「もうやめようッ! ネリーッ!!」
ディアボロスから向けられる砲撃を、レンリのヴァーティカルは次々と回避しながら迫る。
多数のウイングスラスターを微細に調整しながら、滑るように空を駆けていく。
レンリ自体の技量もあるが今回に限っては別の要因もあった。
「ネリー、君はこんな事をしてはいけないッ!」
アーランドのヘリテージもまたスラスターを全開にしてディアボロスとの距離を詰めていく。
如何にディアボロスのフルバーストといえど、ターゲットが分散していれば回避は容易になる。
とはいえ流石にアーランドはレンリほどの技量も、ヘリテージもまたヴァーティカルほどの機動性を持つ機体ではない為、ついていくので精一杯ではあるのだが。
「……アーランド? あなたザフトなんかに……ッ!」
「ああ。だけど……今の僕はコンパスだッ! 君をこのままにはしておけないッ!」
勢いそのままにヘリテージは背部プラットフォームから《オピニコス・ビームブレイド》を二振り取り出して、下から切り上げるように振り上げる。
ディアボロスは《ミョルニル》を打ち出しながら《ケーファー・ツヴァイ》が火を噴く。
破砕球をビームブレイドで受け止めてバランスを崩したところへの砲撃を更にもう一振りのビームブレイドでどうにか防ぐ。
一瞬の攻防の隙を突く形でヴァーティカルは背後に回り対艦刀《ノルン》を構えた。
ディアボロスの背部リフターにある《フレスベルグ》から放たれたビームを対艦刀のビームフィールドで逸らしながら斬り掛かるが、振り向いたディアボロスは《ニーズヘグ改》で受け止める。
「コーディネイターがッ……レンリの隣にいるんじゃないッ!」
ネリーと同じコーディネイターであるアーランドがレンリと共に戦っている。
それはブルーコスモスの思想に共感する身からすれば、業腹とも言うべきシチュエーション。
怒りに任せたネリーは《ニーズヘグ改》を大きく振り回しながらヴァーティカルとの距離を開け、体勢を崩したところへフルバーストを放つ。
「レンリになにもしてやれなかったあなたが……今更隣に立つ資格なんてッ!!」
その意味ではアーランドもまたネリー自身と同罪なのだと憤る。
ディアボロスのフルバーストを回避ないし対艦刀で受け流しながらもヴァーティカルは、それでもと諦めずに再び距離を詰めていく。
ヘリテージもまたヴァーティカルとタイミングを合わせて迫る。
「ああそうさ。あの日から僕は後悔していたッ! レンリに何もしてやれなかった事を……そして君にもだッ! だからッ!!」
誰にも告げずレンリがDSSDを退職してからネリーは心の均衡を崩していった。
それに対して何もできなかったばかりか、アーランドもDSSDを離れてザフトに入った。
レクイエムの件があって自身に余裕がなかったとはいえ、悔やまなかった日はない。
「君じゃないとダメなんだッ! レンリの隣に立つのはッ!!」
しかし。こうしてレンリと、ネリーと再び巡り合った。
アーランドは神などという存在を信じてはいないが、今度こそと言われているように思えた。
「そうやってレンリを利用しようとするのね、あなたはッ!!」
「違うッ!!」
ディアボロスが力強くニーズヘグを振り回してヘリテージのビームブレイドを一振り弾く。
僅かに距離を取ったところへ、ディアボロスの《スキュラ》と《ツォーン》にエネルギーが収束していき、避けるタイミングを失ったヘリテージを捉える。
二条の光芒が放たれ、更にはリフター背部の《フレスベルグ》による曲射が直上からも狙い撃ってくる。
「……ッ!」
……間に合わない。
シールドを掲げようとするが、恐らくビームが直撃する方が早いだろう。
このままではと思ったその時、強い衝撃がヘリテージのコクピットを揺らした。
「危なかった……」
ヴァーティカルがヘリテージに体当たりをして、無理矢理射線上から退避させたのだ。
しかしギリギリのタイミングだったのか、ヴァーティカルの左腕にある対ビームコーティングシールドは耐え切れずに表面が融解している。
ひとまず無事だったことに安堵する事すら忘れて、アーランドは茫然としていた。
「さっきから、黙って……聞いていたら……ッ!」
レンリはヴァーティカルのコクピットで俯いている。
操縦桿を握る手は震えていたが、それは恐怖などの類ではなかった。
怒り。憤り。
そうった類の感情が、レンリの胸の奥で渦巻いていた。
「隣に立つ資格がないとか……そんなの勝手に決めないでよッ!!」
前を向いてレンリは力の限りに叫ぶ。
夢を諦めてDSSDから逃げ出したレンリ自身が言える事ではないのかもしれない。
そんな自分を謗るのならまだよかった。
しかしアーランドにまで敵意を向けるというのであれば、それは最早八つ当たりでしかない。
「私は……私はッ! ネリーに隣にいてほしいッ!」
内なる衝動に突き動かされるようにヴァーティカルを加速させる。
それは純粋にレンリとしての願いそのものだった。
過去は変えられない。だけど未来を望むことはできる。
しかし望んだ未来を掴み取れない事もあるかもしれない。
だとしても……だからといって諦める訳には、逃げる訳にはいかないのだ。
「だからネリー……あなたは、そんなところにいなくていいんだッ!!」
叫ぶレンリに呼応するように、ヴァーティカルのウイングスラスターから光の翼が形成される。
光圧推進システム、ヴォワチュール・リュミエール。
スターリンカーを思い出してしまう為に、今の今まで起動させるのを躊躇っていた。
加えて、レンリの戦い方そのままに起動させた場合、過度な負荷により機体が自壊する可能性があると指摘されていた。だとしても……
「お願い……今だけでも、力を貸してッ! ヴァーティカルッ!!」
「くそッ! 数だけは多いな」
旧ザラ派残党のジンやディンから多数のミサイルが撃ち出される。
ラグエルに向かって飛翔するそれをラグエルの迎撃ミサイルが撃ち墜としていくが、いかんせん数が多く到底全てはカバーできない。
そんな撃ち漏らしをジェサイアやクラウス達は片付けていく。
「連中も上手く考えたものだぜッ!」
「ぼやくな、次が来るぞッ!」
彼らが運用しているジンやディンの大半は無人機であるが、ミサイルなどの火器を満載して移動式のタレットとして扱っている。
確かにこれならばドラグーン・システムを用いたとて複雑な操縦は不要だ。
人手の足りない残党でも機体さえあれば戦力を嵩増しできるという事か。
「なら埒を抉じ開けてやるッ!」
ケイトのクラウドダガーがモビルアーマー形態へ変形し、ミサイルの弾幕へと突っ込んでいく。
爆風を辛うじて避けながらも一機のジンへ肉薄し、ビームサーベルを突き立てる。
タレットとして運用している無人機であれば咄嗟の回避行動は取れないとの読みが当たった。
『させんぞッ! ナチュラル共めがッ!』
そのまま次の無人機を手に掛けようとしたケイトの前にザクが立ちはだかる。
ザクが振り上げたヒートホークを、ケイトのクラウドダガーがビームサーベルで受け止める。
両者は切り結ぶが、ザクは横手からのビームに突如頭部を吹き飛ばされた。
「おいおい。よそ見しなさんな」
ビームライフルを構えたバイアネットに乗るジェサイアが軽口を叩く。
しかしそんな余裕は束の間、急加速して突っ込んでくる機影が吹き飛ばす。
深紅のゲイツジェグス……ガルンの機体だ。
勢いそのままに振り下ろされた連装ビームクローを何者かが受け止めた。
「まだこんな事を続けるのかッ!」
『黙れッ! ナチュラルと手を組んだ裏切り者がッ!!』
前に出たクラウスのゲルググが、ビームシールドで斬撃を防いでいた。
ビームシールドを構えている逆の手で《マグヌスグラディウス》特斬槍を展開。
薙刀のように光刃を出力して斬り掛かる。
機体の出力では新型のゲルググが上回っている筈だが、気迫なのか或いは……ガルンのゲイツジェグスが押し負ける様子は見られない。
『そうまでして偽りの平和にしがみ付くかッ!!』
「その平和すらもぶち壊すヤツが何を言うッ!」
機体を捻ってゲルググの斬撃を交わしたところに、更にバージルのゲルググが斬り掛かる。
ゲイツジェグスは距離を取りながらバージル機にはレールガン、クラウス機にはシールド内蔵のガトリング砲を向けて放つ。
続けてクラウス機に接近しビームクローで下から斬り上げる。
その隙をバージル機がビームライフルで狙うも状態を逸らしつつ、射線上にクラウス機を巻き込む形で回避した。
「挙句の果てにブルーコスモスの連中を手を組んで……何やってんだよ、お前はッ!!」
『ブルーコスモスともあろうものが、コーディネイターの手を借りようとはッ!』
迫るレゾナンスを前に、ストライクEに乗るライアンは言葉を返せなかった。
旧ザラ派残党は偶然居合わせただけだとフェリクスは語ってはいたが、恐らく何らかのお膳立てをしたであろう事は察しがついていた。
かといって指摘して、これ以上ユリエールからの不興を買うのも避けたい。
つい先日も、コーディネイターであるネリーに肩入れするなと釘を刺されたところだ。
「……黙れッ!」
ライアンの心情はさておき、ラグエルを優先して攻撃するというのは確かに理にかなっている。
彼らは自分達ブルーコスモスや旧ザラ派を掃討しようとしている以上、逆に言えば自分達にとってラグエルは、コンパスは共通の敵なのだ。
より看過できない脅威だと考えれば筋は通る。通るのだ。
『そうまでして許せないのか。コーディネイターという存在が』
「黙れと言っているッ!!」
まとわりつく疑念と葛藤を振り払うようにライアンは叫ぶ。
しかしレゾナンスのパイロットはそれすら見透かしているように思えた。
ヤツもまたコンパスの使命とやらや仲間の為に戦っており、振るう刃に曇りはない。
自分とはまるで正反対としか言いようがなかった。
「しま……ッ!?」
その意識の差は機体の挙動にも影響を与えていたのか。
レゾナンスが右手で振るうビームサーベルが真っすぐに振るわれる。
咄嗟にストライクEもビームサーベルを突きだすが弾かれ、光刃は宙を舞う。
続けて左手で振るった光刃がストライクEの右腕を斬り飛ばす。
『隊長ォッ!』
更に斬り掛かろうとしてきたが、部下のウィンダムが気付いてビームライフルを撃った。
レゾナンスは上体を逸らしてからの宙返りで射撃を回避する。
回避しながらもビームライフル・ショーティーに持ち替え連射。
頭に血が上った部下のウィンダムの頭部を、腕部を次々と貫き砕く。
「貴様……よくもッ!」
頭部と腕部を失ったウィンダムを顧みることなくレゾナンスが迫る。
更には援護する為か何機かバイアネットも近づいてきた。
背後からも旧ザラ派に挟撃されている以上、あちらにとっても正念場なのだろう。
ライアンは深く呼吸をし、熱くなっていた頭を冷やす。
「各機……体勢を立て直せ。油断するな」
周囲を見渡しながらライアンは僚機共々、機体をフリアエの付近へと寄せた。
フリアエの各種火器が届く有効圏内であれば、迂闊に突っ込んではこれないだろう。
「手を組んだ覚えなどないッ!」
ガトリングと連装レールガンを放ちながらガルンのゲイツジェグスは距離を取った。
更に無人機のジンやディンに攻撃指示を下す。
ゲイツジェグスの頭部から攻撃誘導用の赤いレーザーを放ち、クラウスやバージルを捉える。
「利用しているのだ、奴らをなッ!」
叫びながらもガルンは、自分達が利用されている事は十分に自覚していた。
それがブルーコスモス残党なのか、はたまた別の何者なのかは伺い知れない。
しかしこの状況をお膳立てし、ラグエルを葬ろうとしている。
ガルンにとってもコンパスは目障りな存在である以上、その意図に乗るだけの理由はある。
……あるのだと、ガルンは自身に言い聞かせる。
「貴様とて忘れたわけではあるまい。血のバレンタインを……アラスカを……散っていった数多の同胞達の無念をッ! 嘆きをッ!」
吼えながらもガルンは無人機が放ったミサイルの弾幕に紛れ、レーザー対艦刀を振り下ろす。
クラウスのゲルググが特斬槍を大きく振り回して対艦刀の斬撃を弾く。
そのまま返す刃で特斬槍の光刃が迫るが対艦刀で受け止める。
『忘れちゃいない。忘れちゃいないからこそ、お前を止めるんだッ!』
『血のバレンタインを忘れていないお前が、同じ事をしようというのかッ!?』
対艦刀を受け止めるゲイツジェグスの横手よりバージルのゲルググが迫る。
シールド内蔵のガトリングで牽制しつつも再び無人機に攻撃指示を出し、放たれたミサイルで距離を取らせる。
一方でクラウス機の特斬槍を力で押し返す。
本来旧式のゲイツではパワーに劣るが、徹底した改修により新型にも劣らない。
「同じ……同じだとッ!? 先に核を撃ったのは奴らではないかッ!」
ガルンのゲイツジェグスは激昂するままにクラウス機を押し返し、腰部のエクステンショナル・アレスターを二基撃ち出した。
一基は特斬槍より破壊されたがもう一基は左腕を捕らえ、ゼロ距離射撃により破壊する。
更に組み付いた際の有線アンカーを用い、スラスターをも駆使しつつ素早く背後を取った。
「何の罪もない同胞を、ただコーディネイターであるという理由だけで奴らはッ!!」
ユニウスセブンで平和に暮らしていた妻と息子は、あの日無情にも命を奪われた。
ナチュラルのどこにそんな権利があるというのだ。
ガルンの言葉に気圧されたのか、ゲイツジェグスの振り下ろしたビームクローを受け止めるクラウス機の動きは僅かに鈍い。
「それにだ。ナチュラルと我らが同じだと……笑わせるなッ! 我らはコーディネイターは新たな種であり、新たな知的生命体なのだッ!!」
『思い上がるなッ! そんな上等なモノじゃないだろうッ!!』
上からバージル機が激昂し斬り掛かるが、無人機によるミサイルは間に合わない。
クラウス機を盾にするように立ち位置を変え、レールガンを連射する。
両機はビームシールドで防ぎながらもゲイツジェグスへ肉薄しようとする。
「やらなければやられるのだッ! これは種の生存を賭けた戦いなのだッ!!」
『対立を乗り越えての知的生命体だろうがッ!』
バージルが反駁するがガルンは鼻で笑う。
ラグエルとやらはコンパスといえども事実上大西洋連邦の走狗でしかない。
何を言われて絆されたのかは分からぬが、随分と温い事を言うようになったものだ。
「……奴らに知性などないッ! 同じだと……? 片腹痛いわッ!!!」
閲覧、ブックマーク等ありがとうございます。
感想等頂けましたら励みになります。何卒よろしくお願いします。
第一幕のPHASE-03同様、今回も3回に分けての構成となります。