進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~   作:茄南詩

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プロローグ終

 気が付くと私はふんわりとした寝台に寝かされていました。部屋の中には簡素ながらもなかなか質の良い調度品が置かれていると、漠然と思いました。

 

 自分の体に視線をやると、相変わらずですが、心なしか気を失う前よりも体調が良いと感じます。一体ここはどこなのでしょうか?上体を起こしたまま思案していると扉がゆっくりと開き、部屋にお湯の入った桶と布を持った若い女性が入ってきました。琥珀色の目ということは、土の素質が高いのかしら。

 

「良かった、気がついたのね!お医者様と班長を呼んで来るから、ちょっと待ってて!」

 

 そう言うと女性は荷物を彼女の腰位の高さの箪笥の上に置いてから、パタパタと足音を立てて去って行きました。栗色のポニーテールが左右に揺れていました。爽やかな笑顔が素敵な人だなぁ。お医者様を呼んで来るということは、運が私の方に向いてきたのかしら?

 

 寝台横の机には、小さな水差しと湯のみ?が置いてあったので、少し注いで飲みました。それから上体を起こして待っていようと思ったのですが、途中で少々疲労感を覚えたために横になって待ちました。枕がとても柔らかいです。少し経つと先程の女性と見知らぬ男性2人が現れました。女性は男性達を部屋に通すと一礼して去って行きました。

 

 困りました、どちらがお医者様なのでしょう?

 

 そういえば、前世でも体調の悪い時、お医者様に診て頂いたことはありませんでした。出陣の前に美味しくない漢方薬を、イツ花にご飯に混ぜて貰い、半ば自棄になって摂取していた記憶があります。皆はどうしているのかしら?

 

 ああ、忘れていました。あの時の選択に関して誰も反論しなかったけれど、呪いを続けたくせに勝手に直ぐに死んでしまったことによって、余計に恨まれているでしょうね。一体私が死んでから、どのくらいの月日が経っているのでしょうか? ……いいえ、考えるのは止めましょう。この世界の一般人の生活水準をみるに、あの頃にはもう帰れるはずもありません。なのに寂しい、あの家に帰りたいと思ってしまいました。

 

 感傷に浸っている間に、彼らは寝台の近くへ椅子を引き寄せて座り、居住まいを正しました。そして、黒髪を長く伸ばした男性が、先に口を開きました。

 

「やあ、はじめまして。私は医者のグリシャ・イェーガーと言う。本当に良かったよ、君はこの2日間、目を覚まさなかったんだ」

 

 子供にも分かりやすいようにと、言葉を噛み砕いて説明する様子に好感を持ちました。礼儀には礼儀で答えるべきですね。私は上体を起こし、寝台の上で正座をし、向き合います。

 

 ……少しはしたないけれども、この寝台が凄くフカフカなのが悪いのです。

 

「はじめまして。このたびは、助けていただきまして、ありがとうございます。ここは名乗るべきところですが、あいにくわたしは自分のなまえを知りません。ごぶれいを、おゆるしください」

 

 そして彼らに向かって座礼を行いました。(因みに最敬礼だと堅苦しいだろうと思ったので、普通礼にしました。)

 

 

 

 

 

 あら?返事が返ってきません。どうしましょう、怒らせてしまったのかしら。やはり寝台の上だったのがいけなかったのかもしれません。

 

 だって、フカフカだったんですもの!

 

 それから私は体勢を保っていたのですが、体がプルプルと震えるのを抑えつける事が限界に感じてきた頃に、漸く返事が返ってきました。うむむ、もっと体力をつけなければいけませんね。

 

「ああ、すまない。顔を上げてくれ。私は調査兵団で班長をしている、エルヴィン・スミスという。君は大変な苦労をしただろう。だが、安心してほしい。あの組織は憲兵の友人と協力して、大方壊滅させたからね」

 

 顔を上げると、その人と視線がかち合いました。

なんでしょう?気のせいか、私を通して誰かを見ている様な……?

 

 よく分からない違和感を感じながら、視線を交わし続けていると、扉がカチャリと開いて、先程の笑顔が眩しい女性が食器の載った取っ手付きのお盆を持って入ってきました。良い匂いが漂ってきます。

 

「お待たせしました!おちびちゃんのごはんを持ってきましたよー。って、班長!?お医者様も、こんな小さな子に、しかもつい最近まで意識を失っていた子供に何させてるんですか!?」

 

「「……あ」」

 

 それからすぐに私は強制的に寝台に寝かされ、お二人は叱られていました。それから、お医者様から私の体調についての説明を受けました。要約すると、意識のない間に点滴で栄養補給をしたけれども元気になるにはもう少し時間がかかるということ、食事面では、最終的に固形物をしっかり食べられるようになることが目標だという話でした。また往診に来てくださるそうです。

 

 そして、待ちに待ったごはんの時間になりました。

 

「どうぞ召し上がれ♪ テリー特製、野菜スープですよー」

 

 彼女はスープを木のおさじで掬うと、私の口元へ持っていきました。色とりどりなお野菜達は、とても小さく、賽の目状になっています。こんなにゆっくりと食事をとれるのは前世以来初めてです。

 

「たべても、いいんですか?」

「うん、遠慮なくどうぞ!」

 

 この体の持ち主だった子がくれた記憶の中の、食事の記憶を探して見てみると、陰惨なものでした。あの家ではパンをもらえたものの、固すぎて食べられずにいたようです。そして、家に誰もいないときを見計らって、水でぶよぶよにふやかし、大急ぎで口の中に詰め込んでいたのです。またある時は、床に置かれた皿の中の残飯を、詰め子の嘲笑を浴びながら。

 

 もしもあの子がこの体に戻ってくることができるのならば、私は潔く消えましょう。今までの記憶を見ることが可能なのですから、可能性は全くない訳ではありません。

 

 スープを口に含むとじんわりと温かく、一瞬テリーは叱る時間まで計算していたのだろうかと思ってしまいました。お野菜達の旨みが感じられて、とても幸せな気持ちになります。テリーはにこにこと微笑みながら、食べさせてくれています。

 

「美味しい?」

「はい。とてもおいしいです」

 

 いつの間にか涙が頬を伝っていました。首に掛けてもらっていた前掛けで、拭いても拭いても止まりません。テリーは私を抱き寄せて、私が落ち着くまで頭を撫でてくれました。

 

 食事を終えると班長さんは、畏まって私にこう言いました。

 

「よく聞きなさい、君の処遇についての話をしよう。君が売られかけた人身売買組織の被害者の身辺調査を行ったところ、ほとんどが君の様な家庭環境に身を置かれていた。あの時はウォールローゼ有数の豪農の一人息子が誘拐されていたから組織立って動く事が出来たものの、あのままでは君は確実に死んでいただろう。

 そして私達が組織を潰した今、事件の被害者達は健康になるまで兵団で預かり、半年以内に健康になった者のみその豪農の所で働く事になっている。所謂ギブアンドテイクというやつだ。使えそうにない者は全て、切り捨てられる。そして君は被害者の中では一番ひ弱で、役に立ちそうもない。確実に切り捨てられるだろう。良くて元の家に戻されるかだ」

 

 それから、彼は私の目をじっと見つめました。私は目をそらさず背筋を正して、そのまま彼の言葉を待ちました。こういう理不尽な時反論の声を上げそうなテリーは、静かに佇んでいました。

 

「君の母親は、調査兵団に所属していた。ウォール教では聖女として讃えられ、壁を巨人の手から守ろうと壁外調査では獅子奮迅の働きを見せていた。

 姉に産まれたばかりの君を奪われ意気消沈していたが、死ぬまで宗教も、兵士も民衆も関係なく手を取り合うこと、敵に立ち向かうことを訴え、自ら証明して見せていた。最期は下半身を喰われ、私に遺書を託して死んだ。」

 

 何だか聞いていた話とは大分異なっているようです。

 

「遺書には君のことを兵団に頼むと。君を姉から取り戻してくれとあった。君は今自由だが、君の戸籍・名字は未だあの家に縛られている。そんな君に1つ提案があるんだ。」

 

 そして、真剣な表情でこう告げました。

 

「私の養女にならないか。私は自分の家族を作らず、一生を人類の為に捧げると決めているが、これからはそうはいかなくなってくるだろう。私の提案を受け入れれば、君はあの家に戻らずに済み健やかに過ごす事が出来るし、私は見合いを断る口実が出来、面倒事の数を減らす事が出来る。悪い条件ではないはずだ」

 

 私はよく考えて、自分の思いを伝えました。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、私、ティエラ・ラルは、ティエラ・スミスとなったのでした。4歳の春でした。

 

 

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