数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第12話 執筆

 10日後。季節は夏となっていた。気温は上昇し、だんだんと汗ばむようになってくる。

 コラオル暦1710年6月15日。この日は土曜日であるが、休日とするかは研究者の自由である。雨宮は一刻も早く研究をまとめるために、研究室に赴いて実験を続けていた。

 

「さて、データも集まったことだし、ちょいと整理してみるか」

 

 雨宮は集まったデータをグラフに落とし込む。データのばらつきも存在するが、グラフの形は円陣の数が20個まではシグモイド関数に近くなっている。円陣の数が21個以上になると水温は高い水準を示すが、15個の時と変わりない数値になる。

 このデータから、円陣は20個の時が最も効率も出力も良くなるということが分かるだろう。

 

「同じ3万ホッツでもこれだけ差が出るのは、円という形が優秀という事なんだろうな」

 

 そのような仮説を立てる。本当なら、もっと実験を行ってグラフの形をキレイに整えたい所だが、それは後回しだ。

 

「えーと、まずはこれの論文を書き始めるか……」

 

 そういって数日前まで読んでいた論文を参考に、1ページに収まる程度の概要を書き始める。まずは、この論文の概要を3行程度で簡潔に示す。次に、どうしてこの論文もしくは実験をするに至ったかの説明。そして実験の内容の説明と、それに続いて結果を書く。最後に結論と次回以降の展望を書いて、要旨の完成である。これが論文の第一ステップだ。

 

「さて、ここからが問題だ……」

 

 論文といえば、ボリュームのある本文が特徴的だろう。雨宮は概要から肉付けする形で執筆していく。

 まず要旨にも書いた説明を丁寧に文字数を増やす形で書いていく。

 

「さて、どういう風に書いていったらいいものか……」

 

 要旨には、「魔法陣は円や図形を増やすことで効率を図ることができるが、その根拠となる数字がなかったから実験を行った」と書いた。

 

「ここからどのように肉付けを行っていこうかねぇ……」

 

 そんなことをブツクサと言いながら、筆を進める。いい感じにふんわりした作文なら雨宮は複数書いてきた。この作業には慣れている。

 こうして4行に渡る概要を書いた。しかし、それでも納得はしていない。

 

「もうちょっと増やすか……」

 

 こうして1時間ほどかけて、7行もの概要文を書いた。

 そうすれば次は、実験の内容を詳細に書く。使った魔法陣の種類、比較対象である円陣の大きさと個数、設定した魔法陣の出力量等々……。

 これらを書いた後に、実際行った実験の結果を分かりやすく表と数値にまとめる。もちろんどちらも手書きで書くという、非常に非効率的かつ面倒なやり方をやるしかなかった。この時代に便利な方眼紙やらコンピュータが存在するわけではない。全部手書きである。

 こうして分かりやすくまとめた結果から、推定される結論を詳しく書いていく。今回の場合、グラフの推移は20個まではシグモイド関数的に増加し、その後は緩やかに降下していくような形になる。この結果から、今回の単純な図形では20個が効率的な上限と言えることが示される。

 そして今後の展望として、円陣以外の図形である五芒星や多角形を用いた際はどうなるのかを研究する必要があることを記述する。

 

「できた……」

 

 こうして、原著論文の下書き( ・・・)が完成した。ここから公開用の、冊子にまとめた論文の予稿を書くのだ。この予稿は、学会に提出されると数人の学者によって査読が行われる。そこから質問やら付け足すべき実験などの改訂指示を受けて、論文を書き直し、再び査読に回す。

 そうして最終的に承認された論文が、晴れて学会発表会で発表されるというわけだ。

 非常に面倒なことだが、これはコンピュータやネットワークが発展した現代でも行われている方法の一つである。こうすることで学会の権威と知能を守っているのだ。

 

「さて、下書きが完成したから、予稿を書くぞぉ。……明日には」

 

 そう。すでに日も暮れ、辺りは真っ暗になりつつある。手元にはアルコールを燃やして光る携行用のランタンがある。

 

「今日はさすがに使わないと帰れないか」

 

 そういって持っていたマッチで、ランタンに火を灯す。そしてそのまま帰宅の途についた。

 自室に戻って、資料やら本などの整理をしていると、部屋の扉がノックされる。

 

「ホイター、いる?」

 

 イリナの声だ。

 

「いるよ」

「入ってもいい?」

「どうぞ」

 

 そういってイリナが部屋に入ってくる。

 

「急にごめん。ちょっと見てほしいものがあるんだけど」

「今の俺に答えられるかなぁ……?」

「見るだけでもいいから」

「うーん、分かった」

 

 そういってイリナが持っていた紙を受け取る。それなりに難しい単語が並んでいた。どうやら何かの計算をしているらしい。

 

「この表記って……、フライミニッツの表記方法じゃないね」

「ニュートールの記法を使って微分方程式の導出を簡単にしようとしているの。ゆくゆくは物理学とも手を組むことにはずよ」

「確かにそうだな。未来でもそういう感じだったし」

「本当? それならこの研究も意味を持つのね」

 

 イリナは嬉しそうながらも、安堵した様子だった。自分の研究が未来で花を咲かせていることに喜びを感じているのだろう。

 雨宮はそんな日々を過ごしていた。

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