進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~ 作:茄南詩
あの宣言から、エレンは人が変わったように勉学に打ち込み始めました。アルミンの協力もあって、私がやっと文字を覚えたと思っていた間に、読み書きと簡単な計算を習得しました。
「がんばったね、エレン。次からは、九九の計算をおぼえようね。このままがんばりつづければ、あと2年くらいでお父さんに教えてもらえると思うよ」
「おう、アルミンのおかげだ。ありがとうな」
「エレンのもくひょうに向かってがんばれるところ、ほんとうにえらいと思う。そんけいするなぁ」
「ティエラだって、計算がとくいだろ?先にならってたおれより速いじゃないか」
あ、それは前世の賜物だから誉めないで欲しいな。ズルしてるみたいで後ろめたいですから。
「それはたぶん、エレンより一つ年上だからかな」
ここは年齢のおかげということにしておきましょう。
「え!?ほんとうに?」
「うそつくなよ、アルミンよりよわっちいのに」
「ほんとうだよ!」
「「えー?」」
……全く信じてもらえないようですね。前世と合わせたら2歳と数ヶ月程年上なのですが、まあいいでしょう。害はありませんもの。
勉強が終わってから、外に遊びに行く途中、ハンネスさんが此方に向かって手を振りながら走ってきました。
「おーい、お前たち。ちょっと来てくれ」
「あんなにあわてて、どうしたんだろうね」
「そうだな。ティエラだったら3回はころんでるだろうな」
「うん。あるいてたとしても、ころんでると思うよ。かくじつに」
「もうその話はいいから!」
「あはは、わりぃわりぃ」
「ふふっ、ごめんね」
その時は3人でふざけながらも、ハンネスさんの満面の笑みに嫌な予感を感じていました。
「この前聞いた巨人の観察の話を月末のミーティングでしたら、その報告書がお偉方の目に止まって、詳しい話を聞きにシガンシナ区へ行くから準備して待っとけって手紙が着たんだ」
「おめでとうございます。しゅっせのチャンスじゃないですか」
「バーカ、お前が考えたんだろうが。面会時にお前たちを同行させるに決まっているだろう。お前らこそ、駐屯兵団に青田買いされるかもな」
「「「え!?」」」
上機嫌に言うハンネスさんに対して、私達の反応は冷めていました。
「おれは、ちゅうとんへいにはならないぞ。たたかう医者になるんだからな!」
「駐屯兵士でも軍医になれるぞ?」
「ぼくは今回のことには、あまりかんけいないと思うんだけど」
「いーや、エレンやティエラに勉強を教えているお前の頭脳は、きっと役に立つはずだ」
「わたしも、ちゅうとんへいになるつもりはないの。しょうらいはエルヴィンさんに恩を返すために、ちょうさへいしを目指すから」
「お前な……お父さんって言ってやれよ。あの人も娘が長生きする未来を望むと思うぞ?」
私達を言いくるめたハンネスさんはアルミンを頭に乗せ、私とエレンをその両腕に、米俵のように担ぎながらシガンシナ区の駐屯兵士の詰所へと連れて行きました。自分の重さでお腹が圧迫されて苦しいです。
「おーい、連れてきたぞー!」
「でかした、ハンネス!」
「良かったな。まだお偉いさんは到着してないぜ」
詰所には2人の兵士がのんびりお茶を飲んでいました。頭に血が上った為か体の調子が悪いので、私も休憩したいです。
「おまえら仕事しろよな!もうおろせよ!」
「応接室の掃除はしてあるから大丈夫なんだよ」
「ああ、今日は飲んでないだけちゃんと頭が働いてるはずさ」
「しっかし他の2人は大人しいのにお前、元気だなー」
エレンはジタバタしながら怒っていますが、ハンネスさんの腕はびくともしませんし、他の兵士さん達の反応も、暖簾に腕押しという感じです。駐屯兵団全体がこのような雰囲気なのでしょうか?
「もう少しで面会の時間なんだから、もう諦めろ。な?」
面会時には、そのにやけた顔は止めた方がいいと思うのだけれど。
やっと床に降ろしてもらえたと一息ついた頃に、ノックの音が聞こえました。お偉いさんが到着したようです。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
お偉いさんの姿が見えたと同時に彼らは一斉に敬礼していました。いつの間にか茶器は片付けられており、その素早さに驚きました。腐っても鯛ならぬ、腐っても兵士ということですね。応接室に通し、お茶を飲みながら話をすることになりました。
「顔色が悪いが、大丈夫かの?」
「はい。いつものことですから」
「むりするなよ?ティエラはちょっと歩いただけで、すぐにフラフラになるんだから」
「うん。しんぱいしてくれて、ありがとう」
エレンの優しさに癒されます。
「お気になさらないでください。かのじょは3人のなかで、いちばん体がよわいのです。ね、ハンネスさん?」
気まずそうな顔をしたハンネスさんに対してアルミンが彼の方を向き、にっこりと笑いました。とても可愛らしいのですが、何故か妙な寒気を覚えました。哀れハンネスさんは、アルミンの顔を見て数秒程表情が固まっていらっしゃいました。……これからはなるべくアルミンを怒らせないようにしようと思います。
「気をつけるのじゃよ?」
「はい、ありがとうございます」
アルミンの黒い笑顔もお偉いさんには通じなかったようです。話し方が前世の父様に似ている為か、とても近しい人のように感じてしまいました。
「儂のことは、ドットと呼んで欲しいのじゃ」
「はい、かしこまりました」
「はい」
「おう!」
それから他愛のない世間話をした後に、本題に入りました。
「さて、そろそろ仕事の話をしようかのぅ。シガンシナ区の議事録に発案者はティエラだと書いてあったのじゃが、それは間違いないかの?」
「一応そうです。このあんは、実現可能なのでしょうか?」
「そうじゃのぅ。水に強い塗料ならあるのじゃが、観察や塗料を投げつける為に壁を登るとなると、ウォール教徒からの苦情が面倒なのじゃ。兵団のパトロンの中にも信者がおるからのう」
「かべの近くに、かべの外を見ることができる小屋をたてて、そこから見たらいいのではないでしょうか?」
「それもそうじゃな。兵団の建築士と相談してみようかのぅ」
「ちょうさへいし達ともれんけいして、かんさつにあたることも、じゅうようではないかと存じます」
何かに耐えるかのようにウズウズしていたアルミンが、口を開きました。
「詳しく教えてくれんかね?」
「はい、かんさつする地区ごとに色をわけて、へきがいちょうさの時に倒したきょじんに、どの色がついているのかどうかや、とりょうの色のこさ等から、きょじんの活動パターンを、さぐることが出来るのではと、考えました」
「うむ、兵団全体の会議で進言してみよう。」
その後も話し合いは続き、いつの間にか夕日が壁を照らす時刻になっていました。
「それでは、失礼するとしようかの」
「「「はっ、ありがとうございました!!」」」
半ば風景と化していた駐屯兵士たちは、一斉に敬礼しました。
「3人とも、達者でのぅ」
「「「はい!」」」
ドットさんは、馬車に乗って去って行きました。
久しぶりに暗記以外の頭を使うことが出来て、とても有意義な時間を過ごす事が出来たと思います。
「おえらいさんっていうから、やなやつじゃないかと心配してたけど、そうでもなかったな」
「そうだね。あんしんしてお仕事ができそうだね」
「ぼくもそう思う」
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所変わって馬車の中では、2人の男性が会話をしていました。
「何故名前だけで姓を名乗らなかったのですか?」
「初対面の間に畏まられても、彼らの人柄が判断出来んからの」
「彼女はやはり……」
「人類を思う心と頭脳。エルヴィンと、今は亡き聖女にそっくりじゃよ。」
「ですが、あのままでは足元をすくわれかねませんね」
「うむ。無自覚に敵を作りかねん。母親のように、卑劣な罠に引っ掛かりそうじゃ」
「我々は今はまだ、見守る事しか出来ないのですね」
「そうじゃ、彼女は将来必ず窮地に立たされるじゃろう。儂はあまりシガンシナへ赴く事は出来んが、お主も密かに彼らを見守ってくれんかね?」
「かしこまりました。もう、2度と繰り返しません。ピクシス司令」
「うむ、頼むぞ」
男性は司令に向かって、敬礼しました。目を閉じると現在もなお鮮やかに、彼の初恋の女性は微笑みを浮かべているのでした。