コズミック・イラ73年。
DSSDこと深宇宙探査機構が保有する宇宙ステーションの一つ。
その管制室は、静かな興奮に包まれていた。
管制室のモニターには、白と黄金のツートンカラーの機体が映し出されている。
GSX-405V スターリンカー。「星を繋ぐもの」と銘を打たれた機体。
光圧推進システム「ヴォワチュール・リュミエール」による光の翼を展開し宇宙を駆けるその姿は、まるで星々の間を舞う天使のようであり。
或いは空を思うがままに飛ぶ鳥のようであり。
「スターリンカー、起動成功ッ! ヴォワチュール・リュミエール正常稼働。出力安定していますッ!」
管制室に歓声が響き、技術者たちが互いに肩を叩き合う。
外宇宙有人探査計画「プロジェクト・スターリンカー」の要となる機体が、ついにその真価を発揮した瞬間だった。
モニターの向こう、スターリンカーのコクピットに座るのは黒髪の少女、ネリー・ハーシェル。
彼女の声が通信越しに届く。
「管制室、こちらネリー。機体の挙動、完璧ですッ! まるで私の体の一部みたいッ!」
その笑顔は、声色は純粋な喜びに輝いている。
管制室の誰もが、彼女の成功を祝福する。誰もが……ただ一人を除いて。
レンリ・アマサキは、管制室の片隅に立ち尽くしていた。
朱色の髪が暗がりに揺れ、彼女の瞳には、誰も気づかない失意が宿っていた。
スターリンカーのパイロット候補として、彼女もまた訓練を重ねてきた。
外宇宙へ飛び立つ夢を、親友であるネリーと一緒に追いかけてきたはずだった。
だが、スターリンカーの正規パイロットに選ばれたのはネリーだった。
彼女の操縦技術、コーディネイターとしての素質は、レンリのナチュラルな限界を超えていたように思えた。
「私は……私は……ッ!」
レンリの心の中で渦を巻くのは失意と自己否定と、そして僅かばかりの嫉妬だった。
彼女は親友の成功を喜ぶべきだと分かっていた。
だが胸を締め付けるのは、抑えきれない敗北感だった。
自分の夢が手の届かない場所へ遠ざかっていく。
管制室の歓声が、まるで彼女を嘲笑うかのように響く。
レンリは誰にも告げず、失意と自己否定に促されるがまま静かに背を向けた。
ここには私の夢はないんだ……。
【次回予告】
諦めて、逃げ出した果てにも空は広がる
潰えて砕けた夢を抱えるのは未練か、或いは
迷いに背を向け、ただ刃を振るう
PHASE-01「墜ちたる星々の行方」
忍び寄る過去は唐突に突きつけられる
その姿は想い出さながらに、されど蒼く彩られて