数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します 作:紫 和春
コラオル暦1710年9月7日。マーリンへ送った手紙の返信が来た。
「ずいぶんと早かったな。ま、こちらとしても早いほうがありがたいけど」
そういって封筒を開封し、入っていた便箋を読む。
『レオニダス・ホイター様へ。この度は論文の査読をしていただきありがとうございます。数学界でも期待されているホイター様に、このような手紙をいただくことはとても光栄なことだと感じています。さて、本題のカラーニン科学学院への転入ですが、現在どうしても手の離せない事情がありまして、最低でも3ヶ月程度は現在の大学にいる必要があります。しかしカラーニン科学学院に転入できることは、私自身とても光栄なことであり、ひいては学者としてのキャリアでも素晴らしいことになると考えています。つきましては、現在手の離せない事情が終わり次第、カラーニン科学学院への転入手続きを行うことにしました。お手数をおかけしますが、ホイター様には私のカラーニン科学学院転入の推薦状を書いていただきたく存じます。せっかくのご縁が出来ましたので、今後とも定期的に手紙のやり取りをさせていただき、また多岐にわたる学問の話が出来ればと考えています。それでは、よろしくお願いします』
このように書かれていた。
「とりあえず、カラーニンに来てくれる意思があることが分かっただけでも儲けものだ。それじゃあ推薦状でもしたためるか」
こうして雨宮は、マーリンを迎え入れるための準備を行う。
「あの論文を書いたマーリン君が来るのか。嬉しい報告だね」
ヌルベーイには、論文の査読をお願いする時にマーリンを呼ぶ話をしていた。最初はあまり乗り気ではなかったようだが、査読を進めている中で興味が湧いたようだ。
「彼の論文からはダイヤモンドのような輝きが見えたんだ。彼を迎え入れることは僕たちにとっても良い効果を生んでくれるだろう」
ヌルベーイはかなり歓迎しているようだ。
一方でイリナにも話をしていたが、彼女にしてみれば少し複雑なようだ。
「レオが良いっていうなら何も言わないけど、少しは昔のことも思い出してほしいな……」
何か意味ありげなことを言っている。
(昔のことって言っても、ホイターの記憶が完全じゃないからなんとも言えないんだよなぁ……)
しかし、イリナは完全に拒否しているわけではないようなので、このまま話を進めることにした。
こうして雨宮には、論文の執筆も査読もない暇な時間が出来た。
「さて、ホイターの十大発見のうち、まだ見つかってないのはいくつあったかな……」
そういって転生する時に刻まれた記憶を探ってみる。
ホイターの漸化関数、ホイターの流体方程式、ホイター振動。
残りはこの三つのようだ。
「しかし、何もヒントがないというか、これらは一体何を表す定理なんだ……?」
うんうんと考えてみるものの、特にこれといった考えは出てこなかった。
『また儂の力が必要かの』
頭の中で声が響く。
気が付けば、また白い空間にいた。そして目の前には老人が立っている。
「お、ヒントタイムか?」
『儂のことをなんだと思っているんだ』
老人から手厳しいツッコミを貰う。
『まぁいい。君は今、漸化関数、流体方程式、ホイター振動について悩んでいるようだな』
「そうなんですよ。これがそもそもどこの分野の定理なのかすら分からないんです」
『うむ。まぁヒントくらいは与えてやってもいい』
「いっそのこと教えてくれないんですか?」
『それは君のためにはならん。あくまでも君が持っている知識と、ホイターが持っている知恵と計算能力を駆使して考えてほしいのだ』
「意外とケチですね」
『ケチとはなんだ。そんなことをいうなら教えてやらんぞ』
「あぁすみませんすみません。お願いします教えてください」
雨宮が全力で頭を下げると、老人は一つ溜息を吐いた。
『仕方のない奴だ。教えてやるから頭を上げろ』
「はい」
老人は人差し指で空中に何か文字を書く。指先からは小さな光がこぼれ、それが文字となって空中に浮かんでいる。
『まず漸化関数だが、これは魔法陣に関する数列の話だ。ちょっと形の変わったフィボナッチ数列を考えてくれればよい。次に流体方程式。これは魔法自体の通り抜けやすさを表しているものだ。そしてホイター振動。物体中における魔法の共鳴現象を定量化したものだ。分からなくなったら、またその時に教えてやろう』
「えーと、漸化関数は形の変わったフィボナッチ数列で、流体方程式は魔法の通り抜けやすさ、ホイター振動は魔法の共鳴現象……」
『無理に覚えなくても、ホイターの記憶や知識と融合している今の君なら、すぐに分かるだろう』
「そうですかね……?」
『今までもそうだったじゃないか』
思い返してみれば、確かにその通りだったかもしれない。
「うーん。分かった気がしないけど、分かりました」
『よし。では意識を戻すぞ。頑張りたまえ』
そういって意識が遠のく。
そして雨宮は、自分が机に突っ伏していることに気が付いた。いつの間にか寝ている体勢になっていたようである。
「うーん……」
雨宮は背伸びをして、研究ノートに先ほど記憶した言葉を並べる。
「……やるしかないかぁ」
雨宮は過去の論文から関係する物を探すために、書庫へと向かうのだった。