『なお、我らを受け入れられぬという勢力には、ラクス・クラインの名の下にレクイエムによる制裁を下す……その頭上に、メギドの火が落ちる事になるだろう』
それは、突然に起こった。
エルドアの惨劇という、世界を大きく揺るがした事件。
動揺が収まらぬ内に再度『それ』は世界へと叩き付けられた。
「まさか『レクイエム』が……」
かつてブルーコスモス主導で月の裏に建造された軌道間全方位戦略砲。
二度目の大戦において用いられたそれは、連合・プラント問わず甚大な被害をもたらした。
戦後は解体・封印される事になっている筈だったが、それが再び牙を剥いたのだ。
再度起動したレクイエムは、ユーラシア連邦の首都・モスクワを一撃で叩いて砕いた。
錯綜する情勢に世界が焦燥する中、ファウンデーション王国が高らかに声を上げる。
宰相オルフェ・ラム・タオは全世界へ向けて宣言……要約すると、こうだ。
レクイエムによる、国土を滅ぼしたユーラシア連邦への報復。
自分達はコーディネイターを超える種『アコード』であると宣言。
全世界へのデスティニープラン導入の要請。
従わぬ場合はレクイエムによる攻撃も辞さないという恫喝。
「……随分とまあ、好き勝手に言ってくれるな」
先のファウンデーション王国による放送を聞いた直後、ルーク達もブリッジへと集結した。
まるでエルドアの惨劇が、ほんの序章とでも言わんばかりの衝撃。
集まった皆の表情は一様に硬く、沈黙がブリッジを包み込む。
周囲を見渡したシエラは立ち上がり、一歩前に出る。
「……一つだけ確かな事があります。この事態に、我々が対応する必要があるという事です」
シエラの言葉に皆は頷く。
確かにコンパスとしての活動は凍結されたが、最早それどころではない。
第八艦隊としても対応に当たらなければならないのだ。
……例え、それが如何に困難であろうとも。
『先の宣言は聞いていましたね。ラグエルの諸君』
言葉と共にディスプレイへ、フォスター大統領が映し出された。
立て続けに起こる非常事態への対処に追われているのか。
その顔には明らかに疲労の色が見て取れた。
『まず悪い知らせがあります。プラントでクーデターが発生しました』
更に事態を悪化させると言ってもいい知らせに皆の顔が歪む。
プラントとしても本意ではないのだろうが、タイミングがあまりにも悪い。
否……水面下で準備を進めており、機を見計らっていたというべきか。
首謀者は国防委員長ジャガンナート中佐であり、かの王国の艦隊と合流したそうだ。
恐らくは旧ザラ派残党に戦力を提供したのも彼らなのだろう。
『私はこれよりオーブのアスハ代表と再度会談を持ちます。プラントが動けない以上、我々で対応するしかありません』
オーブとは一度エルドアの惨劇を巡って交渉が決裂した結果、コンパスは活動を凍結している。
しかし、この期に及んでは一度棚に上げるしかないということか。
個々で対応するよりかは足並みを揃えた方がいいだろう。
少なくとも、狼狽えるばかりの他国よりオーブの方が話は通じるのは確かだ。
また、コンパスの活動再開を交渉材料としてもいい。
そしてなにより。
遺伝子によって全てが決まるデスティニープランなど、到底受け入れられるモノではない。
コーディネイターであるならまだしも、ナチュラルはどうしても能力的に劣ってしまうのだ。
事実上ファウンデーションへ隷属せよと宣言しているも同然である。
『君達は低軌道上の第八艦隊と合流後、レクイエムの排除に当たってもらいたい』
「承知しました」
フォスターからの指示にシエラは力強く頷く。
ラグエル単艦であれば、マスドライバーを用いなくても陽電子砲ローエングリンを利用した大気圏離脱は問題なく可能だ。
問題はレクイエムに直接狙われれば打つ手はないのだが、こればかりは祈るしかないだろう。
戦力を三分割して狙いを逸らすぐらいしかできないだろうが。
『ユーラシア連邦は一足先にエンデュミオン基地から艦隊を派遣している』
「あちらとしても首都を直接攻撃されましたからね。動きは早いのですが……」
せめて足並みは揃えて貰いたかった、とフォスターは嘆息する。
各個撃破されては無為に戦力を磨り潰すだけなのだ。
少なくともユーラシア連邦もそれは分かっているのだろうが、あちらは首都を攻撃されている。
頭に血が上った艦隊が先走ったといったところやもしれない。
『オーブが協力してくれればいいのですが、まあこれは……私の仕事ですね』
その上でオーブ艦隊まで参加すれば更にターゲットは分散されるだろう。
レクイエムとて無制限に連射できるわけではない。
発射には十分なエネルギーチャージを要する以上、突くべき弱点はそこしかないのだ。
もっとも、オーブの協力が得られるかはフォスターの手腕に掛かっているのだが。
『このような作戦に諸君を送り出すのは……』
そこまでフォスターが言いかけた時、ディスプレイにノイズが走る。
続いてディスプレイに表示されたのは、シエラも良く見知った顔であった。
フォスターの側でも同じ映像を受信しているのだろうか。
疲労の上から更に、苦虫を嚙み潰したような表情が加わる。
『大西洋連邦の諸君。私はブルーコスモスのユリエール大佐だ』
『ご存じの通り、
ディスプレイの向こうでユリエールは高らかに告げる。
この事態を招いたのはフォスターをはじめとする今の大西洋連邦であると。
ナチュラルとコーディネイターの共存といった虚言で皆を惑わした。
そんなものは欺瞞であるのは誰の目にも明らかだと。
『そして見ての通りだ。これこそが忌まわしきコーディネイター共の、偽らざる本音なのだ』
ユリエールの背後では、レクイエムによって廃墟と化したモスクワが映し出されている。
その惨状を嘆くようにユリエールは続けた。
次に狙われるのは我らかもしれない。それを座して待つのかと。
このまま奴らに服従し、家畜のように扱われるのかと。
『否ッ! 断じて否ッ! 我らは戦う……人としての尊厳を取り戻す為にッ!』
力強く叫んだユリエールは、見る者へ訴えかけるように前を向き更に言葉を紡ぐ。
この期に及んでフォスターは共存などという妄言に取り憑かれていると。
最早それは、人類への背信に他ならないと。
『であるならば我々は、武力をもって排除せねばならないッ!』
フォスター大統領の退陣を含む現政権の解体と、速やかな政権の移譲。
アルカトラズへ収監されているブル―コスモスならびにロゴス関係者の釈放。
そしてファウンデーション王国ならびにプラント本土への核攻撃。
これらの要求を吞めない場合、首都ワシントンが火の海と化すらしい。
『我らこそが人類を、青き清浄なる世界を守れるのだッ!!』
ひとしきり要求を叩き付けた後、ユリエールからの映像は途切れた。
ラグエルの皆も、フォスターも一様に言葉を失っている。
沈黙を破ったのは、フォスターの嘆息だった。
『……どさくさに紛れて随分とまあ』
「ですが、彼女の言葉こそ欺瞞でしかありません」
静かに、しかし力強くシエラは首を横に振った。
ブルーコスモスがコーディネイターを目の敵とするのは別段おかしな話ではない。
ファウンデーション王国による脅迫は到底受け入れられるモノではない。
しかしフォスターへと全て責任転嫁をし、あまつさえ過大な要求は常軌を逸している。
「……陽動でしょうね。十中八九」
『しかし乗らざるをえないのも事実であるか……余計な仕事を増やしてくれましたね』
先のアラスカにおける戦闘をシエラは振り返る。
偶然とは言い難いタイミングでブルーコスモス残党と旧ザラ派残党が遭遇した。
そして両者はラグエルを優先して攻撃を仕掛けてきたのだ。
当人たちにとっては偶発的だったのか、その足並みこそ揃ってはいなかった。
しかし、あの状況は仕組まれたものだと言ってもいい。
旧ザラ派残党の機体に積まれているOSが、ザフトの最新版であったという事実。
そしてプラントで発生したクーデター。
一連の影に潜んで糸を引いていたのは、ほぼ間違いなくファウンデーション王国だろう。
ユリエールがどこまで関与しているのかはとにかく。
大西洋連邦側で軍事的な恫喝を起こさせればレクイエムへの対処も遅れるだろう。
それにより、結果的にはファウンデーション王国への援護となる。
あちらとしては団結されると困るのは明らかであり、だからこそのブルーコスモス残党が別個に動いたという事か。
そしてプラントに対してはクーデターで切り崩しを図った。
「それと先の戦闘において、残党の機体とレムナント・ワンの無線機動端末を回収しています」
初遭遇時に回収したジンに搭載されていた、ドラグーン・システムの受信装置。
それを踏まえて更に幾つかの残骸と、無線機動端末を回収していた。
後者にはご丁寧に自爆装置まで積まれていたが、オーティスの機転により無事に解除された。
「先程解析結果が出たのですが……量子通信の発信元が全て同じでした」
『アスハ代表にも一連の調査結果は共有しておきましょう。あちらもあちらで何かを掴んでいる筈ですから』
機体にはザフト正規軍から横流しされたOSが搭載されているという事実。
そしてブル―コスモス残党の艦から操作されていたドラグーン・システム。
これ程明らかになってほしくない繋がりもそうそうないだろう。
『ブルーコスモス残党はヘブンズベース基地の跡地に集結しているとの情報も入っています』
「了解しました。ラグエルはヘブンズベース基地へ急行。彼らの排撃を行います」
「……ここにいたか」
フリアエに備えられたラウンジの一角。
大西洋連邦の侵攻に備えて慌ただしく動く格納庫を、フェリクスは眺めていた。
ユリエールの声に気付いた彼は振り返り一礼する。
「これはユリエール様。如何されましたか?」
本来であればユリエール共々、侵攻に対応しなければならない状況である。
にもかかわらず、それを咎める様子は見られない。
……まるで一大事という状況すらも、この二人にとっては些事であるかのように。
「例の小娘はどうなっている?」
「……振られましたよ。残念ながら」
レンリの事を聞かれたフェリクスは肩を竦める。
どうにか味方に引き込めないかと試したが……『あの時』みたいにはいかないようだ。
こちらの想定以上に意志は固く、『楔』を打ち込めるだけの隙は無いと言っていいだろう。
「とはいえ『ホロー』への改修もまだ時間は掛かるそうですからね。焦る必要はありません」
フェリクスの視線の先にあるのは、武装と装甲の大半を外されたディアボロス。
その傍らには手足を失ったヴァーティカルが無造作に転がっている。
特徴的なウイングスラスターは外されて別のスペースで分解されていた。
蒼き光の翼を背負っていた先の戦闘からすれば見る影もない。
鹵獲したヴァーティカルに搭載されていた光圧推進システム、ヴォワチュール・リュミエール。
それを解析してディアボロスの改修に伴い搭載しようとしていた。
とはいえ実物とヴァーティカル自体の実働データこそあるが、一から組み上げる必要がある。
現状で明らかなのは、簡単に外付けできるようなシロモノでないという事だ。
本体を含めて大規模な改修が必要になるだろう。
「仕方あるまいな。あの『出来損ない』も使い物にならんのだろう」
「ええ。今は『揺り籠』にて調整はしていますが……難航していると聞いています」
先の戦闘で回収したネリーは心を壊していた。
無理もない。親友を殺めたという事実を認めたくないだろう。
最早使い物になるかどうか怪しく、既にユリエールは見限ろうとしている。
尤もフェリクスからすれば、まだネリーは使い道はある。
心が壊れているのなら作り直せばいい。
今なら思うがままに、望むままに手を入れられるのだから。
ユリエールの関心が離れているのであれば尚更に都合がいい。
「この場を乗り切るのに不足がなければ構わん」
「ええ。『ジブリールの置き土産』もありますからね。彼らの遊び相手としては十分かと」
「折角の機会だしさ、俺も同行させてもらおうかな」
ブルーコスモス残党が終結するヘブンズベース基地へ向けて動き出したラグエル。
作戦は一刻を争う以上、慌ただしく物資の積み込みが行われている。
にもかかわらず彼は……ディーン・アズラエルは、多忙を極めるブリッジに姿を見せた。
「アズラエルCEO……ピクニックに行くのではありませんよ?」
遠回しな表現で『邪魔』だと、シエラは冷ややかに告げる。
金も出すが口も出す。面倒事をこれ以上増やさないでほしいという切実な願い。
ブリッジにいる他の皆もまた一様に、冷たい視線を向けていた。
ソフィアに至っては面倒な上司の存在を認めたくないのか、額に手を当てて天を仰いでいた。
「君達の実力ならピクニックみたいなものだろう。それに新型の実戦はこれが初めてなんだ。折角の機会だし特等席で見たいじゃないか」
そんな空気を意に介しているのかしていないのか、ディーンは肩を竦める。
エンガルフとフィアレスは搬入こそ完了しているものの、まだ最終調整の途上にあった。
艦内でできる事は全て終わらせるつもりではあるが、実戦投入はぶっつけ本番となる。
「それにさ。折角だから手土産を持ってきたんだ」
言うやいなやディーンは手元のタブレットを操作する。
そして表示されたモノをシエラへと手渡して見せた。
「これは……ゲルググ?」
タブレットに映っているモノに、シエラの眉間に皺が寄る。
ザフトのゲルググ……アラスカで成り行きからコンパスへ出向扱いになった機体である。
しかしコンパスの活動凍結に伴いパイロット共々ザフトへ復帰する筈だ。
「もしかしなくても無断使用では?」
「まだ返すまでには時間があるからね」
大した問題ではないと言わんばかりのディーンは笑みを浮かべる。
確かにパイロット共々ザフトへ復帰しようにもできない状況ではあるのだが。
あの気難しそうなジュール中佐が知ればなんと言うだろう。
しかも、ご丁寧に頭部ユニットをバイアネットに近いバイザータイプに換装しているようだ。
「それに、これからもコンパスで運用するならパーツの規格を揃えておく必要があるだろ?」
ガワは頭部以外ゲルググのままだが、それ以外は修理のついでで相当に弄っている。
それらのデータも共有すれば、アラスカの戦闘においてヘリテージをお釈迦にしてしまった分の埋め合わせにはなるかもしれない。
更にここで収集した実働データを用いれば、更に面白いモノを作れるだけの確信があった。
「商機と勝機は見落としたくないからさ。ああ……それと、パイロットも手配は済んでいる」
携帯端末を取り出したディーンが一言二言を交わすと、メインブリッジのドアが開いた。
中へ入ってきた三人の人物に、ラグエルの一同からの注目は集まる。
ある者は驚きに目を見開き、またある者は呆れたように額に手を当てる。
何故ならば。そこにいた人物に誰もが見覚えがあったからだ。
「紹介しよう。ウチの新人アルバイトだ。腕は保証するよ」
「……一体、我々は何の茶番を見せられているのかな?」
ふざけているのか? と言わんばかりにエリアスはディーンを睨みつける。
シエラも最初は驚いていたものの、ディーンの意図を察し、息をついて天を仰ぐ。
注目が集まった三人の人物は、一様にサングラスを掛けていた。
しかし皆からすれば彼らは見覚えのある人物だった。
……アーランド、クラウス、バージル。
書類上ではコンパス凍結に伴い、ザフト正規軍へ復帰した筈だ。
プラントへ帰還できない情勢である為に、今は成り行きでラグエルに留まっているのだが。
そもそも、本来であればここに参加していい人間ではない。
「何を言っているんだい? ちゃんと身分証もある」
ディーンが何食わぬ顔で差し出したもう一つのタブレットをエリアスはひったくる。
どうやらウィーグリーズ社に登録されている身分情報らしい。
顔こそアーランド達のそれとほぼ同じではあるのだが、共通点はそれぐらいだ。
「アルフレッド・テイラー……コーディネイターの傭兵、ですか」
エリアスの手元にあるタブレットをシエラとミラは覗き込んだ。
そしてアルフレッドとされている男……もといアーランドへと目を向ける。
思わずアーランドは目を背けるが、やがて意を決したように前を向く。
「……助けたいんです。レンリを」
どうにかアーランドが紡いだ言葉に、シエラは得心がいったように頷く。
頷くものの、彼へと向けた目は厳しい。
自分がやっている事の意味は分かってるのか、と言わんばかりに。
エリアスもまた腕を組み、射貫くような視線を向ける。
「……それは我々も同じです。ですが彼女の件については我々の問題です」
少し間を置いてシエラはハッキリと言い切った。
捕らえられたレンリの事は確かに気掛かりだ。
ブルーコスモス残党と矛を交えれば救出できる機会もあるかもしれない。
しかし場合によっては任務の遂行を優先せざるをえないという場面もある。
軍人である以上、レンリを見捨てる事を含めた非情な決断を下さねばならないだろう。
それは決して、部外者であるアーランドが関わっていいものではない。
「あの時からずっと……心残りでしたから。だから今度は、後悔したくありません」
言葉と共にアーランドは拳を握りしめる。
確か彼はDSSDにおいてレンリとネリーの同期であった。
だからこそ今回の事態に対して思うところがあるのだろう。
その想いと決意は真っすぐではあるものの危うく……だとしても。
「……こちらの指示には従ってもらいます。それで構いませんね?」
「はいッ!」
意思のない者に、何事もやり抜くことはできない。
かつての父が残し、今も皆の胸にある言葉を思い出し、どうにかシエラは頷いた。
レンリを助けたいという想いは確かに同じだが、錯綜する状況がそれを困難としている。
また戦力が足りず猫の手も借りたい状況であったのは事実だ。
ルファエルとアクラシエルを中心とした第八艦隊の本隊はレクイエムの攻略へ向かっている。
一方でこちらはラグエルと主に東海岸側の正規軍が中心となり、正直に言って心許ない。
「機体はゲルググ……では足りませんね。ハーディン大尉のクラウドダガーで構いませんか?」
「分かりました。作戦までにOSの調整を行いますので、これで」
一礼してアーランド達はブリッジを後にする。
今回ディーンが持ち込んだゲルググは、元々クラウスとバージルの機体だ。
しかしアーランドが搭乗していたヘリテージは既に全壊同然のスクラップと化している、
ケイトがフィアレスへと乗り換たので、空いているクラウドダガーを使うしかないだろう。
「ゲルググの搬入が終わり次第、本艦はヘブンズベースへ向けて発進します」
「ここにいたか。随分と捜した」
「……ッ!」
宛がわれた士官室でベッドに腰掛けていたレンリは、突如押し入った兵士に身構える。
営倉での一件もそうだが、そもそもここはブルーコスモスの艦なのだ。
自分達と敵対していた人間が殆どであり、フェリクスにしても何を考えているのか分からない。
「……君をどうこうする心算はない。ここを出るぞ」
いうや否や兵士は士官室の棚から制服を取り出した。
みたところ地球連合軍で採用されている標準的な制服だ。
そして今すぐに着替えろとレンリへと押し付けると、部屋から通路の外に出た。
この兵士が何者かも、その目的も分からない。
少なくとも、ここにいる限り状況はこれ以上悪くなりようがないだろう。
意を決して、急いでコンパスの制服を脱ぎ捨てると地球連合の制服へ袖を通す。
この部屋に入れられてから、それなりに時間は過ぎていた。
その間、備え付けのシャワールームで疲れと汚れを多少なりとも取れたのは僥倖だった。
もっとも、こんなに早く事態が動くのは想定外だったが。
正体を悟られぬよう制帽を目深に被り、鏡の前で制服を整える。
「……終わりました。ところで、あなたは一体?」
「ライアン・クロフォード……少なくとも、君の敵ではない」
着替えたレンリが部屋から出ると、ライアンと名乗った兵士は付いてくるように促す。
閉じ込められたままでは一向に埒が明かないのは事実。
彼が何を考えているのかはとにかく、場合によっては隙を見て逃げ出せばいい。
少なくとも見たところ、何かの作戦が始まるらしく他の兵士は一様に慌ただしく思えた。
すれ違う兵士はこちらに対して何の疑問も持っていない。
ライアンは残党の中でも立場があるのか、出会う兵士が時折敬礼を向けている。
という事は潜入した工作員ではなく、元々ブルーコスモスの人間なのだろうか?
それにしても……と、周囲を見渡しながらレンリは改めて思う。
元々同じアークエンジェル級をルーツとしているのか、艦の構造は非常に似通っていた。
「営倉での一件は聞いている。フェリクスが随分と好き勝手に法螺を吹いたらしいな」
「……どういう、事ですか?」
足早に歩きながらライアンは苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
名前を出すのも不快だと言わんばかりに。
確かにフェリクスは素直に信用できない何かを抱えているように思えるが。
「ああ。奴はお前の心を折る為に嘘をついている……ネリーはまだ、死んじゃいない」
【次回予告】
出逢えると信じた、君の手が彼方へ離れていく
されど空の向こうへ明日を心描き、もう一度あの場所へと誓う
想い出はまだ、消えはしないのだと握り締めて
PHASE-08「
軛解かれし破壊の獣が吼え、贄を求めて天と地を穿つ
灰昏き深淵より覗く眼は顎を開け、静かに咬み砕く時を待つ
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好きな戦術は算術ホーリーと格闘忍者です。