってからだ! 至近じゃ即座に爆発炎上する艦の爆風と破片にこっちまで巻き込まれて誘爆するのが見え見えだからな? そこいらのMSやファイターと違ってただ墜とせばいいってものじゃないんだよ、図体でかい戦艦ってのは!」
『ほおぉ! ……そうなのでありますか、少佐?』
ちょっと怯んだ顔でおまけ背後の艦隊長どのにお伺いを立てるのには、呆れてまたこの中指立ててしまうガイアだ。
「バーカ、そんなのは時と場合とそいつの考え方によりけりだ、絶対なんてねえ!」
内心でぺろりと舌を出しながら周囲のディスプレイを見渡して今現在の状況を冷静に把握する。
正面下側のサブディスプレイで目を白黒させているおやじと無意識に視線が合うが、そのせいかまたもやあわ食ったさまで画面の中の代理艦長、副官のドレンが声を荒げる。
『おい、少佐が首を傾げているぞ? いい加減なヤツめ! まあいい、とにかくそちらの状況、巡洋艦が1に駆逐艦、サラミスがおなじく1なんだな? あとは補給艦? 了解した! 援軍は今から送って間に合いそうか?』
相手からしたらおおまじめでも、こちらからしたらよっぽどにとぼけた言いように、再三で舌打ち返す隊長どのだ。
「けっ、今さら何を言ってやがる? とろいザクであの暗礁宙域を突破してこられるとでも?? もとより状況見て言えよ。これがそんなピンチに見えるってのか、てめえの節穴じゃあ???」
『み、ミスったのはそちらがうかつだったのもあるだろうが? 俺だけの責任じゃないはずだ!! ここから挽回する!!』
「ぬかしやがれ! てめえにゃはなから期待なんざしてねえよ」
あっさりと言い捨てて相手の言い分はすっかり無視する。
言い合いしててもらちがあかないし、優先すべきは他にいくらでもあった。
現時点での戦況は、こちらが押せ押せで断然有利だ。
結局MSどころか中途半端なボール型の改修型突撃砲台が五機だけで、マッシュとオルテガの両機によってあっさりと撃破。
残すは目の前の駆逐艦だけ。
これをきれいに片してから大ボスの巡洋艦なのだが、何かまだ忘れているのではないかと首を傾げたところで背後のマッシュ機から通信が入った。
「隊長! 奥の巡洋艦、まるで動かねえと思ったらどうやら陽動だったみたいだぞ? あいつ自体がこっちの気を引くための!!」
「どういうことだ??」
怪訝に聞き返すに、マッシュではなくサブモニターの中のおやじが声高に返してくれる。
『おや、補給艦はどこに行った? いたはずだよな!? まさか仲間の護衛を置いてさっさとそれだけ戦線を離脱したのか!!』
モニターで確認したら、そこに確かに大きな巡洋艦の隣で地味に映ってたはずのそれらしき艦影が、すっかり消え失せている。
はじめ目を疑うガイアだ。
「なんだあ? 自衛もろくにできやしない補給艦だけでおめおめと逃げ出すなんざ、おいおい、積み荷はそんなに大事なものなのかよ?? 何を乗っけてやがる!? どうする?」
思わずサブモニターに映る見知ったおやじに聞いてしまうに、小さな画面の中でしばしだけ逡巡したかのベテラン士官である。
すぐにまじめな顔つきして返してくれた。
『無視していい! 今はそれどころじゃないだろう? 二手に分かれて追撃したところで燃料が保つまいだ。無駄な危険は犯さないに限る! おまえらが還って来れなければ意味がないんだ』
するとこの発言から、優先順位が明らかに自分たちであることに自尊心が良い感じにくすぐられて、自然と声のトーンが落ちるガイアだ。
「……ふうん、なら後で文句言うなよ? ま、このオレも言うほどにゃ興味はない。新型のMSって可能性、ゼロじゃないんだがよ?」
『そいつの中身が何であれ、連邦の木馬への到達自体は阻止したのだから目的は達成している。そこから転進して先行している敵艦に追いつくのは、今さらどのコース取りをしても不可能だろう? ならその新型は、どうぞよそでお披露目してもらおう!』
「あいよ。おかげでどこぞの誰かが結構な貧乏くじを引くことになるかもしれねえが、そんなのはそいつらの運だよな? オレたちが知ったこっちゃねえや……じゃ、オレは目の前のサラミスに専念させてもらうってことで!」
大きな戦艦の残骸に一時だけ身を潜ませていた、いかつい機体を素早く各部のバーニア噴かせて冷たい虚空に踊り出る。
直後、駆逐艦の真上から攻めるかたちで、このメインブリッジを根元まで損壊させてやるべくバズーカ構えて急降下した。
上も下もないのだが感覚的にはそういう感じになる。
正面や側面から攻めるよりも真上は艦砲の守りが薄く、まばらな弾幕をすり抜けてあっさりとこの上面の屋根近くに降り立つドムである。
それきり眉ひとつ動かさずに凄腕のMSパイロットはバズーカの引き金を引き絞るが、その半ばで不意に耳朶を打つ仲間の声に動揺が走る。
舌打ちしてそこから機体を緊急離脱させていたのは、これまで死線を幾度もくぐり抜けてきた戦士の勘と反射神経だ。
「やばいぞっ、隊長! 回避だっ!! その駆逐艦ごとっ……!!」
「なっ、なんだとっ!!?」
「あっ、兄いぃっ!!」
二番機から制止がかかる寸前、目の端端でまばゆい光の閃光が幾筋幾筋も走るのは認めていた。
てっきりじぶんめがけて放たれたビーム砲撃かと思ったが、それが思いも寄らぬところに集中してたちまち爆発炎上するのを、両目をひんむいて凝視してしまう隊長だ。
およそ言葉が出てこない。
「さ、サラミスを……!?」
目の前で艦橋から胴体から激しく誘爆しながらすべてが炎に包まれ轟沈する敵艦。
これにその場の全員が凍り付く。
ヘルメットの中であわ食ったおやじの声が場違いに響いた。
『なんだっ、今のは、巡洋艦からのビーム砲? 同士討ちしたのか?? まさか、敵味方もろともに誘爆させて撃破しようってのか!?』
それきり声が途絶えるのに、ゆっくり息を吐き出して応じるガイアだ。
「見ての通りだ……! ふざけやがって、ああ、だがおかげでちょっとだけ興味が出てきちまったな? そうとも、あの逃がしちまった船の中身ってヤツによ??」
今となってはもはや手遅れなのだが、戦域からまんまと離脱していった敵の補給船の消えた行方を見つめてしまう。
だが息つく間もなくさらなる状況の変化が警告音とともに巻き起こる。
本番はこれからだった。
二番機のマッシュが、再度緊迫したセリフを発する。
「ガイア、MSが来るぞ! 反応三つ、ヤツら温存してやがったのか? しかも、待てよ……?」
「ああ、こっちでも感知してるぜ。おそらくはジムってヤツか? 今頃出してくるってあたり、さっきのサラミスはほんとに捨て駒だったんだな? 笑わせやがるぜ、万が一のチャンスを捨ててるあたり? ちゃちな雑魚の一個小隊ごときで、どうしてこのオレたち黒い三連星に抗えるって言うんだか……!」
「兄いの言う通りだぜ! でも兄い、のろっちいジムにしては、ちょっと早いみたいだぜ、この機動値演算からするには?」
『油断するなよ?』
「誰に言ってやがる? おい、マッシュ……!」
顔つきむすりとして険しい隊長は、戦況解析を随時にこなす二番機に目を向ける。
すぐさま的確な返事が返ってきて納得しながら、今度は画面下のくたびれた二重あごに向けて聞いた。
「ああ、ジムには違わないが、こいつはこれまでのデータにない改良型だな! きっちりモニターしないと後々、厄介なヤツだ」
「めんどくせえな? 他のヤツらにやらせろよ、じゃあどうする、ケツデカ、じゃなくて、ドレンの副官どの?」
『好きにしろよ? そちらの判断に任せる。なんだって現場優先だ! もちろん勝てるんだろ?』
「当たり前だろう? ちょっと機体をいじくったくらいのマイナーチェンジ機が、このオレ達専用にバージョンアップしたカスタム機にかなうはずがない。黙って見ていろ。それじゃあ野郎ども、今から最後の仕上げにかかるぞ!!」
「了解!!」
大きな獲物を狩るべくした、三匹のどう猛なる番犬が暗い宇宙を縦横無尽にひた走る。
小隊単独での敵戦艦二隻撃沈、MS多数撃破!
黒い三連星の異名に花を添える、暗礁宙域突貫の電撃作戦だ。
期せずして連邦軍の逆襲計画のひとつを阻んだこともあり、以降、これが長きにわたり連邦軍の心胆寒からしめる伝説のひとつとなる……!