手の中の剣がキラキラと光る。
目の前の女はそれを見て怒ったようにこちらを罵ってきた。
「ーーー聖剣を盗むなんて一体何を考えているんだ!」
ずきんと頭が痛んだ。
ーーー何も思い出せない。
頭はまだずきずきと痛みを感じるだけで、過去の事などなにも浮かんでこないようだ。
そして耐えかねたように女が剣で切り掛かってくる。
後ろに少し下がることしかできず、振られた剣が自分の鎧を叩いた。
「どうして…」
追撃されるかと思い咄嗟に剣を構えたが、女は剣を地面に垂らしたまま動いていなかった。
「どうして私たちを捨てたのだ、お前は……」
女は剣を持ったまま泣いていた。
だが、私は何も覚えていない。
眼前で泣く女の顔も知らないし、『聖剣』とやらも知らない。
私は、なにを忘れてしまったのだろうか。
「勇者だったのだろう…?」
小さく呟かれたその言葉を聞き、ハッとした。
途端にフラッシュバックするかつての彼の姿。
光り輝く剣を持って敵を薙ぎ払う、あの英雄。
勇者……そう、勇者は………
◇◇◇
先程、神託が告げられた。
8年前、魔王侵攻の折に再び現れた我らが神。
この国を救い、いやこの大陸を救った神から5年ぶりの神託。
ここは神に護られし国、セデネティア。
教皇アーデナント、人間で最も神に近い位置におり、神託を授かりそれを人々に伝える、聖教で最も上の立場に就いている。
そして彼が授かった神託とはーーー
ーー『聖剣』を盗んだ先代勇者を捕え、神の元へと差し出しなさい
魔王軍との戦争で英雄となった勇者。
『聖剣返還の儀式』の前日に失踪した彼だったが、神は何の反応も示さず、国王や貴族たちも追跡には消極的だった。
そして失踪から一年、何故今になってこのような信託を下したのだろうか。
「先日、我らが神からの神託が下った!」
王都にて教皇の声が響き渡る。
「『聖剣』を盗んだ先代勇者を捕えて神の元へと差し出せ、これが神のご意志である!」
民衆に動揺が広がる。
「我ら聖教会は先代勇者の蛮行をかねてより咎めてきた!
先日神託があったのは、我ら聖教の行いを是と認めた証である!!」
玉座に座る王冠を被った男の顔が不満げに歪んだ。
「私はここに宣言する!!
神の祝福である『聖剣』を独占しようとした先代勇者の行いは断じて許されるものではない!!!
聖教会の名の下に!必ず先代勇者を討伐する!!」
民の歓声が王都に響き渡る。
聖教は正義と認められ、かつての英雄の名声は地に落ちた。
この『聖剣』に関する騒動は、果たしてどのような結末を迎えるのだろうか?それを知るものは、まだいない。