既に勇者は死んでいる   作:チヂミ蓮華五式

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最初の旅

私は一体誰なのだろう。

 

突然だが私は記憶喪失だ。

最初の記憶は森の中で木にもたれかかっていたところから始まっている。

身には鎧が、傍に剣が突き刺さっていて、それを拾うことから始めた。

 

大きな狼の死体がいくつかあったり、鎧が一部壊れたりしていたところから少し自分のことについて推測できる。

 

1つ、自分はどこかの騎士か兵士だった。

 

2つ、この狼達と戦い、そして気を失った。

 

ふむ、だが記憶がないのが分からない。

狼と戦って頭でも打ったのだろうか?

 

……考えていても仕方がないな。

とりあえず人のいる場所に行ったほうがいいだろう。

そう考えて私は森を離れた。

 

だが、歩いても歩いても人里は見えてこなかった。

息が切れてきて、踏み出す足がどんどん重くなっていく。

鎧が重かったのでいくつかの部位だけ捨て、更に移動を続けた。

 

 

歩き始めてからどれだけの時間が経ったのだろう。

遂に私は倒れてしまった。

 

脚の感覚はなく、頭はぼーっとしてあまり考えられない。

喉は痛み、腹からは謎の痛みに異音が鳴り続けている。

私は地面に倒れ込んだまま眠ってしまった。

 

 

目覚めた時には夜だった。

幸い獣などには襲われなかったようで、すぐに歩き始めることができた。

 

そして私はそれからもずっと歩き続けた。

歩いては気絶して、また歩いてを繰り返し、平野から森や湖、色々な場所へと移動し、やがてある村に辿り着いた。

 

ついに家屋を見つけて興奮した私は慌ててその村へと向かった。

だが私を迎えたのは静まり返った村、所々破損した家と腐臭だけだった。

 

その村に人の姿はなく、適当に入った家には乾き切ってミイラ化し異臭を放つ死体があった。

腹の底から何かが込み上げ、何かの汁を吐いてしまった。

 

私は他の家などには目もくれず、また歩き始めた。

 

 

歩いて倒れて歩いて倒れて歩いて歩いて歩いて歩いて歩いてあるいてあるいてあるいてあるいてーーー

 

「おい!そこのお前!」

 

「………ぇ?」

 

「お前は一体どこから来たんだ!」

 

喉からは掠れた声しか出ず、もはや下しか見ずに歩いていた私に、その男は問いかけた。

 

「……ァ…」

 

私は声の主を確認しようと顔を上げ、そのまま後ろへと倒れ込み、気絶した。

 

記憶喪失の彼の最初の旅、24度目の気絶であった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は北部警備隊の一員のレックスといい、門番の役職に就いている。

 

王国の北部は10年前始まった魔王侵攻によって壊滅した。

貴族兵士平民関係なく殺され、1年で北部は陥落した。

 

だが、神の降臨に勇者の選定によって魔王軍に対する人類の戦いは優位に進み、3年前に魔王軍は完全に撤退した。

 

そして北部の復興は遅々としながらも進んでいる。

遅い理由は魔王軍の生き残りがいるかもしれないということでどうしても警戒せざるを得ないからだ。

 

まぁ今まで一度も生き残りなんて見つかっていないが、万が一というやつだ。

その万が一のために俺はこうやって街の門番をやっているというわけだ。

 

ある日、近くの平野にゆっくりと歩く影が見えた。

とっさにまずいと感じ、同僚にそのことを伝えて槍を持って飛び出した。

 

もし魔王軍の生き残りならば誰かが足止めをしないといけないと考えたからだ。

その影に近づいていくと、その姿が鮮明になっていく。

 

その男は全身が土埃などで汚れていて、髪も髭もかなり伸び、正に満身創痍といった様子で、北部の災害を生き残った難民という可能性が頭をよぎった。

だが穴の空いた胸甲にガントレットなど所々に鎧を残し、腰に剣を持っていたから警戒は緩めなかった。

 

こんな時代だ、魔王軍でなくとも野盗になっている可能性もあるだろう。

 

「おい!そこのお前!」

 

まずは問いかけて人かどうか判断する。

魔王軍で人語を話せる個体は稀だと聞いている、もし魔王軍ならばこれである程度は選別できるだろう。

 

「………ぇ?」

 

長い沈黙の後の返答………どっちだ?これは。

もう一回行くか。

 

「お前は一体どこから来たんだ!」

 

「……ァ…」

 

掠れた声しか聞こえんな。

アウトじゃないかこれは。

 

と思案している途中でその男は仰向けになって倒れた。

 

…どうしたらいいんだろう。




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