リコルは自身の右横に寝転がっているレヴルの顔を見た。なぜだか見れば見るほど可愛く見える。
「ひとまずここから離れたほうが良さそうですわね」
レヴルが触手を使ってぐいっと上体を起こしながら言った。リコルも静かに頷く。月明かりが相変わらず地面を照らし、平原の草を風が撫でている。街からも少し離れているため、賑やかさもない。
「この辺って…」
リコルがレヴルに話しかけようとしたが、言葉が止まった。レヴルが不思議そうに見ている。その赤い目がキラリと光る。だがリコルの目線はある一点で釘付けだった。レヴルがリコルの見つめる先を見た時、思わず息を漏らした。
黒く歪な形をした何かがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。それは明らかに人間ではなく…。
「死霊だわ…!」
能力者から分離した隠し能力が肉体を持ったもの、死霊。名前の由来は死んだ能力者が隠し能力に乗っ取られて生まれる方から。
目の前の死霊は黒く、骨のように細長い。だが右腕が途中で二つに分かれ、いくつもの棘が生えている。
「やばいですわ!貴女も早く逃げなさい!」
レヴルが逃走モードで叫ぶが、リコルはその場に突っ立っている。
「そうか…!」
リコルは死霊に向かって走る。
「ちょっと!死にますわよ!?」
レヴルは足を止めてリコルに方へ走る。死霊が異形の右腕をリコルに向かって振り上げる。しかし、リコルはふわりとかわして死霊にかぷっと噛みついた。
「はぁあ!?」
レヴルが叫んでいる。リコルは死霊から血を吸い始めた。先ほどのレヴルとの戦闘中に気づいた。血の匂いは、自身の食欲を刺激するということに。すなわち、彼女が欲していたものは「血」だった。
死霊はジタバタともがいているが、リコルはそれから大量の血液を吸い上げている。やがて死霊の動きが弱々しくなり、ぐしゃりと崩れ落ちた。
「…何をしたんですの…?」
レヴルが困惑した顔で尋ねた。リコルはぺろりと舌なめずりしながらレヴルに微笑みかけた。
「人間を襲うんじゃなく、もともと人間だった死霊を襲えばいいと思ったの。」
「…あほですの」
レヴルが呆れたように言いながらリコルに歩み寄る…いや、倒れている死霊に歩み寄る。
ガブッ…
「あほだけど名案ですわ〜!」
レヴルが死霊の変異した肉体をがぶがぶ噛んでいる。リコルがちょっと引いている。
「はあ…満腹ですわ♪」
「…案外少食なのね」
レヴルが無言で顔を赤らめた。リコルはそれに気づかずあたりを見渡している。
「ん?あれって…?」
リコルは遠くにぽつんと見える建物の影を指差す。近くには街はないのでかなり妙だ。
「ああ…かつて保育園だった廃墟ですわね。」
「廃墟…。あっ」
リコルが何かを思いついたように廃墟に向かって走り出した。