数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します 作:紫 和春
翌日も、カタリナ嬢に研究室にまで足を運んでもらう。そして昨日と同じように小テストを受けてもらった。
「今日は数学の範囲ではなく、物理学にも足を突っ込んだ範囲を解いてもらいます。制限時間は昨日と同じく20分です」
「分かりましたわ」
カタリナ嬢はダルそうな感じで返事をして、ペンを走らせる。
(さて、昨日は小テストの問題作成に時間を取られて、研究を進められなかった。この時間でも利用しないと、研究が進まないな……)
そういって雨宮は研究ノートを開き、前回まで記述した部分を思い出しながらペンを走らせる。
(微分と積分の大まかなルールは思い出せたから、今後発展する三角関数や対数の演算にまで拡張できるように余裕を持たせて……)
以前の、というよりかは未来の馬鹿のままだった雨宮にしてみれば、おそらく何をしているのか分からないだろう。現在の雨宮は、ホイターの記憶や知識を取り込んでいるキメラの状態だ。まるで天から聞こえてきた神のお告げをそのまま書き記しているような、まさにそんな感じである。
そんなことをブツブツと呟きながらノートに書き記していると、どこからか自分の名前を呼ぶ声がする。
「ホイター先生」
「え、あ、はい」
雨宮のすぐ横に、カタリナが立っていた。
「テスト、解き終わりましたので確認してくださいまし」
「あぁ……、分かりました」
時計を見ると、確かに20分くらい経過していた。雨宮は研究ノートを閉じ、テストの採点を始める。
すぐに結果は出た。全問正解である。
「また全問正解……」
「じゃあ授業はやらなくて問題ありませんわね」
「い、いやしかし……! 教師役として何か指南しないと、学院運営局から何を言われるか分からないんですよ……!」
「それは私の知ったことではありませんわ。それで、今日はもう他にすることはありませんの?」
カタリナ嬢に言われ、雨宮は思わず固まってしまう。
「えー……」
何か教えられることはないか、頭の中で思考する。そして一つ、まだ教えられることを思い出した。
「そ、そうだ。魔法の授業とかいかがですか? 今日は無理でも、明日とかなら準備できますので……」
「あなたの授業には興味ありませんわ。それよりも……」
そういってカタリナ嬢は、雨宮のことを睨みつけるように接近する。
「そんな程度の低い研究ばかりなされているとは、少々拍子抜けですわ。こんなにつまらないと分かっていたら、お父様に留学しないようもっと進言していましたのに」
そういって研究室の扉に向かう。
「一応明日もここに来ます。ですが、もし明日も程度の低いテストをお出しになったら、留学を取り消してもらうようにお父様に言いつけますわ。それと、この学院にもいられないようにさせましょう」
「えぇっ!?」
思わぬ方向から飛んできた、学者生活の終焉宣言。このままだと、ホイターの十大発見が再現されずに人類史が終了してしまう。
「そ、それだけは勘弁してください!」
「でしたら、私にふさわしい授業を用意することですわ」
そのままカタリナ嬢は研究室を出て行ってしまった。
「これは大変なことになったなぁ、ホイター君」
傍らで様子を伺っていたヌルベーイが出てきて、雨宮の肩を叩く。
「ヌルベーイ先生、なんか笑ってません?」
「そんなことはないさ。正直カタリナ様の機嫌が分からないことは共通事項だと思っている」
「そうですか……。はぁ、どうしたもんかなぁ……」
大きなため息をついていると、アリーが雨宮の前にやってきた。
「ホイター様、お耳に入れておきたいことがあります」
「な、なんでしょう?」
「実は……」
アリーはとある話をする。その言葉は、まさに衝撃そのものだった。
「そんなことが……!?」
「はい。お嬢様はまだ知りません。このことを踏まえて、どうかよろしくお願いします」
そういってアリーも研究室を出る。
「ホイター君、どうする?」
隣で話を聞いていたヌルベーイが聞く。
「どうするもこうするも、ここは最新の学説を使ってねじ伏せるしかないですよ……」
雨宮は半分怒りに包まれていたが、理性がそれを抑えていた。
そこにイリナがやってくる。
「レオ。カタリナ様を私に預けてくれない?」
「イリナ、何か考えがあるの?」
「うん。貴族様にどれだけ通用できるか分からないけど……」
雨宮は少し考える。
(男の俺が考えても、女の考えていることは分からない。特に女性と関係を持ったことのない俺は、そこらへんにいる男性以下。ならば、ここは同性であるイリナをぶつけるのが最善か……)
雨宮は決断する。
「分かった。イリナ、明日はお願いしてもいい?」
「もちろん」
こうして学院を追放されたくないホイターと、わがままなお嬢様の最終決戦が始まる。