数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第16話 選任

 7月中旬頃まで、雨宮は届いた論文の査読を続けていた。おかげで溜まっていた論文もだいぶ減ってきた。

 

「ふぅ……」

 

 最後の論文の査読を終え、質問や改善点を書いた。これで一段落だ。

 

「終わった~……」

 

 背伸びをして、査読が終わった喜びを表現する。

 そんな雨宮の元に、ヌルベーイがスススッと寄ってくる。

 

「ホイター君、ちょっと時間ある?」

「えぇ、大丈夫ですけど……」

「実はね、ある貴族からお声がかかっているんだ」

「お声……?」

 

 雨宮は少し嫌な予感を感じる。

 

「最近モンクア帝国とドゥリッヒ王国が和平を結んだって話は聞いた?」

「はい、あります」

「それで、和平条約の中には、両国の学問の発展を願った交換留学があるんだ。その第一陣として、ドゥリッヒ王国の辺境伯のご令嬢がモンクア帝国のカラーニン科学学院に留学してくることになった」

「はい」

「その教師役として、ホイター君。君が選任された」

「はい。……はい?」

「まぁ、辺境伯ご令嬢の教師となったんだ。頑張ってね」

「ちょちょちょ、待ってください!」

 

 雨宮は思わずヌルベーイのことを呼び止める。

 

「いきなりなんですか!? いきなりご令嬢の教師役って!?」

「ホイター君以上に適任はいないと思うよ。特に魔法や数学の世界では君の右に出るものはいないだろうし」

「いやいやいや……! ヌルベーイ先生のほうが適任じゃないですか!」

「これは学院運営局が決めたことだからねぇ。逆らえばここにいられなくなるかもしれないし、僕もそういうリスクは取りたくないんだ」

「そんなぁ……」

「まぁ、でも大丈夫。もしもの時は僕も手助けするよ」

 

 そういってヌルベーイは数枚の紙をホイターに渡す。1枚は交換留学に関する概要が、2枚目以降には、留学する辺境伯ご令嬢の簡単なプロフィールが記載されていた。どうやら学院の中にある学生寮に入居するらしい。

 

「うーん、何を準備すればいいのか……」

「そのあたりも、ホイター君のやりたいようにやれば問題ないさ」

「一番困るのが『自由にやっていいよ』とか『なんでもいいよ』って言葉なんですよ……。何をやればいいのかを相手に投げかければ、解決したような気になるんですから」

 

 雨宮が愚痴をこぼしていると、ヌルベーイは慌てて言葉を訂正する。

 

「わ、悪かった。僕も協力するから、それで手打ちにしよう、ね?」

「しょうがないですね~。もしもの時はよろしくお願いしますよ、ヌルベーイ先生?」

 

 こうして雨宮は教師役となるべく情報収集を開始するのだった。

 それと同時に、雨宮はある論文の取り組みにも入る。

 

「ホイター定数を決定したのはいいが、やはりカイロという単位は使いにくい気がする。それを修正するためにも、カイロではない新しい単位が必要だ」

 

 つまり、雨宮はあの単位を作り出そうとする。

 

「ジュールを採用する」

 

 エネルギー、仕事、熱量などに使用されるジュールは、国際単位系において「1ニュートンの力がその方向に物体を1メートル動かす時の仕事」であり、1J=1N・m=1kg・m^2/s^2と表記される。

 この単位を制定するのにも、一つ理由が存在する。歴史上では、ホイターがこのジュールを定義づけた存在だからだ。ジュールを定義した式は「ホイターの出力方程式」と呼ばれ、以後の世界で重要な役割を持つようになる。当然のことながら、この方程式は歴史に埋もれ、別の計算方法が主流になるが。

 とにもかくにも、この方程式は今後の人類の学問において飛躍的な効果をもたらす。そのためにも迅速な制定が必要なのだ。

 

「さて、そうなればやることは一つ。実験だ」

 

 そういって黒板と対面するものの、何も思い浮かばない。

 

「……ジュールってどう算出すればいいんだ……?」

 

 根本的な所で躓く雨宮。大学生のクセに、高校で習った勉強も思い出せないようだ。

 そんな時、頭の中で声が響く。

 

『どうやら儂の出番のようだな』

「その声は……、あの時の……?」

 

 いつの間にか目の前が真っ白な空間になっており、振り向けばそこには以前出会った老人が立っていた。

 

『熱の基礎的な話も覚えていないようでは、この先不安だな』

「いや、やったのは覚えているんですよ。やったのは。でもちょっと確証が持てなくて……」

『別に責めているわけではない。そういった時は儂が手助けすれば良いのだからな。これから助けてやろう』

「本当ですか!?」

『助けるとは言っても、儂が何かするわけではない』

 

 そういって何かをヒョイッと投げてくる。それを受け取った雨宮は、すぐに分かった。

 

「これ……スマホ?」

『あぁ。それを使って、知りたい情報を得ると良い』

「えぇ……? あなたが何か授業してくれるとか、手っ取り早く知識を与えてくれるとかじゃないんですか?」

『まぁ、ヒントくらいは与えるかもしれないが、分からないことは自分で調べたほうが身のためになる。君はホイターであると同時に、大学生なのだからな』

「マジかよ……」

 

 しかし、他に方法があるわけでもない。

 雨宮は仕方なくスマホの検索機能を使うのだった。

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