進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~ 作:茄南詩
「2人に手伝ってほしいことがあるの」
「おう、任せとけ」
「僕に出来る事なら何でもするよ」
やはり持つべきものは友人ですね。感謝してもしきれません。
「アルミンの家では綿花も育てていたよね?」
「うん、みんなでいっしょに観察したね。今年はいつもより沢山収穫できたっておじいちゃんが言ってたよ。綿が必要なの?」
「ありがとう。自分で何とかするから大丈夫よ。アルミンのお家から分けてもらったっていう口裏合わせと、作業をするための道具と場所を貸してほしいの」
自室で作業していて、また泥棒扱いされたり妨害されても困りますから。
「わかった。でも、エルヴィンさんにはちゃんと誤解を解くんだよ?君は何も盗ってないんだから」
「……それはあの人の目の前で術を使えってこと?拒絶されるかもしれないと思って、2人に見せることさえ、すごく怖かったのに。」
家に珍しく帰って来た時でさえ、必要事項以外話したことがないのです。それに前回の壁外調査以来、お会いしていません。あの人がどんな反応をするのかもわからないのに、どう説明すればいいの?今の状態では無理だよ。
俯いた私の頭を、エレンはぐしゃぐしゃとかきまわしました。
「まあ、やることやってから考えような。で、俺は何したらいいんだ?」
「どのくらい時間が掛かるかわからないけれども、エレンはグリシャさんといっしょに“強壮体火薬”の作製をお願いしたいの。レシピと諸注意は今書くね」
「なんだそれ?」
「簡単に言うと、飲むと筋肉をつけるのを助けてくれる薬よ。(訓練や実戦の方が効果が大きいし、薬に頼るのみならば、あっという間に戦死するでしょうけれど)」
「すげえ!出来たら俺も飲む!父さんと相談してくるよ。じゃあまたなっ」
エレンは一目散に自分の家へと駆け出して行きました。本当は力士水のほうが効果は優れていますが、強壮体火薬のように、永久には続きません。巨人との遭遇中に効果が切れるという、最も避けるべき危険性がありますから。まずは基礎体力の底上げシリーズから始めましょう。
化け物から分捕った薬の組成を解析し、詳細な記録を遺して下さった数代前の御先祖様に、感謝感激です。それに、グリシャさんならば、きっと飲みやすく改良してくださると期待しています。再現が上手くいったら他の薬シリーズも依頼しましょう。
「作業には、僕の部屋を使ってね」
「ありがとう」
アルミンの部屋に案内されました。早速取り掛かりましょう!現在の技力は髪が染まるか染まらないかの境界線ギリギリですし、アルミンの家族は夕方まで戻ってこないため、遠慮せずに使いますね。
部屋の真ん中に立ち、両手を下に翳しました。
「生えろ~、生えろ~、綿花ちゃーん!」
「うわわ!?」
床一面を綿花でいっぱいにしてしまった為、アルミンがびっくりしています。……気合いを入れすぎました。
「ちょっ、動いたら踏みそうで動けないよ」
「ごめん。今すぐ収穫するから、ちょっと待ってて」
「綿を入れるものはどうするのさ。もう!手伝うから、そこの籠を使って?」
「うん。いつもありがとう」
それから収穫し終わった籠をアルミンに持ってもらって、残りの必要ない部分は太刀風で切断・お焔で灰にしました。風車を唱えて窓の外に捨てようと思いましたが、アルミンが肥料に使いたいと言ったので、ひとつまみ分も床に残さないように、袋の中に入れました。
「ふう、結構疲れたね。次は何をするの?」
「えっと、糸紡ぎと布を織るの。御守りを2つ作りたいから。必要な道具は、糸紡ぎの為の木の棒と、裁縫箱と、正方形の板に釘を等間隔に打ち付けたものかな。あとは、中に入れる護符を作るための、書く部分の方へいくほど長細い筆と、紙と、墨だね」
必要なものを指折り数えていると、アルミンは次にするべき事を提案しました。
「じゃあ、先に護符を作ってしまおう。筆と自由に使って良い紙は、この前お母さんと作った植物紙があるよ。気になったんだけど、すみって何?インクじゃだめかな?」
墨が無いのか。……今から作るとなると、材料調達や作業に大人の力が必要ですし、取り掛かれたとしても完成はエレンの誕生月近くになってしまいます。今回の壁外調査が無事に終わってから、作ろうかな。
「効果にどう影響するのかわからないけれども、そのインクを使ってみる。1枚書き終わってからテストするね」
「わかった」
筆にインクを浸し、技力を筆の先まで浸透させながら紙に書いていく途中、アルミンが質問しました。
「ティエラって、石板に文字を書くときよりも、筆で書いた方が綺麗に書けてるね。何で?それに、この文字は何て書いてあるの?おじいちゃんの本で似たような文字を見たことがあったけど、全然読めなかったんだ」
「何でだろうね。わからないや。あと、これは文字じゃなくて模様だよ」
前世で日常的に使っていたので筆の方が書き慣れているからです。アルミンは鋭いなぁ。思わず模様って言ってしまいました。術が使える事は話したけれども、それをどこで覚えたのか、薬のレシピもいつ知ったのかは、誰にも伝えてはいません。エルヴィンさんに会う前の事や、前世については言わずもがなです。
アルミンにさえ誤魔化しの為の言葉が出るようになってしまった自分に嫌気が差します。エレン達との友情がもう少し続いたら、夢で見た物語として前世の事を、初代様のお話から話してみようかな。
書き終わってインクを乾燥させた物をテストしたところ、インクを使用しても問題ないようです。
「ええ!?何で紙が消えちゃうの?」
「そういう仕様なの。効果は1回だけ。だから御守りの布でカモフラージュするんだよ?」
「仕様って……ええー」
「効果が有るのか無いのか。そっちの方が重要なんだよ」
一族の家訓は『細かい事より明日の命。大死一番!』でしたから。
護符を書き終わった後は、もう一度それに技力を込めてから、アルミンと、途中で帰って来たエレンといっしょに糸を紡ぎました。御守り分の糸を紡ぎ終わった所でアルミンの家族が帰宅した為、今日はお開きとなりました。
彼らにご挨拶してから、御守りの材料を3人で片付けました。そしてお夕飯を皆でいただいてから、帰宅の途につきました。久しぶりの優しい味に、心まで温かくなりました。
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「只今戻りました」
帰宅すると、家政婦さんとエルヴィンさんが玄関で待ち構えていました。何これ。
「ティエラ。ヴァーツェルが、君が貴族が所有する畑から盗みを働いたと報告してきたのだが、本当かい?」
「あ……」
……胃の中がひっくり返りそうです。というか、久しぶりに会って開口一番それですか。
エルヴィンさんの部屋に通されてから、家政婦さんはエルヴィンさんに向かって、口を開きました。
「このヴァーツェルは、農家で育ちました。ティエラさんが隠していた果物は質が高く、庶民が普段から口に出来るような物ではありません。まさしく、貴族様に献上する為に育てている物のようでした」
どうしよう。このままだとエルヴィンさんだけではなく、この嫌味なお婆さんにまで、木製家具から果物を生やすところを実演しなければならなくなる。
誤解を解こうと言葉を発する事が出来なかった私の反応を、彼は無言の肯定であると受け取ったようです。表情が全くありません。顔から抜け落ちてしまった後のようでした。
「……この事は、他には誰が知っているんだい?ヴァーツェル」
「安心して下さい、旦那様。ヴァーツェルは口が固いので、旦那様にのみ、お知らせ致しました。しかし、幼い内から手癖が悪くては、録な大人にはなりません。」
「そうだな。……躾に一番効くのは痛みだろうな。鞭を持ってこい、ヴァーツェル」
「はい、旦那様」
そして、彼は彼女が持って来た鞭を手に取り、私の尻に何度もそれを降り下ろします。声を出さないよう耐えながらヴァーツェルを睨み付けると、彼女は情けない悲鳴を上げました。すると、降り下ろされる鞭の威力が上がりました。思わず呻くと、彼女の口角が上に向くのをはっきりとこの目で捉えました。
彼がとても手加減をして下さっているという事は、頭では理解しています。けれどもしなる鞭の音を聞くたびに、温かい思い出が一つ一つ、闇に食べられていく様な気持ちになるのです。体よりも心が痛い。
こうして私は、いつの間にか意識を失ったのでした。