機動戦士ガンダムSEED VERTICAL   作:まりなーら

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家畜に神はいないので初投稿です。




PHASE-10 虚ろなる先触(ホロー・オーメン)(2)

 

 

 

 

「これが先程、プラントから送られてきた映像です」

 

モルゲンレーテ社内の一角にある大会議室。

そこにはラグエルの主要なクルーが集合していた。

前面のディスプレイの前にはシエラ……だけではなく、フォスター大統領とアスハ代表の両名までもが立っており、その面持ちは硬い。

更にはオーブ国防軍からも年若い将校が一人、その場に居合わせていた。

階級章から察するに一佐だろうか?

 

「なに……これ……」

「要塞? 資源衛星?」

「あのモビルスーツは?」

 

一連の映像を目の当たりにした一同は皆、困惑に包まれていた。

ディスプレイに映っているのは、巨大な小惑星のような、或いは要塞のような構造物。

恐らくは採掘の終わった小惑星を転用したのだろうか。

構造物の外縁部には幾つかの巨大なリングが取り付けられており、備えられている陽電子リフレクターが翠色の障壁を展開している。

 

「戦略機動要塞『ユミル』……ファウンデーション王国が保有していた施設だ」

 

口を開いたのはシエラではなく、オーブ国防軍の一佐だ。

ファウンデーション王国……その名を聞いた瞬間、周囲にどよめきが広がる。

彼の王国は先のレクイエム破壊作戦において壊滅した筈だ。

 

「元々はモビルスーツの製造を行う工廠の一つだったらしいが、ユリエール率いるブルーコスモス残党が乗り込み、再起動に成功した」

 

先の事例より、ブルーコスモス残党とは水面下での繋がりは確認されている。

ならばファウンデーションの遺産ともいうべき彼の要塞に逃げ込んでもおかしくはない。

 

という事は、周辺に展開しているモビルスーツにも見当がついた。

ブラックナイツ……彼の王国において親衛隊に配備されている最新鋭機だ。

しかし既に確認されているシヴァやルドラなどとは、意匠こそ似通っているが形状が異なる。

加えて数も多く、軽く見積もっただけでも二桁を軽く超えるだろう。

 

「この『ユミル』は現在、プラントに向けて進行している」

「プラントからもコンタクトを取ろうとしているのですが、一切の応答がないそうです」

 

ブル―コスモスの残党によって起動した要塞。

そしてブラックナイツに類似した機体。

どう考えても友好的には思えず、事を構えようとしているのは間違いない。

 

「まだ先の話ですが、このまま進行を続けた結果……プラントに直撃するでしょう。恐らくはそれがユリエールの狙いであると考えられます」

 

戦略機動要塞という、大質量によるプラントへの直接攻撃。

……飽くまでも取るべきはフォスター(クィーン)などではなく、プラント(キング)だと。

ユリエールであれば或いは、そのように宣うのかもしれない。

そしてこのユミルの存在があればこそ、地上のブルーコスモス残党を使い潰したのだ。

 

「プラントからの要請により、我々はこのユミルの停止あるいは破壊へと向かいます」

 

予想はされていたが、シエラの言葉により一同は息を吞む。

コンパスとしての活動再開に目途が立ったという話は聞いている。

とはいえ再開早々の初仕事が、レクイエム破壊作戦に匹敵するレベルのミッションとなろうとは。

 

とはいえ、プラントもコンパスによる作戦行動をよく認めたものだとは思う。

レクイエムと異なり、そもそも大西洋連邦やオーブからすれば直接の脅威ではないのだ。

プラントとしても借りを作りたくないだろうし、可能であれば独力で解決したい筈。

それでは二進も三進もいかないからこそ、形振り構ってはいられないのだろうか。

 

「しかしラグエルは兎に角、ミレニアムは艦載機共々オーバーホール中だ」

「ええ。ですのでコンパスからはラグエルがその任に当たります。勿論、プラントからも迎撃の為に部隊を展開する手筈となっています……しかし彼等もまた、手が足りません」

 

挙手したルークの発言にシエラが答える。

恐らくプラントとしてはオーブや大西洋連邦に借りは作りたくないというのが本音だ、

とはいえ眼前の事象は、既にプラント独力で対応できる範疇を大きく超えていた。

そしてコンパスとしても、ユリエールとの因縁を抜きにしても彼らを放置する訳にはいかない。

 

「ラグエルは艦体に追加ブースターを装備して急行します。作戦開始は翌日の17:00(ヒトナナマルマル)となります。各員は直ちに準備に取り掛かってください」

 

シエラが締めくくると共に一同は立ち上がり、慌ただしく駆け出していく。

まだ一日程度余裕があるとはいえ、準備を行っていれば瞬く間に過ぎてしまうだろう。

レンリもまたラグエルの乗機へと戻ろうとした時、シエラに呼び止められた。

 

「艦長……ええと、この方は?」

 

シエラの隣には、先程説明を行っていたオーブ国防軍の将校が立っていた。

更に隣にはコンパスの赤い制服に身を包んだ少年が並んでいる。

 

「君がアマサキ少尉か。俺はオーブ国防軍のアスラン・ザラだ。こっちはミレニアム所属のシン・アスカ大尉……顔を合わせるのは初めてだったな」

「シン・アスカだ。よろしくな」

 

シンと呼ばれた少年から差し出された右手を思わずレンリは手に取り、握り締める。

初対面の相手だからか表情はやや硬いが、歳は自分とそう変わらないように見えた。

赤い制服に袖を通しているという事は、ザフトから出向してきたのだと伺える。

そういえばミレニアムには『フリーダムキラー』なんて呼ばれているエースパイロットがいると聞くが、彼がそうなのだろうか?

 

「ハルバートン艦長から報告を受けている。君の親友であるネリー・ハーシェルについてな」

 

オーブ軍の将校とザフトレッドのエースパイロット。

その両名から何の話があるのかと考えていたが、まさかネリーの名前が出るとは思わなかった。

 

「結論から先に話そう。君の親友はアコードによる精神干渉を受けている」

 

 

 

 

 

 

「……疾いッ!!」

 

宇宙(ソラ)を駆け巡る、レンリ・アマサキの乗るヴァーティカル・インフィニティ。

蒼き光の翼を彗星の尾のようにたなびかせ、遥か前方の赤い光を追いかけていた。

その赤い光は急加速と急制動を繰り返しながらも中々捉えられない。

 

両機共に光圧推進システム、ヴォワチュール・リュミエールを全力で起動させた超高速機動。

外から見れば、ただ蒼と赤の光が飛び回っているようにしか見えないだろう。

次の瞬間、ヴァーティカル目掛けて極彩色の閃光が駆け抜ける。

 

「ッ!」

 

レンリの眼が一瞬捉えたのは、赤い光の翼を広げたモビルスーツ。

ZGMF/-A42S2 デスティニー……シン・アスカの乗機だ。

それが突如振り返り、高エネルギー長射程ビーム砲を放ってきた。

ヴァーティカルは重対艦剣《ノートゥング》を取り出し、ビームを真っ向から斬り裂く。

次の瞬間、コクピットを強い衝撃が襲う。

 

『今のを防ぐかよッ!』

「……前にも喰らいましたからね、その手はッ!」

 

感心したようなシンの声がコクピットに響く。

いつの間にか眼前に迫っていたデスティニーによる斬撃。

ヴォワチュール・リュミエールによる強大な推進力を乗せた一撃は極めて重い。

 

身の丈ほどもある《アロンダイト》ビームソードと《ノートゥング》が鍔迫り合う。

互いの背にある光の翼が輝きを増し、力に任せて押し切ろうとする。

二度、三度、四度と打ち合い、そしてデスティニーの対艦刀を弾き飛ばす。

 

「今ッ!」

 

好機とばかりに、《ノートゥング》を振り下ろすヴァーティカル。

裂帛と共に繰り出された斬撃を前にデスティニーは退く様子を見せない。

それどころか両手を伸ばし、掌で対艦剣を挟み込む。

 

「……嘘ッ!? 白羽取ったッ!?」

 

しかもデスティニーの掌はただのマニピュレーターではない。

《パルマフィオキーナ》掌部ビーム砲。

ビーム砲とはあるが、その実態はマニピュレーターと一体化した開放型のビームジェネレーター。

《ノートゥング》を掴んだ掌が光り輝き、刀身に展開されている攻性のビームフィールドと互いに干渉し、一体に光が荒れ狂う。

さしもの至近距離から放たれた高出力ビームには耐え切れず、対艦剣はあえなく破壊された。

 

『ちいッ!』

 

次の瞬間、真っ向からヴァーティカルが突っ込んできた。

両手には光刃をサーベルモードで出力したビームブーメランを構えている。

左右からのタイミングをずらした斬撃。

更には脚部のビーム重斬脚をも交えた蹴りを次々繰り出し、デスティニーに反撃の暇を与えない。

 

「このまま……押し切るッ!」

 

近接兵装の多彩さ、すなわち手数の多さではヴァーティカルに軍配が上がる。

掌部の《パルマフィオキーナ》にしても、先程の白羽取りで相当な負担が掛かっている筈だ。

残りの武装を手に取る隙は与えず、そのまま決着を付けたい。

 

『望むところだッ!』

 

デスティニーもまた両肩から《フラッシュエッジ2》ビームブーメランを取り出す。

そして次々と繰り出される光刃を受け止め、そして捌いていく。

手数そのものはヴァーティカルの方が上だが、技量はデスティニーの方が上か。

徐々にヴァーティカルの動きに焦りが見えてくる。

 

「これでッ!」

『甘いッ!』

 

埒を抉じ開けるべく繰り出された一閃が、デスティニーのビームブーメランを弾き飛ばした。

そのままガラ空きの胸部目掛けてもう片方の光刃を突きだす。

しかしそれこそがデスティニーが誘い込んだ罠。

気付いた時には腹部へとデスティニーの掌が押し当てられていた。

 

『吹き飛べッ!!!』

「させないッ!!!」

 

ゼロ距離で掌の《パルマフィオキーナ》が爆ぜるのと、ビームブーメランの光刃がデスティニーのコクピットを刺し貫いたのは、ほぼ同時だった。

両機が盛大に爆発すると共に、ディスプレイがシミュレーション終了を告げる。

 

「ここまでやって……漸く引き分けだなんて……ッ!」

「お疲れさま……大したモノよ。シンが相手で三回やって引き分けまでいったなら」

 

シミュレーションマシンの筐体から出てきたレンリは肩で大きく息をしていた。

そんな彼女にドリンクを手渡したのは、シンと同じくコンパスの赤い制服に袖を通した少女だ。

ルナマリア・ホーク……シンの同僚との事だ。

 

「いやまあ、パルマが動かなかったらオレの負けだったさ」

 

もう一台の筐体から顔を出したシンは、頭を掻きながらレンリの健闘を労う。

そしてルナマリアから受け取ったドリンクを一気に飲み干した。

 

「あの……アスカ大尉、訓練に付き合って頂いて、ありがとうございます」

 

ラグエル出航まで幾許かの猶予を活かして、レンリはシミュレーターでの訓練を行っていた。

ただし予め組まれたバトルプログラムではない。

シンが模擬戦に付き合うという形での訓練だ。

 

ライアンによるとネリーの乗機であるディアボロスには、改修ついでにヴォワチュール・リュミエールが組み込まれるそうだ。

となれば必然として、戦闘が行われるならそれを想定しなければならない。

ネリーと接敵した場合、説得する必要があるのだが、当然に戦闘も予想される。

であるならばとシンが訓練の相手役を買って出たのだ。

 

「いいってそんな改まらなくても。オレの方が歳は下だし。名前でいいよ」

 

そう口にしたシンは年相応の笑みを見せる。

パッと見は同じような年頃のアーランドとはまた違ったタイプに思えた。

しかし……

 

「それにな……事情を訊いたら、じっとしていられなくてさ」

 

一見快活そうに見える少年の表情に陰が差す。

先程アスランとも話をした、ネリーがエクステンデットとして精神制御を受けている件だ。

恐らくはそれに類似した事象に覚えがあるのだろうか。

 

「……本当はオレだって一緒に行きたいんだ」

「そういう訳にはいかないでしょ。あんた機体はどうすんのよ?」

「そりゃあそうだけどさあ……」

 

呆れたようなルナマリアの言葉に、シンは煮え切らないといった様子で言葉を返す。

シンの乗機であるデスティニーは先のレクイエム破壊作戦を経てオーバーホール中だ。

代機にしてもシンの技量についてこれるだけの機体はそうそうないだろう。

……それこそ、ヴァーティカル・インフィニティのような機体でなければ力不足と言える。

 

「私なら大丈夫。負ける気はしないよ……シンのおかげで」

「そっか。なら戻ってきたらさ、また相手してくれよ」

 

シンが差し出した右手を力強く握り返したレンリは笑みを浮かべる。

所属こそ違うが、こうして背中を押して力を貸してくれる人がいるのだ。

だからこそ、その想いに応えたいと心から思えた。

 

「今度は私が勝つから。それから……ネリーも一緒にね」

 

 

 

 

 

 

 

『アマサキ少尉。準備はできましたか?』

 

低軌道上を航行するラグエル。

つい先程、追加ブースターとマスドライバーにより大気圏を離脱したばかりだ。

そのまま速力を保ったまま『ユミル』の存在する宙域へと向かう手筈となっている。

しかし如何にブースターユニットを追加したといえど、このままでは速力が足りない。

 

「はい……システム・オールグリーン。いつでもいけます」

 

そこでまずは、先行して戦力を送り出すという作戦が立案された。

こうしてモルゲンレーテから持ち込まれた追加装備がある。

その名はヴェスティージ。

現在、艦の外でヴァーティカルに接続されている戦術強襲モジュールだ。正式には……

 

Versatile

Enhanced

Strategic

Tactical

Interception and

Ground-strike

Equipment

 

二度目の大戦の折、この装備はザフトによって開発されていたそうだ。

戦後はモルゲンレーテ社に手によって確保、密かに調整が進められていた。

かつてのミーティア同様の戦術強襲モジュールではあるが光圧推進システム、ヴォワチュール・リュミエールによる敵拠点への電撃侵攻ならびに制圧を目的としている。

 

同じくザフトで開発されたゼウスシルエット共々レクイエム攻略作戦への投入が検討されたが、この時は調整が不十分な事もあってか見送られた。

しかし今回のユミル攻略戦において白羽の矢が立ち、漸く日の目を見る事となったのだ。

 

単機侵攻という点に限れば、ヴェスティージを用いない単機でも可能といえば可能だろう。

とはいえヴァーティカルに搭載されている新型融合炉も万能ではない。

またヴェスティージの前面と側面には陽電子リフレクターによる防御機構も備えられており、そちらにも出力を回す必要があるのだ。

同じくリフレクターを展開しているユミルへ突貫、干渉からの相殺による突破を目的としている。

 

『本艦も後を追いますが、くれぐれも無理はしないでください。場合によってはザフトと合流して頂いても構いません』

 

まずはヴェスティージを装備したヴァーティカルが単機で電撃侵攻。

敵戦力を攪乱し、可能であればユミルの陽電子リフレクターを突破し無力化を図る。

その後ラグエルを含む主力部隊、そしてザフトと共同で攻略に当たるというのが今回の作戦だ。

 

「了解しました。艦長達も……ご無事でッ!」

『ヴェスティージ、リフト・オフッ!』

 

エリアスの号令と共にヴェスティージがラグエルから離れ、背部と側面から蒼い光の翼が広がる。

ほどなくして矢の如く飛び立ち、遥か宇宙(ソラ)の彼方へと飛翔していく。

数多の願いと想いを抱え、翼はその先へ駆け抜ける。

……何が待とうとも、立ちはだかろうとも。

 

 

 

 

 

 

「ユリエール様。連中が動き出したようです」

「押取刀で駆け付けるか」

 

『ユミル』コントロールルーム。

中央部の集中管制ユニットに腰掛けるフェリクスは、傍らのユリエールへと話し掛けた。

フェリクスが座するシートの周辺には、数多ものディスプレイが並ぶ。

表示される情報は様々で、要塞周辺に展開した戦力や各モビルスーツや『パーツ』のコンディション、要塞内部の状態など多岐にわたる。

 

「だが……間に合うまい」

 

コントロールルーム中央のメインディスプレイを見上げながらユリエールが嗤う。

プラントから出撃した部隊という事はザフトだろうか。

とはいえ戦力はナスカ級高速戦闘艦が三隻、ローラシア級が六隻ほどでしかない。

 

「あちらもクーデターの後始末で手一杯らしいですからね」

「その意味では、ファウンデーションとかいう自称新人類共も役に立ったという事か」

 

程なくしてザフトの艦からモビルスーツが次々と発艦する。

ヘリテージとかいう新型機とゲルググが目立つが、残りはザクやグフといった既存の機体だ。

これに対しこちらは、ブラックナイツの簡易量産機であるエインヘリヤル。

機体性能そのものは、フェムテク装甲を除けば彼らと大差はないだろう。

しかし彼らが『通常の』モビルスーツである以上、どうしても超えられない壁がある。

 

「折角ですからね。ストックは十分に余裕がありますし……『パーツ』の確保でもしましょうか」

 

健気にも立ち向かおうとするザフトの部隊を憐れみつつ、フェリクスは端末を操作。

ほどなくして周辺に展開しているエインヘリヤルが一斉に起動した。

そこでふと、何かを思い出したのかディスプレイに映るヘリテージへと目を向ける。

乗っているのはパイロットは確か、ネリーの知り合いだったか?

 

「ああ。これは面白い事になりそうですね」

 

そんな時、ディスプレイの一枚が赤く明滅し敵機の接近を告げた。

展開しているザフト艦隊とは別方向で、しかも常軌を逸した速度で接近している。

ディスプレイが接近する機影を映し出し……それを目にしたフェリクスは口の端を吊り上げた。

 

「ほう……これはまた。連中も熱心な事だな」

「……さながら囚われのお姫様を救いに来た騎士でも気取りますか。ですがッ!」

 

嗤うフェリクスは端末を操作すると、ディスプレイの一つに人影が映し出される。

コクピットの中だろうか、一人のパイロットが俯いていた。

彼女が……ネリー・ハーシェルが顔を上げる。

 

『……お呼びですか?』

「ええ。『ホロー』を出してください。貴女の……貴女の『敵』が待っています」

 

 

 

 

 

 

「見えたッ!」

 

ヴェスティージを最大戦速で飛ばしたその先、レンリは一際巨大な機動要塞を確認した。

間違いない。あれこそがユミル……あそこにユリエール達ブルーコスモス残党がいる。

……そして、ネリーも。

 

接近に気付いた漆黒の機体がビームキャノンを構え、ヴェスティージ目掛けて放つ。

恐らくはアグニ級の収束火線砲だろうか。

極めて正確な斉射は、しかしいずれもヴェスティージを貫くには至らなかった。

 

「そんなモノじゃ……止められないッ!」

 

ヴェスティージが前面に展開した陽電子リフレクター。

放たれた幾条ものビームは、その悉くが弾かれて四散する。

そして勢いを削ぐことなくヴェスティージは宇宙(ソラ)を駆け抜けていく。

向かう先はユミル……ただ一点のみ。

しかしユミルもまた自身を守るべく、陽電子リフレクターを展開した。

 

「……と・ど・けえええええええええッ!!!!!!」

 

勢いを一切殺す事なくヴェスティージはユミルへと突貫。

互いに展開した陽電子リフレクター同士が激しく干渉し、光の幕と光の槍が鬩ぎ合う。

ユミルのリフレクターも押し返そうと出力が高まっていく。

とはいえヴェスティージの速度を乗せた突貫には抗いきれない。

やがて光の幕を突き破り、ヴェスティージはその先へと進む。

 

「リフレクター発生器はッ!?」

 

ユミルのリフレクター内部へと侵入を果たしたヴェスティージ。

高速で周辺を旋回しつつ見渡し、ほどなくして周囲に展開している複数のリングへと目を付ける。

恐らくはこれがリフレクターの発生器だろう。

ヴァーティカルのディスプレイに、マルチロックオンシステムが立ち上がった。

次の瞬間、リングの各所へと次々と狙いを定めていく。

 

ヴェスティージが展開するヴォワチュール・リュミエール。

大きく広げられた光の翼が一際強く輝いたかと思えば、無数の光の矢を放った。

光の翼を構成するビームとコロイド粒子を収束させて一斉に放つ広域殲滅兵装。

放たれた光の矢は余すことなくリングを貫き、穿ち、削り取っていく。

ほどなくして周辺に展開していた陽電子リフレクターが消滅する。

 

「まずは一つッ! あとは……ッ!」

 

ユミルの陽電子リフレクターを沈黙させるという当初の目的は果たした。

あとは出入り口を潰すべきだろうか。

暫し思案したレンリは、咄嗟に操縦桿を引いた。

つい最前までヴェスティージのいた空間を、何かが薙ぎ払ったのだ。

 

「あれは……」

 

それは赤く、紅く光っていた。

息をつく間もなく、更にこちらへ迫り来る。

レンリはヴェスティージを滑らせるように後退させつつ、光の矢を放つ。

しかし赤い光に当たった光の矢は全て虚しく弾け散る。

それすら一切意に介する様子すら見せず、尚も距離を詰めてきた。

 

要塞の周囲を後退しつつも、ついにはセンサーは赤い光を……そのヴェールを暴いた。

赤い光に見えたのは、機体前面に展開した一対の光の翼。

背部から伸びたアームユニットより展開しているという事は、攻防一体のビームフィールドか?

そして背中には、赤く滴る血のような光の翼を広げている。

本体は……幾つか記憶との差異があるが、間違いない。

 

「……ディアボロス」

 

 

 

 

 

 

「ネリー……だよね……」

 

ともすれば永遠に続くと思える静寂の中、通信回線をオープンにしてレンリは呼びかけた。

恐らくはあれが改修したディアボロスなのだろう。

そして乗っているのは……ネリーだ。

ヴェスティージに難なく追従できるだけの技量、そしてマニューバ。

操縦桿を握る手に力が籠る。

 

『……そう。来たのね、レンリ』

 

レンリの声に応えるようにディアボロスが……ネリーが動いた。

身の丈ほどもある大鎌を取り出し、赤い光の翼が徐々に輝きを増していく。

それは陽炎のようであり。

或いは亡霊のようでもあり。

ただ……向けた敵意は一片の曇りなく。

 

『貴女をこの手で超えてこそ、斃してこそ……私は宇宙(ソラ)を翔べる』

 

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

一は全に、全は一に、戦場を往くのは意思なき戦士達

命ずる声のままに贄を求め、只管に生者を躙り貪ろうと迫る

されど討つべき者は既になく、過る郷愁を振り解く

 

PHASE-11「消せない約束」

 

あの日から続くのは、今日という真実

何時かに焦がれた懐かしい面影、君の声へ諦めるものかと心が叫ぶ

 

 

 




閲覧、ブックマーク、評価等ありがとうございます。
感想等頂けましたら励みになります。切実に何卒よろしくお願いします。

今更ですが時間軸上が本編後なので、あとから公式で何かお出しされた時のことは一切考えていません。
先の事は考えず、振り返らないで全力疾走していきたい所存です。
というか、そろそろ公式から何か出てもいいとは思うんですけどね。

今の進捗から考えて、次回はまた不定期になりそうです。
気長にお付き合い頂ければ幸いです。
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