進撃の朱点童子 ~2度目の人生もハードモード?~   作:茄南詩

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臆病者の覚悟

 朝起きると、エルヴィンさんが隣で私を抱きしめるようにして寝ていました。何故に?昨日鞭打たれた時、完全に愛想尽かされたと思っていたのですが。……ちょっとお尻が痛むので、泉源氏をかけました。

 

 家に居るのは休暇を取ったからだということは理解出来ます。しかし、どうしてここで寝ているのでしょう?彼の両足は現に、ベッドの縁からはみ出ているのに。

 

 いつも多忙な彼のため半分、起こした時の反応が怖い半分な理由で、なるべく静かにベッドから抜け出しました。

 

 この身体に入ってから、もうとっくの昔に前世よりも長生きしていたのだと、しみじみと思いました。しかし、精神が身体の大きさと同じ位、幼くなってしまっているような気がします。前はこのくらいの大きさで初陣に出ていたのに、情けない。

 

 前世は、人間関係に悩む事はありませんでした。

 

 当主になってからも、宿敵を槍で突き殺すこと・効率良く鬼と戦うこと・血を絶やさぬよう、優れた素質の子を残す事のみ考えていれば良かったから。周囲も一族の悲願を果たすという目標の元、何だかんだ言っても一致団結していましたし。

 

 壁にかかっている鏡を覗き込むと、血色の悪い、男の子のような自分がこちらを見返しました。生来身だしなみには無頓着だったけれども、髪の変色が起きてからは、鏡を見ることが毎朝の日課になっています。髪は……3日くらいは安心して過ごせるでしょう。さて、今日も頑張りましょうか。

 

 時計を見ると、8時過ぎを示しています。部屋の観葉植物に水やりと、元気のない子には技力を注ごうと思います。それから、今日は家政婦さんが休みなので、自分とエルヴィンさんの分のご飯を用意してから、アルミンから貰った宿題に取り掛かりましょう。ゆっくり休みたいであろうあの人に、不快な顔を長い間見せてしまうのも悪いですし、午後からはシガンシナ区へ、お守り作りの続きをしに行きましょうか。

 

 身支度を整え、今日するべき事を考えていると、エルヴィンさんが身動ぎをしてから目を開けました。

 

「おはよう、ティエラ。早起きだね」

「……おはようございます、エルヴィンさん。今日は、お仕事はお休みなのですか?」

「ああ。今日と明日は家に居る予定だ」

 

 会話に困ります。どうしましょう?とりあえず、困った時には笑顔です。頑張れ、私の表情筋!

 

「ティエラ、こちらに来てくれないか」

「はい」

 

 ベッドの近くへ転ばない位の早足で行くと、彼は私の方へと手を伸ばしてきましたが、無意識にびくりと体を強張らせてしまいました。彼の手は空中で止まっています。

 

「「あ……」」

 

 お互いに固まってしまい、気まずい空気に包まれましたが、玄関を叩く音がそれを吹き飛ばしました。

 

「朝早くにすまない。エルヴィンは居るか?」

「ティエラ、おはよー」

 

 ドアを開けると、イェーガー先生とエレンが立っていました。

 

「おはようございます。少々お待ち下さいね」

 

 応接間に案内してから、エルヴィンさんが身支度を終えるのを、お茶を淹れて待ちました。エルヴィンさんが部屋に入ったので、3人にお茶を出してから退出しようとしましたが、ここにいてほしいと言われました。現在、私とエルヴィンさん、お向かいにイェーガー先生とエレンが隣り合ってソファーに座っています。

 

「尋ねたいことは、これだ」

 

 彼はテーブルに紙を乗せました。

 

「グリシャ、この紙は……?」

「昨日息子が、『ティエラからキョーソータイカヤクという薬のレシピを石板に書いてもらったから、いっしょに作ってほしい』と言ってきた。これはその写しだ。どこで覚えたんだい?上手く使えば、兵士の役に立つだろう」

「私は何も聞いていない」

 

 エルヴィンさんはムスっとした顔になっています。

 

「なんでティエラの父さん、怒ってるんだ?悪いことしてないのに」

「それは彼女が隠し事をしているからだよ」

 

 ……居心地悪い。

 

「それで、完成はいつ頃になりますか?」

「ああ、それ「質問に答えなさい」」

 

 エルヴィンさんはイェーガー先生の声を遮りました。

 

……答えても、信じてくれないでしょう?

そう思うと、口の内がカラカラに乾いて話すことが出来ません。

 

「怖い顔するの、やめろよな。ビビってるだろ。だからしゃべれなくなってるんじゃないか。ティエラの父さんなのに、何でわかんないんだよ」

 

(他人なのに、庇ってくれるの?)

 私は目を閉じ深呼吸をしてから口を開きました。

 

「……ありがとう、エレン。もういいよ、充分だから」

 

 そしてエルヴィンさんの方を向いて、告げました。

 

「これから話すことを、最後まで聞いて下さいますか?無理ならば、私達は理解し合う事は出来ないでしょう。私という存在が貴方の負担になるようであれば。また、この家から出ていけと言うならば、私はそれに従います」

「……仮にこの家から出ていけと言ったとして、どうするつもりだ」

 

 エルヴィンさんは厳めしい顔つきのままです。

 

「直ぐに出て行きます。荷物は全て置いて行きますが、流石に今着ている服は、着たまま出ていっても構いませんか?」

「……好きにするといい」

 

 仮にと言っても、少なからず出て行ってほしいということでしょうに。出て行った後か……槍が無いのは心許ないけれども、壁の外に出てみたい。巨人に喰われたとしても、少しでも壁外調査の露払いが出来たら本望です。よし、行こう。

 

「では、今までお世話になりました。失礼します」

 

 私は席を立ち、彼らに向かって一礼しました。そして扉の方へ歩いて行こうとすると、エレンがこちらに走ってきて、頭突きをしました。地味に痛い。

 

「何でそうなるんだよ!家族だろ!?」

「家族じゃないよ。エルヴィンさんは、私と血が繋がってないし、ほとんど話した事もない。母の遺書の通り私を引き取ってくれた、只の律儀な人だよ」

「じゃあ1人で出ていくってのは、どうするつもりだよ。死ぬ気か!?」

「……貴方には関係ないことよ」

 

 すると、両肩をガシッと掴まれました。

 

「ふざっけんなよ!さっきから『エルヴィンさんが嫌なら』って言ってるけど、自分はどうしたいんだ。この前、髪の毛と果物の話をアルミンと俺にしたとき、泣いてただろ。それだけ悲しかったんだろ?それに、俺達に嫌われるのが怖かったって言ってたよなぁ?何でそれを父さん達にも伝えないんだ!何で1人でどっか行こうと、自分が消えても構わないみたいな事言ったり、したりするんだよ。何で、何でだよぉ」

 

 エレンはボロボロと大粒の涙を流しています。どうしよう。泣かせてしまった。慌ててポケットからハンカチを取り出して、彼の頬を優しく拭きました。

 

「ごめん。本当に、悪かった。泣かないで、ね?」

「どっか行くなよ。いっしょに、兵士になるって、言ってただろーが」

 

 彼はしゃくりあげながらも目線を合わせて話してくれます。……こんな時に不謹慎ですが、私の母性にクリティカルヒットしました。可愛らしすぎます。

 

「わかった、ちゃんと話すね。私はエレンやアルミンと兵士になるまで、貴方達を置いて行かないように、頑張るから。だから今、応援していてほしいな」

「……ぉう。約束だぞ」

 

 私は座ったままの彼らに向き合いました。

 

「今から泥棒の疑いをもたれた原因、髪を切ったこと、そして薬のレシピについて、少々長くなるでしょうが、説明します。事前に断っておきますが、私の精神は、現在正常です。」

「ああ」

 

 まだ涙目のエレンは私の手を取り、ギュッと握りました。ありがとう。覚悟が出来たよ。

 

「……“ティエラ”という人格は、エルヴィンさん達に助けられた日、ラル家から連れ出される前に、既に消滅していました」

「「「……は?」」」

「一体どういう事なんだい?」

「……」

 

 エルヴィンさんは表情を固くしたまま黙っています。やはりこうなりましたか。エレンは不安そうに、こちらを見ています。

 

「東洋の、京という所に、源太とお輪という夫婦がいました。その夫婦は京の都を脅かす鬼達の頭目である“朱点童子”討伐の為、大江山を登りました。しかし、夫を目の前で亡くし、産まれたばかりの赤子を人質に取られたお輪は、朱点の魔の手に落ちました。それから、その赤子は2つ呪いを受けました。1つ目は、体が急激に成長し、2年足らずで死亡する“短命の呪い”。2つ目は、人間と子孫を残す事が出来なくなる“種絶の呪い”です。その赤子の子孫として生をうけたのが、ティエラの身体に入る前の私なのです」

 

 エルヴィンさんは疑心暗鬼といった表情を崩さないまま口を開きました。

 

「2年でそれらを解く事が出来たとは、到底思えないが」

「ええ。私の祖先達は、神々と交わる事で子孫に希望を託して逝きました。宿敵を倒し、呪いを解くことのできる、その日まで」

「なぁ、あんたがティエラじゃないなら、何て呼べばいいんだ?」

「……それが、思い出せないの。自分の名前も姓も、共に暮らしていた一族の人々の名前も。神様やお手伝いさんの名前は覚えているのに、変だよね。でも、初めから今までエレン達と話していたのは、私だよ」

「ふーん。結局、呪いは解けたのか?」

 

 なかなか直球ですね。

 

「いいえ。私の代で仇を討ち、真相を知りました。しかし、今までの事を全て水に流す事は出来なかった。納得出来なかった。だから呪いが続いたとしても、恨みを晴らす事を決めました。決めた翌月に私は死んでしまったけれど。薬のレシピは祖先が解析し、遺したものを元服前に読んで覚えました」

「元服って何だ?」

「ざっくり言うと、交神できる年になったって事。私達は短命だったから、8カ月で成人とされたわ」

「……仮にそれらの話が本当であるという、証拠はあるのか?」

「はい」

 

 それから私は術と技力について説明しました。髪の変色についての推察も。実際に赤玉を唱え、掌から5cm位浮かせた火の玉を10秒程出現させると、エレン以外は目を見開き固まっていました。

 

「すげー!なあ、果物も出してくれよ。俺、リンゴが食べたい」

「わかった。ちょっとテーブルを使わせて貰うわね」

 

 テーブルの天板から枝を生やし、実を4つ、赤く色づくまで技力を注ぎ込みました。エレンが食べようとしたところ、イェーガー先生が制止したので、私は安心させようと、1つもぎ取り毒見をしました。あら、今回は今までで一番成功しています。甘くて美味しいな。

 

「ご覧の通り、食べても平気です。これが、先日疑われた果物の出所です」

「なっ大丈夫だろ?」

 

 それから皆でリンゴを食べました。少々強引でしたが、納得して頂けたようです。それでは、これだけは尋ねなければ。

 

「エルヴィンさん。これらの結果から、私という存在は、貴方の人生・キャリアの障害になると判断しますか?」

「……果物の件は悪かった。話は理解した。だが、君はティエラの身体を何に使うつもりだ。君を消滅させれば、ティエラの心は戻ってくるのではないのか?」

 

 エルヴィンさんの目がおかしくなっていると知覚した瞬間、私の視界は暗転しました。

 

 

 

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