数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第10話 準備

 数学の分学会からようやく戻ってこれたイリナは、ヌルベーイ研究室に顔を出そうとした。

 

「ホイター、ちゃんとやれているかしら……?」

 

 研究室の前に到着し、扉の取っ手に手をかける。しかし鍵がかかっているようで、扉は開かなかった。

 

「あれ? ホイターがいない……?」

 

 不審に思ったイリナは、寮にあるホイターの部屋へと向かう。

 扉をノックして、ホイターがいるか確認する。

 

「ホイター? いる?」

 

 イリナがドアを押してみると、扉に鍵はかかっておらず、すんなりと開く。

 そのまま部屋の中を覗いてみると、そこには論文の山に埋もれているホイターの姿があった。

 

「ちょっ、ホイター!?」

 

 イリナは慌ててホイターに駆け寄る。

 

「ホイター! 大丈夫!?」

「……んあ、イリナ……?」

 

 どうやらホイターの意識はあるようだ。

 

「何がどうなったらこうなるのよ……!?」

「ちょっと……、論文を立て続けに読んでたら……」

「心配させないでよー……」

 

 ホイター(の中にいる雨宮)は、ホイターの記憶と論文の読み合わせを駆使して、なんとか考えていたことを思い出すことに成功していた。そしてそれを発見として発表するために実験を行う必要があり、その実験の計画までを練っていた。

 

「……という具合なんだ」

 

 昼食を摂るため、雨宮とイリナは寮の食堂に来ていた。スープに固めのパンを浸し、柔らかくして食べる。

 

「なるほどね……。でも、ホイターがいつもの調子で良かった」

「え? ホイターってこんなことちょくちょくしてたの?」

「そうよ。研究に没頭したり、論文を読みふけっていると、食事とか忘れるタイプだから」

「ふーん……」

 

 なんとなく記憶に心当たりがある。いつも研究か論文漁りをしていて、時折イリナが食事を持ってきてくれた記憶が朧げながら蘇る。

 

「それで、何かヒントは掴めた?」

「そうだね。いくつかの論文で魔法陣の限界について研究している論文があったな。それらを総合してみると、やっぱりシグモイド関数的に上昇するけど、その後急に性能が落ちる現象があるらしい。これを考えるに、性能の上限が存在すると考えたほうが自然だ」

「なるほどね。まずはそれに関する実験をする必要があるってこと?」

「そうなる。まぁこの時代の魔法陣研究は、実験でしか確かめる方法しかないからね」

 

 雨宮たちは食事を終えると、ヌルベーイ研究室に向かう。

 

「さて、実験をするとは言っても、どこから手をつけたものか……。最終的には、ホイター定数を制定する所まで持っていくべきなんだけど……」

「そうね。とにかく、簡略化して実験してみるのがいいと思うわ」

 

 イリナの助言に、雨宮は考える。

 

「そうだね……。まずは円だけの火属性魔法陣を作って、そこから出力を計算する。出力の計算方法は、ヌルベーイ先生がやっていた温度と秒数を乗じたものを使うことにしよう。ホイター定数の考えは、この実験が終わってからにするか」

 

 そういって雨宮は、魔法陣の設計に入る。魔法陣を使用するためには、まず自分自身で紙に図を書き、それを魔術的に体へと取り込むことで使用することが可能だ。また設計図があれば、体に取り込まなくても魔力を流すことで使用することが可能になる。これにより、いろんな人が好きな魔法陣を取り込んで、魔法を行使することができるのだ。

 

「まずは火属性であることを示す文字を記入して……」

 

 全ての基礎である大きな円を書き、その線の内側に沿って文字を記入していく。今回は火属性なので、火に関係する文字を書いていく。それを30枚用意する。

 それが完了すれば、今度は単純な円を書き込む。1枚目は1個。2枚目は2個という具合に増やしていき、30枚目は円が30個になるようにする。

 この時点ですでに日は暮れていた。

 

「今から実験するにしても、時間が遅いし、明日にでもするか……」

 

 イリナのほうも進捗があったようで、キリの良いところで切り上げていた。

 

「そういえば、イリナの研究って何しているの?」

「今は新しい数学体系を構築するための基礎計算を作っているわ」

「なんか難しそうだね」

「今はまだ簡単なほうよ。難しくなるのはこれから」

 

 そんな話をしながら、二人は寮に戻るのだった。

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