進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~ 作:茄南詩
出会い
私がティエラ・スミスとなってから、一年が過ぎました。体の方はもうすっかり良くなり、栄養不足とむしられた為に所々禿げていた髪も元通りになりました。(あの深々と頭を下げてお礼を言った時に、頭が尻子玉大将みたいになっていたのだろうか。だからその後沈黙があったのでは?もしや笑いを堪えていたのではと思うと、元通りになった現在でも奇声を発しながら部屋中を転げ回りたくなってしまいます。)
今日はイェーガー先生が健康診断にいらっしゃる日です。今回の診断で健康であると太鼓判を押してもらえることが出来れば、同い年の子供達のように外で遊んでも構わないとのことでした。
「ティエラおはよう!」
「おはようございます、テリー」
テリーにはあの日から毎日ご飯や身の回りの世話をして頂いています。体調を崩した時には泊まりこんで看病をしてくださいました。
エルヴィンさんに頼まれたとはいえ、嫌な顔一つせずに甲斐甲斐しく動く彼女に対して、思わず『私の事よりも本来のお仕事を優先して下さい』と言ってしまった事があります。すると、訓練はきちんとこなしているから大丈夫だと、元気な声が返ってきました。また、『エルヴィンさんにお世話分のお給料を頂いているし、事件の被害者のお世話を担当している者は壁外調査が一時的に免除されるから一石二鳥なのよ』という答えも。(因みにその時の彼女は清々しい程にドヤ顔でした。)
エルヴィンさんは近々分隊長に昇進すると噂されていると彼女から聞いていますし、お給料も多く貰っているのかもしれませんね。
エルヴィンさんとの現在の関係を一言で言い表すとしたら、“晴れ時々曇り”ならぬ、“体裁時々腹黒合戦”という言葉が正しい気がします。彼はお仕事の合間を縫って会いにきてくださいますが、時々私の考えや中身を全て見透かそうというような目で私を見るのです。
今のところやり過ごしていますが、仲間の兵士の忘れ形見が偶々その体に憑依してしまった別人格によって動かされている事を知ってしまったら、どう思うのでしょうか。そのためか、彼を目の前にすると未だにスミスさんと呼びそうになってしまいます。本当はお義父さんと呼ぶべきなのでしょうが、エルヴィンさんと呼ぶことも、何となくむず痒いのです。
「今日はフレンチトーストですよー」
「ふわぁ、おいしそうです。いつもありがとうございます!では、えんりょなく」
蜂蜜がたっぷりとかかっているそれを、大きめに切り分けて口に含みます。ふわふわした感触と、優しい甘さが口いっぱいに広がって、美味しかったです。
「いつもおいしいごはんをありがとうございます。わたし、大きくなったら、テリーのおむこさんになりたいです!」
美味しさのあまりとんでもないことを言ってしまうと、彼女は快活に笑いました。
「あはは、そんなに気に入ったの?今度また作るから、楽しみにしていてね」
何にも縛られることなくのんびりとした時間を過ごす事が、こんなに幸福だとは思ってもみませんでした。現在はただ、この時間を満喫しようと思います。
幸せな朝ごはんの時間から3刻半程経った頃に、イェーガー先生がいらっしゃいました。横には気の強そうな可愛らしい子が手を引かれて立っています。正直、男の子なのか女の子なのか、判断が難しいです。
「やあ、ティエラ。元気にしていたかい?この子は私の息子で、エレンと言う。診断が終わったら、私が他の患者を診ている間に二人で遊んでいてくれないかい?」
「はい、よろこんで。はじめまして、エレン。わたしはティエラだよ。しんさつが終わったら、いっしょにあそぼうね」
「おう!よろしくな!」
診察が終わり、私は健康であると判断されました。そして、『体に残る傷痕は、大人になったらほとんどわからなくなるから、気にしなくて良いんだよ』と言われました。私はあの時命を最優先にしていましたし、特に気にしていなかったのですが、性別の問題でしょうか?
「おまたせ、エレン。」
「おそかったけど、だいじょうぶか?」
「うん、もう元気になったよ。だいじょうぶって言われたから」
「そうか、よかったな!」
無邪気な笑顔がとても眩しいです。母性本能が擽られました。
それから先生が彼を迎えに来るまでの間、エレンの話を聞いていました。家族のお話から始まり、アルミンというお友達と外の世界を探検する夢や、そのために調査兵団に入りたいということ、兵団やウォール教の聖女についてのお話を。
「エレンはお父さんみたいな、お医者さまにはならないの?」
「だからおれは、外のせかいをたんけんしたいんだってば」
「でも、たんけんしてるときや、たたかいのときに、びょうきやけがをしたら、だれが助けてくれるの?もしそれまでに、エレンがお父さんにお医者さまのぎじゅつを教えてもらっていたなら、じぶんやなかまを助けることができると思ったの」
術の概念の無いこの世界では、お医者様の技術はとても貴重だと思うのです。エレンのお父様も私の治療の際に術を使ってはいませんでした。それに怪我は術で治せるとしても、私が側にいるわけではありませんし。病を治すことはお医者様にしか出来ない事ですから。
「そうだな。おれ、文字だけじゃなくて、医者のべんきょうもがんばる!あとで父さんに教えてもらえるか、きいてみるよ」
「うん、がんばってね。そのほうが、エレンのゆめをかなえる助けになると思う!」
「おう!」
上から目線な口調になってしまいましたが、嫌がらないのですね。普通の子供はこういう場合反発するでしょうに、素直で可愛いなぁと、感心する心と母性がない交ぜになった気持ちになりました。そして、ふと大事なことに気付きました。
偉そうな事を言ってしまったけれども、私はまだこの世界の文字を教わってはいないのですが、いいのでしょうか?
エレンの話を聞く限り、ウォール教の聖女は母の事だと思います。私も母の様に人の役に立つことを行わなければエルヴィンさんに見捨てられるかもしれませんし、健康になった今の内から行動したほうが良いでしょう。
「エレンって、なんさい?」
「ことしで4才になったぞ」
危ない!捨てられる!?早急に体力作りと文字を覚えなければ!
「エレン。おねがいがあるの」
「なんだ、とつぜん?ゆかにすわったりして。なおったばかりなのに、だいじょうぶなのか?」
「わたしに文字を教えてください!」
エレンに向かって土下座しました。
「おれ、アルミンといっしょにべんきょうしてるとちゅうだから、教えられない。アルミンがいいって言ったら、3人でべんきょうするか?」
「ありがとう!ぜひおねがいします」
こうして、エレンはティエラの心の中で恩人のスペースに分類されることとなったのでした。