目の前に――
大砲がありました。
「……」
「……」
嫌な汗が全身から噴き出してくるのを感じます。
「全力後退ぃぃぃぃ!!」
シムさんは全力でバックしました。
ガツン!
「いたた……」
また頭ぶつけてしまいました。もう何回目でしょう。
勿論、バレットラインが私たちを指しています。
シムさんはハンドルを目いっぱい左に切りました。
インプがキュルルッと左に回って、180度ターン。あとで聞いたのですが、Jターンというテクニックらしいです。
ヒュン――ドォォォォン!
砲弾が横を掠めて、後ろで爆発しました。爆風で車体がガタガタ揺れます。
「よし、まだ動くな……」
シムさんはすぐに建物の陰に隠れて射線を切りました。
「いてて…バックばっかり……ていうか、あれは何!?」
「暗くてよく見えなかったが、ストライカーMGSだとおもう」
「なにそれ?」
「簡単に言うとタイヤのついた戦車」
「戦車!? そんなので撃たれたら――」
「木端微塵」
シムさんが無表情で言いいました。
そんな相手に、勝てるわけない事は私でもわかります。
「じゃあ……撃たれないように回り道するしか……」
「後ろ、見てみな」
言われたとおり後ろを見ました。
壁……
完全に――袋小路だったのです。
「……どうして撃ってこないの?」
「降参して出てくるのを待ってるんだろ。生け捕りにして晒し首とか」
「晒し首……」
考えただけでゾッとしてしまいました。
「ずっとここにいたら向こうが痺れ切らしてくるだろうし……あーあ、結構金かけたのになぁ、この子……」
シムさんがハンドルを撫でながら呟きました。
愛がすごい……
「なにか作戦はないの? あれだけの運転ができるなら戦車の弾の1発や2発くらい――」
「無理。スタングレネードあるけど目くらましにしかならない、もし避けられたとしても次弾が3秒後、それに機関銃だって2機も積んでる」
「大砲に機銃が2つ……」
「ここからフル加速しても時速50キロ、角出た瞬間ズドン。つまり、あの武装がある以上、俺達は何もできないってワケ」
50キロ、それなら私が走った方が速いかも……
私が……走れば……
シムさんと初めて会った時のことを思い出しました。
そして、思いついたのです。
「車が無理でも……人だったら?」
レンから作戦を聞いた。
無謀で、運任せで、強引すぎるそれを――
作戦と呼んでいいのか。人のこと言えないけど……
無意識にハンドルを握る手が震える。
今まで、相手の作戦通りに動くことは何度もあったのに。
なのに――
怖い。
「シムさん、緊張してる?」
「……してる」
「……ごめん、こんな作戦しか思いつかなくて」
「いや……仕方ないと思う。でも、怖いんだ」
「怖い?」
「ああ……具体的には、鈴鹿の130Rでスピンした時くらい」
「なにそれ?」
「伝わらないか……鉄板ジョークなんだけど」
だがこのまま何もしないよりはマシだと思った。
やるしかない。
「行くぞ」
「うん!」
レンとグータッチ。――絶対成功させる。
ブォン! ブォン! ブォン!
アクセルを煽る。合図だ。
サイドを引いたままクラッチを少し戻す。
ブォォォォォォ……
低く独特なエキゾーストが響く。完璧なスタートを決め為、エンジンを3000回転に固定する。
同時にストライカーのディーゼルエンジンの音が大きくなる。
来る――
サイドを下ろし、クラッチを繋ぐ。
完璧な発進。
角が迫る。
「行け!レン!」
「車が無理なら……人だったらどう?」
「は?」
シムさんがキョトンとした顔をしました。
私が初めてシムさんと会った時――
真横にあったのはC4爆弾。
あれを使おうと思ったのです。
「車体に接地しないと十分なダメージが出せないと思うんだけど」
「だから私が直接行ってくる」
「直接?……そういう意味か!」
シムさんは理解してくれたようです。しかし表情はすこし暗いです。
「アジリティ強化しまくってるとはいえ、少しでも隙を見せたら機銃掃射されるぞ。運要素がすぎないか?」
「うん。でも――」
「運だけに頼るってことも、時には大事じゃない?」
私は笑って答えました。