機動戦士ガンダムSEED VERTICAL   作:まりなーら

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SDガンダム外伝が好きなので初投稿です。


PHASE-04 極北にて相見える(2)

 

 

『コンパスだとッ!?』

 

アラスカの空を斬り裂いて姿を見せた青い翼のモビルスーツに、場の一同は釘付けとなった。

その肩には翼を象ったコンパスのエンブレムが刻まれている。

熱紋照合により機体が特定される。

一応、コンパスの機体故にザフトのデータベースにも登録はされていたようだ。

 

「ヴァーティカル……あれにレンリが……」

 

アーランドもまた、ヴァーティカルから目を外せない。

かつてDSSDの同僚あったレンリ・アマサキ。

コンパスと名乗ったその声は間違いなく彼女の声だった……聞き間違う筈もない。

プロジェクト・スターリンカーにおけるパイロット選考の結果、退職してしまった。

以来レンリの行方は知れなかったのだが、まさかコンパスにいたとは……。

 

『邪魔をするなッ! ナチュラル共がッ!!』

 

ガルンのゲイツジェグスが対艦刀を手にヴァーティカルへと斬り掛かる。

ヴァーティカルも対艦刀を抜き放ち二度、三度切り結ぶ。

その間に旧ザラ派の機体はその場を離れつつあった。

 

「撤退していく……?」

 

彼らにとってコンパスの乱入は予定外といったところだろうか。

ヴァーティカルに続いて姿を見せた複数の、クラウドダガーとかいう機体が追撃を行う。

旧ザラ派残党の機体が何機か撃墜されるが、コンパスとしても深追いするつもりはないのか。

ある程度のところで引き返し、こちらへと戻ってくる。

気が付けばガルンのゲイツもスラスターを全開にし、この場を離脱していた。

 

「助かった……のか?」

『そうとも限らんだろう。ここがどこで、俺達が何者かを考えれば……な』

 

旧知の間柄であるレンリがいたからこそアーランドは安堵していたが。

冷静に考えれば、そんな状況でないのは明らかだった。

自分達はザフトの正規軍で、本来いる筈のない大西洋連邦領内にいる。

彼らはコンパスとはいえ、使用されている機体から考えれば大西洋連邦からの人員が殆どだ。

 

「……こちらはザフト第14機動部隊所属のアーランド・ウェルナー少尉です」

 

通信回線をオープンにしたアーランドはコンパスへと呼びかける。

どこまで聞いてくれるかは分からないが、何もしないよりマシだろう。

やがて黒白の戦艦……確かラグエルとかいう彼らの母艦が姿を見せた。

 

「旧ザラ派残党の掃討任務中、ブルーコスモスの残党に母艦を沈められ、その後彼らの襲撃を受けた。救援に感謝します」

『こちらはコンパス所属のシエラ・ハルバートン特務少佐です。旧ザラ派掃討任務の件を含め、幾つかお尋ねしたい事があります。つきましては当艦へと着艦願います』

 

幾つかお尋ねしたい事……それはそうだろうと頷くしかなかった。

周囲を見渡すとヴァーティカルのみならず、何機ものクラウドダガーがこちらを注視しているのが分かる。

武装こそ手にしてはいないが、こちらがおかしな動きをすれば分からない。

頬を、厭な汗が流れて伝った。

 

どの道こちらは母艦を沈められている以上、決して逃げ切れはしないだろう。

仮に逃げたところでザフトとコンパス、大西洋連邦の関係が無意味に拗れるだけだ。

……それに、レンリがコンパスにいる理由を知りたかった。

 

『この状況じゃそうするしかないか……アル、着艦したら念の為に機体をロックしておけ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグエル格納庫。

着艦したザフトのモビルスーツを目の当たりにし、格納庫内は喧騒に包まれていた。

本来であればここに存在するはずのない機体だ。無理もないだろう。

そして現時点では完全に信用できるものでもない。

 

「アーランド……ザフトに、入ってたんだ……」

 

見知らぬザフトの新型を、レンリはヴァーティカルのコクピットから目を向ける。

その機体のパイロットは確かにアーランドと名乗った。

アーランド・ウェルナー……かつてDSSDにいた頃の同僚。

親友だったネリーほどではないのだが、それなりに交友関係があった。

……僅かばかりではあるが、ちくりと心央が痛みを覚える。

 

やがてコクピットからアーランド達がラダーで降りてきた。

アーランドは記憶にあった頃の彼と変わった様子は見られない。

強いて言うならばザフトの赤服に袖を通しているぐらいか。

確かザフトのアカデミー成績上位者にしか許されていないエリートの証。

新型を任されているだけの事はあるということか。

 

降りてくるのを確認した皆は、隔壁の向こう側から格納庫内へと急ぎ足を踏み入れる。

整備員だけではない。保安部を引き連れている副長のエリアスもそこにいた。

 

「さてザフトの諸君。私はラグエル副艦長のエリアス・アリンガム大尉だ。君達には幾つか確認したい事がある」

 

保安部は統率を取れた動きでアーランド達を取り囲むと、一斉に銃を向ける。

指示を出したエリアスの表情は硬く、整備員は無言で見守っている。

やがて観念したのか、仕方ないといった様子でアーランド達は両手を挙げた。

 

「ついては別室で話を聞かせてもらいたい。同行願えるだろうか?」

「待って……くださいッ!」

 

思わず、レンリはコクピットから飛び出していた。

ラダーを使って降りていくのももどかしく、途中で飛び降りて駆け出す。

その勢いそのままにエリアスへと詰め寄っていく。

周囲の注目が一斉に集まるが、その時のレンリには意識する余裕などなかった。

 

「アーランドは……彼らは、敵じゃありませんッ!」

 

さしものエリアスも驚いた様子で一瞬目を丸くするが、すぐに首を横に振った。

改めてアーランド達へと顔を向け、努めて冷静にレンリへと告げる。

 

「DSSDにいた頃の知り合いか? だが敵かどうかは君が判断する事ではない」

 

レンリにとってアーランドは、DSSDの知り合いではある。

しかしそれは、あくまでも「レンリにとって」でしかない。

ラグエルのクルーから見れば。コンパスから見れば。

彼らはザフト正規軍であるにもかかわらず、大西洋連邦領内で活動していた。

 

「でも……ッ!」

「よせアマサキ少尉。それを判断するのは艦長や上の人間だ」

 

なおも食い下がるレンリを、いつの間にかコクピットから降りてきたルークが静止する。

エリアスへと掴みかかろうとした腕を、力なく下ろした。

納得はできないが、理解はできる……するしかなかった。

 

「分かり……ました……」

 

そして両手を挙げたままのアーランドもまたレンリへと体を向ける。

表情は硬いままであったが、ぎこちないながら笑みを浮かべる。

レンリを心配させまいと、不安にさせまいと。

その気持ちは、十分に伝わっていた。

 

「……僕の事なら大丈夫だ。気にするな……とは言えないけど、信じてほしい」

 

そう言い残してアーランドは同僚のザフト兵と共に歩き出した。

エリアスや保安部に囲まれながら格納庫を後にしていく。

やがてこの場を支配していた緊迫感が霧散し、格納庫にはいつもの喧騒が戻る。

それでもレンリは、アーランド達の背中が見えなくなるまで、この場に立ち尽くしていた。

 

「……元彼かい? あのザフトレッドくんは」

「ひゃあッ! きゅ……急に触らないでくださいよッ!」

 

突然、体に触れられた感触にレンリが悲鳴を上げると、隣にはいつの間にかケイトがいた。

近くにいたルークは腕を組んだまま、呆れたような視線をケイトへと向けている。

 

「ぜ……全然そんなんじゃなくてっ……DSSDにいた頃の同僚ですよ。それなりに仲は良かったかも……ですけど」

「へぇー……同僚、ねえ」

 

意味ありげにケイトはレンリの顔を覗き込む。

じっと見つめるその双眸が、すっと獲物を狙うかのようにすっと細まった。

そして何か含みがあるかのような笑みを浮かべる。

 

「……ケイト。あまりアマサキ少尉をからかうな」

「まあ朴念仁の特務少佐殿には縁のない話だもんな……アンタ顔はいいんだから、もちっと愛想よくすりゃあモテんのに。勿体ないぜ」

「やけに絡むな。放っておいてくれ」

 

ケイトの揶揄と視線を振り払うようにルークは手を払う。

そして格納庫の出入り口へと向かって歩き出す。

どうやらザフト正規軍の聴取にルークも立ち会うらしい。

 

「……こちらとしても、事は可能な限り穏便に済ませるつもりだ。ザフトもそのつもりであるなら……の話だがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海中を航行する三隻のボスゴロフ級潜水母艦。

その内の一隻、マデラスのブリッジにてガルン・ラッドは眼前のディスプレイを睨んでいた。

ブリッジに居る他のクルーの表情も一様に硬く、重苦しい空気が漂っている。

 

「……どういう事だ。聞いていないぞ。あの場にコンパスがいるなどと……ッ!」

 

ガルンの射貫くような視線の先には、ビジネススーツを羽織ったサングラスの男。

彼の視線にも、怒声にも怯む様子は全く見られない。

ディスプレイに映った時と同じく、薄い笑みを浮かべている。

 

「奴らの横槍さえなければ、あの新型は我らが手に入れていたのだッ!」

 

旧ザラ派残党を討滅する為に、新型を含めたザフトの正規軍がアラスカへ向かっている。

その情報を寄こしてきたのは他ならぬ眼前の男だった。

彼は自身の事を『スポンサー』と名乗っている。

 

『……ここは仮にも大西洋連邦の領内ですよ。彼らが出張ってもおかしくはありません。そしてブルーコスモスの残党も……ね』

 

ブルーコスモスの残党、その単語を聞いたガルンの表情は一層険しくなる。

ガルンからしてみればナチュラルなどは愚かだとしか思わないが、コーディネイター排斥を掲げるブルーコスモスは、ユニウスセブンにいた家族の命を奪った怨敵だ。

ザフト正規軍が自分達と遭遇する前、ブルーコスモス残党と交戦して失ったと思われる。

だからこそ手持ちの戦力だけでも追い詰める事ができたのだが、なんにせよ奴らは百度殺しても飽き足りない。

 

『とはいえ。巡り合わせも悪かったのでしょう』

 

スポンサーはおもむろに手元のタブレットを操作する、

アラスカ近海の地図がディスプレイに映し出された。

平面だった地図が傾き立体図となり、ある海底の一か所を赤い光点が明滅して指し示す。

 

『お詫びと言ってはなんですが、補給物資を用意してあります。そして今度は叩いてください。コンパスを……ね』

「コンパスを……だと?」

 

思わずガルンは訊き返す。

確かにコンパスはコーディネイターとナチュラルの共存などを掲げた唾棄すべき存在である。

だがあのラグエルとかいう艦も、艦載機の新型も一筋縄ではいかないだろう。

無論ガルンとしても後れを取るつもりはないが、つい先程刃を交えて侮れないと実感した。

 

『ええ。あなた達だけでは心許ないでしょう……あなた達だけでは。だから利用すればいいんですよ……ブルーコスモスを』

「我らに……我らに、奴らと手を組めというのかッ!!!」

 

スポンサーの言葉に、ガルンは思わず我を忘れて激昂する。

……よりにもよってブルーコスモスと手を組めだと?

 

『落ち着いてください。なにも手を組めとは言いません……ですがコンパスなどという正義の味方気取りが目障りなのはあちらも同じかと』

 

同志達が不安そうな眼差しでいるのに気づき、ガルンは少しばかり平静を取り戻す。

確かにブルーコスモスからしてもコンパスという存在は疎ましいのだろう。

その戦力が如何程かは想像できないが、奴らだけでコンパスに対抗はできない。

 

『ですので。あちらも敵を間違えはしないでしょう。幾ら愚かなナチュラルと言えども、そのぐらいの知性はある筈ですから……ね』

「つまり。あくまで狙いはコンパスに絞れと?」

 

ええ、とスポンサーは首肯した。

相変わらずその真意は読めず、自分達を利用しようとしているのは明らかだ。

そんな事を知ってか知らずか言葉を続ける。

 

『それに。エルドア方面の件はご存じですか?』

「ああ。ミケールを逮捕すべくコンパスとファウンデーションが動いているそうだな」

 

ブルーコスモス残党の首魁ともいえるミケール大佐。

彼が潜伏しているという拠点を叩くべく、コンパスが動いた。

ユーラシア連邦から独立を果たしたファウンデーション王国も協力しているらしい。

 

かの王国は、デュランダル議長が提唱したデスティニープランを導入しているとか。

この作戦が上手くいけばプランの有用性を改めて社会に示す事ができ、コーディネイター優位となる社会の礎となるだろう。

加えてブルーコスモス残党の首魁が逮捕されれば、奴らの活動が下火になるのは間違いない。

であるならば、この近辺をうろついているであろう残党とやらも恐るるに足らない。

 

『哀れで愚かなブルーコスモスは、頭を失えば残りは烏合の衆にすぎません。だがあなた達は違う……期待していますよ?』

 

そう言い残してスポンサーとの通信が切れた。

ガルンはこれまでの軌跡に思いを馳せる。

ユニウスセブンに放たれた核兵器。

妻と子を、帰る家を失った自分。

そしてサイクロプスに吞み込まれ、嚙み砕かれた数多の同胞達。

 

一度目の大戦が終わった時、クライン派の後継者がプラントを牛耳るようになってから、ガルンらはサトーやシヴァといった同志達と共にザフトを抜けた。

それから二度目の大戦が行われるまでに彼らもまた討たれ、その命を散らした。

 

――疲れたんだ。恨み続ける事に。憎しみ続ける事に。

 

そう言ってガルンの下を去った同志も少なくはない。

彼等を責める事は……できなかった。

今ではガルンと数少ない同志しか残っておらず、ただ朽ちていくのを、時代から忘れ去られていくのを待つだけと思われた。

 

そして二度目の大戦が終わった頃……『スポンサー』を名乗る彼は現れた。

スポンサーの名に違わずガルン達に資金や兵器、人員などを提供した。

真意こそ読めないが、こちらを利用しようとしている事は明らかである。

……だとしても構わない。

このまま、同胞達の無念が朽ちて忘れ去られていくよりかは。

 

新たに加わった同志達の中には、デュランダル前議長の下で活躍していた者もいた。

デュランダルの事は軟弱なクラインの後継者だと軽んじてこそいたが、彼の提唱するデスティニープランは、よくよく考えるとコーディネイターの未来の為には必要だと感じた。

加えて今のプラントにおいて、ラメント現議長の融和体制を快く思わない者もいる。

此度の情報についても、スポンサーが持ち込んだものを別ルートで裏取りできたのだ。

 

「ガルンさん。彼は信用……できるのでしょうか?」

 

声をかけてきたのはまだ年若い兵士だった。

確かベルリンでブルーコスモスが投入した戦略級モビルスーツに部隊を壊滅させられたとか。

顔を合わせた当初は声高に復讐を叫んでいたが、今はただ不安げな目をしている。

彼にしてもまた、スポンサーの言葉を信用できずにいるのだろう。

 

「信用できないのは俺も同じだ」

 

半ば自分に言い聞かせるようにガルンは呟いた。

プラント内部に志を同じくする者がいるとはいえ、ここまで彼らが戦えるのはスポンサーの助力あってこそのものであるのは事実だ。

納得はできなくとも、その意向に真正面から異議を唱えられない。

恐らく向こうもそれは十二分に理解しているからこそ、ああいった事を言えるのだ。

 

「ブルーコスモスの連中ではなくコンパスを先に倒せと……優先順位が変わっただけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「核兵器を狙う旧ザラ派残党の討滅任務……か」

 

ラグエル艦内の通路を、ルークとシエラは歩いていた。

つい先程までエリアスと共にアーランド達からの事情聴取を終えたところだ。

さすがに営倉に放り込むわけにもいかず、使用していない部屋で待機してもらっている。

保安部の監視付きではあるが致し方ないと思ってもらう他ない。

 

「尚の事、大西洋連邦に話を通すべきだとは思うがな」

「にもかかわらず、彼らは任務の遂行を命じました」

 

ザフト正規軍の機体が大西洋連邦領内において許可なく活動している。

発覚すれば外交問題に発展しかねないというのに……だ。

或いは、それが本来の目的であったのではないかと疑ってしまう。

 

「いずれにせよ。事の真偽を確かめなければなりません」

 

ある部屋の前でルークとシエラは足を止め、そのまま部屋に踏み入る。

照明を付け端末を操作していく。

……ここから先の事は、秘匿回線を用いる必要があった。

あらかじめコンパス本部を通じて渡りをつけたが、内容が内容だ。

端末が立ち上がると共に回線がオンラインとなり……やがて、眼前のディスプレイには二人の人影が映し出される。

 

ディスプレイに映った二人の若い男。

その片割れの、生真面目そうなザフト白服の男が口を開いた。

隣にいる浅黒い肌の、ザフト黒服の男共々、その面持ちは硬く。

 

「急なお呼び出しに応じて頂き感謝致します。イザーク・ジュール中佐」

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

一面に広がる薄氷に、透けて見える七色の思惑

逡巡する暇は許されず、そして振り返れば路はなく

されど先で交わると信じるのは願いか、それとも祈りか

 

PHASE-05「クロスローズ」

 

光の届かぬ深淵に、黒き思惑が蠢く

如何な思いも全てを呑み込み、唯一色へ染め上げる




閲覧、ブックマーク等ありがとうございます。
感想等頂けましたら励みになります。何卒よろしくお願いします。

Gジェネエターナルくん、ソシャゲ故に手は出ていませんがSDガンダム外伝は気になりますね。
スペリオルドラゴン00が出てきたら呼んでください。
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