「機関最大ッ! 急げッ!!!」
ついに起動してしまった。
ヘブンズベース基地の深奥から発生した熱源は徐々にその範囲を拡大していった。
大地は捲れ上がり赫く溶け、マイクロ波の奔流が全てを蒸発させ、そして貪欲に咬み砕く。
ラグエルは全速力で後退しているが、果たして間に合うだろうか。
否……間に合わせなければならないのだ。
『振り返るなッ! 咬み砕かれるぞッ!!』
ルーク達もまたサイクロプスの効果範囲から逃れる為に、乗機を全速力で飛ばしていた。
後方ではブルーコスモス残党もまた、迫り来る奔流から逃れようとしているのが見て取れる。
しかし無慈悲にもマイクロ波の顎に捕らわれ、無惨にも塵と化していく。
この場で退避しようとしていたという事は、彼等もまた知らされていなかったのだろう。
一度目の大戦といい、またもふざけた真似を……と怒りを覚えずにはいられなかった。
とはいえ彼らに同情を覚えている暇などない。
「熱源反応……? これはレムナント・ワンッ!?」
「このタイミングで……ッ!?」
ラグエルが捉えた新たな熱源反応は、確かにレムナント・ワンを示していた。
ロスアラモスから追い続けていた因縁の艦……それが何故、この期に及んで出てきた?
しかし彼の艦の位置は、サイクロプスの予測効果範囲を挟んだ彼方にあった。
とてもではないが手出しはできないだろう。
「連中、脱出する心算かッ!?」
ほどなくしてディスプレイに拡大された映像が映し出される。
レムナント・ワンの前面にある陽電子破城砲《ローエングリン》の砲塔が展開されていた。
そして艦の側面に外付けされている追加ブースター。
《ローエングリン》の発射に伴ない発生するポジトロニック・インターフェアランスを利用し、一気に大気圏離脱を目論んでいるのは明らかだ。
「コソコソと逃げ出すなんて残党にはお似合いだ。けどまあ……癪と言えば癪だね」
ディーンにしては珍しく、不快感を滲ませながら彼方へと飛び去る艦影を睨んでいた。
やがて《ローエングリン》が放たれ、レムナント・ワンは
カルフォルニア、アラスカ、そして今回のヘブンズベース。
ラグエルが力不足という訳ではないが、いつも肝心なところで取り逃がしてしまう。
『……ネリーッ! そんなッ!』
「その状態で追撃はできません。アマサキ少尉、下がってくださいッ!」
彼方へと逃亡しようとしているレムナント・ワンを確認したレンリが叫ぶ。
あの艦にはネリー・ハーシェルも乗っているのは間違いない。
ディアボロス共々出てこれなかった事情はあるのかもしれないが、今はそれどころではない。
なにより、意識がないライアンのストライクEを抱えたままで追撃は不可能だ。
仮にライアンを捨て置けば追撃そのものは可能だったかもしれない。
ヴァーティカルであればサイクロプスの効果範囲を迂回した上でレムナント・ワンへと追いつくことは理論上は十分に可能だ。
更に言えば単機であれば大気圏離脱も難しくはないだろう。
とはいえ追い縋った処で孤立無援になるだけである。
尤も……それ以前に、ライアンを捨て置くなどという選択を取れる筈もなかった。
仮にも脱出を手助けしてくれた相手なのだ。
それでも親友が手の届かなくなる状況を前に、内心は相当な葛藤があったのは想像に難くない。
不承不承といった具合でレンリは頷くしかなかった。
「……とにかく、ヴァーティカルは一時帰投してください」
どうにかサイクロプスから逃げ切る事には成功したが、酷いものだった。
ディスプレイに広がる惨状に、シエラは思わず目を背けそうになった。
最前まで基地司令部があった場所には、クレーター上の大穴が穿たれている。
かつてのアラスカで用いられた自爆兵器を、こうも容易く再び用いるのか。
一度目の大戦の折には『戦争で勝つ為に』という大義名分が曲がりなりにも存在していた。
しかしこれは……一体何だというのだ。
囮として使い潰したのは、仮にも同じブルーコスモスの残党だというのに。
こちらはほぼ巻き込まれずに済んだだけに、尚の事やりきれない思いが胸中に広がる。
「それから保安部と医療班は格納庫にて待機をお願いします」
ともあれ、戦闘は終結したのだ。
今は皆が無事に生き延びた事に安堵すべきである。
そしてレンリが救出したストライクEのパイロットである、ライアンという男。
立場上、サイクロプスの使用をも含めた作戦の全容を把握しているのは間違いない。
なればこそ訊きたい事は星の数ほどある。
勿論、素直に聴取に応じてくれればの話ではあるのだが。
「……少しでも手掛かりを掴めるといいのですが」
「レンリッ! よく戻ってきたなッ! ったく……心配かけやがってッ!」
「えっ……ちょっ……ハーディン大尉ッ!?」
ラグエルへと帰還したレンリがコクピットから降りると、いきなりケイトが駆け寄ってきた。
あまつさえ、いきなり抱き付かれて困惑を覚えたが、相も変わらない様子に安堵を覚える。
周囲を見渡すとジェサイア肩を竦めており、あのルークですら苦笑していた。
アーランドに至っては呆気に取られている。
思えばこうして、皆と顔を合わせるのは随分と久しぶりなのだ。
ブルーコスモス残党に捕らえられた時はどうなるかと思っただけに、ようやく帰ってきたという事実に心の底から安堵を覚えた。
だからこそ抱きしめたケイトから感じた温かみに、思わず涙が零れる。
「おいおいケイト、嬢ちゃんを泣かしてんじゃねえぞ」
「あたしの所為じゃねえってッ! おい……泣くなよッ!」
流石に居たたまれなくなってレンリは慌てて涙を拭い、辺りを見渡す。
格納庫へ持ち込んだストライクEのコクピットブロックからは、医療班と保安部によってライアンが運び出されていた。
脱走する最中で負傷したのか血塗れで、意識があるようには見えない。
やがてストレッチャーに乗せられ、瞬く間に医務室へと搬送されていく。
「あの……ライアンさんは?」
「ああ。少尉が連れてきた彼か」
「私を脱出する為に手助けしてくれたんです。だから……」
搬送されていくライアンへと視線を送りながらルークは頷いた。
自分が脱出してからも負傷しているにも関わらず、身を省みずにサイクロプスの存在を知らせた。
「まずは治療が先決だ。その点は心配しなくていい。とはいえだ」
そこでルークは神妙な面持ちで、一度言葉を切る。
確かに人道的な見地から考えれば、まずは治療を施さなければならない。
たとえブルーコスモス残党の人間だとしてもだ。
「その後は捕虜として扱わざるを得ないだろう。彼の態度次第ではあるが……な」
「ま……体張ってサイクロプスがあるって知らせたんだ。悪いようにはならんだろうさ」
捕虜と言えどもブルーコスモス残党は正規軍ではなく、テロリストとして定義されている。
コルシカ条約は適応されないのだが、だからとて非人道的な尋問を進んで行う訳にはいかない。
脱走に至った経緯を鑑みると、容態が安定次第聴取が行われるだろう。
「実際どうするかは上層部次第だが、艦長は司法取引も視野に入れている」
ライアンはサイクロプスの件のみならず、レンリの脱出にも寄与している。
また指揮官という立場であるなら、末端では知りえないような情報を握っている可能性も高い。
テロリストとして活動していた罪には問われるだろうが、態度次第では減刑もあるだろう。
「良かった……あれ?」
「お、おいッ!」
恩人の処遇を聞いてひとまず安堵を覚えたレンリは、足元のふらつきに気が付いた。
そのまま体を崩しそうになったところをケイトが抱きかかえ、アーランドもまた駆け寄る。
レンリへと呼びかけるも意識がなく、慌てて何度も体を揺すったが返事はない。
ほどなくして、微かな寝息を立てているのに気づいた。
「なんだよ……寝てんのかよ」
「捕まってからずっと気を張っていたのだろう。今は休ませてやれ」
捕虜となっていた時の状況は分からないが、少なくとも気は休まらなかったのは想像に難くない。
自分自身の事もそうだが、親友であるネリーの事を考えれば尚更だろう。
それから脱出に成功して戻ってきたと思えば、再びヴァーティカルに乗って戦闘ときた。
事ここに至って漸く一段落ついたのだ。こうなるのも無理はないと言える。
「……そうだね。よく頑張ったよ。本当に」
『ラグエルの諸君。苦しい状況の中、よく耐えてくれました』
「ありがとうございます。しかしユリエールとレムナント・ワンを取り逃してしまいました」
ヘブンズベースにおける戦闘より一週間後。
ラグエルのメインブリッジ。
ディスプレイに映るフォスター大統領は労いの言葉を掛けるが、一同の表情は硬い。
またしてもユリエールらを取り逃してしまったのは手痛かった。
しかも、ライアンの造反がなければサイクロプスから逃げ切れず全滅していたかもしれないのだ。
加えてレンリが帰還せずにデヴァステイトに押し切られていたかもしれない。
偶然に偶然が重なって、ようやく生き延びたと言ってもいいだろう。
とてもではないが、誇れるような戦果を挙げられていない。
『確かに彼らを逃したのは痛手ですが、結果的には地球上におけるブルーコスモス残党は勢いを大きく削がれています』
エルドア方面の戦闘から逃げ遂せたミケール大佐麾下の戦力も合流していたが、それも先のヘブンズベース戦において大きく数を減らした。
少数は尚も生き残っているだろうが、それでも往時に比べれば規模は知れている。
当面は表立った活動を行えない筈だ。
一方で、ユーラシア連邦によるものと思われた核攻撃は、ファウンデーション王国によって引き起こされた自作自演と判明した。
その結果、反コーディネイター感情がユーラシア連邦国内において急速に息を吹き返しつつある。
しかも、報復すべきかの王国は既に存在しない為、矛先はクーデターを起こして同調したプラントに対しても向けられていた。
大西洋連邦としても対岸の火事とは言えず、議会の動向には十分な注視が必要がある。
『レクイエム破壊作戦も無事に成功しました。当面の脅威は去ったと考えていいでしょう』
ラグエルがヘブンズベースへ赴いていたのと同時期、レクイエム攻略作戦が行われた。
第八艦隊ならびにオーブ宇宙軍はザフトのクーデター勢力と交戦。
そしてミレニアムにより敵主力を正面突破しレクイエム本体の破壊に成功したそうだ。
これに伴い、ファウンデーション王国による一連の騒乱は終結したと言ってもいい。
『とはいえ我が国もオーブも、そしてプラントもまた事後対応に追われています』
国内でブルーコスモス残党の活動は落ち着くとはいえど、彼らによる爪痕は今も尚残っている。
特にカルフォルニア基地が蒙った被害は決して無視できない。
東アジア共和国は一応地球連合という枠組みの内ではあるが、今は静観を貫いている。
ユーラシア連邦が弱体化した今、その動向には注視しなければならないだろう。
プラントもまたクーデターより政権を奪還したようだが、立て直しは容易ではないだろう。
更にはファウンデーション王国の扇動により、コーディネイター至上主義を掲げる過激派の活動が俄かに活発になっており、ラメント議長も厳しい舵取りを迫られている。
脅威は去ったとは言えども、平和とは遥かに程遠い。
『故に、貴方達の働きもまた世界は必要としているのです』
これらの情勢に即応する為には、それこそコンパスという存在が必要となる。
その為の会談を、近日オーブとプラントを交えて行う予定だ。
自らに課せられた役目を今度こそ果たそうと、シエラは力強く頷いた。
『そういえば、例の捕虜については?』
「聴取には極めて協力的です。彼からの情報で、新たに幾つかの拠点が明らかとなりました」
ライアン・クロフォード。
先のヘブンズベース戦において、ブルーコスモスを離反した指揮官だ。
現在は治療を兼ねて、捕虜としてラグエルでの預かりとなっている。
聴取において明らかになった拠点については、近日正規軍による摘発が行われる。
尤も、地上の戦力そのものは殆どがヘブンズベースに集結していたのだが。
それでも詳細な背後関係を洗い出す事はできるだろう。
「逃亡したレムナント・ワン……フリアエについては『ユミル』へ向かったとの事ですが……」
ミケール亡き今、ブルーコスモス残党を取り仕切っているのはユリエールだ。
その彼女を乗せたフリアエの行方は杳として知れない。
ライアンからの情報によると『ユミル』なる拠点へ向かったとの事だが、肝心の所在が掴めない。
ただ、彼にすら明かしていない事を考えれば、極めて重要な拠点であるのは間違いない筈だ。
加えて、ヘブンズベースに集結したブルーコスモス残党の戦力を使い潰したという事実。
そうせざるを得なかった……と考えるのは早計だ。
ユリエール達にとっては想定の範囲内であると言えるだろう。
であるなら、喪った戦力に代わる『なにか』を当て込んでいるのか。
いずれにしても、現状では判断材料が少なすぎる。
『分かりました。オーブやプラントにも情報は共有しておきましょう』
プラントとて諸対応で手が足りないのは確かであり、対応しない訳にはいかないだろう。
積極的な捜索は望めないだろうが、現状ではそれだけでも御の字と言えた。
そして手が足りない情勢を考えれば、コンパスが対応する機会も巡ってくる。
とはいえ、今の段階では動きようがない。
であるならば『その時』に備えて、打てるだけの手を打つに限る。
「ひとまず本艦はフィラデルフィア基地へと帰投します」
『そうですね。今はただ……羽を休めるべきでしょう』
「ライアンさんッ!」
「もう取り調べの時間……って訳でもなさそうだな」
ラグエルの医務室。
幾つか備えられているベッドの一つにて、ライアン・クロフォードは上体を起こした。
そして視線の先にある来訪者……レンリとアーランドを出迎える。
「すみません。助けてもらったのに、まだお礼を言えてなくて」
「構わんさ。それに……俺の方こそ君に助けられた」
ラグエルに運び込まれた直後、ライアンは一刻も早い治療を必要としていた。
軍医曰く一刻を争う容体だったようだが、どうにか無事に乗り越えられて今に至る。
落ち着いてから数度聴取が行われたものの、いずれにおいても穏当に事は運んだ。
脱出においてフェリクスに撃たれた時、そして追撃を受けた時は死を覚悟した。
しかしレンリによって助けられ、今こうして無事に顔を合わせる事ができたのだ。
「……それに、ネリーの為でもあるからな」
ネリー・ハーシェル。
この場にいる三人を繋ぐ存在。
レンリにとっては親友。アーランドにとってはかつての同僚。
そしてライアンにとっては同志。
一度は心に届いたと思った矢先に、その手は遠くへと離れてしまった。
彼女は手の届かない場所にいる上、行方は杳として知れない。
場所のみならず……心の在り処すら。
「あの……ネリーは『揺り籠』にいるって言っていましたよね?」
「君も聞いた事があるだろう。エクステンデットの調製用の設備だ」
エクステンデット。
かつて地球連合がコーディネイターに対抗すべく開発した強化兵士。
その『製造』と維持に非人道的な手法が用いられている事は、今では広く知られていた。
伝え聞く話を想起したレンリとアーランドは思わず顔を背ける。
「けどネリーはコーディネイターですよ? 強化の必要なんて……」
「肉体的には必要ないだろうさ。むしろ精神面だな」
レンリの疑問に対してライアンは首を横に振った。
エクステンデットは、身体能力でどうしても劣ってしまうナチュラルの強化を目的としている。
その意味において既にコーディネイターであるネリーに強化を施す意味合いは薄い。
むしろこの場合は、精神制御という面の方がより重要と言えるだろう。
「君を殺したと思い込んでネリーは心を壊した。だからこそだ……それこそ、自分達にとって都合のいいように心を作り変える為にな」
「そんな……ッ!?」
「なんて事を……ッ!?」
ライアンが推測したユリエールやフェリクスの意図。
それはレンリとアーランドが二の句を告げなくなるには十分過ぎた。
人を人と思わないような所業。
もっとも……ユリエール達にとっては同じ『人間』だとは思っていないのだろう。
だからこそ躊躇いもなく、良心が痛むこともない。
「エイプリルフール・クライシスで家族を喪ってから、俺はこれまでブルーコスモスとして戦ってきた。それが正しいと信じてきたからだ」
ある日唐突に、そして理不尽に大切なモノを奪われた悲しみ。
それを贖うべくライアンは今まで戦い続けてきた。
二度の大戦を経ても尚、テロリストと後ろ指を差されようともだ。
「そんな時にアイツは、ネリーはブルーコスモスに入ってきた」
コーディネイターでありながらブルーコスモスの同志となったネリー。
正直なところ、最初は自らを否定するような矛盾する存在に疑念を抱いた。
しかしその境遇を知るにつれ、いつしか疑念は同情に代わっていく。
「ブルーコスモスとしちゃ、コーディネイターは敵なんだろうさ。けどな……ッ!」
ライアンの語る言葉に熱が籠り、拳は固く握り締められる。
ユリエールとフェリクスは、ネリーの懊悩を嗤うかのように使い潰す。
それはコーディネイター排斥を掲げる組織としては正しいのかもしれない。
しかし、そのような行いを胸を張って誇れるのだろうか?
……ライアンには、とてもそれはできなかった。
「心を壊したら今度は生体CPUだとッ! そんな行いのどこに正義があるッ!」
あまつさえ、生き延びたミケール大佐麾下の部隊を囮とする作戦まで立案された。
仮にも同志であるにもかかわらずだ。
フェリクスの立案した、人の心がないとしか思えない作戦を耳にした時は正気を疑った。
少なくとも死んだ家族は、そのような行いを決して肯定しないだろう。
そしてなにより自分自身が許せない。
「……すまん。少し、熱くなりすぎた」
「それで私の脱出を手伝ってくれたんですね。サイクロプスの事を教えてくれたりとか」
「ああ……それぐらいしかできなかったがな」
ネリーを揺り籠から連れ出す事ができれば一番だった。
しかしフェリクスの警戒は厳しく、とてもではないが手が出せるような状態ではない。
だからこそレンリの存在に掛ける事にしたのだ。
他ならぬネリーの親友であり、一度は言葉が届いたレンリへと。
「結局、肝心なところは君に任せる事になってしまうな」
「……ううん。ネリーの事も、ありがとうございます。そこまで怒って……心配してくれて」
自嘲するライアンに対してレンリは静かに首を横に振る。
元よりその為にここにいるというよりも、戦う理由の一つなのだ。
そこへライアンから託された想いも背負うだけの話である。
恐らく次にネリーと逢う時は、最早よく知るネリーではないのかもしれない。
コーディネイターへの憎しみを刷り込まれ、ユリエールやフェリクスにとって都合のいい存在として立ちはだかるだろう。
たとえ想い出は黒く塗りつぶされようとも……想い出は決して消えたりはしないのだ。
それは確証ですらなく単なる願いでしかないのかもしれないが、諦める理由にはならない。
「僕もできる限りの事は手伝うよ。一旦ザフトに戻って……どうなるかは分からないけど」
アーランドもまた力強く頷いた。
ジャガンナート中佐によるクーデターが鎮圧された今、ようやくザフトへ戻る目途がついた。
コンパスとして再度出向するかどうかは分からないがジュール中佐に事のあらましは伝えてある。
もし動きがあった場合は、ある程度事情が通じている立場という事でお鉢が回ってくるだろう。
「そうだな。その時はよろしく頼む。ところで……」
そこで一度ライアンは言葉を切った。
かと思えばレンリとアーランドとを交互に見やる。
「DSSDだったか……その時のネリーや君達の事を訊かせてくれないか?」
改まって何を言い出すのかと思えば。
一瞬目を丸く開いていたレンリだが、思わず口許に笑みが零れる。
これからの事を話して決意を固める事は必要だ。
しかし。それでも今は。
楽しい想い出を振り返るのも悪くはない。
「うん。ネリーはね……」
「グラント少佐。再起動プロセスは滞りなく完了しました」
仄暗く……そして広大な空間にて、フェリクスは眼を閉じて佇んでいた。
周囲は静寂に包まれている為か、報告を行った兵士の声がよく響く。
眼を開けたフェリクスは兵士へと頷き、一歩踏み出す。
「ご苦労様です。私も暫くしたら戻るとユリエール様にお伝えください」
返事を受けた兵士は敬礼し、その場を足早に駆けていく。
足音が遠くなってきたところでフェリクスは一歩一歩、ゆっくりと足を踏み出す。
そして周囲を見渡すと、謳うように囁いた。
「光あれ」
不意に、世界に光が灯った。
否……照明が一斉に点灯したのだ。
それに呼応するように、何かの駆動音が唸り声のように響きだした。
まるで今の今まで死んでいたモノが息を吹き返したかのように。
フェリクスの眼前には、一機のモビルスーツが彫像のように屹立していた。
全身を深紅で鎧われたそれは、まるでお伽噺に出てくる騎士を思わせる。
その頭部に備わっているのは連合製のモビルスーツを思わせるツインアイと二対のアンテナ。
しかし装甲の一部が存在せず、隙間を注意深く覗くとモノアイが見て取れる。
「今こそ世界に示そうじゃありませんか、シミュラント……いえ。こう呼ぶべきですね」
見上げるフェリクスは呟きつつ、過去へと想いを馳せる。
高みから見下ろす母。そして弟妹達。
忌々しい。実に忌々しい。
しかし。彼らはもういない……いないのだ。
振り払うように首を横へ振り、そして改めて前を向き、その銘を謳い上げる。
「……アラストル」
【次回予告】
掲げた灯は小さくとも、往く事に畏れはなく
翼は輝き刻み、
たとえ傷つけども、君の真実は此処にあるのだと
PHASE-10「
それは出逢いたいと希った、在りし日の君に在らず
虚ろを鎧えども、刹那に回帰するのは君の姿
閲覧、ブックマーク等ありがとうございます。
感想等頂けましたら励みになります。切実に何卒よろしくお願いします。
ひとまず、ようやく第三幕は完結となります。
お付き合い頂いた皆様には感謝しかありません。
この場を借りてお礼を申し上げます。
残すところはクライマックスとなる第四幕ですが、先日触れました通り進捗なにそれ状態です。
今までよりも間違いなく間隔は空いてしまうものの、気長にお待ち頂ければ幸いです。
気分転換で活動報告とかで何かしら投下はするかもしれませんが、なにかあったらラッキー程度にお考えいただければと。
ようやくここまで辿り着きましたし、なんとか最後まで走り切りたい所存です。よろしくお願いします。