数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第27話 解答

 コラオル暦1710年8月31日。

 雨宮はホイター宛てに届いた論文の査読を行っていた。

 

「ふーん……、こういうのもありか。ただ、これだと想定外が発生する可能性も否定できないな……」

 

 そんなことをブツブツと呟きつつ、論文のコメントを書いていく。

 そんな中、ある論文の査読をしている時だった。

 

『数学における革新的な計算方法の体系的な整備について』

 

 上記のような論文だった。その内容を読んだ雨宮は、思わず驚いてしまう。

 

「こ、これって……、現代的な行列の計算方法……!?」

 

 そこには、現代でも使用されている数学の行列が記されていた。行列の体系が本格的に整備されるのは新世界暦に移行する時代の話なので、実に150年も時代を先取りしていることになる。

 

「一体誰だ? こんな論文を書いた人間は……」

 

 そういって著者名を確認する。ゼンフリード・マルス・マーリン。現在でも未来でも聞いたことない名前だ。

 論文自体は、現在の数学ではまだ全面的に使用されていない行列に関する話で構成されていた。

 

「すごい……、これはまさに未来の知識だ……」

 

 雨宮は驚きのあまり、数分ほど固まってしまった。そして急いで便箋を用意する。

 

(どうしても彼と話がしたい……!)

 

 雨宮には専門的な数学の知識はない。しかし逆に、それが今の雨宮を助けてくれるかもしれないと感じたからだ。

 雨宮は珍しく興奮しながら、文字をしたためる。簡単に言えば、「カラーニン科学学院に来てほしい」ということを書いた。

 この論文はヌルベーイへ査読を回す。雨宮としてはノーコメントである。それよりも、このマーリンという男と話がしたいという気持ちが先行していた。

 論文に記載されていた住所によれば、現在彼は隣国のフィノーヴァー王国の大学に所属しているらしい。

 

(国境を超える手紙は時間がかかる。少しでも早く手紙が届けばいいが……)

 

 雨宮は少しやきもきする。この、興奮を抑えきれない感覚はずいぶんと久しぶりであったからだ。

 だが現代の電子メールやチャットアプリのように、すぐに到着するわけではない。雨宮は気持ちを落ち着かせて、論文の査読を再開するのだった。

 さて、雨宮は溜まっていた論文の査読を終える。そしてマーリンからの手紙を待つ間に、七角形陣問題について取り組んでいた。

 

「七角形……、うーん……」

 

 七角形というのは考えれば考えるほど、不思議な図形である。内角の和は900°であるにも関わらず、頂点同士の角度は表現できない。いや、分数としての表現━━つまり有理数の形━━はできるのだが、それを割り切ることができないことが問題なのだ。

 

「何か別の形にすることが出来ればなぁ……」

 

 その考えを思いついた時、雨宮の脳裏には7進数が思い浮かぶ。割り切れなければ、数の方を変えてしまえばいい。

 

「しかし、今更2πを7進数にしたところで何になるんだって話だけどな」

 

 そういって鼻で笑った。

 しかし、雨宮の表情はだんだんと真顔になっていく。

 

「……7進数にしなくても、7の倍数に再定義すれば問題ないのでは……?」

 

 そういって研究ノートを開き、何かを書き込む。

 

「そうだ、何も2πやら360°やらにこだわらなくてもいいのか……」

 

 雨宮の言いたいことはこうだ。

 円の角度を7の倍数にする。ここでは350°でも210°でもよい。これで専用の分度器を作成すれば円を7等分にすることができ、かつ七角形の図形が簡単に作図できる。

 

「これだ、ちょっとしたトンチみたいになったけど、これで七角形陣問題は解決するかもしれない……!」

 

 早速これをイリナとヌルベーイに聞いてもらい、意見を貰うことにした。

 

「……というわけで、発想の転換として角度そのものを変更することで解決すると考えました」

 

 その発言に、イリナもヌルベーイも考え込んでいるようだ。

 その反応を見て、雨宮は冷や汗をかく。

 

(さすがに数学の定義そのものを変質させることはNGだったか……?)

 

 しばしの沈黙の後、ヌルベーイが口を開く。

 

「まぁ数字を変えるのは今までにない視点でいいかもしれない。350°にするのはなんとなく分かるけど、210°にする根拠はどこから来たんだい?」

「2×3×5×7からですね」

「にしては少し不便だと思うんだよね。360°なら9や12で割っても整数として出てくるけど、210°だとそうは行かない」

「あー、確かに……」

「でも数値の変化は確かに考えてなかったね。これはこれで解決に導く一つの解だと思うよ」

「確かに、新しい視点でいいかもしれないわ」

 

 ヌルベーイの意見に、イリナも賛同する。

 

「でもこれは、ある意味数学における邪道とも言えるね。あまり大手を振って主張するものではないと思うな」

「そうですか……」

「だから、学会には参考として報告しておくことにするよ」

「分かりました」

 

 解散した後、雨宮は少し考える。

 

(これは未解決問題の解決ってことでいいのか……?)

 

 曖昧な状態になってしまった。

 

(でも、解決の糸口を見つけたんだし、発見ってことにしておくか)

 

 このように無理やり納得する雨宮であった。

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