囚人を襲いに監獄へ侵入した吸血少女リコル。彼女の前に現れたのは、この監獄を餌場としている触手少女レヴルだった。
「私は囚人を喰うのが日課になってるんですの〜。私の餌場から出てって来れますこと?」
レヴルが告げる。リコルは無言で立っていた。この人は一体何人殺したの…?でも襲撃対象が囚人なら少しは良心があるの…?
「私もお腹すいてるの。それなら一緒に…」
「認めませんわーー!!ここは私の場所ですの!!」
レヴルが癇癪を起こして叫ぶ。触手がぺしぺしと机を叩いた。リコルは厳しい表情で彼女を見つめている。レヴルは突然リコルに向かって走り出す。
「私の場所から出てきなさあああい!!」
「わっ!」
レヴルの触手がリコルに振り下ろされる。リコルはふわりと動いて避けるが、レヴルの目はしっかりとその動きを追っていた。
「話通じないのね!」
だんだんとイライラしてきたリコルが叫ぶ。レヴルは無言で殺す気のような表情で触手を次々と繰り出す。リコルはそれを見て近くの長机の前に並べられていた椅子を持ち上げる。そしてその重さを利用してレヴルに投げつけた。
「ごめんなさい!」
リコルが咄嗟に言うが、チョキンという音と共に椅子が触手によって三つに引き裂かれた。
「あっ…!?」
「当たったらどうするんですの!」
レヴルがこてんと尻餅をついた姿勢で叫んだ。黒いスカートがふわりと広がって白い足が投げ出されている。おそらく触手が自立して攻撃を防いだのだろう。
「あなたは私となんとなく似ている気がするの…よくわかんないけど」
リコルが静かに言った。レヴルは綺麗に座り直してそれを聞いている。少し頬が赤い。
「そうですの…?奇遇ですわね…」
レヴルが少し目を逸らす。
「実は私も…そう思ってましたの」
リコルは身構えていた体から力が抜けていくのを感じた。再び強い空腹が襲ってきた。それと同時に、初めてレヴルの姿を細かく見た。目の下には黒い涙?のようなラインが走っている。黒いショートヘアーで、もみあげがくるくると癖毛みたいになっている。そしてその触手は軽く光を反射して、まるで水のような質感に見える。改めて観察すると顔は結構かわいい。
「あなたも普通の人間に馴染めなかったんですの?」
レヴルが静かに言った。リコルはどきりとした。なんでわかったの。
「…まあそんな感じ」
「ふふ…私もですわ〜。人間ってほんとに勝手なものですわね〜!」
レヴルが急にリコルに近づいてきた。さっきまでの敵意はどこへやら、まるで元から友達だったように親しく。
「…そうなのかも」
リコルが言い終わる前に、食堂の扉がバタンと開いた。
「やばば!」
レヴルがしゅるりとタコのように素早く鉄格子のはまった窓へ向かう。それと同時に食堂に看守らしき人物が飛び込んできた。リコルも慌てて窓へ向かって走る。レヴルがしゅるりとスムーズに窓をすり抜けていった。プロみたいに早い。
「誰だ!大人しくしろ!」
看守が叫んだ時にはすでにリコルも窓の鉄格子を強引に通って外へ脱出した後だった。リコルは羽を出して外壁を乗り越えて監獄の外の野原に転がった。レヴルは外壁のわずかな隙間をぬるりと通り抜けてきたらしく、すでにそこに寝転がっていた。
「助かったぁ…」
「ビビりましたわ…」
リコルとレヴルは顔を見合わせた。リコルは優しく微笑み、レヴルは危険な笑みを浮かべた。
もしかしたらこういうのを友達と言うのかな…?