『ビスト、学校やめるってよ』   作:チト 熟練見張員

4 / 4
またも短め!教えはどうなってんだ…教えは


第4話:『ビスト、お嬢様の脳を焼いたってよ』

金の匂いがした。
ただし、それは通貨の臭気ではない。もっと純粋で、もっと熱を帯びたもの。
それは、何かを成し遂げようとする者たちが放つ――志という名のエネルギーだった。

アビドスの地下、崩れかけた廃墟街の一角にある元ゲームセンター――いまや《アナハイム・エレクトロニクス》と名乗る企業の本拠地から、その熱は立ち上っていた。

 

「また爆発音か……まるで戦場、いやゲヘナだな」

 

私は分厚い帳簿を抱え、瓦礫の山を踏み越えて進む。
その足取りに迷いはない。
ティーパーティー財務局に所属していた日々、私はあらゆる混乱と破壊を見てきた。
そして、数多の政治的謀略の中を泳ぎ切ってきた。

だが――私は、そこに限界を感じていた。

かつて、私は信じていた。
守るべきは、伝統であり、秩序であり、利権だった。
既得権益の防衛こそが正義であり、それが多くの人間を救う最善策だと。

だが。

 

「……正義とは、時に鈍くなるものだな」

 

あの最後の会議。
友人が提出した『ティーパーティーの不正内部告発』を、自分の手で葬り去った瞬間、私は悟った。
この手で守ってきたのは未来ではなかった。
ただ“壊れないこと”を守っていたに過ぎなかったのだ。

それから、私はトリニティを去った。

無論、進路など無い。
だが、それも良いだろう。今までの私は、道を選びすぎていた。
次は、“道なき場所”を歩いてみようと、ふと思ったのだ。

──そして出会った。
《アナハイム・エレクトロニクス》という、アビドスの未だ名も無き企業を。

SNSの片隅に、実に雑な求人広告が転がっていた。

 

《爆発OK!未経験歓迎!試作品売れました!》

 

誰が応募するか、と思いながら、その文言に妙な胸の高鳴りを覚えていた。
この不条理と悪意に満ち溢れたキヴォトスという暗い大海に、たった一隻の小舟で乗り出そうというバカ共がいるらしいのだ。
アビドスという忘れ去られて久しい死んだ土地に、まだ芽吹こうとする新芽があるのだと。

だから私は、その舟に乗りたいと思った。

新芽を摘むことを生業としてきた私が、その新芽を守ろうなどと実に滑稽かもしれないが…

これは賭けだ。
だが、私は数多の政争で、もっと無謀な賭けをしてきた。
ならば、今度は――理想に賭けてみても、罰は当たるまい。

 

アナハイム本社のドアを開けると、爆煙とともに、黒髪の少女が飛び出してきた。

「わあ!? また燃えてる!? 博士、やめてって言ったじゃん!!」

……社長か。
この少女が、裏月ビスト――元アビドス高等学校の生徒で、今や一企業の代表だという。

小柄な体躯に、不釣り合いなほど真っ直ぐな目。
その奥に、確かな意思を宿している。
無謀だが、愚かではない。
それが第一印象だった。

 

なるほどーー

 

「失礼、初対面でこんな場所に踏み込むのは、礼を欠くこととは存じているが……」

 

私は帽子を軽く外し、最敬礼した。

 

「本日、貴社の面接に伺わせていただきたく参上した。五十嵐ゴプヌ――ここに来る前は、トリニティで財務局をやっていた」

 

「……え? えっ?」

 

目を白黒させる社長を前に、私は新鮮な表情だとニンマリにやける。

面白くなってきたじゃないか、まずは雇ってもらえるかどうかだ。

 

ーーーーー

 

その日の夜、当てがわれた帳簿を見ながら私はふと思い返していた。
なぜ、私はここにいるのか。
なぜ、この爆発と混沌に満ちた地下企業に身を投じたのか。

その答えは、もう明確だった。

私は、“自分が変わりたい”と思ったのだ。

生徒会という権力の中心にいた私が、保身ではなく挑戦を望むようになった。
それは、裏月ビストという少女の在り方が、あまりに眩しかったからだ。

無謀だ。未熟だ。だが、純粋だ。

その純粋さを、守るのではなく、育てたいと思った。

 

「……ならば、私の手腕、存分に使ってもらおう」

 

帳簿を閉じ、私はペンを置く。

あとは、計画を練るだけだ。
爆発と技術だけでは企業は成り立たない。
そこに数字と理論、未来への道筋を重ねることで――《アナハイム・エレクトロニクス》は、真に空へと翔ける企業になる。

 

「人が動き、金が動き、そして世界が動く。ならば、私の使命はまだ終わっていない」

 

もう一度、この力を使うのだ。
守るためではない。
築くために。

そしてその先には、必ず新たな“景色”が待っていると、私は信じている。




感想をくれると、筆者がうっひょひょい拳を披露するよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

デッキが全部いあいあしてる闇のカード(作者:いちごの入った大福)(原作:遊戯王)

二◯ル「我々をモチーフにした既存カードあるけど、なんか物足りへんなあ……せや!あいつらの写し身をカードに封じ込めた新カード作って配ろ!」▼決闘者「アバーッ!!」▼二◯ル「なんや脆いなあ……使ってもたかが1d100の正気度減少するだけなのに。せっかく作ったのに誰も使えへんのか」▼幼女「このカードすごーい!」▼二◯ル「おるやんけ!」▼正気度が減らないオリハルコン…


総合評価:1161/評価:8.2/連載:5話/更新日時:2026年02月12日(木) 17:00 小説情報

銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ(作者:蒼雲しろ)(原作:ブルーアーカイブ)

「ただの、化け物だよ」▼キヴォトスに転生した青年が、色彩に魅入られる。▼銃を持つ少女たちとかかわって、青年が自分を見つけるまでの話。▼※主人公はブルアカ知識がありません▼旧作:色彩のせいで死にたいのに死ねなくなりました▼https://syosetu.org/novel/404648/▼途中まで書いた旧作をリメイクしたものです。▼


総合評価:323/評価:6.82/連載:20話/更新日時:2026年04月08日(水) 19:00 小説情報

連邦生徒会閣僚各位に申し上げる。(作者:石田たつを)(原作:ブルーアーカイブ)

私はマフティーだ(大嘘)▼偽ハサウェイが偽マフティーとなってアリウスの為に頑張る話です。


総合評価:420/評価:7.08/連載:6話/更新日時:2026年02月23日(月) 18:04 小説情報

まずい、皆の好感度を上げ過ぎた(作者:ヘルタ様万歳)(原作:ブルーアーカイブ)

トリニティ総合学園。白く完璧に整えられたこの学園で1人の生徒が静かに舞台を降りようとしていた。彼女はかつて、ティーパーティーの中枢に立ち、合理的で冷静、そして多くを切り捨てることを厭わないその姿勢は、後輩たちに大きな影響を与えていった。▼誰かに何かを託し何も言わずに去ることを選んだ一人の人間が、最後まで「自分である」ことを貫こうとする、別れと擦り切れた物語。…


総合評価:3947/評価:8.53/連載:8話/更新日時:2026年01月02日(金) 16:45 小説情報

キヴォトスメロンパンモドキ(作者:ただねこ)(原作:ブルーアーカイブ)

羂索もどきがキヴォトスを謳歌するお話。ガワは夏油です。▼タイトルはゲヘナシロモップ的なアレです▼呪術は最終巻まで読了している前提です。アニメ勢ネタバレ注意▼ブルアカは最終編まで読んでいてくれると読みやすいかと▼この作品は、「キヴォトスinドブカス成り代わり」や「透き通る世界に響く雷鳴」等に感銘を受けて書いています。もしよければこちらも読んでみてください。▼h…


総合評価:935/評価:6.8/連載:61話/更新日時:2026年04月30日(木) 08:38 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>