機動戦士ガンダムSEED VERTICAL   作:まりなーら

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気になるゲームの情報が影も形も見当たりませんが初投稿です。


PHASE-03 深紅の空を焦がして(3)

『ブルーコスモスへの内通者が、これほどにまで根を張っていたとは……ね』

 

ラグエル艦橋のディスプレイに映るフォスター大統領の顔は、苦悩に満ちていた。

カルフォルニア基地におけるブルーコスモス内通者の反乱。

タイミングから考えて、以前から計画されていたと考えるのが妥当だろう。

 

『私の政策が分断を招いているというのか。ユーラシア連邦の二の舞にはしたくないが……』

 

二度の大戦を経て、世論が厭戦へと傾いてもなお徹底抗戦を叫びブルーコスモスへと身を投じる者が後を絶たない。

それだけ喪ったモノが大きく、傷を癒すには長い時間が必要だ。

プラントとの融和など綺麗事だと謗るのも無理はないとは理解できる。

連合とオーブ、プラントによるコンパス設立も聊か性急であるのは自覚していた。

 

「ディアボロスの奪取にカルフォルニアでの反乱。明らかに流れが傾いています。我々の力が及ばなかったばかりに……」

 

今までの小規模な武装テロ程度であれば、ラグエルだけでも十分に鎮圧できた。

否、小規模で済んでいたのは入念な下準備にリソースを割いていたからこそだろうか。

ここにきて大西洋連邦領内におけるブルーコスモスの脅威は格段に増している。

艦を預かり、部隊を任された者として、この惨状を止められなかったシエラの表情は重い。

 

『ならさ。いっそミレニアムのヤマト隊にでも来てもらうかい? 例の准将殿なら全て吹き飛ばしてくれるだろうさ』

 

ディスプレイに映るディーンの何気ない提案にフォスターは顔を顰める。

それができるのならとっくにやっている、とでも言わんばかりに。

例の准将殿をはじめとして部隊全体としての実力も折り紙付きではあるが、ミレニアムはザフトより供与された戦力である。

フリーダムやジャスティスならまだしも、ザフトの一つ目のモビルスーツが『治安維持』の名目で活動などしていれば、市民感情は限りなく最悪に近くなる。

 

「……ミレニアムならびにアークエンジェルは、近日ファウンデーション王国との合同作戦を控えています」

『結局のところ。手持ちのカードだけで対処するしかないか』

 

あちらもあちらで、ブル―コスモス残党を率いているミケール大佐の逮捕が掛かっている。

現状でラグエル側に戦力を回す余裕はないだろう。

とはいえ首魁のミケール大佐を逮捕さえできれば、勢いは大きく削がれるのは間違いない。

 

『それにさ。あれだけ派手に暴れたんだ。連中も暫くは大人しくするしかないでしょ?』

 

ディアボロスの奪取にせよカルフォルニア基地での反乱にせよ、入念な下準備があってこそだ。

そう何度も行えるようなモノではない。

軍内部の内通者にしても此度の一件で監視の目を強める以上、下手には動けないだろう。

 

『……だといいのですがね』

 

後手に回らざるを得ない状況にフォスターは懊悩するが、レムナント・ワンも行方を眩ませた以上、直接の追撃は不可能。

であるならば今、最前の問題を片付けていくしかない。

カルフォルニア基地の復旧と遺族への補償、政府内部に潜むブルーコスモス内通者の炙り出し。

為すべき事は星の数ほどあり眩暈を覚えるが、それを為すのも大統領としての責務だ。

 

『状況は未だ予断を許さないがラグエルの諸君にも休息は必要だ。次の事態に備えて羽を休めてほしい』

「お心遣いに感謝いたします、大統領閣下」

 

シエラはディスプレイ越しにフォスターへと一礼する。

確かにカルフォルニア基地の反乱において、ラグエルからは一人の犠牲も出さずに乗り切れたのは僥倖とも言える。

それでもパイロットをはじめ各員の負担は決して軽視できない。

特に……親友と相まみえる事になったレンリの事も気掛かりだ。

 

『ああそうだ。新型の開発は順調に進んでいるよ』

 

ディーンが手元のタブレットを操作すると、ディスプレイに複数の資料が映し出される。

いずれの資料にもモビルスーツに、各種のデータの羅列が供えられていた。

 

「これは……」

『X110とX112の進捗は80%といったところかな。グライフは85%……今のところ問題はないさ』

 

いずれも最終調整が済めば引き渡しができるだろう、とディーンは続ける。

現在ウィーグリーズにて開発を進めているコンパス向けの新型機。

いずれも既にロールアウトしているクラウドダガーやバイアネットのような量産機ではない。

ヴァーティカルやレゾナンスと同様の、ワンオフの機体となる。

加えて、既存の機体でも扱える新装備の開発も同時に進行している。

 

『例のプランは進捗15%ぐらいだけど、改修用のパーツがメインだから思ったよりも時間は掛からないだろうね』

「分かりました。引き続きお願いします。アズラエルCEO」

 

頷いたシエラは再び視線をディスプレイの資料へと向ける。

今後の状況に対応していく為にはラグエル自身の戦力拡充も必要となる。

新型2機と新装備が揃えば、より困難な脅威を前にしても対抗できるだろう。

 

『ハルバートン特務少佐……君達には重荷を背負わせる事になるが、どうか頼む』

 

沈痛なお面持ちでフォスターがシエラへと頭を下げる。

かつてフォスターが連邦議会の上院議員だった頃、ハルバートン提督が『G計画』を軍上層部に提案したが却下された。

プラントに対抗する為のモビルスーツ開発は必要と考えたフォスターは、他の議員からも賛同者を募り水面下で『G計画』を支持した。

ザフトの猿真似と誹りを受けようが、そのような提案ができる存在は必要だった。

低軌道会戦で戦死したと聞いた時は、惜しい男を亡くしたものだと嘆いたものだが。

 

あれから時は経ち、娘のシエラは軍へと身を投じ、今ではラグエルを預かる艦長として……指揮官としてここにいる。

ジリアンの隣にいたとはいえ未だ経験は浅いのだが、他の皆が支えてくれている。

シエラ自身は父の遺志を継いだわけではないとは口にしていたが、それでも志を共にしてコンパスへ身を置いている。

だからこそ……今度こそ、彼女達の為に尽力しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようお前ら、久しぶりだなあッ!」

 

フォスター大統領らとの通信が終わり暫くの後、パイロット達がブリッジに姿を見せた。

その先頭にいたのはケイトをはじめとする第八艦隊のパイロット達だ。

その後ろにルークやジェサイア達が続き、レンリも彼らに続く。

 

「お久しぶりですねハーディン大尉。先程は素晴らしい活躍でした」

「よしてくれよシエラ。ケイトでいいって。あたしらの仲だろ?」

 

微笑むシエラにケイトは勢いよく抱きつき抱擁を交わした。

コンパスに出向してこそいるが、元々シエラ達は第八艦隊に所属している。

出向後、こうして顔を合わせるのは初めてだろうか。

 

「ハーディン大尉、相変わらず貴様は馴れ馴れしいな」

「そういうエリーも堅物なのは変わらねえな。逆に安心したぜ」

 

エリアスは相も変わらないといった様子のケイトに咎めるような視線を向けるが、当のケイトはどこ吹く風だ。

そういえば元々相性はよくなかったなとルークは第八艦隊にいた頃を思い出す。

ルークもまた違う意味でエリアス同様に堅物だとよく言われたが、この時ばかりは珍しく表情が僅かに緩む。

 

「単機で低軌道上まで帰れねえからさ、あたしらもしばらくはコンパスだ。よろしくなッ!」

「話は聞いてるぜ。ようこそコンパスへ」

 

そう言ってジェサイアが差し出した右手をケイトは取って握り返す。

ヴァーティカルぐらいなら単機で大気圏離脱はできるだろうが、クラウドダガーは専用のブースターを要する。

そう気軽に使えるシロモノでもなく、かといってマスドライバーのあるオーブやパナマまでは距離がある。

ならばとジリアンはケイト達を増援として派遣する際、同時にコンパスへの出向手続きを済ませていた。

帰還の問題もあるのだが、ディアボロスという脅威に対抗する為には少しでも戦力が必要だ。

 

「しかしいいのか? 第八艦隊でもクラウドダガーは貴重だろう」

「あのおばちゃんからは『こっちの事は気にするな』って言われてる。クチバシの黄色いヒヨッコ共が変な気を回すなってさ」

 

ジリアンの真似をしながらケイトが不敵な笑みを浮かべる。

それにクラウドダガーなら追加で配備されたと続け、納得したようにルークは頷いた。

新型機のバイアネットやクラウドダガーは第八艦隊にも優先的に配備されていると聞くが、それなら大丈夫だろう。

パイロットにしても旧第八艦隊や、第七艦隊からジリアンと共についてきた腕利きは少なくない筈だ。

 

「そんな訳でよろしく頼むぜ隊長さん。いや特務少佐殿とお呼びすべきかな?」

「持ち上げても何も出さんぞ……ともあれ歓迎しよう。これから存分に働いてもらうがな」

 

なんにせよ、付き合いが浅くないパイロットが加わるのであれば心強い。

互いに勝手を知っているので連携なども支障なく行えるだろう。

そこまで考えて、シエラはレンリへと意識を向ける。

ケイトのあの性格なら打ち解けるのも難しくはないだろうが、今気掛かりなのはその事ではなかった。

 

「……アマサキ少尉、ネリーさんとはお話しできましたか?」

 

シエラの問いに、パイロット達はレンリへと視線を向ける。

レンリもその事を訊かれるだろうと考えていたのか、以前に比べて戸惑いは見られない。

小さな拳はぎゅっと握られたまま震えてはいるが、シエラへと真っすぐ顔を向ける。

 

「少し話せました。けど戦況がそれどころじゃなくなって、そのまま……」

 

第八艦隊からの増援が到着して、レムナント・ワンと共にディアボロスは撤退していった。

あの背中を追いかけるべきだったのだろうかと今になってレンリは思い悩む。

少なくとも、ネリーはあの惨状を望んで引き起こした訳ではないだろうとは分かる。

 

「『あなたよりも努力もしていないコーディネイターの私が……』ネリーは、こうも言っていました……」

 

絞り出すように言紡がれたネリーの慟哭が今でも蘇る。

コーディネイターであること、レンリの夢を知りながらもスターリンカーのパイロットの座を射止めたこと。

それらについて自分を責め続けた果てに、ブル―コスモスの思想へ辿り着き、そこに救いを求めてしまったのだろう。

 

「そいつはまた……」

 

話の流れで凡その事情を察したケイトは痛ましげに顔を背ける。

一同もまた重く黙したまま天を仰ぐ。

コーディネイターである自分自身の否定から、コーディネイター排斥を掲げるブルーコスモスへのへと身を投じる事になった。

そこに至るまでにどれ程の苦悩があったことか、並大抵の自己否定で為せるような事ではない。

 

「ネリーは、あんな事を……あんな酷い事を望んで行ってるようには、私には思えません」

 

相手がコーディネイターだからではなく、大西洋連邦のナチュラルだからかもしれない。

しかし眼前の非道に対してナチュラルやコーディネイター以前に、人として忌諱感を覚えていたように見えた。

まるでブルーコスモスとして戦う事が、ある種の贖罪であるかのようにも感じた。

 

「だから私は、ネリーを止めます。それは……あの時逃げ出した、私がやらなきゃいけないんです……」

 

拳を硬く握りしめたまま、レンリは決意を口にする。

もしネリーが心からコーディネイターを滅ぼすべきと考えているのなら、それは否定しない。

そこまで追い込んでしまった自分にも原因があるのならば、責任をもってネリーを止めなければならない。

コンパスとしてではあるが、親友として……たとえ命を奪う事になっても。

 

しかし、動機が罪悪感によるものであるのならば。

未だ迷いがあるのならば。

これ以上非道に手を貸させはしない。

手を取って、ネリーがいるべき場所へと連れ戻す。

それがコンパスなのかDSSDなのかは分からないが、少なくともブルーコスモスではない。

 

「ま……コーディネイターの私だからこそ、じゃないけどさ」

 

不意に声を上げたソフィアに一同は顔を向ける。

思わず零してしまった言葉を飲み込むわけにもいかず、ソフィアは嘆息しつつも言葉を続けた。

 

「なんでも出来てしまうが故に、自分の所為だって思い込んでしまうのかしらね。コーディネイターってのは」

 

だから自分達を新人類だとか思い上がるパトリック・ザラのような連中がプラントで蔓延る。

そこまで全知全能たるナントカじゃないのよ……とまで零して締めくくった。

それはコーディネイターでありながらプラントに身を置かない自身の経験からなのだろうか。

少し寂しげなソフィアの表情と、その真意を窺い知ることはできない。

 

「そうですね……」

「ああ……」

 

ソフィアの言葉にシエラとルークは、一人の少年を思い浮かべる。

コーディネイターでありながら、友達を守る為にと地球連合に身を投じて、同胞である筈のコーディネイターと戦い。

そして今、コンパスにおいて准将として戦い続けている少年を。

コンパス設立後、最後に姿を見たのはいつだったのだろうか。

 

相も変わらず、彼は何もかもを背負って戦っているのだろう。

戦う理由はそれぞれ違うとはいえども。

その彼と、ネリーとが不意に重なって見えた。

 

「『意思のない者に、何事もやり抜くことはできない』……かつてハルバートン提督がよく口にしておられた」

 

今はここにいないルークの恩師ともいうべきハルバートン提督。

かつて第八艦隊に身を置いていた者が多いラグエルにおいて、その言葉は今も皆の心に深く刻まれている。

シエラは直接父から聞くことはなかったが、そう提督が話していたとは皆からよく聞かされた。

 

「今の少尉なら大丈夫だろう……だが、一人で為そうと思うな」

「……はいッ!」

 

ルークの言葉に、力強い意志と共にレンリは頷いた。

一人で思いつめたが故に、かつての自分はDSSDより逃げ出した。

ネリーは自分を責め続けた結果、ブル―コスモスへと身を投じた。

同じ過ちを、繰り返す訳にはいかない。

 

「やる気があるのは結構だけど……アマサキ少尉」

 

水を差す形になったソフィアは手元のコンソールを操作する。

ブリッジのディスプレイにはヴァーティカルの機影と各種データが映し出される。

その中でも赤く光る関節部に、皆の注目が集まった。

 

「この際だから話しておくけど。今のような戦い方を続けていたらバラバラになるわよ、ヴァーティカルが」

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

禁じられた火を熾すべしと彼らは彷徨う

血を血で贖えと、その叫びは亡霊にも似て

故に切っ先は揺れ、引鉄に掛けた指は震える

 

PHASE-04「極北にて相見える」

 

君の声に振り向き、在りし日を想う

あの日の続きは此処にはなく、されど時も場所も超えて巡り合う

 




閲覧、ブックマーク等ありがとうございます。
感想等頂けましたら励みになります。何卒よろしくお願いします。

どうにか、第一幕は完結となりました。
お付き合い頂いた皆様には感謝しかありません。
この場を借りてお礼を申し上げます。


全体の構成としましては一幕につき三話で、全四幕を予定しています。
そして来週より第二幕「だけど消えない願いが此処にある」が開始します。

転生でもなく原作再構成でもなくと、なかなかにとっつきにくい感がある拙作ですが、どうかよろしくお願いします。
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