進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~ 作:茄南詩
次の日の朝。薬の効果は出ているみたい。少し筋肉痛を感じるものの、それ以外の体の不調はありませんでした。左隣を見ると、エレン、その向こうにアルミンがすやすやと寝ています。
平和って良いなあ。
昨日カルラさんの許可を貰えたので、お昼ご飯の時に皆で教わる事になりました。エレンのカルラさんへの内緒のプレゼントのお守りは、勉強会の合間にエレンが頑張ってちゃんと最後まで織り上げていました。大きさは護符がギリギリ3枚入るくらい。その染料になりそうな植物を午前中集めに行くことになっています。
朝ごはんを食べ終わってゆったりしている時に、アルミンが言いました。
「今日は野原に行って、採集のついでに体力作りもしよう。お昼を食べてからは僕の家に行って、おじいちゃんといっしょに午前中に採ってきた植物で染め物をして、それが終わったら明日の細かい事を決めようか」
「「はーい」」
「それじゃあ僕は一旦家に帰って、図鑑と籠を借りて来るね」
「俺もいっしょに行くっ」
「私も。そこまで歩くのも運動になるし」
「ありがとう」
アルレルト家に着くと、誰も居ませんでした。彼のご両親はお仕事へ、お祖父様も外出していたみたい。必要な物を借りて、その事をメモに残して野原へ行きました。
野原に到着すると、アルミンと私は柔軟をしてから染料に使えそうな植物を探し始めました。エレンは柔軟の後、ランニングをしています。
「ねぇアルミン。この植物はどうかな?」
「ちょっと待ってー」
声をかけるとアルミンは図鑑のページを捲って探しています。それを隣から覗き込みました。挿し絵や詳しい説明も書かれていて、なかなかに本格的ですね。
「えーと……ああ、これはマダーっていうハーブだね。根の部分が使えるんだって。赤色に染めれるみたい」
「なるほど。早速抜いてみるね」
「あ、ちょっと待って!これ、庭でお世話して数年経ってるものの方が良いみたい」
「え!?」
アルミンが制止したけれども、それはもう引っこ抜いてしまった後でした。根の部分はひょろひょろで所々千切れてしまっているため、もう使い物にならないと思われます。
「ごめんなさい」
「いや、いいよ。僕もちゃんと読み終わってから言うべきだった。
うーん、やっぱり図鑑をじっくり読んで、おじいちゃんや染め物専門の職人さんの話を聞いてからにすれば良かったのかも。
今日は採集は止めにして、お昼までの間、メニュー表に書いた事をやっておこうか」
「そうだね」
「おーい、アルミーン!ティエラー!あっちに綺麗な花つけた、ちっちゃい木があったー!」
声のする方を向くと、エレンが此方に向かって勢い良く走って来るのが見えました。
「エレン、ちゃんと前を見て走らないと転んじゃうよ!?」
「何ー?って、わああ!」
アルミンの予想通り、エレンは盛大に転んでしまいました。
「ふえぇ、あるみ~ん」
「大丈夫?立てる?」
「大丈夫じゃない~、いたいぃぃ」
エレンは両膝とおでこを擦りむいてしまいました。腕は長袖を着ていたから大丈夫だったみたい。けれども傷口は土まみれで、早くも血が滲み始めています。
「とにかく水で洗わないと。川は何処だろう……」
「うわああぁん、いたいよおぉ!」
アルミンは地面に座って泣きじゃくるエレンを右側から宥めるように抱きしめて、きょろきょろと周囲を見回しています。辺りには人っ子一人いません。野原が広がっているだけ。街へはここから大分歩かないといけません。
「ねえ、水があれば良いのよね?」
「うん。なるべく綺麗な水が必要だ。ティエラ、出せる?」
「ええ。誰も居ないみたいだし」
「じゃあお願いするよ」
「わかった」
念のため清水の前に、寝太郎を使いましょうか。
『寝太郎[有効範囲:半径50m以内、除外対象:アルミン・エレン]』
『清水[指定範囲:右の掌、水流:緩やか、目的:傷口の洗浄]』
膝から綺麗にしていく途中、エレンは傷が染みるのか、身を捩ります。
「エレン。ちゃんと綺麗にしないと駄目だよ」
「わかってるよ、習ったもん。けど、痛いものは、痛いんだ」
「もう少しだから我慢して」
「……わかった」
エレンは時折しゃくりあげながら、涙目でプルプルと痛みを堪えています。
ごめんね。回復の術は使わないし、教えないよ。
もし『怪我をしても大丈夫』だと慢心する癖がついてしまったら、兵士になった時にそれが命取りになるかもしれない。私はそれが怖いんだ。
技力が空っぽになったら使えないし、即死だってあり得る。前世の私みたいに化け物の集団に集中的に狙われて、回復する暇もなくぼこぼこにされて死ぬ危険だって、全く無いとは言えないから。
傷口を洗い終わったところでアルミンといっしょにエレンの両膝に、アルミンと私のハンカチを巻きました。頭からポタポタと水滴を垂らしている彼の姿はちょっと悲惨だったので、殺傷能力を除いた風車を唱え、触れるとちょっと湿っている位まで乾かしました。
今日はもう体力作りは無理でしょう。エレンの家に戻る事にしました。
「私はエレンといっしょにイェーガー家に戻るから、アルミンはお祖父様に、借りたものを返してきてくれないかな?」
「2人を置いては行けないよ。それに、僕より力が無いのに1人でエレンを支えられるの?」
「頑張るわ。本当に無理だったら力を一時的に強化する術を使うし。だから行って?お祖父様が図鑑が無くて困っているかもしれないでしょう?
それに、いくら貴方の家族と顔見知りとはいえ、誰のいないアルミンのお家に他人が返却しに行くのは、無用心だよ?」
「でも……」
「俺、自分で立てるから。2人とも心配しすぎだ」
目元を真っ赤にし、口をへの字に歪めながらも、エレンはすっくと立ち上がりました。泣いた事が今になって恥ずかしくなってきたのでしょうか。
「わかった、行って来るよ」
「ええ。もし会えたら『いつもありがとうございます』とお祖父様に伝えてね」
「うん!」
アルミンがシガンシナ区へ走って行き、その姿がいつもの半分位に小さくなると、エレンはシガンシナ区の方へ2,3歩歩いてから、その場で固まってしまいました。
「……ねえ、やせ我慢はもういいの?」
「何か今日のお前、厳しくないか?怒ってるのか??」
「ええ。エレンの素直な言動は基本的に見ていてほっこりするけれども、もう少し周りに注意してよ」
「はあ?ほっこりって何だよ。つーか、何でお前に説教されなきゃいけないんだよ」
「……本当に分からないの?」
貴方はムッとしているけれど、ここが壁外だったらどうするの。大勢の人間を喰い殺してきた人類の敵は、ご丁寧に怪我の手当てを待ってくれる存在なの?
「もういい。時間の無駄だわ。行きましょう」
「……勘違いするなよ。あんたの肩を借りるのは、アルミンを待たせたくないからだ」
「(わかってるわよ、その位)」
エレンと喧嘩しました。つらい。
「おーい、お前ら。何やってんだ?
エレンがひどい格好だが、喧嘩でもしたのか?」
「いいえ、エレンが勝手に転んで擦り傷を作っただけです」
「つーか、俺がこんな弱っちいやつに負ける訳ないだろ」
「さっきまで大声で泣いていた人の台詞とは思えないわね」
「何だと!」
ギスギスした雰囲気の中歩いていると、マリアとシガンシナの境の門のところでハンネスさんに会いました。
「おいおいお前ら、なぁにピリピリしてんだよ。遂に反抗期ってやつか?」
「「違う(います)」」
すると彼は困った様に笑いながら、息をひそめて言いました。
「まぁその事は置いといて、だ。最近ユトピア区のウォール教の司教が、自らあちこち出向いて布教活動を行っているらしい。司教本人は穏やかな性格らしいが、護衛の人間の中に狂信者が混じっているそうだ。近々シガンシナ区へ布教しに来るっていう噂もあるから、お前らも気をつけろよ」
またウォール教ですか!もういいよ、お腹いっぱいだよ。
「貴重な情報ありがとうございます。気をつけます」
「ああ。そうしてくれ」
「それでは失礼します。エレン、行きましょう」
「はあ?何でお前に指図されなきゃいけないんだよ」
「いつまでもその格好でいるつもり?」
「……わかった」
歩いている途中、エレン達と年の近そうなゲス顔の3人組に会いました。
「よー、エレン。お前、自分よりちっこいやつに肩借りてんのか?カッコ悪いな」
「カッコ悪いな」
「つーか、誰だあいつ?」
人に向かって指を差すのはいけません。お馬鹿さんのすることですよ……。
「さあ?知らないやつだ」
「……あ、確かぜーきんドロボーの、ちょーさ兵団の女にぐるんぐるんって、ふりまわされてたやつだ!」
「こいつもダメなやつか!」
「やつか!」
何も知らないのに侮辱しないでほしいな。自分も可愛いげのない子供だという事は自覚しているけれども、それを差し引いても可愛くない子達だなと思ってしまいました……。
「うるせえよ、あっち行けよお前ら」
「何だと!?」
「エレンのくせに、なまいきだ!」
「そうだそうだ!エレンとアルミンがずっと遊べるのに、俺たちだけ遊べないのはズルいぞ。学校来いよ」
「ズルいぞ!」
この区に学校あるんだ。2人はずっと頑張ってきたし、分からないことはそれぞれの家族に尋ねて消化してるって聞いてたから、行かなくても事足りてるんじゃないかな。
「俺たちでダメなやつらをしゅくせーしてやる!」
「してやるー!」
そう叫ぶとゲス顔3兄弟(名前しらないし)は此方に飛びかかってきました。これって体格差的に正当防衛ですよね?
「てえい!」
都合良く落ちていた木の棒を掴み、3兄弟の中でも大柄な子どもの腹に突きを入れました。そして、こちらに掴み掛かろうとしてきた1人の手首に降り下ろします。樹皮が両手に刺さって痛いのは、後でなんとかしましょう。
「いってえ!」
「こいつ、ケンカなれしてやがるぞ!」
しかし案外動けますね。薬の効果は大きかったみたい。
「放せよ引っ張るな、服が破けちゃうだろうがっ」
「おいお前。動くな!エレンがどうなってもいいのか!」
……エレンが人質に取られてしまいました。
「おおっでかした!」「かしたー!」
「そのまま棒を地面に捨てろ」
「わかったからエレンを放して」
私はいいけど、喧嘩してるとしてもエレンが怪我するのは嫌。だから捨てました。
「集中的にやっちまえ!」
「「おう!」」
自分の頭を庇ってしゃがみこみ、隙間から様子を伺うとエレンは3兄弟の1人に捕まえられているだけで、新たな怪我はしていません。ドカッ、バキッっという音が自分の背中や脇腹から断続的に聞こえます。
「ぐぁっ」
「おい、やめろよお前ら!放せよ!」
体を転がされて鳩尾に蹴りが入った為、思わず声が出てしまいました。あと数発ずつ位かな?まあいいか。グリシャさんの薬でちょっと体力ついたもの。いつもなら野原からイェーガー家までゆっくり歩いても、1時間くらい座り込んだまま動けなかったから。子供の力なんて高が知れているし、エルヴィンさんに会う前に治るでしょう。
「もう、やめろよおおおお!」
エレンが泣きそうになった所で男性の良く通る声が聞こえました。
「何をしているんだい?」
「ほっとけよ、子供のケンカに口出すな!」
「君達のやっていることは喧嘩の範疇を越えている。教会の部屋に来なさい。じっくりと話をしようか」
「教会?……こいつ、普通の格好だけどウォール教だ!」
「ヤバい、逃げろー!」
「逃げろー!」
3兄弟はエレンを突き飛ばして逃げて行きました。
「ティエラ、大丈夫?」
顔を上げると、エレンが涙目でこちらを心配そうに見ていました。
「うん。心配してくれて、ありがとう」
「君は、もしや病院の……女の子だったのか」
男性の方を見ると、あの時のウォール教のお偉方でした。彼は私達に目線を合わせるためにしゃがみました。あの時は怖くてちゃんと見れなかったから分からなかったけれど、この人も白い髪でした。それに青紫色の目をしています。珍しい。
「貴方は……?」
「ああ、私はユトピア区でウォール教の司教をしている者だ。シガンシナ区で布教の前にお忍びで町の様子を見ようと思っていてね。だからそうだなぁ……、普通の服の時はタデウスと呼んでくれ」
「分かった!俺はエレン。こいつはティエラだ。よろしくな!」
よろしくないよっ、性別と名前がバレたああああぁっ!
ふとムキムキ護衛ズの存在を思い出した私は、必死でパニックを悟られないよう、嘘笑顔をする羽目になったのでした。