とある幼馴染の、酷暑の夜の物語

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ファーストキスはレモンの味がするらしい

「そういや、ファーストキスってレモンの味がするらしいぞ」

 

 ふと思い立ち、淳太がそう言ったのは、酷暑の続く夏夜のとある居酒屋のカウンターでのことだった。

 華金故に、店内は大盛況で、寿司詰めのような状態になっている。

 その中で、淳太は幼少の頃からの腐れ縁とも言うべき幼馴染の美月と肩を寄せ合い、ちびちびと安いレモンチューハイを飲んでいた。

 淳太の一言に、美月は危うく吹き出しそうになって、むせた。

 

「んなわきゃないでしょうよ。あんた、そんな大昔のホラ話信じてんの? 」

 

 淳太が背中をさすってやり、何とか落ち着いた美月は涙目になりつつ呆れたようにそう聞いた。

 

「信じるも何も、したことねぇから分らん。分かるアテも無いしな」

 

 肩を竦め、横目でちらっと美月を見つつ、淳太はジョッキをあおる。

 

 もうかれこれ二十年以上、美月とはこんな風に友達付き合いをし、馬鹿話をしながら過ごしてきた。

 無論、意識しないわけがない。男女としての好意を抱いている自覚もあるし、今回のあの一言もそれ故にポロッと飛び出したものだ。

 だが、どのみち勝ち目のない恋心であることもまた、淳太には良くわかっていた。

 美人で勉強もスポーツもでき、人当たりの良さから友人の多い美月と、学生時代もようやく何とかクラスの二軍三軍に引っ掛かっているような自分とは、そもそも生きているステージが違う。

 こうして二人でたまに酒を飲むような関係が続いていることは、はっきり言って奇跡に等しい。

 それ以上を望むのは、出過ぎたマネにほかならない。少なくとも、淳太は常々そう思っていた。それだけに、

 

(やっちまったな)

 

 すぐに、この不用意な発言を後悔した。

 淳太は半ばヤケのようになって、まだジョッキに半分以上も残っているチューハイを一息で飲み干すと、もう一度同じものを注文した。

 ふと、隣でため息が聞こえた――そう思うや、美月に肩を叩かれた。

 

「ちょい、ちょい。こっち向け」

「……んだよ」

 

 呼ばれて、渋々そちらを振り返った直後、唇に、しっとりと柔らかな温もりが触れた。

 脳に電流が走り、ショートでもしたかのように頭の中が真っ白になった。

 身体も、あまりに突然のことに固くこわばり、身動きがとれない。

 今、自分に何が起こったのか。それを悟ったのは、美月がようやく少し離れ、顔を赤らめ目を逸らしてからのことだった。

 おそらく、時間にして数秒のことだったのだろうが、淳太には、あまりにも長く感じられた。

 余韻が、まだ口元に残っている。身体の芯が、燃えるように熱かった。

 

「……どう。何味だった?」

 

 プイッとそっぽを向き、頬杖をつきながら、美月が聞く。

 夢から醒めたようになった淳太は、途端に気恥ずかしくなってきて、同じように顔を背けると、

 

「…………分からん。何も、分からん」

 

 そう、力無く返した。

 店内のざわめきと、心臓の鼓動が、やけにやかましく感じられる。

 長い沈黙の後、美月が一言、

 

「私は、したけど」

 

 言って、もたれ掛かるように、肩を寄せた。


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