TSヤサグレVTuberは輝きたい   作:恋狸

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レッスンと情報と

「あたしは別に熱血タイプなわけじゃねーんだけどな。負けたままは性に合わねぇ」

 

 あたしはゴロゴロとベッドに転がりながら、そんなことを呟いた。VTuber以外のことは省エネで生きていきたい。

 適度に人にマウントを取ってイキリ散らかして、ゲラゲラ笑うのがあたしのモットーのはず。

 

 だがしかし、自信のある"歌"というジャンルにおいて、少なくとも事務所内では二人に負けていることが分かった。

 

 一人は勿論、あたしに絶大な敗北感を与えたクロエ・フィルメリアという歌唱レッスンの講師。

 

 もう一人は【ばーちかる】の一期生──、

 

 ──七色(なないろ)光《ひかり》。

 

 彼女は名前のごとく七色の声を持つライバーだ。

 少年のような声も、妖艶な美女の声も、はたまた元気あふれる少女の声も、どんな声でも出すことができるほど声の才能に満ちている。

 

 そしてそれは"歌"というジャンルにおいても才能が遺憾無く発揮されていて、自在に操る声から発せられる歌声は聴くものを虜にする。

 

 ……あたしが明確に負けている、と認めざるを得ねぇのはこの二人だけだ。

 

「……どうしたら勝てる?」

 

 才能がなんだ。あたしにだって才能はある。

 足りないものはなんだ。努力か? 

 

 いや……ただがむしゃらに努力しただけで結果が手に入るなら誰でも超人だらけだろ。

 

 となると……質の良い練習環境か。

 あたしは歌に関しては基本的に独学だ。転生して元より手に入れた美声と、出せる音域。それに任せて歌ってきた。

 しょーじき、テレビで時より見る歌手の大半よりあたしの方が上手い、と言える程度には才能があると思う。

 

 だからこそ、これ以上上手くなるために必要なのは質の良い練習環境──すなわち、あたしよりも格上の人間だ。

 

「はっ、今まで勉強とかに熱意を持つことなんてできなかったのにな。歌ともなれば別か。……我ながら見上げたプライドだぜ」

 

 人に教わることは屈辱じゃねぇのか、って?

 当たり前だ、屈辱に決まってる。

 

 だからこそ、屈辱に身を悶えながら、いつか超える日を夢見て笑って虫唾を飲んでやるさ。

 

「じゃなきゃ天下なんて夢のまた夢」

 

 あたしは今世において、初めて瞳に熱を灯らせた。

 

☆☆☆

 

「ではここはもう少しこのように歌ってみましょうね〜」

「あ〜♪ ……こんな感じか?」

「そうですそうです〜」

 

 というわけであたしはクロエのレッスンを受けていた。

 彼女の教育方針として、まずはある程度の綺麗な音の出し方、ブレスのタイミングなどの基本的な技術を習得させてから、あたしに一曲通して歌ってもらって……そこから修正していく的なものだった。

 

 今の段階は技術の習得中。

 つまりは、クロエはあたしの歌を通して一回も聴いていない状況にある。

 それすなわち、自身に対する圧倒的な自信。聞くまでもなく自分の方が上手いからレッスンできるということを指している。

 

 あァ……現在進行系で屈辱だぜ……。

 割と間違ってないからもっとムカつくけどな。

 

「レイナさん飲み込み速いですねぇ。通して一曲歌ってもらうのが今から楽しみですよぉ〜」

「まあ、あたしは天才だからな」

「わたくしのほうが上手いですけどねぇ」

 

 クソッ! 格上にはマウントが取れねぇ!(当然)

 コイツ、絶対調子に乗らせてくれねぇんだよな。

 

「わたくし、レイナさんの歌聞いたことないんですよねぇ。噂で上手いほう、というのは聞いてるのですけど」

 

 ……あ? なるほどな。

 前に『上手いほう』と言ったのはそういうことか。聞いたことがなかったからゆえのセリフか。

 はっ、じゃあ度肝抜かせてやるしかねーな。

 

 やれやれ、聴いてからビビられても困るんだけどな。

 ……にしても仮にもレッスンの生徒になるあたしの歌を聴いてみようとはならなかったのかよ。

 

「じゃあその噂は間違ってるな。上手いほう、じゃなくて上手いんだよ」

「ふふふ〜」

「ムカつく顔しやがって……!」

 

 その仕草が妙に似合っていてイライラする。

 根本的にあたしを舐めてるとしか言いようがない感じだし、どうにもあたしのリアル姿を見てから目線がずっと微笑ましいんだよな。何が言いてぇ。

 

「今更ですけど、レイナさんってVアバターとリアルの姿変わりませんよねぇ。作成時に自画像でも送ったんですかぁ?」

「誰がんなことするかァ!! あたしだってぇ! あたしだってなァ!! 二次元の姿はボンキュッボンでいたかったわァ!!」

「んー、キャラ被りするからじゃないですかぁ? ()()()と」

「あれは普段おっとりしてっけどスイッチ入ったら暴言厨になるだけだろ……」

「確かに〜」

 

 クロエがケタケタ笑いながらそう言った。

 何が面白いんだか。

 

 先程も名前を出した七色光という女性は、普段はゲーム配信や雑談配信など……一般的なVTuberと変わらないコンテンツを提供している。

 

 だがしかし、彼女がチャンネル登録者数2()1()1()()()にまで登り詰めた理由は他にある。

 

 まずは圧倒的な歌唱能力と七色の声の才能。

 彼女がひとたび歌を歌えば、虜になるリスナーが大勢いた。歌ってみたは余裕で1000万再生を稼げる程度にはファンがいる。

 

 しかしそれだけでは、まだ足りない。

 

 まずもって七色光の現チャンネルは一度ゼロから作り直したものである。

 

 そうというのも、ヤツは一度垢バンされている。

 ()()()()()()()()として。

 

 なんならチャンネル登録者数100万人を記念する配信途中にBANされるという異次元な記録を残している。

 

 それもそのはず。

 ヤツは一度何らかのタイミングでスイッチが入ると、放送禁止用語を連発しまくる暴言厨と化す。

 スイッチのタイミングはクソみたいなコメントやスパチャが来た時や、ゲームで相手に煽られた時。

 そして、自身の美学に反することがあった時。

 

 鬼のようにキレて暴言厨になる。

 まァ、一度垢バンを食らって学んだのか放送禁止用語を言わない努力はしてるらしいが。暴言は言うけど。

  

 んでもって一番やべぇのは、ゼロからチャンネルを作り直したのにも関わらず、たった一年で元の100万を超える200万人の登録者数を稼いだことだ。

 

 ……あたしに立ち塞がる壁は高い。

 だが、越えねば話にはならない。

 

 そのための今。正しい努力は実を結ぶ。

 

「さてさて、雑談はここらにしてレッスンに戻りましょうかぁ〜」

「何でも来いや」

「威勢だけ良い〜♪」

 

 くそっ!!!

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