進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~   作:茄南詩

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腐ってる

 前略 天界の父様。遺影でしか見たことのない母様。

 

 私はすっかり平和ボケしています。父様や六ツ花御前様に教えて頂いた事を全く活かしきれていない。ウォール教の悪口をうっかり呟いてしまったのを、よりによってウォール教のお偉方に聞かれてしまいました。お手洗いに逃げ込んだものの、怖くて個室から出られません。どうしましょっ。

 

 ……現実逃避している場合ではありませんでした。困難への対処は、まずは現状把握からです!

 

『白鏡』『黒鏡』

 

 病院内の地図を出し、確認して見ると、まだ廊下にウォール教の人達がいます。おぅふ、ムキムキ護衛さん達の内、2人が赤い点で表示されています。病室でお金をせびってた聖職者も真っ赤です。

 術の使用者に対して敵意を持っている者や、危害を加えるであろう者が赤く表示されますから、これはもう袋叩き確定ですね。うああああ。

 

 ここから脱出して病室へ戻るために、考えられる方法は3つ。

 

 その1.『野分』で強制的に病院外へ吹き飛ばし、彼らが混乱している間に病室へ戻る。

 

 その2.『寝太郎』でこの区画にいる全員を眠らせて、起きる前に戻る。

 

 その3.ひたすらここで居なくなるのを待つ。

 

 

 うーん、1つ目の案は病院の職員さんに迷惑がかかるからダメですね。この病院には祟りが何とかって、風評被害に遭ったら大変ですもの。

 2つ目の案は、もし戻る途中に術が解けてしまったら、その後が面倒です。運良く戻れたとしても、突然室内に現れたら不審に思われるでしょうし。もし帰宅しようと病室を出る際に聖職者に鉢合わせしたら、入院しているヨナスさん達に、とてつもない迷惑がかかるでしょうし……。

 

 結局3つ目の案を選択するしかないのね。お願いだから早く帰って下さい。

 

 

 

 

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 ※ダミアン視点

 

 分隊長の義娘はトイレに行くと言って病室を出て行ったが、あれは俺達に気を使ったのだと思う。不器用な子供だ。

 

「どうしてニコラさんは女性なのに、ヨハンのお兄さんやダミアン班長と同室なんですか?」

「ちょっ、オリガ。今それ聞いちゃう?」

「えー、何でよ。ヨハンも気になるでしょう?」

「そうだけど……」

 

 止めてくれ。お前らが帰ってから、俺達がとばっちり受けるだろうが。ヨナスの方を見ると、顔が若干ひきつっている。考えている事は同じか。

 

「調査兵士というだけで一括りにされているのよ。『ヨナスは骨盤を骨折しているし、肋骨も何本かやられてる。ダミアンは左の手足に熱傷2度~3度の火傷を負ってて、どちらも動けないんだから、貞操の危機はないだろう。自意識過剰だ』って 。カーテンが付いてるとはいえ、デリカシー無さすぎよ」

 

 案の定拗ねている。もうすぐ成人なんだから、人前で頬を膨らませるな。馬鹿に見える……。いや、こいつは馬鹿だった。後輩を不安にさせるような事言いやがって。あの子供にも負けてるぞ。

 

「おい、余計な事を言うな。そんなんだから出世も出来ない上に、欲しい欲しい言ってても恋人1人作れないんだろうが」

 

 彼女に対する禁句を言うと、思った通り噛みついてきた。

 

「なっ、それは今関係無いでしょう!地味に気にしてるんだよっ。……うっ」

 

 大きな声を出して傷に響いたのか、彼女は顔を歪めている。この阿呆が。痛み止めが良く効いていたのか、自分が負傷している事を完全に忘れてやがったな。

 

「まあまあ、お二人とも。その事は忘れて他のお話でもしましょうよ。ね?」

「そうですよ。俺も兵団が今どうなってるかとか聞きたいです」

 

 ヨナスとヨハンが気を使ってる事に免じて、追撃は一旦止めにしてやろう。

 

「そうだな。ヨハン、訓練はどんな感じだ?分隊長の所でバイトもしてるんだろう?」

「はい。オリガと分担していますし、手の掛からない子なので両立出来ますが、訓練の立体き「ちょっと!人の話聞きなさいよ」……です」

「うるせえ、ちょっとぐらい黙ってろ。いちいちキレてたら恋人出来ないぞ?ヒステリニコフ」

 

 ニコラは怒ったのか、ギプスを嵌めていない方の腕でカーテンを勢い良く閉めた。

 

「取っ替え引っ替えしてる貴方よりましよ!

 ダミアンのバカっ、歩く猥褻物!」

「はっ、そりゃどうも」

 

 それから拗ねた彼女をしばらく放っておいて4人で話していると、カーテンの隙間から声をかけてきた。機嫌が治ったのか?

 

「ねえ。ティエラちゃんがまだ戻って来ないけど、いいの?もう20分近く経つよ。迷子になってるんじゃない……?」

「「「えっ」」」

 

 完全に忘れていた。ヨハンとオリガはすぐさま立ち上がった。

 

「ちょっと外見てきます」

「私はお手洗い探してくる」

「おう、頼んだ」

 

 2人が病室を出て足音が聞こえなくなった頃に、ウォール教の首飾りを首にかけた、丸々と太った嫌味なオッサンが入ってきた。また寄付を募りにきたのかよ。どうせならナイスバディなシスターに仕事頼めよ。もう来んな!

 

 

 

 

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 あ、やっとお偉方とムキムキ護衛ズが別区画へ移動しました!今のうちに出ましょう。ずっと籠ってたのがバレるのは何となく恥ずかしいですし。

 

 お手洗いから出て廊下を歩いていると、オリガさんとヨハンさんがこちらへ走って来ました。

 

「良かった、見つかった!」

「うん。もうすぐ職員さんが迎えに来るだろうし、みんなの所へ戻ろっか」

「はい。ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」

 

 ううぅ、やっぱり3つ目の案は失敗でした。

 

 

 病室に戻る際、先程真っ赤に表示されていたウォール教の、とてもふくよかなおじさんとすれ違いました。ヨハンさんに抱っこされていたので、眠そうな素振りをしながら、さりげなく顔をヨハンさんの胸に埋めて、おじさんから隠しました。小さい事が初めて役立ちました。やったね!

 

 部屋に入ると、ヨナスさんは疲れているのか、くったりと寝ていました。ダミアンもニコラさんも、心なしか先程よりもやつれている気がします。

 

「おう、戻ってきたのか」

「はい。ご迷惑おかけしました。あの、皆様お疲れのご様子ですが、一体何が……」

「ウォール教のオッサンが寄付を強要してきて、追い払うのが面倒だったんだよ。今週何度目だと思ってんだ」

「そうなのよ。入院してるし手持ちのお金なんて無いって言ったら、『高利貸しから借りれるから』って強引に書類にサインさせようとするんだもの」

 

 それを聞いたヨハンさんとオリガさんは顔をひきつらせました。

 

「何故その様な強引な方が院内に入れるのですか?」

「ああ、簡単な事さ。主な出資者は全員ウォール教の信者なんだよ。無論、信者が優遇される。ほとんどの医者はパトロンの機嫌を損ねないように動く。ウォール教を信じているか否かによって、仕事の丁寧さ・熱心さに差が出るようだ」

 

 その優先順位のせいで亡くなった兵士もいたのかもしれません。ヨハンさんが呆然とした顔で呟きました。

 

「なら、どうしてこの病院なんだよ。訳わかんねぇ……」

「費用が他の所よりも安いからだよ。それに、人間は資源と違って、替えがきくでしょう?」

 

 ティエラのお母さん。貴女が所属していたウォール教は、ずっとこのような環境だったのですか……?

 

 

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