カゾルミアはすでに詰んでいる。
最高指導者によって国の全てが決定され、国内の経済格差は大きくなり続ける。
国民の多くが徴兵され、課せられる税金は増え続け、国の全てが隣国との戦争へと費やされていく。
人の耳がある場所場所で国の批判などをすれば、次の日には更生施設へと入れられ、”教育”が行われることだろう。
そんな素晴らしく終わっている我が国で俺は機械工として生計をたて、慎ましくも穏やかに暮らしていた。
.....だが、俺のそんな生活も今日で終わるらしい。
俺は渡された”赤い紙”を見ながらそんなことを思う。
「おめでとう。これより貴様は我が国の兵士として戦うことが許される。直ちに準備を整え、我々と共に来るように。」
その言葉に逆らうことなく必要最低限の物だけを用意し、彼らの手によって連行される。
国に対する忠誠があるわけではない。ただ選択肢がないだけだ。
だけど俺は、まだ死にたくないのだ。やりたいことも、やり残したこともたくさんある。
俺は、必ず生き残ってみせる。
東部戦線に配備された俺は、ただ死にたくない一心でがむしゃらに戦い続けた。
毎日のように前線に雪崩れ込んでくる機械兵共を破壊し続け、何度も死にかけながら生き延び続けた。
そうした日々の中で、どうやら俺のここでの働きが認められたらしい。
これからは軍の精鋭部隊の一員として戦っていくことになるようだ。
これで俺の志が変わることはない。
ただーー
ー認められるのは、悪い気分ではないな。
渡された勲章の重さを感じながら、俺はそう思った。
精鋭部隊所属となっても俺の日々が変わることはなかった。
ただ毎日、前線に殺到し続ける機械兵共を破壊し、戦い続ける。
変わったことと言えば、俺の国の中での扱いくらいだろうか。
どうやら俺は東部戦線を押し上げた英雄として国で祭り上げられているらしい。
大方国民に対するプロパガンダとして使っているのだろう。
そう思うと素直に喜ぶ気もなくなっていた。
そんなある日、俺宛に大量の手紙が送られてきた。
どうやら国の人達が感謝の気持ちを伝えるためにわざわざ書いてくれたらしい。
量が多すぎたため、中身を確認して厳選したものだけが送られてきたようだ。
それでも数十通はあったため、元の手紙の数がどれほどかは推して知るべしである。
生き延びるためとはいえ、俺の働きはこの人達を守ることにもなっているのだろう。
.......もう少し、がんばってみるか。
どうも最近、機械兵共の動きがおかしい。
明らかに前線にいる数が少ないのだ、機械兵のストックが尽きたのだろうか?
司令部はこれを好機として攻勢の作戦を立てているらしいが、どうも嫌な予感がする。
気のせいであってくれるといいのだが。
悪い予感ほどよく当たるものだ。
その数日後、やつらは今までとは比較にならない数の機械兵で攻勢を仕掛けてきた。
先日まで拮抗していた戦線は瞬く間に崩壊し、カゾルミア軍は撤退をするしかない状況に追い込まれた。
そして、俺のいた部隊は撤退戦ににおける殿を務めることを言い渡される。
本隊が転進を完了した後、俺たちの部隊を救出し戦線を立て直すのだと司令部は説明した。
大量の機械兵を相手に撤退するだけの時間を稼ぐ、これまでにない厳しい戦いになるだろう。
だが俺は今までも戦い、生き残ってきた。今回もそれが変わることはない。
.....それに俺は、たとえ偽物であっても、英雄なのだ。
放棄された陣地を利用し、残された物資を限界まで使用し、銃弾が尽きるまで撃ち続け、日中夜休むことなく戦い続ける。
本隊は撤退することができたのだろうか? 救出はいつなのだろうか?
そんな疑問を頭の中に持ちながらも、ただひたすらに戦い続ける。
もう俺以外に部隊に生きている奴はいない。
弾薬は尽き、物資も全て使い果たした、これ以上時間は稼げない。
本隊が撤退を始めて一体何日がたった?
心身共に限界を迎えようとしていたその時、通信機が通信を受信した。
......やっと救援がきたのだろうか。
「ーー撤退戦において殿を務めた諸君に告げる。」
「勇敢なる諸君らの働きにより、我が軍は大きな損耗を出すことなく、転進を果たすことができた。その献身は我が国で長く伝えられることになるだろう。」
「故に、諸君らはそのまま戦闘を継続し、祖国のために一層奮闘せよ。その身朽ち果てるまで戦い続けるのだ。ーー以上である」
ーーーーーーーーーっ。
刀折れ矢尽きた俺は、機械兵共にろくな抵抗をすることができず隣国の捕虜として捕らえられた。
俺は機械兵の部品として使われるらしい。
今まで破壊してきた機械兵も、もしかすると元は俺と同じだったのかもしれないな。
だが、今となっては何もかもがどうでもいい。
生き抜いた過去も、かつての栄光も、もはや何一つとして価値がないものだ。
ーークソったれが。