進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~   作:茄南詩

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置いてきぼりの家畜

「……うそでしょう」

 

 それは、ドットさんと議論を交わしてから1年と半年後のある肌寒い日。朝起きると、髪が前世のような水色に変色していました。以前から変色する兆候はありました。エレンやアルミンの家にお泊まりをした夜に、髪が水色に光って見える時があると、彼らに指摘されていたので。覚悟はしていましたけれども、こんなに青くなるとは。

 

 すぐに扉に鍵を掛け、ひとまずほっとすると同時に床にへたりこんでしまいました。今世で髪の青い人間はいません。誰かに見られでもしたら、解剖又は拷問コース確実でしょう。

 

「よし、切ろう」

 

 現在私の髪は、胸の辺りまで伸びています。準備として赤玉を唱え、暖炉に火を灯しました。それからハサミを手に取り、鏡を見ながらザクザクと切り揃えていきます。エレンと同じ位の長さに整えた所で、切った髪を纏めて暖炉に捨てました。テリーが来る前に証拠を隠滅しなければ。

 

『お焔[火力:やや緩やか、範囲指定:暖炉内、燃やす対象:切った髪のみ]』

 

 暖炉から火が出ないように調節しながら、一気に燃やしました。

 

『清水[範囲指定:手のひら、時間:火が消えるまで]』

『風車[目的:消臭、時間:臭いが消えるまで]』

 

 火を消して窓を開け、髪が焼けた臭いを外へ流しました。短く切ったものの、鏡を見ても髪が水色に光っていることに変わりありません。しかし、心なしか術を使う前より色が薄くなっている気がします。もしかしたら、技力が体の許容量を越えたことが原因なのかしら?

 試しに窓の側や部屋の隅に置かれた植木鉢に力を注いだり、木でできた椅子の背もたれから木苺等の果物を生やしてみましょう。

 

 そうやって私の中の技力の2/3が無くなった頃に、いつもの髪色に戻りました。私の力を注いだ植物たちは活性化しているようで、昨日枯れかけていたものも瑞々しくなっています。とりあえず椅子から生えた果物をもいで小皿に載せ、引き出しの中に隠しました。椅子から突き出た枝を燃やし、換気が終わった頃に、テリーがこちらに向かってくる足音が聞こえました。

 

「おはよう、朝ですよー!って、ええ!?」

「おはようございます。今日も元気ですね」

 

 扉が勢い良く開け放たれたと同時に、彼女の目はこぼれ落ちんばかりに見開かれました。

 

「髪はどうしたの!?こんなに短くなって、誰にやられたの!」

「最近洗うのに時間がかかってしまうので、自分で切りました」

 

 それから30分程お説教されました。髪ごときでこんなに怒られるとは……

 

「もう、それにしたって切りすぎよ。せっかく最後の日なんだから、おしゃれして2人で内地に買い物にでも行こうと思っていたのに」

「最後の日?どういうことですか?」

「先日、団長からの通達が届いたの。もうあなたは友達も出来たし家事位しか私を必要としていないのだから、2ヶ月後の壁外調査に出るように。ティエラには新しい家政婦を派遣するからって。冬だし巨人の動きも夏よりかは鈍くなっているから、肩慣らしに良いだろうって書かれていたけれども、今よりも訓練に時間を費やすことに越したことはないと思って」

「テリーって強いの?巨人を何体討伐してきたの?」

 

 震えが止まりません。また私は失うの?

 彼女は今世で優しくしてくれた、大切な方の内の一人なのに。

 

「5m級を3体と10m級を2体かな。兵士になってから討伐補佐をしていた時期がほとんどだったから。そんなに怖がらないで。大丈夫よ!あなたのお世話をしていても、きちんと訓練に励んでいたんだから。私は死なないわ」

 

 壁外調査へ赴くエルヴィンさんに毎回しているように、彼女の手に両手でそっと触れ、にっこりと笑いました。

 

「……はい。御武運をお祈り申し上げます」

 

 それから内地へ買い物に向かいました。数年は着られるであろう大きめの礼服を1着と普段着(今回はスカートではなくズボンでした)を数着購入し、喫茶店でお茶を飲んで帰りました。テリーは終始にこにこ笑っていましたが、私はうまく笑えていたでしょうか?

 

「これからもまた、会えますか?」

「うん!何か用がある時は、調査兵団の女性寮においで。私は貴女の味方だって事、忘れないでね」

 

 彼女と別れてから部屋に戻ると、私は柄にもなくベッドの中で声を殺し、疲れて眠るまで泣き続けました。 次の日から家事をしてくださる老婦人がいらっしゃいましたが、あくまで事務的な対応に徹しており会話も最低限。毎日の楽しみであった食事も味気ない物へと変わってしまいました。

 

 口淋しさに余剰分の力を果物に変換し、時々口に含んでいましたが、机の中を探られた際に残りを引き出しの中に隠していた事がバレてしまい、折檻の後、取り上げられました。ついでに礼服と、髪を切るまで着ていた服までも、全て。

 

 テリーとの思い出の品を守るため、散々抵抗したけれども大人の力には勝てませんでした。花連火で脅すか、

常夜見の応用で頭を弄ればなんとかなったかもしれませんが、後々の自分の首を締めるだけでしょうし。体力のない自分が憎い。(因みに、それからの私の名前は泥棒チビになりました。)

 

 テリーはエルヴィンさんから頂いた食費や生活費を、浮いた分は自分の物になるのに、惜しみなく使って下さっていたことを、今頃になって知りました。だからこうなる事を見越して、最後に買い物に行ったのですね。私は兵士になるまでは結局、飼い殺しなのだから。

 

 テリー、貴女に会いたい。けれども、訓練の邪魔になるかもしれないと思うと、会いに行くことが出来ずにいました。

 

 

 

 

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「おい、ティエラ!お前、いい加減にしろよな!いつまでウジウジしてんだよ、うっとおしい!」

「エレン、さすがに言い方きついよ!?」

「アルミンは黙ってろよ!今のこいつは只の家畜じゃないか。いっしょに俺の夢を近付ける手伝いをしてくれたお前はどこ行ったんだよ!?」

「あ……ごめ、なさ……」

 

 いつもの勉強会の際、エレンが机を勢いよく叩いて激怒しました。風当たりがきつくなり、なかなかシガンシナ区へ会いに行くことができない中、彼らは態度を変えずに接してくれていたのに、一体私は何をしているのでしょうか。

 

「ねえ、僕らに話して?何があったの?今までは忙しくても週1回は必ず会えていたのに、2回も連絡無く休んで。やっと会えたと思ったら、髪は短いし男の子みたいな格好をしているし、なにより今日は1度も笑顔を見てないよ。エレンも僕も、君の事が心配なんだよ?」

「ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ」

 

 それからみっともなく泣きじゃくり、テリーとお別れをしてから居場所が無くなったことや、髪を切るに至った経緯を彼らに話しました。

 

 実際にブドウを一房、テーブルの角の所から生やすと2人は目をキラキラとさせました。彼らを見ていると、和みます。

 

「ティエラ、すげぇ!このブドウ、種が無いし凄く甘いな」

「うん。ひんやりと冷たくて、本当に美味しいや。その術の力って、凄く便利じゃないか。僕達も使えないかな?」

 

 困りました。もし術を教えたとして、素質が足りなかったとしたら?アルミンは賢いとはいえ、6才になったばかり。エレンに至っては、まだ5才。習得出来たとしても、使用している所を誰かに目撃されたら?幼い彼らを、その家族を危険に晒す事になる。最悪、私が彼らを間接的に殺してしまうという結果に繋がるかもしれない。

 

「果物は術で生やしているんじゃないの。術は元々、戦闘に特化・形式化されているものだから。当主の指輪も無いし、発動に必要な技力・素質が2人にあるのかどうか、わからないわ」

 

 私は髪の色が変色した所をもし誰かに見られたらと、いつも冷や冷やしているんだよ。2人までそうなってしまったら、どう責任を取っていいか……

 

「でも、この力があったらテリーさんに恩返しが出来るじゃないか。大切な人なんだろう?」

「そうだよ。壁外調査まであと1月あるんだから。自分に何が出来るのか、よく考えてみて?」

 

 私に出来る事は……

 

 

 

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