機動戦士ガンダムSEED VERTICAL   作:まりなーら

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第一幕:未来(あした)のシルエットは未だ見えず
PHASE-01 墜ちたる星々の行方(1)


 

 

『総員第一戦闘配備ッ! 各員は直ちに持ち場へ付いてくださいッ! 全パイロットは至急コクピットへッ!』

 

 

けたたましく鳴動する警報と艦内放送が、レンリを夢の残響から現実へと引き摺り戻した。

彼女が目を覚ましたのはDSSDの宇宙ステーションでもなく、片田舎にある実家でもなく。

戦艦にて宛がわれた自室のベッドであった。

世界平和維持機構コンパスに所属する改アークエンジェル級強襲特装艦「ラグエル」……

それが今、レンリのいる場所だった。

 

「また……あの夢……」

 

ベッドの上で汗をかきながら目を覚ましたレンリは、慌てて身を起こす。

朱色の髪が乱れ、鏡に映る自身の顔が、夢の中の絶望と失意を思い出させる。

 

レンリは小さく呟きながらもすぐに立ち上がる。

ハンガーに掛けられた桃色の制服に急いで袖を通すと、勢いよく部屋を飛び出す。

 

 

 

 

 

「急げ、機体の最終チェックだッ!」

 

廊下ではメカニック主任のオーティス・トレントが、部下たちを率いて慌ただしく動いている。

彼らは迷いもなく格納庫へと向かっていた。レンリも遅れないようにと彼らへ続く。

格納庫へ向かう道の途中に大柄な男の姿が見えた。

男はレンリの姿に気が付いたのか、挨拶代わりに片手を挙げる。

 

「よう嬢ちゃん。毎度毎度急に起こされるのはつれえな。寝癖が直ってねえぞ」

 

大柄な男、ジェサイア・コールマン大尉の軽口に思わずレンリは周りを見渡す。

壁に反射して映る自分の姿に寝癖は……なかった。

 

「ジェサイア、あまり少尉をからかうな」

「なんだ隊長さんも寝坊か」

 

声のする方へ振り向くと、黒の制服に身を包んだ男が立っていた。

ルーク・ウォルバーグ。レンリ達の上官にしてラグエルのモビルスーツ隊を統括する隊長だ。

襟元の階級章は特務少佐であることを示している。

元々は大尉であったが、コンパス出向において少佐扱いとなったとか。

 

「以前の戦闘について整備班から報告が上がっていてな。確認をしていただけだ」

 

ルークの視線がレンリへと一瞬向けられる。

以前の戦闘という単語が気になりレンリは記憶を巡らせようとしたが、次の瞬間にルークは駆け出していた。

ジェサイアも続き、そしてレンリも遅れないようにと彼らへと続いて駆け出す。

 

 

 

 

 

 

コズミック・イラ75年。

血のバレンタインより始まった、ナチュラルとコーディネイターによる二度の大戦。

世界は未だに、平和から程遠い様相を呈している。

 

しかしながら、互いが互いを滅ぼそうとした大戦を振り返り。

人々は未だ残る深い爪痕に慄いたのか。

或いは三度目の戦いを行うだけの力が残されていないと理解したのか。

 

様々な思惑が絡み合った結果が、オーブ連合首長国が提唱した世界平和維持機構コンパス。

大西洋連邦、オーブ、プラントが賛同し設立されたコンパスは、二度の大戦を経た先の、融和への第一歩かもしれない。

 

オーブからはアークエンジェル級強襲特装艦「アークエンジェル」を。

プラントからはスーパーミネルバ級MS惑星強襲揚陸艦「ミレニアム」を。

そして大西洋連邦からは改アークエンジェル級強襲特装艦「ラグエル」を、それぞれ中心とした戦力を供与された。

 

未だ世界は争いの最中にある。

それでも三国が共に設立したコンパスは平和への一歩となるのだろうか。

あるいは……。

 

 

 

 

 

 

 

格納庫ではメカニックが駆け回り、パイロットは各自の機体へと向かっていた。

レンリも遅れないよう自身の機体があるハンガーへと駆けていく。

 

程なくして辿り着いたレンリの目の前に、彼女へと与えられた機体が聳え立っている。

機体はVPS装甲が起動していないディアクティブモードの鈍色に包まれていた。

 

GFX-VR/809『ヴァーティカル』

 

計8枚ある翼を有するその機影は、かつてのスターリンカーにどこか似ていた。

つい先程の夢もあってか猶更である。

似ているからこそ、レンリの胸は締め付けられる。

 

「この機体に乗る資格、私にあるのかな……」

 

MOBILE SUIT NEO OPERATION SYSTEM

GFX-VR/809

【VARTICAL】

 

GENERAL

UNILATERAL

NEURO-LINK

DISPERSIVE

AUTONOMIC

MANEUVER

 

G.U.N.D.A.M.

Complex

 

コクピットに滑り込みシートに体を沈め、機体を起動させるとOSが立ち上がる。

レンリは大きく深呼吸をするが、夢の中のネリーの笑顔が頭から離れない。

震える右腕に左手を添えて落ち着かせようとする。

 

次の瞬間、前方のディスプレイの片隅に幾つかの顔が表示される。

先程廊下で顔を合わせたルークとジェサイア、そして淡い金髪の女性士官。

シエラ・ハルバートン特務少佐。このラグエルを預かる艦長だ。

 

『大西洋連邦領内ロスアラモス基地にて、ブルーコスモス残党と思われる攻撃部隊が侵攻しています。これよりラグエルは攻撃部隊を排撃します。敵は中隊規模とのことですが母艦の位置は不明。引き続き索敵を行います』

 

通信回線を通じ、シエラの丁寧で穏やかな声が響く。

ヴァーティカル、レゾナンス、クラウドダガーのコクピットに、彼女の淡い金髪と落ち着いた表情が映し出される。

レンリはモニターを見つめ、シエラの言葉に耳を傾ける。

 

『ヴァーティカルならびにクラウドダガー隊は先行し、敵戦力を可能な限り削減してください。ウォルバーグ特務少佐率いる本隊が後続し、掃討を行います』

『了解』

『了解ッ!』

「……了解」

 

 

周りに合わせて返事をしたもののレンリの胸には不安が渦巻く。

戦闘には慣れたくはなかった。

 

DSSDを退職した後、モビルスーツの操縦ができるからと軍に入った。

曲がりなりにも大戦が終結した後、大きな戦争はないだろうと考えていた。

シミュレーションを含む適性検査を経て、設立されたばかりのコンパスという組織に出向する事となった。

難民の救済や復興支援が主要任務と聞いていたのだが、何故か緊急即応を有する部隊に配属されている。

あまつさえ、ヴァーティカルなる最新鋭機を与えられた。

 

以前シエラにそれとなく尋ねたところ、DSSDでの経験と適性検査によって選ばれたそうだ。

スターリンカーから逃げ出して夢を諦めた自分の前に与えられたのは、スターリンカーによく似たヴァーティカル。

酷な巡り合わせだと、運命というものは人の心がないと実感した。

しかしスターリンカーに乗る為に積み重ねてきた研鑽が、ヴァーティカルに乗る自分を今日も生かしている。

 

『アマサキ少尉』

 

ルーク・ウォルバーグの声がモニター越しに届く。

彼の灰色の髪と生真面目な顔は相も変わらず険しい。

 

『今は迷わず戦え。敵は待ってくれない』

 

その言葉は表情と同じく厳しかった。

思考の奥底へと沈みそうだった自分自身を現実へと引き戻す。

しかしルークの冷静な声は、レンリの動揺を抑える錨のように思えた。

続いて、ジェサイアの陽気な声が響く。

 

『なあにクラウドダガー隊も付いてるさ。テオとカーソンは嬢ちゃんのフォローを頼むぜ』

『任せろッ!』

『了解ッ!』

 

クラウドダガーのパイロットたちが次々と応じる。

彼らの声によりレンリの胸に小さな勇気が灯り、なんとかモニター越しに頷いた。

 

『ヴァーティカル発進スタンバイ。ストライカーはシバルリーを選択』

 

オペレーターであるミラ・レミントンの声にレンリの意識は前を向く。

追加兵装であるストライカーパックの一種「シバルリーストライカー」がヴァーティカルに接続された事をモニタが知らせる。

続いてカタパルトへと機体が運ばれていく。

 

『カタパルト1番・2番オンライン。進路クリア。ヴァーティカル、発進どうぞッ!』

「レンリ・アマサキ。ヴァーティカル……行きますッ!!」

 

意を決して操縦桿を握ったレンリは、一瞬の躊躇の後に操縦桿を手前へ押し込む。

カタパルトに乗せられたヴァーティカルが勢いよく飛び出すと同時に体へGが掛かる。

 

黒白に彩られた艦体のラグエルより飛び出たヴァーティカルは、直ちに変形する。

8枚ものウイングスラスターを備えた戦闘機型のモビルアーマー。

続けてラグエルよりGFM-VR/803 クラウドダガーが出撃し同じく変形する。

 

遥か遠く、紅に染まる戦場へヴァーティカルとクラウドダガーは駆けていく。

 

 

 

 

 

 

「コンパス・ヘッドクォーターならびにホワイトハウスと回線を固定してください」

 

ラグエルのメインブリッジは、静かな緊張に包まれていた。

ディスプレイにホワイトハウスより、大西洋連邦のフォスター大統領の姿が映る。

ほどなくしてフォスターの隣に、もう一つの顔が映し出された。

まだ学生といってもいい年頃。美形と言ってもいい顔立ち。

しかしその表情は不遜かつ不敵。

 

「アズラエルCEO、お呼びはしていない筈ですが?」

 

副長のエリアス・アリンガム大尉が、几帳面そうな顔に不快感を隠そうともせずに尋ねる。

モニター越しのフォスターは無言だったが、招かざる客が来たと言わんばかりの表情をしている。

 

『聞いたよ。ロスアラモスが襲われてるそうだね。俺の所にも情報が入ってきている』

「……確かに。関係者ではありますからね」

 

堂々と関係者を名乗る青年の態度にシエラは小さく嘆息した。

ディーン・アズラエル。

かつてアズラエル財団代表だったムルタ・アズラエルの甥にして、ウィーグリーズ・インダストリーCEO。

そして国防産業連合理事の肩書きを持ち、コンパスに対しても積極的に関与している。

ロゴス暴露において壊滅状態にあった大西洋連邦国内の基幹産業を再生させた立役者の一人でもあった。

 

「確かロスアラモス基地には、かつて数々の先進技術を生み出した研究所がありましたね。先の大戦においてもアズラエル財団主導の下、モビルスーツの開発を行っていたとか」

『その通りだよ艦長。今はフィラデルフィアに主要な施設は移しているけど』

 

ロスアラモス基地の現状を確認するシエラにディーンは頷いた。

現在、基地としても研究所としてもさしたる機能は有していない筈だ。

しかし、ブルーコスモス残党が襲撃する理由はなにかある。

 

『反乱の可能性は?』

『それはないでしょ。一応ウチのスタッフも置いてるからさ』

 

基地の内部から反乱が起こった可能性にフォスターが触れたがディーンが即座に否定する。

そもウィーグリーズのスタッフから連絡があったことで、ディーンはロスアラモスの襲撃を知ることとなったのだから。

仮に基地の将兵が反乱を起こしたとなれば、その旨の情報も伝わっているか、あるいは伝わる前に始末されているだろう。

 

『ただ。奴らは封印区画を真っ先に狙った』

「封印区画……?」

 

聞き慣れない単語にシエラは聴き返し、その場のいる皆の注目がディーンに集まる。

ブリッジに居合わせていた技術主任、ソフィア・ワーズワースは自身の長い髪を手元で弄っていた。

ふと何かに気付いたのか、その手元が止まる。

 

「まさか。狙いは……」

 

ほどなくしてモニターに、あるモビルスーツの姿が各種データと共に映し出される。

連合のGAT-Xシリーズに似通ってはいるが、どこか悪魔を思わせるフォルム。

 

GAT-X403A DIABOLOS

 

『そう。「アズラエルの遺産」なんて呼ばれてるアレだろうね』

 

 

 

 

 

 

 

 

朝焼けと戦火によって紅と黒に彩られたロスアラモス基地。

 

基地を守ろうとするウィンダムに、ブルーコスモスのウィンダムが襲い掛かる。

放たれたビームライフルを悠々と回避したブルーコスモス機は、基地所属機の懐に潜り込みビームサーベルを振るう。

基地所属機はすんでのところで後退し回避するが、その際に足元のバランスを崩して転倒した。

好機と見たブルーコスモス機がビームサーベルを突き立てようとした時、その頭部が吹き飛んだ。

 

「なんだッ!?」

 

突然の攻撃にブルーコスモス機のパイロットが毒づき、サブカメラからの映像を注視する。

攻撃を仕掛けてきたのは青い翼を持つ戦闘機のようなモビルアーマー。見た事のない機体だ。

 

『こちら世界平和維持機構コンパス。侵攻中の攻撃部隊に警告します。ただちに戦闘を中止してください』

 

コンパス。その名乗りを聞いたブルーコスモス機のパイロットの表情が強張る。

第二次連合・プラント大戦後、大西洋連邦はオーブやプラントとの協調路線を掲げた。

だが当然ながら、強硬路線からの政策転換に大きな反発も生まれた。

軍上層部より排斥されたブルーコスモス派の将兵が同調する者と共に離反。

テロリストとしての烙印を押されようが今も活動を続けている。

とはいえ正規軍との繋がりも断たれ、更にはコンパスのような連中にも狙われている。

 

「ガキが、ふざけやがってッ!!」

 

警告を行った声からすると相手は恐らく女、しかも小娘といってもいい年頃だろう。

そんな世間を知らないようなガキが世界平和を口にし自分たちの理想を阻む。

憤りに任せてビームライフルを向けて引鉄を引く。

他のブルーコスモス機も同じく攻撃を仕掛けた。

 

「クソがッ!!」

 

ビームライフルの斉射を難なく回避した青い翼のモビルアーマーは、急接近しつつモビルスーツへと変形した。

大振りの対艦刀を構えて迫り、すれ違いざまにビームライフルを構えた腕を斬り飛ばした。

更に返す刀で脚部を薙ぎ払ったかと思えば、こちらに目もくれず別の機体へと向かう。

かのオーブ解放作戦や第二次ヤキン・ドゥーエ戦において現れたと聞く機体に、よく似ている。

確か……

 

「なんだこいつ……まさかあのフリーダム、なのか……?」

 

 

 

 

 

 

シバルリーストライカーの対艦刀《ノルン》を振るいブルーコスモス機を無力化したレンリ。

一息ついてからヴァーティカルを別のブルーコスモス機、105ダガーへと向かわせる。

対艦刀を仕舞い、かわりにビームブーメラン《マイダスメッサ―F3》を二振り取り出す。

ビームブーメランの刀身を伸長させビームソードとしたそれを手にし一気に迫る。

 

「そこッ!」

 

慌てて105ダガーはビームサーベルを構え振りかぶるが、ヴァーティカルはスラスターの微細な調整で回避。

潜り抜けるように懐に迫ったヴァーティカルのビームブーメランが二度、閃く。

ビームサーベルを持つ腕と頭部を斬られた105ダガーを顧みず別のブルーコスモス機に接近。

閃いた光刃が瞬く間にブルーコスモス機を無力化した。

 

一気に3機ものブルーコスモス機を無力化したレンリのヴァーティカル。

圧倒的な近接戦を見せたヴァーティカルを警戒しているのか距離を取り始めた。

やがてランチャーストライカーを装備したウィンダムが超高インパルス砲《アグニ》を構えて放つ。

 

フットペダルを踏み、更に複数のスラスターを動かすことで滑るように旋回し、ヴァーティカルは砲撃を悠々と回避。

アグニによる高出力ビームの照射と、他のウィンダムのビームライフルを避けつつもビームブーメランを手に迫る。

ヴァーティカルの手にする光刃が更に閃きアグニの砲身を、ランチャーウィンダムの頭部を容易く斬り裂く。

無力化したダガーへワイヤーアンカーを打ち込み、スラスターと合わせて変則的な方向転換を行い、更なる攻撃を回避していく。

その流れで投擲したビームブーメランは別のウィンダムの武装や頭部を刎ね飛ばした。

 

「はあっ……はあっ……」

 

周囲にいたブルーコスモス機を無力化したレンリは、肩を上下させながら息をつく。

この機体に乗る度にスターリンカーを思い出す。

スターリンカーもヴァーティカルも、連合のX300フレーム可変機をルーツとしている。

だからこそ乗りこなすのには然程時間は掛からなかった。

自分のモノにしているなどと言うのは烏滸がましいとは感じている。

 

「もし、ネリーなら……私なんかよりも……」

 

自分よりも上手く乗りこなしただろう。

宇宙を自在に駆けるスターリンカーと、ネリーの声が脳裏に蘇る。

そして、あの場から逃げ出した自分が。

 

「今は迷ってる……場合じゃないッ!」

 

背部にマウントしていた対艦刀を取り出し、迷いを払うように力強く振りかぶる。

少なくとも体を、機体を動かしていれば迷いは紛れる。

それは逃避なのだろう。

分かっていても動かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

「それにしても圧倒的ですね。アマサキ少尉のヴァーティカルは」

「ええ。新型である点を差し引いても。彼女は頭一つ抜けていると言ってもいいでしょう」

 

モニターに映るヴァーティカルを目にしたシエラは、レンリの獅子奮迅の動きに感心していた。

ヴァーティカル単機で、クラウドダガー隊の戦果に匹敵している。

エリアスも同意を示すように頷き、他のブリッジクルーも同感であった。

……ただ一人を除いて。

 

「ヴァーティカルはあんなモノではありませんよ……リミッターを掛けたままの、本気を出していない今のヴァーティカルでは」

 

ソフィアは僅かに苛立ちの混じる声で呟いた。

手元にはヴァーティカルの詳細データを表示させている。

 

「ワーズワース主任。仰りたい事は分かります。ですが……」

「元々ヴァーティカルはヴォワチュール・リュミエールの稼働を前提とした機体です」

 

シエラの静止も構わずにソフィアは続ける。

元々はDSSDが保有する技術である光圧推進システム、ヴォワチュール・リュミエール。

スターリンカー開発の際に連合がX300フレームの次世代試作機を提供し、その見返りとして基礎技術を手にした。

その実装は難航したが、コンパス設立後モルゲンレーテ社からの技術協力で近年ようやく実用化に漕ぎ着けた。

 

「それを使わない今のヴァーティカルが真価を発揮しているとは言えません」

 

ヴォワチュール・リュミエール稼働時にはウイングスラスターより光の翼が形成される。

今のヴァーティカルにはない光の翼が。

しかし。真価を発揮していない今の状態でもこれなのだ。

周囲を納得させるだけの成果を挙げている現状に、ソフィアはもどかしさを覚えるばかりだ。

 

「大丈夫ですよ主任。レンリならいつかやってくれますッ!」

「信じて支えましょう、アマサキ少尉を」

 

レンリと歳も近いミラは、裏表なくレンリへの信頼を見せる。

穏やかに微笑みながら頷いたシエラの言葉は、信頼というよりも祈りのようにも、あるいは願いのように思えた。

 

ヴァーティカルのデータに添付された報告書にソフィアは目を走らせる。

先の戦闘において、主任メカニックであるオーティスより寄せられた報告書だ。

一通り目を通し終わったソフィアは天を仰いだ。

 

「……迷っている時間は、なさそうよ」

 

 

 

 

引き続きブルーコスモスの105ダガーやウィンダムと交戦しているヴァーティカルに近づく機影があった。

腕とメインカメラが潰されたウィンダムの一機だ。

機体を立ち上がらせてジェットストライカーのスラスターを全力で吹かす。

そのコクピットでは自爆装置のシークエンスが進んでいた。

 

「まだ動いて……まさかッ!?」

 

レンリは急接近するウィンダムの意図を察し距離を取ろうとする。

コクピットを一撃で潰せば止まるだろうが、それを意味するところにレンリの手が鈍る。

一瞬の躊躇は瞬く間に両者の距離を詰め、そして……

 

どこからか飛来したビームがウィンダムのコクピットを正確に撃ち抜く。

撃ち落されたウィンダムは地表に叩き付けられ、盛大に爆炎を撒き散らした。

 

『少尉。油断するな』

 

自爆しようとしたウィンダムを撃ち落としたのは黒い機体。

そして通信越しに掛けられたルークの声にレンリは我に返る。

 

GFX-R/105 レゾナンス

 

ルークの黒い機体は、かつて地球連合が開発したGAT-X105 ストライクの流れを汲む新型機だ。

高機動タイプのストライカーパック、セレストストライカーを装備している。

そしてレゾナンスに続き、新型の量産機であるGFM-R/107 バイアネットが次々と現着する。

本隊が到着したのだ。更には黒白の戦艦、ラグエルも姿を現した。

 

『ラグエルも現着した。クラウドダガー隊とヴァーティカルは一度補給に戻れ。あとは本隊で対応する』

『『了解ッ!』』

 

指示を受けたクラウドダガー隊がラグエルへ帰投していく。

その内の一機がレゾナンスの上空へ近づき、対艦刀を落とした。

 

「少佐殿、こいつを使ってくださいッ!」

「カーソンか。助かる」

 

クラウドダガーは、かつて連合で運用されていたスカイグラスパーのコンセプトを引き継ぐ。

すなわち僚機へのストライカーパック含む武装の供給。

さすがに先行からの戦闘を経てバッテリー残量が十分に減ったストライカーパックは貸与に向いていない。

だがシバルリーストライカーの対艦刀ならば然程バッテリーを喰うことなく使いまわしが利く。

 

『少尉も戻れ。あとは俺達が引き受ける』

「いえ。まだ、やれます……ッ!」

 

息をつきながらもレンリは戦う意思を見せた。

ヴォワチュール・リュミエールを使用していないヴァーティカルのバッテリーはまだ戦闘を継続できるだけの余裕がある。

しかしレンリ自体がついてこれるかは別問題だ。

傍から見ても強がりなのは誰の目にも明らかだった。

 

『強がるな。確かにお前は腕が立つが、お前一人で戦っているんじゃない』

「分かり……ました。少佐、ご無事で」

『ああ。あとは俺達に任せろ』

 

有無を言わせぬルークの言葉にレンリは全て納得したわけではなかった。

それでもルークが気遣っているのは理解はしている。

上官として、部下の生命を預かっているのだからルークの指示は当然と言える。

レンリはヴァーティカルをラグエルへと向けて帰投させた。

 

 

 

 

 

「ヴァーティカルとクラウドダガー隊が想定以上に敵を減らしてくれたが、各機油断するな」

 

未だに残存するブルーコスモス機へとレゾナンスが向き直る。

ライオットストライカー装備のバイアネットが高収束火線砲兼レールガン《フランベルク》を構えて放つ。

向けられた一斉砲撃にブルーコスモス機が蜘蛛の子を散らすように逃げた。

逃すまいと対艦刀を構たレゾナンスと、シバルリーストライカー装備のバイアネットが迫り、近接戦を仕掛ける。

更にセレストストライカー装備のバイアネットと、ジェサイア専用にカスタマイズされたバイアネットが戦場を縫うように飛び回る。

 

『ふざけやがってッ! コーディネイターに尻尾を振るナチュラルの裏切り者がッ!』

 

対艦刀でブルーコスモスのウィンダムを斬り飛ばしたレゾナンスに、一機のダガーLが激昂しながらビームサーベルを手に近づく。

彼らから見ればナチュラルであるにもかかわらず、プラントも参加しているコンパスに与する者はそうなのだ。

 

裏切り者。

売国奴。

コーディネイターの犬。

それらに類する言葉を、コンパスで戦う度ブルーコスモス残党から幾度となく投げ付けられた。

彼らブルーコスモスから見ればそうなのだろうとはルークは思う。

 

 

そんな聞き飽きた罵倒をルークは一切意に介することなく、ダガーLに向けて対艦刀を振るう。

しかし対艦刀は、突如横から投げ付けられたシールドに阻まれた。

構わずシールドを両断するがダガーLは一瞬の隙を突いて後退していく。

シールドが投げられた方へと目を向けた先にダークブルーの機体があった。

 

「ストライクE……指揮官機か」

 

熱紋の照合により特定された機体へルークのレゾナンスが向き直る。

X105ストライクの改良型であるストライクEは、確かブルーコスモス系の部隊が主に運用していたと聞く。

そんな機体を任された相手であれば一筋縄ではいかないだろう。

さすがに統合兵装ノワールストライカーこそ装備していないが、軽視はできない存在ではある。

 

対艦刀を構えて迫るレゾナンスから、ダークブルーのストライクEは距離を取った。

相手のメインウェポンのレンジで対応することはない。当然と言える対応。

距離を取った先にライオットストライカーの砲撃が向けられる。

その砲撃も予測していたのか急激な方向転換により回避。

 

「やるな。しかしッ!」

 

対艦刀を大地に突き立てて手放していたレゾナンスは、取り回しのきくビームサーベルを手に再度接近する。

砲撃の合間を縫って近づいたレゾナンスに、ストライクEは同じくビームサーベルを抜き放って迫り、切り結んだ。

しかし積極的に戦闘を行う様子は伺えない。

 

ストライクEが指示を出したのか、他のブルーコスモス機が撤退を始めていた。

既にジェサイアが追撃を試みるも、蜘蛛の子を散らすように次々と撤退していく。

そして殿を務めていたであろうストライクEも、エールストライカーのバーニアを全開にし戦場から後退する。

 

「各機、深追いはするな。さて……」

 

ブルーコスモス残党が姿を消し、戦場に静寂が戻った。

とはいえ基地に残された爪痕は決して浅くはない。

そしてラグエルの本隊が到着により撤退していったという事は、既にブルーコスモスは目的を達していたのだろうか。

 

「『アズラエルの遺産』か」

 

本隊の出撃前にブリッジから情報は共有されていた。

ブルーコスモス残党の狙いは恐らくそれだろうと。

それをこれから調査せねばならない。

更に基地の被害状況の確認と復興支援の手配。

為すべきことは山積みだ。

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