館に入ったリコル。中にいる死霊を全滅させれば、お礼にこの館の所有権を得られる。
中は薄暗く、洒落た雰囲気だ。エントランスだろう。オレンジ色の丸い電灯はあるもののほとんど消灯している。大きな階段がホールの両サイドに二つ、2階へ続く道となっていた。エントランスは2階まで吹き抜けとなっていて、2階の部屋が見える。薄暗くよく見えないが、シャンデリアがあるようにも見える。床には赤いカーペットが敷かれていた。
「すごい…!」
思わず声を漏らすリコル。うまくいけばここに住めるかもしれない。
「感激するのはここを手に入れてからにするべきですわ…」
レヴルがいつになく冷静に言う。
「そうですね…今は死霊を探さないと…全滅ってことは一匹じゃないのかも…」
「こっち中央ホールって書いてある〜!」
スペシャーが二つの階段の間の壁にあるドアを指差してはしゃいでいる。
「…あほですの」
レヴルが呆れたように言って触手でスペシャーを引き寄せた。
4人は静かに階段を登って2階へ向かった。一階には巨大な中央ホールといくつかの小部屋があるらしいが、階段がある以上登るしかない。
「お城みたい〜」
少し外側に曲がった広い階段を登りながらリコルが言った。4人は階段を登り切り、2階へ辿り着いた。
廊下が左右に広がっているらしい。手すりのついた部分からはエントランスが見下ろせるようになっている。
「右左どっち行く?」
「二手に分かれるのはどうですの?」
レヴルがキョロキョロしながら言った。
「名案デスワ〜」
スペシャーがなぜかレヴルの口調を真似して賛同した。触手がニュルリと動き、スペシャーはハッとした表情で後ずさる。
「行きますわよ!」
レヴルが顔を赤くしながら右へ向かって歩いていった。アリシアがそれに続いていく。
「じゃあ私たちはこっちだね」
リコルとスペシャーは廊下を左に進んでいった。壁にはいくつもの小部屋が並んでいる。一つ一つに扉があり、もし住むなら個人部屋にちょうど良さそうだ。2階の廊下はエントランスと比べると天井が低いものの、それでも3メートル程度ある。
「すぺっ!」
すぺが前方を見て身構える。
「!」
そこには一体の死霊がいた。黒い人形の小さな影のようだ。雑巾のようなもので床を拭いているらしい。かつてこの館に住んでいた者が死霊化してもなお仕事を続けているのだろうか。
影は2人の存在に気づくと、両手を振り上げてケケケと笑った。
「なんかめっちゃ笑ってる!」
そして死霊は突然スペシャーに飛びかかった。
「わあっ!」
スペシャーはリコルに袖を引っ張られて攻撃を避ける。
「あんにゃろ〜」
スペシャーが手のひらを死霊に向けると、青白い霊魂のようなものができる。バチバチと電撃のように輝くそれは、自立して死霊に飛んでいった。
「すぺちゃん強いんだね…」
バチィン!
霊魂が死霊にあたり、青く破裂した。しかしそれでも死霊は生きているらしく、両手にナイフのようなものを持って飛びかかってくる。リコルは冷静に攻撃を交わし、その胴体を力任せに殴り飛ばした。死霊は天井に跳ね上げられ、ぐしゃりと上半身をえぐり飛ばされて絶命した。
「バカヂカラ!」
スペシャーが叫んだ。リコルが照れ笑いを浮かべる。
「…もっと奥に行ったらいっぱいいるかも?」
リコルが先導して廊下の奥へ進んでいく。スペシャーが後ろからふわふわ浮いてついてくる。
「すぺちゃんの目光ってるから暗くてもどこにいるかすぐわかるのいいね。」
「いいでしょ〜!」
「なんですぺちゃんって片目が隠れた髪型してるの…?」
「へあすたいる!」
そんな平和な会話をしながら歩いていると、いつの間にか廊下の突き当たりに辿り着いた。廊下はそこで右に曲がっていた。
「窓があるよ!開放的!」
すぺの言う通り、曲がった廊下には左側の壁に大きなガラスの窓がいくつもあった。いつの間にか雨が降り出しているらしく、ぼやっとした月明かりしか届いていない。雨粒が窓に打ちつけ、灰色の空が広がっていた。
そして、廊下の奥には3体ほどの死霊がいた。その全てが掃除をしているらしい。箒を持っているもの、毛叩きを持っているもの…奥の個体はよく見えないが。
「アリシアちゃんみたいな死霊!」
「生い立ちも似てるかもね…」
リコルが翼を伸ばして素早く接近し、その2体の肉体を殴り壊した。残りの一体が、手にしたものを振り上げて飛びかかってきた。そのタイミングで、霊魂が横から飛んでその一体を壁に叩きつけた。リコルがガブリと噛み付いた。
「一掃完了。すぺちゃん支援が上手いね…」
「すぺぺぺ〜」
崩れ落ちていく死霊を眺めながらスペシャーが言った。
そのとき、耳をつんざくような巨大な笑い声が響いた。邪悪な女性のような高笑いが館中に反響して重ねられた。
「うぎゃあああ!」
「何…!?」
2人は思わず耳を押さえて叫ぶ。
「もしかして…この館の主…!?」