「なあ、知ってるか? 砂漠フィールドに出る全身ピンクのPKの噂……」
「銃までピンクらしいな。あれだろ、ガキみたいな体でアジリティ特化してて――」
「砂漠で保護色になるとか笑うわ。数メートルまで近づかれるまで気づかないんだと」
「ピンクの砂漠迷彩か。イギリス戦車がそんな色してたな」
――へぇ、面白いな。
俺は隣の席の奴らの話を聞きながら、コーヒーを啜っていた。
ピンクの悪魔、か……
需要が生まれるかもしれん。リアルの懐も寒いし、稼ぎ口は欲しいところだ。
コーヒーを飲み干し、店を出る。
雨上がりの風が頬を撫でた。まだ強風が残っている。
「さて……ダンジョン前で客待ちするか」
インプレッサに向かい、運転席へ乗り込もうとした、その時。
――リア、低くね?
なんとなく後ろが沈んでる気がした。
パンクか? それとも換金し忘れた荷物でもあったか?
トランクを開けた。
「動かないで!」
銃口が突きつけられた。
VZ61スコーピオン。そしてピンク色の袖。
こいつが――噂の。
――迂闊でした。
私は路地を走っていました。追手から逃げるために。
この街に寄っただけなのに、ポンチョが風で捲れた瞬間にバレてしまいました。
「ピンクの悪魔だ!」
自警団のチームに追われ、路地や下水道で撃たれました。
速さには自信があっても、狭い場所での銃激には勝てません。
被弾、HPは赤。回復キットもなし。
逃げ込んだ街中で、私はトランクを見つけました。
車内に隠れるのは危険だが、背に腹は代えられません。
開錠スキルでドアを開け、トランクへ潜り込みました。
少し回復できる……そう思ったのに。
ピッ。
ロック解除の音。
ガチャ。
トランクが開きました。
絶体絶命です。私は咄嗟に銃を向けて叫んびました。
「動かないで!」
「アンタが噂のピンクの悪魔?」
「そうよ! 殺されたくなかったら、このまま荒野フィールドまで運んで!」
女の声だ。小さい体にピンクのスコーピオン、間違いない。
「報酬は?」
「は?」
「運び賃、ってこと」
「アンタ、自分の状況わかってるの? 報酬はアンタの命の保証よ!」
俺は肩をすくめ、トランクの中を指差した。
「中の袋、見てみな」
女の手が袋を探り、中から出てきたのはレンガ大の粘土の塊。
「……これ、まさか」
「C4だ。ちなみに起爆装置はこれ」
『起爆』ボタンに親指を置き、トランクの中に見せた。
「そんなことしたらアンタも死ぬんじゃない!?」
「構わんよ。さっき持ち金全部換金してきたから」
「……っ」
女は目を閉じ、肩を落とした。
「もういい! 撃つなり煮るなり好きにして! 報酬なんて払えない!」
ポンチョを脱ぎ、銃を捨て、観念した顔で俺を睨んだ。
俺は言った。
「じゃあ、プロフィールをもらおうかな」
「……は?」
「情報が報酬代わりだ」
「情報……私の?」
「ああ。そっちが何もしなければ、こっちも何もしない」
「……」
ピンクの悪魔のせいで最近は砂漠フィールドでの仕事が増えた。彼女がここにいたこともラッキーかも、不戦を約束することで仕事が穏便に済ませられるようになるかもしれない。
彼女は渋々、プロフィールを送ってきた。
俺も自分のを送り返す。
「『SYMS(シムス)』俺の名前だ。」
「私はレン……」
「よろしく、レン」
互いの自己紹介も束の間――
ブオオオオオ――!
複数台のバイクの排気音が近づいてきた。
黒ずくめのライダーたちがこちらに向かってくる。
「ヤバい! 見つかった! どうするの、シムスさん!」
「シム、って呼べ! 逃げるぞ!」
レンが後部座席へ飛び込み、俺は運転席に滑り込む。
エンジン始動、一気にバック。
「ぎゃっ!」
レンが盛大にシートに顔をぶつける。
「シートベルト締めとけよ、レン! 絶対無事に逃がしてやる!」
タイヤが濡れた路面を滑らせ、インプレッサが雨上がりの街を蹴飛ばすように走り出した。
――こうして、ピンクの悪魔と運び屋の逃避行が始まった。