機動戦士ガンダムSEED VERTICAL   作:まりなーら

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三連休が終わりそうなので初投稿です。


PHASE-02 蒼き残光(1)

コズミック・イラ72年。

DSSDの宇宙ステーションの一つにあるレンリの部屋は、静寂に包まれていた。

窓の外から見える宇宙にはいつも変わらず漆黒と星々が広がっている。

 

 

机に備えられたライトの淡い光が、机に広げられたタブレットや資料を照らす。

就寝時間は既に過ぎている。

レンリ・アマサキは、朱色の髪を無造作に束ね、モニターに映るスターリンカーの設計図を睨む。

彼女の指は、タブレットのキーボードを叩き続け、疲れた目が一瞬も離れない。

 

「レンリ、まだ起きてるの?」

 

柔らかな声が、自室のドア越しに響く。

扉を開けると、長い黒髪をポニーテールにまとめたネリー・ハーシェルがドリンクを片手に立っていた。

彼女の柔和な笑顔は、疲れたレンリの心をほぐす。

 

「ネリー……こんな時間に、どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。レンリ、ちょっと休憩しなさいよ」

 

ネリーはドリンクをレンリに手渡し、部屋にあるベッドに腰掛ける。

戸惑いつつもレンリは受け取ったドリンクに口を付けた。

 

「ありがとう……でも、ネリーこそ、なんで起きてるの? 一週間後のシミュレーション、あなたなら余裕でしょ?」

「……余裕なんてないよ。私だって夢は叶えたい」

 

ネリーが小さく笑い、首を横に振る。

その表情は、いつになく張りつめていた。

ドリンクのボトルを握るレンリの手にも力がこもる。

 

DSSDが進めている外宇宙探査計画の一つ、プロジェクト・スターリンカー。

計画の要となる有人探査モビルスーツ、スターリンカーのパイロット選定が迫ろうとしていた。

その最有力候補となっているのはレンリとネリーの二人。そして……

 

「正規パイロットは一人。私達の内、誰か一人しか選ばれない」

 

外宇宙へ駆け出す夢の翼は一人分だけ。

どちらかが選ばれるという事は、どちらかが選ばれないという事。

或いは自分達以外の誰かが選ばれるのか。

 

「ねえレンリ。もしあなたが選ばれた時は。私の夢も連れて行ってほしい」

 

窓の外に広がる漆黒の宇宙を眺めていたネリーは、レンリへと向き直る。

レンリはいつになく弱気なネリーの言葉と真っすぐな双眸に戸惑う。

 

「それは……私もだよ。もしネリーが選ばれたら。その時は……」

 

ネリーの隣へと腰掛けたレンリは、ネリーの右手に自身の掌をそっと添えた。

掌を通じてネリーの体温が、想いが伝わってくる。

目を閉じて、ネリーは静かに頷いた。

 

一人しか選ばれないのであれば、互いに夢を託そう。

窓の外には、無数の星が輝き、未来を祝福するかのようだった。

レンリの心に、ネリーとの絆が温かく灯る。

あの頃は、夢が全てだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロスアラモス基地の上空は、戦火の紅と黒に染められていた

ヴァーティカルのコクピットで、操縦桿を握るレンリの手が強く震えている。

モニターに映るのは悪魔の銘を冠した機体、ディアボロス。

 

そのパイロットは。

……そのパイロットは。

かつての親友、ネリー・ハーシェル。

通信越しに響いた彼女の声が、レンリの心を強く締め付ける。

 

「ネリー……あなた、なんでブルーコスモスに……ッ!」

 

レンリの叫びに、ディアボロスは一瞬動きを止める。

しかし返ってきたのはネリーの冷たく、悲痛な声だった。

 

「コーディネイターの私が……あなたの夢を壊したからよ……ッ!」

 

その言葉は、レンリの胸を深々と抉る。

DSSD時代、ネリーがスターリンカーに選ばれ自在に宇宙を駆ける様を見たその時、レンリは敗北感に苛まれた。

なぜ自分が選ばれなかったのか、ではない。

自分なんかよりも、ネリーこそがスターリンカーにふさわしいと思えたからだ。

だからネリーを恨んだことなど一度もない。

 

彼女は親友だった。

だのに。

何故。

今。

こんな戦場で刃を交えるのか。

 

「違うッ! それは……」

 

レンリは叫ぶが、ディアボロスの《ニーズヘグ改》が再び振り下ろされる。

ヴァーティカルは対艦刀で受け止め、重ねる光刃が激しくスパークする。

ディアボロスのウイングスラスターが咆哮し、圧倒的な推力でヴァーティカルを押し返す。

 

ヴァーティカルがピアサーロック《レーディング》を射出し、機体を強引に引き離す。

だが、ディアボロスの胸部にある《スキュラ》が赤く輝き、照準がヴァーティカルを捉える。

 

「くっ……ッ!」

 

レンリはスラスターを全開にし、急旋回で回避。

高エネルギー砲による極彩色の光が戦場を貫き、空を斬り裂く。

ネリーのマニューバはスターリンカーを思わせるが、どこか無機質で冷たい。

 

「ネリー……目を覚ましてッ!」

 

ディアボロスの頭部より《ツォーン》が唸り、曲射する《フレスベルグ》が空間を薙ぎ払う。

ヴァーティカルはビームブーメラン《マイダスメッサーF3》を投擲し、ディアボロスの動きを牽制。

だが、ネリーの反応速度は、まるで機体と一体化したかのように易々と軌道を見切る。

 

『少尉、呆けるなッ!』

 

不意に聞こえてきた声へと目を向けると、ルークのレゾナンスがこちらに向かっている。

レゾナンスは手にしたビームライフルを連射するがディアボロスには当たらない。

ディアボロスはレゾナンスへと向き直り、一瞬の間を置いてフルバーストが放たれた。

極彩色の奔流をどうにかレゾナンスはやり過ごすが、横手からストライクEがビームサーベルを手に飛び込んできた。

 

『コンパスの狗ッ! 貴様の相手はこの俺だッ!』

『邪魔を……するなッ!』

 

レゾナンスもビームサーベルを抜き放ち斬り結ぶが、ストライクEの勢いに押されてディアボロスから離される。

そのまま両者はもつれ込むように刃を幾度も重ねた。

 

何故、どうして。

コーディネイターのブルーコスモス。

それは自身を根本から否定するような存在。

眼前の攻撃に対処するばかりのレンリにはどうしても、それがネリーと結びつかなかった。

続けて放たれた攻撃にそれを考える暇すらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ラグエルのメインブリッジでは、戦場の状況がディスプレイに映し出される。

艦長席に座るシエラをはじめとして一同は、レンリとディアボロスのパイロットの通信を耳にして戸惑いを隠せない。

 

「知り合い? それにしては……」

 

ブルーコスモスのコーディネイターは想定していた。

……まさかそれがレンリの知り合いだったとは。

知り合いというより、それ以上の深い関係であった事を伺わせる。

ディアボロスの動きが鈍ってこそいるが、それはヴァーティカルも同様だ。

 

加えてルークのレゾナンスもヴァーティカルの援護に向かおうとするが、それを敵指揮官機が阻まれている。

何が起こるか分からない極めて危険な状況にシエラの表情が硬くなる。

 

「レミントン少尉、敵母艦の位置を特定してください」

「了解ッ! ……7時の方角ですね。距離6000ですッ!」

 

ミラがコンソールを操作し、敵艦の熱源パターンを解析する。

ディスプレイにラグエル後方より迫るスチールブルーの艦影が映し出された。

ソフィア・ワーズワースが映し出された艦影と手元のモニタを睨み、呟く。

 

「敵艦のシルエットと熱源パターン……アークエンジェル級に近いわね」

 

アークエンジェル級が一番艦アークエンジェルは二度の大戦でも活躍し、現在はコンパスに所属している。

二番艦ドミニオンは第一次連合・プラント大戦時に轟沈。

そしてラグエルをはじめとする改アークエンジェル級は、ラグエル以外に二隻存在する。

ルファエルとアクラシエル、いずれも第八艦隊所属だ。

 

であるならば、正体不明のアークエンジェル級はどこで造られたのだろうか?

過去にブルーコスモスがミラージュコロイド搭載艦を極秘に建造して運用させていたと聞く。

その流れで造られたと考えるのが自然ではあるのだが。

 

「アズラエルCEOに調査させるか」

「……今はあの艦の対処が先決です。7時方向へ回頭。ミサイル発射管《ウォンバット》装填」

 

艦の各種兵装を準備させつつシエラは前を見据えた。

アークエンジェル級に酷似するスチールブルーの戦艦。

どうあれ、今はアレに対処しなければならない。

今までのブルーコスモス残党において母艦の存在は確認できなかった。

であるならば……

 

『御機嫌よう。コンパスの諸君』

 

突如、敵艦から通信が繋げられ、ブリッジの一同は身構える。

ディスプレイの向こうにはシートに肩肘を突いて腰掛ける妙齢の女性。

地球連合軍の軍服に身を包んでいるがその眼光は鋭く、口元には冷ややかな笑みが浮かんでいる。

 

「ユリエール……大佐……ッ!」

 

その姿を確認したシエラは、モニタの向こうにいる女性を強く見据えた。

普段は温厚なシエラが滅多に見せない感情……静かではあるが、怒りを感じ取ったミラは戸惑いを隠せない。

そしてディスプレイに映るユリエールと呼ばれた女性へと視線を移す。

モニク・ユリエール大佐。

現在ミケール大佐と並んで国際指名手配されている、ブルーコスモス残党の幹部だ。

その隣に立っているスーツの男は側近だろうか。

 

「ブルーコスモスの大佐殿がお出ましとはな。なんの用だ?」

『……久しぶりね。シエラ・ハルバートン。そう怖い顔をしないで頂戴』

 

エリアスの言葉を無視したユリエールの視線は、艦長席に座るシエラへと向けられていた。

どこか甚振るようにユリエールの瞳孔が細まり、嘲る様に口角を吊り上げる。

不意に、シエラの瞳に過去の記憶がよぎった。

 

 

 

 

 

 

コズミック・イラ71年。

当時戦いとは無縁だったシエラの下に、一人の軍人が訪れた。

ユリエールを名乗った軍人は、父デュエイン・ハルバートンが戦死したことを告げた。

悲しいといえば悲しいのだが、戦時中である以上どこかで「その時」が来るかもしれないと。

それが今なのだろうとは感じていた。

 

「あなたのお父上はコーディネイターを相手に勇敢に戦い、その命を散らしたのです」

 

ユリエールは語った。

父の死を悼むように。

そして死に追いやったコーディネイターを許さないと。

 

ユリエールの言葉にどこかブルーコスモスを思わせる違和感をシエラは感じ取っていた。

とはいえエイプリル・フール・クライシスによって家族を失い、ブルーコスモスに傾倒する人を多く見てきた。

加えて軍人であるならば、戦場で仲間が命を落としたこともあるだろう。

だからこの時は、今の時代に珍しくはないと考えてしまった。

 

「お父上を殺めたコーディネイターを私は許しません。あなたは、どうされますか?」

 

仇を討ちたくはありませんか?

そう言ってユリエールは手を差し出した。

 

物心ついた時から父は多忙で殆ど家にいる事がなかった。

幼かった頃のシエラは子供ながらに寂しさを覚えたが、母より「あの人は皆を守る大切な仕事をしている」と諭された。

だから、そういうものなのだろうと自分に言い聞かせていた。

 

そして今、母は泣き崩れている。

自分よりも遥かに多く父の事を知っており、そして愛していたのだろうと。

父に代わって二人分の愛情を注いでくれた母を思えば、一人にはしておけない。

しかし母のように悲しむ人を一人でも減らしたい。

 

「私は……」

 

戸惑いながらも半ば衝動的に、差し出された手を取った。

取ってしまった。

 

 

 

 

 

 

『今からでも遅くはありません。共にコーディネイターを討ち、お父上の遺志を継ぐのです』

「お断りします。あなたは、まだそんな事を言っているのですか?」

 

かつてと変わらないユリエールの言葉にシエラは毅然と向き直る。

そこにはかつての戸惑いは何処にもない。

何も知らなかった、あの頃とは違う。

 

『そんな事? お父上が聞けば、さぞお嘆きになるでしょうね』

 

父の遺志を騙り、ブルーコスモスのプロバガンダに利用したユリエール。

その言葉が、父を敬愛していた多くの将兵をどれだけ傷付けたか。

無知だったとはいえ、そんな行いに加担してしまった自分も許せはしない。

艦長席のアームレストを握るシエラの手が強く震える。

 

「あなたにも。私にも。父の遺志を語る資格などありません。生きている私達が語ろうなど烏滸がましいと覚えてください」

 

決然と前を向き言葉を紡ぐシエラの姿を、忌々しいと言わんばかりにユリエールは睨む。

ディスプレイ越しに両者の視線が交錯し、強く衝突する。

 

『……全く。父に似て強情な事で。実に気に障る。耳に障る』

 

侮蔑と共に、ユリエールは吐き捨てた。

忌々しいと言わんばかりに。

敵意と悪意を隠そうともせずに。

 

『だが「アズラエルの遺産」たるディアボロスは我らの掌中にある。第八艦隊の死に損ないである貴様達は何もできまい』

 

通信は途切れた。

ブリッジは暫しの間、静寂に包まれる。

シエラは眼前へと映った敵艦を強く見据えた。

 

「3時方向よりモビルスーツ接近中ッ! ウィンダム4、ダガーL2ですッ!」

「敵艦よりモビルスーツ発進ッ! ウィンダム6ッ!」

 

今の戦況は正直なところ芳しくない。

ヴァーティカルはディアボロスに。

レゾナンスはストライクEに抑えられている状態だ。

加えて被害を受けたロスアラモス基地からの援護は見込めない。

 

恐らくユリエールは今が勝機と考えたのだろう。

艦を前に出し、モビルスーツで集中的に攻撃を仕掛けようといったところか。

 

「各砲門スタンバイ。それからクラウドダガー隊とコールマン大尉を呼び戻してください」

『了解ッ! ラグエルは墜とさせやしないぜッ!』

「《バリアント》ならびに《ゴッドフリート》起動ッ! 目標、敵艦ッ!」

 

 

しかし逆にラグエルから見れば。

レゾナンスで指揮官機のストライクEを抑え。

ブルーコスモス残党の切り札たるディアボロスは、ヴァーティカル単機で抑えているのだ。

であるならば質で勝るこちらに分がある。

 

とはいえ。

ヴァーティカルとディアボロスの間にある均衡は、あまりにも脆い。

なにかを切っ掛けとして天秤が一気に傾こうともおかしくはないだろう。

仮にディアボロスがヴァーティカルを突破した場合、勝機は間違いなく潰える。

 

「ヴァーティカルのバッテリー残量も気になりますね。長期戦は避けたいところです」

 

ソフィアは手元のモニタでヴァーティカルの状況をモニタリングしながら声を上げる。

確かに核動力のディアボロスに対し、ヴァーティカルの稼働時間は有限。

推進剤やパイロットのスタミナといった要因もあるにせよ、ブルーコスモス残党が狙うならこの点であり、仕掛けた理由はそうなのだろう。

 

 

 

 

 

 

ディアボロスのコクピットで、ネリー・ハーシェルは震える手で操縦桿を握る。

震える手のままレンリと刃を交えているが、普段と比べて明らかに精彩を欠いているのが自分でも分かってしまう。

レンリとの再会は、ネリーが思っている以上に酷く心を乱し、狼狽えていた。

 

「レンリ……なぜ、あなたが……よりによってッ!」

 

DSSDを去ったレンリが、よりによってコンパスに身を置いていて、あまつさえ自分の前に立ちはだかるなど。

ネリーの黒髪が汗で乱れ、瞳には動揺が宿る。

レンリの夢を奪ってしまったコーディネイターとしての自分の否定。

その果てにブルーコスモスの思想へと救いを求めてしまった。

 

だが戦場で親友と刃を交える事は、彼女の想像を遥かに超えた苦しみだった。

 

『何をしているのです? 敵の新型を排除しなさい。その為のディアボロスであり、その為の貴女なのですよ』

 

通信越しに聞こえるユリエールの声は丁寧ではあるが、明らかに苛立ちの色が混じっていた。

コーディネイターでありながらもブルーコスモスとしてのネリーを肯定したユリエール。

自身が果たすべき務めは分かっている。しかし。

 

『いいですかネリー。落ち着いてください。あの新型は破壊ではなく鹵獲するのです……パイロット共々ね』

 

若い男の静かな声が、続けて通信越しに聞こえてきた。

声の主は、ユリエールの参謀を務めるフェリクスという男のものだった。

その声は。その言葉は。

ネリーの心奥にある戸惑いと動揺を覗くように、見透かすように響く。

 

『お友達だそうですね。そんな彼女を戦場に出して戦わせるとは、コンパスとやらも実に惨い事をするものです』

 

謳うように。

泣きじゃくる子供をあやすように。

フェリクスは言葉を続ける。

その言葉は、ネリーに僅かながらも落ち着きを取り戻させた。

 

「レンリを……助けなきゃ……ッ!」

 

マルチロックオンシステムが立ち上がり、ヴァーティカルの四肢を次々と捉えていく。

放たれたフルバーストはヴァーティカルに襲い掛かるが、すんでのところで回避される。

空を飛ぶ鳥のように急加速と旋回を行う姿に、かつてのスターリンカーが重なる。

 

「やっぱり、私なんかよりも……」

 

動きが僅かに鈍ったディアボロスが振るう《ニーズヘグ改》の光刃は、機体を滑らせるように避けられる。

カウンターで抜き放たれたビームブーメランを、《ニーズヘグ改》の柄を回転させることで弾く。

レンリを傷つけたくない。

その想いが、ネリーの動きを僅かに鈍らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「化け物の分際で、人と同じように想い悩むか」

 

ブルーコスモスがフリアエと名付けた艦のメインブリッジにて。

明らかに精彩を欠くネリーに対し、ユリエールは通信をオフにして嗤う。

ヴァーティカルと交戦するディアボロスを眺めるその双眸は冷たく、そして嘲りが浮かんでいた。

 

「しかしまあ。人の心というのも存外馬鹿にできないものですよ。ユリエール様」

 

ユリエールの隣に立つフェリクスは静かに、笑みを崩さぬまま言葉を紡ぐ。

彼もまたネリーを見ていたが、その目は全く笑っていなかった。

 

「また何か良からぬ事を考えているな」

 

参謀であるフェリクスの笑みに何かを感じ取ったのか、ユリエールは彼へと視線を移す。

正規軍を追われてからフェリクスと知り合い、有能であったが故に参謀として取り立てた。

確かにロゴス親族だと称するだけあり、地下での活動を強いられた自分達の大きな助けとなった。

ユリエール自身のコネクションもあるが、フェリクスの助力がなければこの艦も、ディアボロスも手に入らなかっただろう。

 

時折、何を考えているのか分からないように見える時もあるのだが。

ある意味でユリエールとは『同類』であるが故に、なんとなくは分かる。

 

「ええ。撤退しましょう」

「ほう?」

 

フェリクスは手元のタブレットを操作し、フリアエのディスプレイに地図が映し出される。

現在地を示していた光点が移動し、ある場所に辿り着いた。

その意図を察したユリエールは満足げに頷く。

 

「ここで「仕込み」を使うのか」

「ええ。ここで使うしかないとも言いますが。連中は中々にやるようです」

 

またラグエルとそのモビルスーツ隊の動きは、こちらの予想以上だった。

大した損害も出さぬまま、ダガーやウィンダムを次々と墜としていく。

ディスプレイに目を向ければ、ラグエルから放たれたゴッドフリートの火線がダガーを捕らえ、爆散させた。

 

新型の量産機も巧みな連携で隙を見せない。

機体性能はもとよりパイロットの腕前もあるのだろう。

ユリエールから見ればコンパスなどという正義ごっこは反吐が出るが、伊達や酔狂ではないという事か。

 

加えて、戦闘を長引かせるとコンパスのラグエルだけでなく、増援の可能性もあった。

増援となれば大西洋連邦の正規軍が可能性として高いだろう。

正規軍だけならまだいいが、コンパスから万が一に『浮沈艦』や『フリーダム』が出張ってくるとなると目にも当てられない。

尤もコンパスとしてのラグエルの存在意義を考えれば、その可能性は低いのだがゼロではない。

 

「目障りなものだな。ハルバートンの娘と第八艦隊の死に損ない共は」

「ですので。正義の味方には。然るべき舞台でご退場願いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

不意に、ブルーコスモス残党が撤退を開始した。

それはヴァーティカルと交戦していたディアボロスも同様であった。

突如、踵を返してスチールブルーの戦艦へと帰投していく。

 

「ネリー……」

 

これ以上戦わなくて済んだ。

状況はどう転ぶか未だ分からないが、その事実にレンリは安堵する。

ヴァーティカルはラグエルの上空で静止し、レンリは茫然とディアボロスを見送った。

 

『皆様。これより本艦はブルーコスモス所属艦「レムナント・ワン」の追撃を行います。ひとまずは帰投してください』

 

ラグエルに、厳密に言えば大元となったアークエンジェルに似ている正体不明の戦艦。

どうやら識別の為、そのように呼称する事となったらしい。

追撃……という事は、いずれまた相まみえる事となるだろう。

 

――コーディネイターの私が……あなたの夢を壊したからよ……ッ!

 

ヴァーティカルをラグエルに着艦させながらも、レンリの意識は彼方のネリーへと向けられていた。

今でもネリーが苦しみながら吐き出した言葉が忘れられず、頭の中で反芻される。

 

ネリーにあんな事を言わせてしまった。

結果的にブルーコスモスへと追いやってしまった。

それは……私の、せいだ。

 

「私が……私があの時、逃げ出さなければ……ッ!」




(ストックが続く限り)毎週月・水に投稿を予定しています。

閲覧、ブックマーク等ありがとうございます。
感想等頂けましたら励みになります。何卒よろしくお願いします。

なるべく設定は本編中で随時開示していきますが、機会がなさそうな設定はあとがき等で開示できればなと考えています。
三馬鹿ガンダムよくばりセットことディアボロスは、新約SDガンダム外伝に登場したものが元ネタになりますね。
大元のコンセプトは昔にふんわりとn番煎じなレベルで考えていたところにお出しされましたから、折角なので……といった具合です。
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