進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~ 作:茄南詩
「じゃあな。早く怪我治せよ」
ベッドに横たわる3人に声を掛けると、それぞれ返事が返ってきた。
「うん。お見舞いありがとうね」
「はい、ありがとうございます」
「おう、またこいよ!それと、お前も内勤ばかりで肥るんじゃねーぞ」
昔からこいつは一言多いな。まだ腹筋割れてるから大丈夫だっての。お前こそ早く包帯取れるように、回復に専念しろよ。
「余計なお世話だ、バーカ」
俺は今月の壁外調査で負傷した友人2人と、その後輩を見舞った。調査兵士の道を進んだ友人達の中で、今も生き残っているのは、こいつらだけだ。
俺の友人達は、調査兵団の人間は皆、馬鹿野郎だ。それに姉さんも……。
帰ろうとドアを開けると、見知らぬ3人が目の前に立っていた。
親子か? ……いやいや、夫婦にしては幼すぎるか。
「え?テリー??」
「あ゛?誰だお前??」
小さなバスケットを持った、これまた小さな白いガキが、姉さんの愛称で俺を呼んだ。ガキはその深い青色の目で俺をじっと見ている。
「お前、もしかして……」
「おい、テオ。どうかしたのか?」
ドアを開けたまま棒立ちになっている俺に対して、後ろから怪訝そうな声がした。
ガキは一瞬ハッとしたような顔をしたと思うと、すぐにゆっくりかつ、はっきりとした口調で用件を伝えた。
「申し遅れました。私はティエラ・スミスと申します。本日は、いつもお世話になっているヨハンさんのお兄様が負傷したと聞き、お見舞いの品を持って馳せ参じた次第でございます」
なるほどな。姉さんが最近まで世話してたって手紙に書いてたのは、こいつの事か。
「そうか。道を塞いで悪かったな」
「いいえ、お気になさらないでください」
進路の事で喧嘩して以来疎遠だったけれど、そろそろ仲直りをしよう。一度手土産を持って、姉さんに会いに行こうか。
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その人は項近くで結んだ髪を揺らしながら去って行きました。……テリーじゃなかったみたい。よく見たら男性でしたし。しかし、良く似ていました。
病室からは元気そうな声が聞こえてきます。
「ヨナスお前、お兄様とか呼ばせてるのか?」
「誤解です」
「分隊長の娘にお兄様って呼ばせるなんて、ヨナスは勇者なのね」
「ニコラ先輩までっ。滅多なことを言わないで下さいよ。この子とは初対面です」
病室には3人の負傷者がベッドに横たわっていました。残りの3つのベッドは空いています。会話から察するに、ドアを開けて左側の、出前のベッドの方がヨナスさんでしょうか。
「兄さん!」
ヨハンさんがお兄さんに向かって走り出そうとして、オリガさんに襟を掴まれました。
「病室で走らないの」
「う……ごめん」
「久しぶりだな、ヨハン」
「うん。壁外調査前日の訓練以来だな……。生きてて良かった。父さんも母さんも、妹達も、みんな兄さんの事を心配してたんだぞ」
ヨハンさんはオリガさんに襟を掴まれたまま会話をしています。ヨナスさん達は布団がかかっている部分はわからないけれど、視認できるところは包帯だらけで、死線をくぐり抜けてきたことが判ります。しかし、消毒は必須ですよね。もし夏だったらと思うと恐ろしい。今が冬で良かった。
私は手で口を押さえ、あくびする振りをしつつ仙酔酒を唱え、籠の内にひょうたんを一つ出現させました。もちろんオリガさんに見せていない部分にです。
「オリガさん、ヨハンさん。お話を遮ってしまい、申し訳ありませんが、先に手を消毒しませんか?」
「ええ、そうね」
「ああ。ありがとう」
私はひょうたんを彼らにまわし、それぞれのハンカチに染み込ませてから手をしっかり拭きました。術を解除したら染みにならないから楽で良いですね。
「なぁ。それって、もしかして酒か?面白い形の入れ物だな。……一口でいいから飲ませてもらえないだろうか」
「だめですよ、ダミアン班長。怪我が治ってからです」
「ちぇっ」
ダミアン班長と呼ばれた方は、ヨナスさんにたしなめられています。それから私達はヨナスさんとダミアン班長の間のベッドに腰掛けてお話をしました。
「お酒の代わりにはならないかもしれませんが、エルヴィン分隊長から戴いたジャムとフルーツソースなら、ありますよ?」
「まぁ、嬉しい。早く退院してお礼を言いに行かなくちゃっ」
「ええ。ご飯の時間が楽しくなりそうですね」
オリガさんの言葉に、ニコラさんとヨナスさんは嬉しそうに笑っています。
「そうだな。酒も捨てがたいが、たまには甘いものも良いかもな。早く治さないと」
ダミアンさんの表情、“退院”という言葉の所で一瞬無理して笑っているように見えたのは、気のせいですよね。左頬に大きなガーゼを貼っているから見間違えたのでしょう。
あ、私の立場は上司の娘でした!ここにいたら皆が気を遣ってしまって、言いたいことが言えないかも知れません。私はサイドテーブルに籠を置きました。
「ん?どうしたんだい?」
「お手洗いに行ってきますね」
「大丈夫?私もついて行こうか?」
「大丈夫です。すぐそこの角にありましたし」
過保護すぎます。7歳なんですから、1人で行けますよ。
さてと。5~7分位を目処に、お散歩しましょうか。
病室を出て、廊下を歩いていると怒鳴り声が聞こえました。
「もう良い。出ていけ、出ていけ!」
「もう一度言います。貴方はもう、長くは生きられないでしょう。最期まで神は貴方を見捨てはしません。改心しなさい。そして、共に祈りましょう」
あ、ものすごい面倒事の予感がします。
「お前の様な胡散臭い坊主の言う事など、信じられるか!」
「大丈夫。共に祈り、寄付さえすれば。貴方の魂は救われ、壁はより強固になるのです」
私でも苛々しますね。命短い人にお金をせびり、宗教を説くなんて。その人だって生きたいのに。死にたいなんて思ってないのに。
「……さいてー」
「何が最低なんだい?」
ぎゃっ、聞かれてた!
振り向くと、背の高い男性が佇んでいました。しかも首に、ウォール教のシンボルの重そうなネックレスを掛けています。両側と後ろにムキムキな護衛を従わせているから、上の立場の人なのかも。ああ、やってしまった。ボコボコにされたらどうしよう。
「……何でもありません。お腹が痛いので、お手洗いに行こうかと」
我ながら苦しい言い訳です。笑顔がひきつりそう。現在の中性的な格好から、パッと見女の子に見えないところが(自分の精神的に)救いですかね。冷や汗が出てきたので、本当っぽく見えるでしょうか。もうやだ、宗教怖い。
「それは大変だ。大丈夫かい、坊や?いっしょについて行こうか?」
「い、いえいえっ。結構です!そろそろ決壊しそうなので、失礼致しますうぅ!」
それでも尚ウォール教の男性は、何かを話そうとしていましたが、彼の言葉を待たずにお手洗いへ駆け込みました。……何やってるんだろう、私。ものすごく恥ずかしい。
個室の中で冷静になると、これまた面倒な事に気付きました。
……戻るときに、またあの廊下を通らなければなりません。どうしよう、戻れないいぃ。