カルフォルニア基地は、黒煙と爆炎に包まれていた。
フリアエは支配者であるかのように堂々と上空に鎮座し、モビルスーツ隊を発進させる。
先陣を切るのはストライクE、そしてディアボロスとウィンダムや105ダガーが続く。
基地の防衛システムはもはや正常に機能せず、裏切り者のウィンダムと105ダガーが戸惑う元友軍を躊躇う事無く撃つ。
加えて大型モビルアーマーのザムザザーも裏切り者の手に落ち、超振動クロ―がウィンダムの胴体を捕らえて砕く。
事態を収拾すべき基地司令は沈黙し応答がなく、混乱と戦禍は無秩序に伝播し拡大する。
「ふ……大統領閣下は随分と嫌われているようですね」
含むようなフェリクスの言葉に対し、眼前の惨状を引き起こした張本人でもあるユリエールは酷薄な笑みを浮かべる。
コーディネイターとの融和政策を掲げたフォスター大統領ではあるが、その政策に不満を持つ者も少なくはない。
なればこそ入念に『下準備』を行った甲斐があり、またそれが罷り通る下地があるのだ。
「コーディネイターなどという化け物と分かり合おうなどとは幻想なのだよ」
フォスターが称する今の平和など、所詮はオーブやプラントの都合で頭を押さえつけられた偽りの平和でしかないのだ。
そのフォスターにしても、プラントやオーブを完全に信用していないのが何よりの証拠と言える。
故にコンパス設立の際、自前の戦力としてラグエルを用意させたのだろう。
「ユリエール様、総員に指示を。くれぐれも『敵』を間違えないようにと」
間違えたら……その時はその時です、とフェリクスは口角を吊り上げる。
頷いたユリエールが攻撃支持を出し、フリアエの各種兵装も基地へと向けられる。
その時、オペレーターの一人がラグエルの接近を告げた。
「正義の味方もご苦労な事だ。だがこの状況を捨て置けまい」
「ええ。正義の味方であるが故に、彼らはここで潰えるのです」
ディアボロスより放たれたフルバーストが、基地のウィンダムやダガーを次々と巻き込む。
続けて《ニーズヘグ改》を振りかぶり、ダガーLを掲げたシールドごと薙ぎ払う。
自らに向けられたビームはウイングスラスター兼エネルギー偏向装甲により逸らされる。
「こんな、酷い事……ッ!」
ネリーは戦いながらもディアボロスのコクピットで懊悩する。
ブルーコスモスとして戦うのは構わない。
その為に自分はここにいるのだから。
しかし、味方を諸共に巻き込むような戦い方に嫌悪感を覚えずにはいられない。
……それに従うしかない自分に対しても。
「退いて……ッ!」
ライアンのストライクEへと意識を向けると、やはりその動きには躊躇いの色が混ざっていた。
――命令だ。俺達は従うしかない。
出撃前に、半ば自分にも言い聞かせるように語ったライアンの言葉を思い出す。
その顔には、ネリーから見て分かるほどの苦悩が見て取れた。
『ラグエルのお出ましだ。丁重に相手をしてやれ』
通信越しにユリエールの言葉が響くと同時に、ディアボロスは上を向く。
瞬く間に迫り来るのは青い翼の機体。
レンリのヴァーティカルだ。
口吻部の《ツォーン》を連射するが捉えられず、ヴァーティカルは急速に距離を詰めてくる。
「レンリ……ッ!」
勢いのままに振り下ろされたヴァーティカルの対艦刀を、大鎌で受け止めるディアボロス。
一瞬斬り結ぶもヴァーティカルは刃を逸らし背後を取ろうとする。
リフターに備えられている《フレスベルグ》の曲射で阻み、その隙に向き直る。
『ネリー、やめてッ! ……これ以上、戦わないでッ!』
「おいおい、洒落になんねえぞこりゃあよッ!」
バイアネットを駆るジェサイアは、ウィンダムから放たれたビームライフルを間一髪で避けながら悪態をついた。
そのウィンダムを目で捉えながら迫りビームサーベルを一閃し、撃墜する。
次の瞬間、別のダガーLが斬り掛かってくるのを受け止め、光刃が火花を散らす。
「正規軍とブルーコスモスがごっちゃになって訳が分からねえッ!」
今の状況をややこしくしているのは、裏切り者の識別信号だ。
造反の際に正規軍そのままの識別信号を用いている為、レーダー上では正規軍と区別がつかない。
味方に見えた敵が攻撃を加えてくるのはまだマシな方である。
「……間違って正規軍撃ったら怒るよなあ。大統領閣下は」
『怒って済むのなら構わん。間違いなく首が飛ぶだろう。物理的にな』
エリアスも現状に歯噛みしているのは通信越しでも伝わった。
一応、状況にもよるがコンパスは正規軍相手でも攻撃を仕掛けられる。
しかしコンパスが正規軍を攻撃したともあれば、コンパスへの非難は避けられない。
加えて、コンパスを推進しているフォスター大統領にも矛先が向けられるだろう。
『ユリエールの事ですから。そこまで考えて、この状況を作り出したのでしょうね』
正規軍の頃からサイクロプスや核兵器を持ち出してきたりと、ブル―コスモスは大概であったが。
テロリスト扱いとなってからは手段の選ばなさに拍車が掛かってきている。
今ラグエルで運用している機体は全て新型で揃えているからいいものの。
未だダガーやウィンダムを運用していれば、恐らくは偽旗作戦も躊躇わなかっただろう。
「あんのクソババアッ! どこまでもふざけてやがってッ!」
ラグエルには誤射が許されず、一方ブルーコスモスは裏切り者を巻き込んでも構わない。
ディアボロスやストライクEといった所属が明らかな機体ならまだしも。
ウィンダムやダガーは正規軍も、ブルーコスモスも運用しているのだ。
識別信号が当てにならないという状況も加味すると、ラグエル側には極めて不利である。
『攻撃を仕掛けてくる機体はクロだ。まだなんとかなる』
「簡単に言ってくれるぜ、隊長さんよ」
ルークのレゾナンスは攻撃を仕掛けてきたダガーへ冷静に反撃。
ビームサーベルでダガーの頭部を刎ね飛ばし、続けてビームカービンを持つ腕を斬り捨てる。
事もなさげに対処しているように見えるが、防ぐにせよ避けるにせよ、敵機の先手を許さなければならない。
ラグエルのパイロットには腕利きが揃ってこそいるが、それでも決して小さくない負担を強いられ続けている。
『各機、ぼやくのもそこまでにしろ。デカブツのお出ましだ』
突如、高出力ビーム砲の奔流が戦場を薙ぎ払う。
ビームが放たれた方角へを目を向けると、甲殻類を思わせるモビルアーマー……ザムザザーが我が物顔で滞空していた。
ブルーコスモス残党が保有していたとは考えづらく、基地の裏切り者が起動させたのだろう。
ジェサイアは試しにビームライフルをザムザザーに向けて撃つが、光り輝く障壁……陽電子リフレクターを前に阻まれる。
「やっぱ通じねえか。ああいうのは嬢ちゃんのヴァーティカルなら楽勝なんだがな」
ザムザザーのような大型モビルアーマーに共通して搭載されている陽電子リフレクター。
実弾・ビーム問わず防ぐ鉄壁の防御と高出力の各種兵装により、並のモビルスーツでの対処を困難としている。
高機動で敵の攻撃を掻い潜りながらの近接戦闘が最適解ではあるものの。
パイロットの技量と、それを可能にする機体を簡単に揃えられれば苦労はしない。
前にデストロイが出てきた時は、他の機体で気を逸らしつつヴァーティカルが切り込んだ。
十重二十重の砲撃を掻い潜りながら対艦刀を振るう様は凄まじいと感じたものだ。
しかし今、ヴァーティカルはディアボロスの対処に追われている。
……であるならば。
『クラウドダガー隊はライオットに換装しろ。アレを使う』
混沌が渦巻く戦場の中心で、ヴァーティカルとディアボロスは刃を交えていた。
ヴァーティカルが振るう対艦刀を、ディアボロスは《ニーズヘグ改》で受け止め、両機のスラスターが大きく唸る。
『ネリー……なんで、コーディネイターのあなたがブルーコスモスなんかに……ッ!』
――貴女はそんな人じゃないでしょうッ!
通信越しのレンリの叫びが、ネリーの心を抉る。
コーディネイター排斥を掲げるブルーコスモスに身を投じた事で、周囲より幾度となく投げかけられた問いではあったが。
これまでの誰よりも、その問いは深く届き、ディアボロスの動きを鈍らせる。
「……コーディネイターの存在こそ自然の摂理に反してるッ! 間違ってるッ! あってはいけない存在なのよッ!」
コクピットで俯くネリーの慟哭と共に、ディアボロスの胸部より《スキュラ》が放たれる。
至近距離で放たれた砲撃を、ヴァーティカルは機体を捻って回避。
続けて放った《フレスベルグ》と《シュラーク》に《エクツァーン》が四肢を狙うも、いずれもヴァーティカルを捕らえることなく虚空を薙ぐ。
『そんなのはブルーコスモスの主張でしょうッ! ネリーは、あなた自身はどう考えてるの……ッ!』
ビームブーメラン《マイダスメッサーF3》が二振り、時間差を置いて弧を描きながら迫る。
狙いは恐らく武装と腕部だろうと判断したネリーは大鎌を旋回させて弾く。
続けて放たれたピアサーロック《レーディング》に、破砕球《ミョルニル》を真っ向から打ち出して衝突させる。
「……私は……私はッ!!」
ディアボロスのマルチロックオンシステムを立ち上げ、ヴァーティカルの機体各所を次々とロックオンしていく。
頭部に両腕部、脚部にウイングスラスターなどに狙いを定めるが、ネリーもまたコクピットを狙う事を躊躇う。
「私が……あなたの夢を壊したッ! 摘み取ったッ! 踏み躙ったッ!」
フルバーストが放たれるが、明らかに躊躇の色が混ざるそれはヴァーティカルを捕らえられない。
直撃したのは対ビームコーティングシールドぐらいで、砲撃こそ受けきったもののシールド表面は既に溶解している。
フルバーストを避けきった挙動。ヴァーティカルが背負う青い翼。
その翼に光こそ宿っていないものの、まるでスターリンカーを思わせる。
……ネリーが憧れ、ついに届かなかった翼に。
「おかしいと思わないのッ!? あなたよりも……あなたよりも努力もしていないコーディネイターの私が……ッ!」
『……それは、それは違うよッ!』
スターリンカーのパイロット選出においては、様々な要因を考慮して行われたと聞いている。
総合的なスコアはネリーこそ上だったが、機体の操縦についてはレンリが上回っていた。
ファーストコーディネイターであるジョージ・グレンが銀メダルだったように。
そしてそれは決して『天才』の一言で片づけていいものではなく。
ひたすら重ねてきた研鑽が結実したことをネリーはよく知っている。
……だから自分自身が許せないのだ。
そんな自分がレンリを傷つけ、夢を閉ざしてしまったという事実を。
『それはネリーの所為じゃないッ! 夢を託せずに逃げ出した……私の所為ッ!』
ネリーの言葉に動揺したのか、一瞬ヴァーティカルの動きが鈍る。
その隙を突いて裏切り者のウィンダムが好機とばかりにビームライフルを向けた。
「駄目ッ!」
ネリーは叫ぶも、ヴァーティカルはスラスターを全開にして辛うじて回避。
打ち出したワイヤーアンカーを併用した急速な方向転換の後、手にしたビームガンを連射しウィンダムを沈黙させる。
思わず胸を撫で下ろしたネリーだったが、今度は自身が正規軍と思われる105ダガーに狙われる。
一瞬見せてしまった隙を逃さないとばかりに他の機体もディアボロスへと攻撃を仕掛けてきた。
「邪魔を……しないでッ!」
マルチロックオンシステムが立ち上がり、正規軍と思われるダガーやウィンダムを次々と捉える。
放たれたフルバーストは彼らを容易く吹き飛ばすが、戦場の混沌は更に拡大していく。
いつしか、レンリのヴァーティカルとも離されていた。
「……中々にしぶといな」
想定以上の健闘を見せるラグエルに対し、僅かに苛立ちを含ませながらもユリエールは呟く。
大きな損耗もなく、極めて不利な状況でも戦いを続けている、
「ええ。ですが時間の問題でしょう。機体がいくら新型といえども動かすのは人間です」
基地の識別信号が当てにならない以上、どうしても反撃主体の戦法を取らざるを得ない。
裏切り者諸共巻き込んでも構わないブルーコスモスと異なり、高い集中力を要する戦闘行動はいつまでも続かないだろう。
かのオーブ解放作戦の折にも、地球連合軍の一時撤退に対し核動力を持つフリーダムとジャスティスは追撃できなかった。
こちらで討ち取れれば言う事はないのだが、もしコンパスが正規軍を誤射したならばフォスター大統領への追及は必至となる。
勿論、ラグエルもそれを十分に承知しているからこそ積極的な攻勢に出られない。
加えて、基地の裏切り者はザムザザーまで持ち出してくれた。
鉄壁の陽電子リフレクターで鎧われた巨体には、そう簡単に有効打を与えられないだろう。
デストロイがあればよかったのだが、あれは専用の『部品』が必要となる。
幾らユリエールやフェリクスでも調達が難しく、また使いどころが肝心だ。
「それに、ミレニアムとアークエンジェルはミケール大佐が抑えています」
ある意味ではラグエル以上に厄介な戦力であるコンパスのミレニアムとアークエンジェル。
それらは現在、同志のミケール大佐が動かした部隊の対処に追われている。
余計な横槍が入る心配はないと言っていいだろう。
仮に正規軍が増援を寄こすにしても同じ機体を使っている以上、対処は容易ではない筈だ。
「まあ……仕込みを使ってしまったのは痛いが、ここでラグエルを葬れば問題はない」
その時、フリアエのオペレーターが叫ぶ。
「上空より熱源反応ッ! モビルスーツです……これは、新型ッ!?」
閲覧、ブックマーク等ありがとうございます。
感想等頂けましたら励みになります。何卒よろしくお願いします。
盟主ロード・ジブリール氏も生粋のブルーコスモスと推薦するトロワ・バートンをよろしくお願いします(早口