進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~ 作:茄南詩
10日と少し前に娘は産まれた。息子を殺すために。
「父さま~!」
私に向かってかけてくる、その足取りはまだ少し危なっかしい。抱き止めて頭を撫でてやると、にこにこと嬉しそうに微笑んでいる。
(……小動物を相手にしているような気持ちになるのぅ。)
「その様子じゃと、今日の分の自習は済ませてあるのかな?」
「はい、ゆきんこちゃんといっしょにしました!答え合わせの時に、雪女さんに全問せいかいだと、ほめられました!」
ふと、一昨日は何も見ずにいろは歌を書けるようになっていたことを思い出した。
生まれたばかりの子に読み書きを教えるのは酷だという者もおるであろう。しかし彼女の母親の生家では、生後5ヶ月以内に術のほとんどを習得できなければ疎んじられると、かの一族との関わりを持った神々から伝え聞いておる。
短い命を更に縮める様な戦略を強制されると。
したがって、イツ花が迎えに来るまでにせめて読み書きや算術の初歩を習得させておく必要があったのじゃ。
しかし、日々の成長が嬉しい反面、複雑な気持ちになるのぅ。短命の呪いの影響をありありと感じさせられるわ。
私が思考の海に沈んでいると、娘は私の服を遠慮がちに掴み、はにかみながら私を見上げ、口を開いた。
「だから父さまと、一日中あそびたいです!」
息抜きも大切じゃし、私も娘とせっかくの親子水入らずの時間を無駄にしたくはない。そこで、午の刻を少し過ぎた頃に弁当を持って、野原へ連れて行くことにした。
野原に到着し、弁当を食べ終わると、雪女と雪だるまへの土産にするのだと花冠を作ろうと格闘しておったが、まだ紅葉の様な小さい手には難しかったようじゃ。
「そなたは少々せっかちであるなあ。帰る前に、共に作ろうぞ?早い時間から作ると萎れてしまう」
「そうなのですか!? 花の命は、みじかいのですね」
(……そのような言葉を口にするのはやめい。泣いてしまうではないか。)
思わずこの、花のように短命な幼子を強く抱きしめてしまった。むぎゅっとカエルの潰れた様な音が聞こえた気がするが、気のせいかの。
「とーうーさーまー、つめたくるしいですー」
「っ!すまぬ」
ぺしぺしと胸を叩かれて我に返ると、思わず俯いてしまった。彼女に掛けられた呪いを解くためには朱点の命を奪う必要がある。天界から見ている事しか出来ぬ自分に、腹が立つ。やるせない気持ちに支配される。
「とうさま?何か、かなしいことでもあったのですか?」
娘は心配そうな目で、顔を覗き込んできた。いかんいかん、彼女の為に、私が出来ることを考えねば。
「___よ、今から私のする事をよく見て覚えておきなさい。術を使う為の基礎訓練じゃ」
私は娘の為に作らせた小さく丸い弁当箱を清水で洗った。それから細かく削った様な氷を作り出し、その上に載せた。
「何をなさっているのですか?」
「かき氷という氷菓子を作ろうとしておる。仕上げに使う為の果物を、この氷が溶けきるまでに地面から生じさせてみなさい。好物を思い浮かべながら試すと良いであろう。そなたの素質ならば、できるはずじゃ」
「え!?どうやったらいいの?」
「技力の変換の基本は、こうじゃ」
「ふわぁ……きれい」
私は彼女の手を持ち、技力の一部を流し込む。そして本人の技力と混ぜた分を、粉雪へと変換させた。
「本題の果物に関してじゃが、
「わかった、頑張るね」
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「生えろ~、生えろ~!」
あれから半刻近く顔を真っ赤にさせて、両手を地面に翳しておる。力まずとも良いはずなのじゃが、調節が難しいかのぅ。注いだほとんどが拡散され、無駄になっておる。しかし、気合いを入れる事で効果は上がるようじゃ。芽が出てきておる。
「もう少し、注ぐ量を増やすと良いな」
「はい、父さま!」
助言をすると、彼女は注ぐ量を倍加させた。にょきにょきと、育っておる。コツを掴んだようじゃ。
……少し育ちすぎな気もするが。私の背丈と同じ位の木が育ちつつある。
「これは何の木だ?」
「ももです!」
「そうか……」
拡散し、空中へ漂っていた技力は、徐々に根や土へ吸収されておるようじゃ。吸収する度に木は生命力を増していることから、肥料の役目を果たしているようだな。
「ううぅ、もう限界です……」
娘は疲れているようだが、迷宮の鬼どもは戦いの最中、待ってはくれない。私は彼女の技力を満たし、言った。
「諦めてはいけない。ほら、あと少しで花が咲きそうだ」
「はいぃ」
氷がちょうど溶けきる頃、彼女の桃の木は、いくつもの大ぶりな実をつけた。
「みてみて父さま!大きな桃がたくさん!」
嬉しそうにはしゃぐ娘を見て、自然と顔が綻んだ。
「ああ。見事だ」
器の水を捨て、新しい氷を載せた。お雫を唱え、蜜の代わりとする。そして、小刀で桃の皮を剥き、愛娘の口に入るような大きさに切り分け、冠のように飾りつけた。
「おいしそうです。さすが父さま。どうぞ召し上がって下さいっ」
彼女は木の匙でかき氷を掬うと、私の方へと差し出した。
「そなたも頑張ったであろう?先に食べなさい」
「え、父さまの方がお疲れでしょう?」
「甘いものが一番好きだと聞いていたのだが、違うのか?」
少々の押し問答の後、荷物の中から匙を見つけたので、最初の一口は同時にお互いに食べさせる事で決着がついた。……うむ。美味いな。
「あまい!氷もふわふわで、おいしいですね」
「そうだな。気に入ったか?」
「はい!」
にこにこ微笑みながら味わっている娘を見て、『この子ならば黄川人を救う事が出来る』と、漠然と思った。