進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~ 作:茄南詩
次の日の午後、ヨハンさんに連れられてイェーガー家に到着しました。ドアをノックすると、カルラさんが出て、部屋の中に招き入れて下さいました。
リビングにはアルミンとエレンが居ました。2つの椅子をくっつけて、子供にとっては大きく分厚い本をいっしょに読んでいます。
お泊まり用のカバンをカルラさんに渡し、彼女に敬礼してから去ろうとするヨハンさんに、カルラさんは声をかけました。
「ねぇ、ヨハンさん」
「何でしょうか?」
「ちょうど今お菓子が焼けて、皆でお茶しようと思っていた所なの。貴方もお呼ばれしていかない?」
先程の美味しそうな香りの正体はカルラさんお手製のクラフティでしたか。
ふと、ここに来る途中でヨハンさんとお話したことが思い浮かびました。
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『なんだか美味しそうな香りがするなぁ』
『はい、お腹が空いてしまいそうですね』
するとヨハンさんは、しょげた様な顔をして言ったんです。
『僕も毎日美味しいご飯やお菓子を作ってくれる、気立ての良い貞淑な女性と結婚したいよ。でもやっぱり無理だろうなぁ……』
『ヨハンさんは(たまにものすごいヘタレになるのを治すとかの)、あとちょっとの努力をすれば、とても格好良い人になると思います!成人したらモテモテになりますから、きっと叶いますよっ』
『あはは、ありがとうな。……本当にそう思う?』
『はい、オリガさんもメロメロですよっ』
すると彼はギョッとした顔で叫びました。
『えっ!なっ、何でオリガの名前が出てくるんだ!?』
『この間洗濯物を畳みながら、オリガさんが言ってました。「ヨハンはヘタレと立体機動さえなんとかしたら、とても上等な男になるんだよね~。対人格闘術の訓練中の真剣な表情とか、怪我の手当てをしてくれた時とか。うっかり惚れそうになった事が何度かあるのよ?」って!』
『えっ、ちょっ、まっ、……マジで!?』
気付いてなかったのでしょうか?余計な事を言ってしまったかも。でも、これをきっかけに2人がくっついてくれれば良いなあと思います。
『まじだと思いますっ』
『そ……そうか。頑張るよ』
立体機動は苦手だけれども身体能力の高さでそれを補い、訓練兵団を卒団したヨハンさん。
ものすごい方向音痴だけれども立体機動の造詣が深く独自の改良も行っているオリガさん。
2人の間に、彼らの優れた素質を受け継いだ子が産まれたら良いのにな。
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「ありがとうございます。しかし自分はこれから訓練があるので、すぐに出発しなければいけません」
「まあ、それは大変!すぐに取り分けて包むわね」
「えっ、あ、あの、そこまでして頂かなくてもお気持ちだけで充分ですっ」
断りながらも彼の目は机の上のクラフティに釘付けになっています。仕事とお菓子の間で悩んでいる彼を見て、カルラさんは微笑みました。
「今回はちょっと作りすぎちゃったから、持って帰ってもらえないかしら?子供達はまだそんなに食べられないし、グリシャの研究が進んだお祝いの為に作ったのに、あの人、最近仕事が忙しいみたいだから。捨てるのはもったいないもの」
「ありがとうございます。大事にいただきます」
「うふふ、さくらんぼのとイチゴのがあるから、好きなものを選んでね」
「イチゴのをお願いします」
「わかったわ」
彼らの会話を横で聞いていると、アルミンに手招きされたので、彼の近くにあった椅子に腰掛けました。
「ねぇねぇ。いきなり合宿する事になったけれど、何したい?1週間ずっと同じような感じだと、飽きちゃうと思うんだ」
「アルミンと話してたんだけど、軍医は器用な方が良いし、壁の外に探検する時に自分達でご飯が作れたほうが良いから、母さんに裁縫と簡単な料理を習おうかって話が出てるんだ」
「カルラさんのご飯は美味しいもんね」
裁縫かぁ……。交神の儀を終えた人がイツ花といっしょに、これからやって来る我が子の為の小袖とか、
裁縫も料理も大切です。しかし、このティエラの貧弱過ぎる体の方が深刻な問題なんですよね。グリシャさんの強化薬だけでは追いつけないと思うから。
兵士になる前に、訓練兵団で団長さんみたいな厳しく漢前な教官に『貴様は体力面において兵士としては不適格である!』とか何とか言われて追い出されそうな気がします。
「カルラさんに許可を貰えたら皆で教わりたいね。
個人的な事なんだけど、私は体力作りをしなきゃいけないから、野原で走ったり木の棒を振ったりする時間が欲しいな」
「そうだね。頑張ってね」
「ん?それはアルミンもだろう??」
「え……やっぱり?」
笑顔のまま誤魔化そうとした彼に、エレンの素朴な疑問が突き刺さりました。
「俺も特訓する。いっしょに頑張ろうな!」
「ありがとう。私達の体力は個人差があるから、皆でいっしょにするのとは別に、1人1人の特訓メニューも考えようね」
「ああ」
「本当は嫌だけど、僕も自分の弱さと向き合うよ」
皆で励まし合えば怖くないと思うから。
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「それじゃ、またね。1週間後の夕方にオリガといっしょにいつもの場所に迎えに来るからね」
「はい。いつもありがとうございます」
ヨハンさんとお別れした後、4人でカルラさんのお菓子を食べました。とても甘くて美味しかったです。お菓子を食べてから、あの薬を飲もうと思います。カバンから小瓶を取り出すと、アルミンがこちらをじっと見ていました。
「ねぇ、その瓶は何?」
「イェーガー先生に貰ったの。食後に飲んでねって」
「そうなんだ」
「貧血の薬だって父さんが言ってた。「副作用がでるかもしれないから、必ず母さんがいる時に飲ませるように。何かあったら直ぐに父さんを呼ぶように」って」
「ああ、だからいつもすぐにフラフラになってたんだね」
グリシャさん、そういう風に説明をしたんですね。瓶は茶色いので、外からは何色か分からなくなっています。誤魔化せますように。
蓋を開けて瓶を口に近付けると、消毒液と石鹸の混じったような強烈な臭いが私の鼻を襲います。
ううぅ、飲まなければ強くなれません。私は涙目になりながらも、気合いで全ての液体を飲み干しました。
臭いを除けば、意外と味はまともでした。
グリシャさんの身体強化薬はバナナ牛乳に近い味。