『ビスト、学校やめるってよ』   作:チト 熟練見張員

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またも短め!教えはどうなってんだ…教えは


第4話:『ビスト、お嬢様の脳を焼いたってよ』

金の匂いがした。
ただし、それは通貨の臭気ではない。もっと純粋で、もっと熱を帯びたもの。
それは、何かを成し遂げようとする者たちが放つ――志という名のエネルギーだった。

アビドスの地下、崩れかけた廃墟街の一角にある元ゲームセンター――いまや《アナハイム・エレクトロニクス》と名乗る企業の本拠地から、その熱は立ち上っていた。

 

「また爆発音か……まるで戦場、いやゲヘナだな」

 

私は分厚い帳簿を抱え、瓦礫の山を踏み越えて進む。
その足取りに迷いはない。
ティーパーティー財務局に所属していた日々、私はあらゆる混乱と破壊を見てきた。
そして、数多の政治的謀略の中を泳ぎ切ってきた。

だが――私は、そこに限界を感じていた。

かつて、私は信じていた。
守るべきは、伝統であり、秩序であり、利権だった。
既得権益の防衛こそが正義であり、それが多くの人間を救う最善策だと。

だが。

 

「……正義とは、時に鈍くなるものだな」

 

あの最後の会議。
友人が提出した『ティーパーティーの不正内部告発』を、自分の手で葬り去った瞬間、私は悟った。
この手で守ってきたのは未来ではなかった。
ただ“壊れないこと”を守っていたに過ぎなかったのだ。

それから、私はトリニティを去った。

無論、進路など無い。
だが、それも良いだろう。今までの私は、道を選びすぎていた。
次は、“道なき場所”を歩いてみようと、ふと思ったのだ。

──そして出会った。
《アナハイム・エレクトロニクス》という、アビドスの未だ名も無き企業を。

SNSの片隅に、実に雑な求人広告が転がっていた。

 

《爆発OK!未経験歓迎!試作品売れました!》

 

誰が応募するか、と思いながら、その文言に妙な胸の高鳴りを覚えていた。
この不条理と悪意に満ち溢れたキヴォトスという暗い大海に、たった一隻の小舟で乗り出そうというバカ共がいるらしいのだ。
アビドスという忘れ去られて久しい死んだ土地に、まだ芽吹こうとする新芽があるのだと。

だから私は、その舟に乗りたいと思った。

新芽を摘むことを生業としてきた私が、その新芽を守ろうなどと実に滑稽かもしれないが…

これは賭けだ。
だが、私は数多の政争で、もっと無謀な賭けをしてきた。
ならば、今度は――理想に賭けてみても、罰は当たるまい。

 

アナハイム本社のドアを開けると、爆煙とともに、黒髪の少女が飛び出してきた。

「わあ!? また燃えてる!? 博士、やめてって言ったじゃん!!」

……社長か。
この少女が、裏月ビスト――元アビドス高等学校の生徒で、今や一企業の代表だという。

小柄な体躯に、不釣り合いなほど真っ直ぐな目。
その奥に、確かな意思を宿している。
無謀だが、愚かではない。
それが第一印象だった。

 

なるほどーー

 

「失礼、初対面でこんな場所に踏み込むのは、礼を欠くこととは存じているが……」

 

私は帽子を軽く外し、最敬礼した。

 

「本日、貴社の面接に伺わせていただきたく参上した。五十嵐ゴプヌ――ここに来る前は、トリニティで財務局をやっていた」

 

「……え? えっ?」

 

目を白黒させる社長を前に、私は新鮮な表情だとニンマリにやける。

面白くなってきたじゃないか、まずは雇ってもらえるかどうかだ。

 

ーーーーー

 

その日の夜、当てがわれた帳簿を見ながら私はふと思い返していた。
なぜ、私はここにいるのか。
なぜ、この爆発と混沌に満ちた地下企業に身を投じたのか。

その答えは、もう明確だった。

私は、“自分が変わりたい”と思ったのだ。

生徒会という権力の中心にいた私が、保身ではなく挑戦を望むようになった。
それは、裏月ビストという少女の在り方が、あまりに眩しかったからだ。

無謀だ。未熟だ。だが、純粋だ。

その純粋さを、守るのではなく、育てたいと思った。

 

「……ならば、私の手腕、存分に使ってもらおう」

 

帳簿を閉じ、私はペンを置く。

あとは、計画を練るだけだ。
爆発と技術だけでは企業は成り立たない。
そこに数字と理論、未来への道筋を重ねることで――《アナハイム・エレクトロニクス》は、真に空へと翔ける企業になる。

 

「人が動き、金が動き、そして世界が動く。ならば、私の使命はまだ終わっていない」

 

もう一度、この力を使うのだ。
守るためではない。
築くために。

そしてその先には、必ず新たな“景色”が待っていると、私は信じている。




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